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再び






「アイシクル様! お誕生日おめでとうございます! これ、今年のプレゼントですわ!」

「アイシクル様! 私は、アイシクル様が好きと仰っていましたのでチョコレートケーキを焼いて持ってきましたの! 受け取ってくださいませ!」

「アイシクル様! 私は…!」

「アイシクル様~!」

「あー、……あー、うん。ありがとう。嬉しいよ」

「……」


 学校に到着して早々、アイシクルは女の子たちに囲まれた。学校の門前に居るロボット・アンディくんに"登校しました"という挨拶を済ませてからまだ数歩も歩いてはいない。


 女の子たちはキャーキャーと黄色い歓声をあげながら、我先にとアイシクルにプレゼントを渡していた。隣に私が居るというのに、完全に無視である。


「…はぁ」

「お疲れ様」


 女の子たちが去っていったのは、それから二分後の事だった。


「どうして助けてくれないんだ?」

「私が入る余地なくて。ごめん」


 素直に謝る。


 プレゼントを渡されている時のアイシクルの表情がなんだか助けを求めているなとは思っていたけれど、女の子たちの気迫が凄くて入るに入れなかった。私にあの中へ入っていける勇気はない。


「それにしても凄い数だね。どうするのこれ?」

「教室に持っていくなんて出来ないからな。…連絡して持っていってもう」


 アイシクルは再び溜め息を吐く。


 凄くめんどくさそうだ。


「……」

「…? どうしたの?」

「いや。そういえぱアメリアからプレゼント貰ってないなと思って」

「欲しいの?」

「そりゃあね。婚約者からのプレゼントだし。地味に楽しみなんだよ、アメリアからのプレゼントは」

「ふーん」

「…それで、もちろん今年も用意してるんだよな?」

「うーん。残念でした。用意はしてるけど、アイシクルのプレゼントは家に置いてきちゃって、今ここにはないんだよね」


 プレゼントの事はまだアイシクルには内緒にしたいので、この場は嘘を吐く。アイシクルに嘘は通用しないっていうのは重々承知だけれど、こればかりは嘘を吐きたい。授業終わりの放課後に、サプライズという形で彼にプレゼントを渡したいからだ。


「明日には持ってくるから、今日は我慢ね。これからも女の子たちからいっぱい貰うんだし、いいでしょ?」

「アメリアから貰えないんじゃ、今日はちっとも楽しくないな」


 言いながら、アイシクルは眉を下げて肩を竦めた。



+



「それじゃ、アイシクル。また放課後にね」

「ああ」


 いつものように二階へ続く階段付近でアイシクルと別れて教室へ向かう。離れていく時のアイシクルの背中がだいぶ憂鬱そうだったので授業が終わって合流したら癒してあげよう。そう思いながら教室の扉を開いて自分の机に鞄を置いてホッと息を吐く。するとそこに二人のクラスメイトが近付いてきた。


「おはようございます、アメリアさん」

「相変わらず時間ギリギリの登校ですわね。もう少し早めに来られないんですの?」

「おはよう、アンジェラ。シャスティアも」


 声を掛けてきたのは、アンジェラとシャスティア。アンジェラとはこの学校に入った時からの友人で、シャスティアとは彼女が転校してきた時からの友人だ。


 アンジェラとシャスティアは同じ南の国出身で、幼い頃はよく一緒に遊んでいたそうだ。アンジェラの紹介をきっかけに彼女は私とも仲良くなった。私に紹介された時、シャスティアは私の事を既に知っていたんだけれど、その謎はまだ解決していない。


「仕方ありませんわ。寮生活の私たちとは違って、アメリアさんは家から通っているのですもの」

「貴女も寮で生活すればよろしいのに。そうすれば遅刻の心配をしなくてよくなりますわよ?」

「…私に寮生活は無理だよ」


 鞄を机の中にしまいながら、眉を下げて笑う。始業のベルが鳴って、先生が教室の扉を開いてやって来た。彼は元気よく声をあげて爽やかに私たちに挨拶をする。


「おはよーさん諸君! 今日も勉強日和やで!」


 私たちはそれぞれ自分の席に座って、教壇に立つ先生を見つめる。私たちはもう元気よく"おはようございます!"って叫ぶ歳ではないため、彼みたいに声は張らない。


 私たちの反応を見て、彼は気を取り直して咳払いを一つ。いつもやっているからか恥ずかしさは微塵も感じていない様子。さすがだ。


「はあぁ…。今日も素敵ですわローデン様」


 前の席に座っているシャスティアが言う。その表情は、恋する乙女のように蕩けていた。


 シャスティアが口にした先生の名前。彼の名前は"ローデン・ズィーバーグ"。元々居た私たちのクラスの担当だった先生が育休の都合でしばらくお休みする事となり、その先生の代わりとしてやって来たのが彼だった。

 最初に彼の顔を見た時は吃驚した。まさかローデンさんがこの学校に来るなんて。しかも私たちの先生として。…まぁ、"時を戻す前の時間軸"でも彼は学校には来ていたし、部外者から関係者に変わっただけだ。


「…うん。トウマくん以外全員登校しとるな。偉いなぁ、みんな。ここまで無欠席やん。昔のわいに見せてやりたいわ」


 出席簿を見つめて、私たちが全員居る事を確認する。


 トウマくんは今日はお休みらしい。今日も、って言った方が正しいかもしれないけれど。


「……」


 最近になって、トウマくんはずっと学校を休んでいた。先生に聞いてみたところだと、どうやら体調が悪いから休んでいるというわけではないらしい。


 トウマくんのお休みを、彼の友人であるサンゼルくんたちがずっと心配しているから早いところ登校してきて欲しい。私も凄く心配している。


「ほんじゃ、早速授業を始めるで。…えーと、今日はどこからやったかな?」


 そして、ローデンさん…先生は出席簿を先生専用に用意されていた机の端っこに置いて教科書を開く。それを見て、私たちも教科書を開いた。さて、これから授業を行うぞ。と、チョークを持って先生は黒板に文字を書こうとする。しかし次の瞬間、窓の外から大きな音が聞こえてきてそれと同時に教室全体が激しく揺れた。


 揺れは一瞬だったけれど、衝撃が凄くて私たちは声をあげる。教室全体が揺れたというよりも、学校全体が揺れたのだろう。


「な、なんや!?」


 音が聞こえた方に顔を向けて、先生は言う。


 窓側に座っていたクラスメイトたちが外を見てみると、訓練場の近くに異様な物があるのを見つけた。ざわざわしているクラスメイトたちの声を聞きながら私もそれを見付け、目を見開く。


「…あれは、」


 訓練場の近くにあった物。それは、巨大な柱だった。忘れるはずがない。前にもこの学校に現れたあの巨大な柱だ。


 眉をひそめて、先生の方に顔を向ける。先生もクラスメイトと同じく窓の外を見つめていた。その表情は硬く険しい。


「…一旦授業は中止や。君たち、ここに居るんやで!」


 そして、先生は慌てて教室を出ていった。


 先生が教室から出ていったあとも、ざわざわするクラスメイトたちの声は止まらない。


「アメリアさん、あれは一体…?」

「…わ、かんない」


 アンジェラの言葉に、力なく首を振る。


 アンジェラには言えない。この事は、まだ。


「……、」


 甦ってくるのは、あの時の記憶。


 その時、手首に付けている端末が光を放っていたけれど、私はそれにまったく気付く事はなかった。



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