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それから二年






 燃えていた。


 街が燃えていた。


 何処を見ても、何処に逃げても、目に映るのは真っ赤な炎。逃げ惑う人々の悲鳴が耳をつんざく。


 通り過ぎる人々の中には全身が燃えている者も居た。その人は逃げる途中で力尽きて灰となって消えてしまう。周りで響き続ける叫び声を聞きながら、私はこの目の前に広がる惨状を呆然と眺めているしかなかった。


 …どうして。どうしてこうなったの? どうしてこうなってしまったの? 私は何も間違った事はしていない。ただ、私は"前回の失敗"を反省して、今度はそうならないようにってしてきただけ。これまでもそう。失敗を反省して"次はこうならないように"って気を付けてきた。ずっとそうしてきた。だけど、今回のこれは何? どうしてこうなったの? 理由がわからない。私は、何をしたの?


「…!」


 逃げ惑う人々の中に、ポツンと立つ人影を見つける。その人はじっとその場に立ち尽くし、私を見つめていた。


 街を燃やしている炎と同じ赤く染まった髪。黒と赤の衣服を身に纏い、彼は口元を緩ませて笑っていた。私は彼を見つめて、目を見開く。


 そして、次の瞬間。


 私の視界は真っ黒に染まり、プツリと意識も途切れた。



+



「っ、…!?」


 目を開けて、勢いよく起き上がる。キョロキョロと辺りを見渡し、それが夢だとわかると私は息を吐いて肩を落とした。なんだ夢か。良かった。


 窓から射し込む光が部屋全体を明るく照らしている。チャンチュンと鳥の鳴き声が耳に入ってきて、私はその声を聞きながら大きく欠伸をした。あれから二年の月日が経ち、私は十七歳となっていた。


「アメリアー、早く起きなさーい!」

「はーい!」


 お母様の言葉に返事をして、ベッドから降りて部屋着を脱ぐ。クローゼットから外出用の衣服を何着か取り出して、顎に手を添えながら"今日は何を着ていこうか"と頭を悩ませた。


 数分後、今日の衣服が決まり、学校の鞄を持って一階のリビングへ。階段を降りたと同時に鼻を掠めたのは、お母様の作るパンケーキの匂いだった。匂いに口元を緩ませながらリビングまで歩いていくと、そこには一人のお客さんが居た。


「あ。おはよう、アメリア」

「アイシクル!?」


 リビングに居たのはアイシクルだった。椅子に座ってパンケーキを食べている彼に吃驚して目を見開く。そこにお母様がやって来て、私の分のパンケーキをテーブルに置いた。"早く食べなさい"と急かせれたので、色々聞きたい事はあったけれど、まずは鞄をテーブルの足元に置いて椅子に座る。ナイフとフォークを手を取り、パンケーキを一口サイズに切り分けた。


 パンケーキを口に含んで、目の前で黙々と紅茶を飲んでいるアイシクルを見つめる。アイシクルがここに来る理由は二つある。私を迎えに来たか。それとも、一時的な"避難"のためか。


「ねぇ、アイシクル。どうしてここに?」

「俺がここにいちゃ悪いか?」

「え? あ、ううん。別に悪いって事はないけど…」

「ちょっとアメリア。せっかく迎えに来てくれたのに失礼でしょ。…ごめんなさいね、アイシクルくん」

「…いえ。俺がアメリアを迎えに来るのは久しぶりなので、きっと驚いたんだと思います」

「……」


 口元を緩ませてアイシクルは言う。

 時刻はもうすぐ八時。遅刻はしないまでも、そろそろ家を出ないと危ない時間だ。私は残りのパンケーキを急いで食べ進めて、ご馳走さまと両手を合わせる。


 いつも忙しないわね。と笑うお母様に"いってきます"と伝えて、私は鞄を持ってアイシクルと一緒に家を出た。



+



「…で、アイシクル。本当のところは?」

「ん?」

「私を迎えに来た。なんて嘘なんでしょ?」

「……」


 家を出てしぱらく。


 私は、隣を歩くアイシクルの方に顔を向けて聞いてみた。私のその言葉を聞いて、彼は眉を下げて息を吐く。


「よくわかったな」

「師匠に教わった観察眼の賜物ですよ。…それで、私の家に来た本当の理由は?」

「…アメリアもわかってるだろ? 毎年毎年忙しいったらない」


 言って、アイシクルは肩を落とす。


 先に言っておくと、本日はアイシクルの誕生日である。本日この日をもって、彼も私と同じ十七歳であった。めでたい。


「朝起きたら使用人に"アイシクル様お誕生日おめでとうございます"。リビングに行くと母さんと父さんからも"誕生日おめでとう"。家を出て街を歩くと通行人からプレゼント付きで"アイシクル様お誕生日おめでとうございます"。街を一歩歩く度に永遠とそれの繰り返し。まぁ、祝われるのはありがたいけど、こうも連続して祝われると正直うんざりなんだよな」


 はぁ。と、溜め息を吐く。

 街の人から貰ったプレゼントは私の家に来るまでに軽く百を越える数となり、そのほとんどは使用人が持ち帰ってくれたんだそうだ。それを聞いて、私は唖然とする。


 毎年恒例。アイシクルのプレゼント受け取り話は毎回驚かされるばかりだけれど、今回も今までと同じくらいの衝撃度。百を越える誕生日プレゼントなんて私はこれまで生きてきて貰った事ないよ。


「なるほど。やっぱり一時避難か。それならそうと嘘なんて吐かずにはっきり言ってよね」

「一時的な避難って理由より、迎えに来たっていう理由の方が嬉しいだろ」

「…まぁ。そりゃあね」

「それに、アメリアの家は街から少し離れた場所にあるから、逃げ込むには最適なんだよ」

「……」


 アイシクルの言葉を聞いて、今度は私が溜め息を吐く。私の家が避難所として使われるのは少し納得がいかないけれど、けどこうして誕生日の日に相手の方から此方に来てくれるというのはなんとなく嬉しい。


 私は口元を緩ませて、鞄に触れる。鞄の中にはアイシクルへの誕生日プレゼントが入っていた。まだあげるつもりはなく、放課後まで残しておく予定だ。


「でもまだ朝だから、今日はまだまだたっぷりあるよ。頑張って乗り気ってね」

「…、他人事だと思って楽しむなって」


 クスクスと笑うと、アイシクルは眉を下げて口元を緩ませる。


 学校へ到着するまではあと数十分。果たしてそこまでの間にアイシクルはあと何個の誕生日プレゼントを貰うのだろうか。



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