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誕生日プレゼント、誘拐される





 授業が終わって終業のベルが鳴ったあと。

 私はまだ教室に居た。窓の外を眺め、訓練場近くに現れた柱を見つめる。


 あのあと訓練場は先生たちの判断で一時的に立ち入り禁止となった。"立入禁止"という文字が書かれた立て看板が訓練場の出入り口に立てられている。


「あの柱、一体どこから来たんだろうな」


 同じく、隣で柱を見ていたアイシクルが言った。その手には本が握られていて、本のタイトルは"眠れる姫と戦場の傭兵"。魔女の策略によって眠ったままの状態になってしまったお姫様を運命に翻弄された傭兵が救いだす、という王道のファンタジー作品だ。彼が読んでいるのはその第一巻。それは、読んだ事がないと言っていた彼に私がオススメしたものだった。


「アメリアんとこの先生は何て言ってたんだ?」

「…先生が言うには、あの柱は空から降ってきた可能性が高いって」

「空から?」

「うん。…こう、空から"ひゅー。どすん"って」


 柱が降ってくるイメージを両手を動かしてジェスチャーで伝える。それを見てアイシクルは、眉をひそめて頭を悩ませた。


 前回と同じように現れたあの柱。あの中にはやっぱり想像も出来ないような不思議な空間がひろがっているのだろうか。


[メェ]

「「?」」


 柱を見つめて考える。

 するとそこで背後から声が聞こえた。

 声を聞いて振り向くと、そこには黒い山羊の姿が。それは、離れに住む校長先生が飼っている黒い山羊だった。名前は黒ゴマ。黒ゴマは私の鞄の中に頭を突っ込んでいて何やらガサガサと漁っている。


 そして、鞄の中からアイシクルへのプレゼントが入った箱を口に咥えると黒ゴマは"メェ"と鳴いた。黒ゴマが咥えた箱を見て、私は目を見開く。


「え? ち、ちょっと!」

[メェ~!]


 声をあげると、黒ゴマは私たちにお尻を向けて駆けていく。サッと。まるで泥棒かのように彼はそそくさと教室から出ていってしまった。


 あまりに突然の事で対応が遅れてしまったけれど、私は慌てて教室の扉のもとまで走る。廊下を見ると、既に黒ゴマはそこには居なかった。何処へ行ったんだ、あの山羊。


「どこ行ったの?」

「…アメリア! あそこ!」

「?」


 窓の外を見て、アイシクルは叫ぶ。踵を返して再び窓の外を見ると、柱に向かって走る黒ゴマを発見した。立入禁止と書いてある立て看板を通り越して、柱の傍へ近付いていく。口に咥えた箱を柱の前に置いて、黒ゴマは声を高く"メェ~"と勢いよく鳴いた。


 次の瞬間、黒ゴマの足元には魔法陣が現れ、眩い光と共に黒ゴマは一瞬にしてその場から消える。箱も一緒にだ。それを見て、私とアイシクルは目を見開いて顔を見合わせた。


「き、えた…?」

「……」


 あの魔法陣には見覚えがあった。

 柱の中へ入るための魔法陣。そういえば誰かが、黒ゴマは"精霊の使い"だとか言っていたような気がしないでもない。


 黒ゴマが柱の中に入っていった。しかも、アイシクルへのプレゼントを持って。これはどういう事だろうか。


「アメリア! アイシクル!」

「「!?」」


 黒ゴマが消えたのを不思議に思ったのも束の間、今度は大声をあげて誰かが教室にやって来た。声に吃驚して顔を向けると、そこに居たのはトウマくんだった。


 トウマくんは慌てた様子で私たちのもとに走ってきて、窓の外の柱を見つめる。走ってきたのか呼吸が荒い。


「ト、トウマくん!?」

「黒ゴマどこ行った!?」


 もの凄い気迫で、トウマくんは私たちに言う。この教室に来てからの黒ゴマの様子を伝えると、彼は眉をひそめて息を吐いた。


 そしてトウマくんは近くにあった椅子に座り、額に手を置く。


「ああもう。どうしたらいいんだよこれ」

「トウマくん、どうしたのそんなに慌てて…。というか、今日休みだったはずじゃ」

「? …ああ、うん。休みだった。休みだったよ。でも今はそんな事言ってる場合じゃない」

「え?」

「黒ゴマだよ。黒ゴマ! アメリアたちも見ただろ? 柱の中に入っちゃったんだ。連れ戻すには俺も柱の中に入るしかない」


 トウマくんは言う。


「柱の中って?」

「あの柱の中には空間があるんだ。入ってみないとわからない不思議な空間がね」

「トウマくん、あの柱が何なのかわかってるの?」

「わかるよ。俺も番人の一人だから。ローデンさんから話は聞いてる」

「!」


 トウマくんの言葉に吃驚する。


 アイシクルはわかっていないようで、終始ポカンとしていた。


「柱の中に入れるの?」

「…今のところは無理。腕輪は黒ゴマが持ってるし。あの腕輪がないと柱に入れないのは知ってるでしょ?」

「じゃあ、どうやって黒ゴマを連れ戻すの?」

「まぁ、主さんに頼んで強引に入るっていう手もあるけど、主さんは今動けない状態だからな…。どうする事も出来ない」

「私、どうしても黒ゴマからあの箱を取り返したいの。なんとかならない?」

「なんとかって言われても…。どうして黒ゴマは箱なんて咥えてったんだろ? ……その箱には何が入ってたんだ?」

「…、銀色のブローチ。小さな紺色の宝石が付いてるやつ」

「ブローチ?」

「……」

「うーん。…黒ゴマが意味もなく人のものを取っていくなんて思えないし、何か意味があるのかな?」


 顎に手を添えて、トウマくんは言う。


 そこで、トウマくんの手首に付けられた端末が音を鳴らした。液晶をタップすると、ローデンさんの顔が映し出される。


『トウマくん、今どこ?』

「ローデンさん。…今は、黒ゴマを追い掛けてアメリアのクラスに。でも、一足遅かったみたいです」

『は? 遅かったって?』

「黒ゴマ、どういうわけか柱の中に入っちゃったみたいで。アメリアが持ってた箱と一緒に」

『は、…はあぁあぁああ!?』


 割れんばかりの大声で、ローデンさんは叫ぶ。

 声に驚いて、トウマくんは端末を遠ざけた。


『柱の中に入ったってどういう事やねん!? あそこは今立ち入り禁止やぞ!?』

「…と、とりあえず、どうにかしてあの柱の中に入る方法を考えてみます。黒ゴマは俺の担当なので」

『もしかして一人で探しに行く気か? …まぁ、たぶんあの柱は大丈夫やと思うけど、何かあったら嫌やし、わいも行こか?』

「いえ。俺一人で大丈夫です。この二年で番人として著しく成長したの知ってるでしょ?」

『…自信満々なのはええ事やけど。この前トールくんに言われたやろ? "自信過剰はいずれ身を滅ぼす"って』

「わかってますよ。心配ありませんって」

『ん。…じゃあ、黒ゴマの件はトウマくんに任せる。何か困った事があったら連絡しいや。そんじゃ、通信終わり。時の加護を我らに』

「時の加護を我らに。ローデンさんも、教師業頑張ってください」

『余計なお世話や』


 プツンと通話が切途切れる。


 そしてトウマくんは立ち上がり、私たちに背を向けた。


「それじゃ、そういう事だから俺は行くよ。ブローチは必ず取り返すからね」

「ま、待ってトウマくん!」

「?」

「…あの、わ、私も一緒に行ってもいい?」

「アメリア?」

「理由は?」

「あの箱に入っているブローチはとても大切なものなの。誰かに取り返して貰うんじゃなくて、自分の力で取り返したい。だからお願い。一緒に行かせて!」

「……」


 眉をひそめて、力強く言い放つ。


 その言葉を聞いて、トウマくんは私の方へ身体を向けて口を開いた。


「君もわかってると思うけど、これから俺のやろうとしてる事はとても危険な事だよ? 君はまた、あの時のような目に遭いたいの?」

「…。怖くないって言ったら嘘になる。あの時の記憶はまだ頭の中に鮮明に残ってるよ。今でも、たまに夢に見るし。でも、それでも私はトウマくんと一緒に行きたい。あのブローチを取り戻すためなら、たとえそれがどんなに危険な事でも私はやるよ!」

「……。大切なもののため、か」


 ポツリと呟く。


 そして少し考え、トウマくんは息を吐いた。


「…わかった。連れてく」

「!」

「ただし、自分の身は自分で守る事。誰かを守りながら戦うのって難しいからさ」

「わかった! ありがとうトウマくん!」

「ち、ちょっと待ってアメリア!」


 言いながら、口元を緩ませて笑う。するとそこで私たちの話を聞いていたアイシクルが慌てて口を開いた。


 眉をひそめて、彼は私とトウマくんの顔を見つめる。


「話が全然わかんないんだけど。柱の中って? 番人って何? それにアメリア、君は今の話を聞いてどうして疑問を持たずについていけてるんだ?」

「……」


 アイシクルの意見はごもっとも。


 トウマくんは彼の方に顔を向けて、眉を下げた。


「まぁ、普通はそんな反応だよね」

「それにトウマも。君は一体何者なんだ?」

「…うん。じゃあ改めて自己紹介するね。あれから色々と変わってるしさ。説明はそのあとで」


 そう言ってトウマくんは背筋を伸ばして姿勢を正し、胸に手を当てる。


 そして彼は、私たちに言った。


「俺の名前はトウマ。"トウマ・ワイスィール"。この世界の時間を管理している時の番人の一人だ」



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