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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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これからも






 その日の夜中。

 喉が渇いたため水を飲もうとキッチンへ向かっていた途中、一階の中庭にてトールさんを発見した。


 何をしているんだろうと声を掛けると、彼はその声に反応して私の方に身体を向ける。見てみると、彼の向こうにはどういうわけかポータルが開いていた。


「トールさん。何してるんですか、こんな所で?」

「…お前こそ、こんな時間に何をしている。眠れないのか?」

「いえ、私はちょっと喉が渇いてしまって水を飲もうかと」

「だったらキッチンはもう少し先だ」

「通りかかったらトールさんを見つけて、気になったから声を掛けたんです。…それ、ポータルですよね?」

「…ああ」

「何処か行くんですか?」

「仲間に呼ばれていてな。シャーレへ行く」

「シャーレ…って、南の国ですよね? あ、もしかして夕食の時に出ていったのは」

「仲間からの連絡が来たからだ」

「そうだったんですね。でも、どうしてこんな時間に? ポータルで行くのなら日が昇ってからでも」

「…お前らが寝ている間に行こうとしたんだ。無駄に終わったがな」

「どうして寝てる間に? 私たちが起きていると都合でも悪いんですか?」

「そうじゃない。単に"別れの挨拶"が好きではないだけだ」

「…別れ?」


 トールさんは言う。


 彼は、足元に置いていた荷物袋を手に持って私に背を向けた。手首に巻かれている端末を操作して誰かと通話を始める。


「今からポータルでそっちに向かう」

『おっけー。見えてんで。外出て出迎えるわ』


 端末から聞こえてくる声に耳を傾ける。聞いた事のある声だ。通話を終えて、トールさんは息を吐く。


 夕食の時に出ていったのは、仲間からの連絡が来たから。それからいつまで経っても戻ってこなかった理由は、おそらく南の国へ行く準備をしていたからだろう。


「それじゃ、俺は行く」

「待ってくださいトールさん。…別れって?」


 私は、先ほどトールさんが口にした"別れの挨拶"という言葉に疑問を持ち、首を傾げながら聞いてみた。


 動かしていた足を止めて、トールさんは再び私の方に顔を向けて眉をひそめる。


「そのままの意味だが?」

「…もしかして、帰ってこないつもりですか?」

「ああ。向こうに行ったらもうここへは戻らん。ここに居続けても意味はないからな。元々、師には五年が経ったらすぐに出ていくと伝えていた」

「!」


 淡々とした口調で言う。戻ってこないつもりで南の国へ行くのだから、わざわざみんなが起きている昼間の時間を選ぶ必要はない。


 "別れの挨拶"が好きではない俺にとっては、師たちが眠っているこの時間に出ていくのが最適だ。と、トールさんは言った。それを聞いて、私は眉を下げる。


「おーい、トールくーん。何して…、あ」


 するとそこで、ポータルの向こうからひょっこりと仮面を付けた男の人が顔を覗かせてきた。トールさんの名前を呼びながらその人は私たちのところへやって来て、首を傾げる。


「あれ。もしかしてお取り込み中?」

「…いや、もう終わった。どうして向こうで待ってない?」

「トールくんがなかなか来ないのが悪いんやろ? 何かあったんかと思うて来てあげたんやないか」


 仮面の男の人は言う。


 この人、前に剣聖武闘大会で会った人だ。喋り方もそうだし。じゃあこの人はやっぱり…。でも、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「それは骨折りだったな。…すぐに行く。ぐずぐずしていると日が昇るからな」

「トールさん!」

「…なんだ?」

「行かないでください! 私、まだまだトールさんに教えてもらいたい事がたくさんあるんです。だからまだ離れたくありません!」


 そう言って、私はポータルの中に足を踏み入れたトールさんを止める。眉をひそめて力強く言い放ったその言葉を聞いて、彼は小さく息を吐いた。


「俺にはもう教える事は何もない。あとはお前が自分の力で色々学べ」

「!」

「それに、俺たちの間に別れの惜しみは必要ない。会話は出来るわけだからな」


 トールさんの言葉で、自分が付けている端末を見る。確かに端末があれば、離れたとていつでもトールさんと会話は出来る。彼の言う通り、そんなに別れを惜しむ必要はないのかもしれない。


 けれど、これはそういう問題ではない。トールさんの傍で、トールさんの近くで私はまだまだ色々な事を学びたい。私はそう言っているのだ。けれど、そう言ってもトールさんは聞いてくれなかった。トールさんの説得は難しい。


「…本当に、戻ってこないんですか?」

「そう言ったはずだが」

「私、まだまだ魔力の抽出だって全然出来てませんし、魔法だって弱いのしか撃てないです」

「…、気付いていないのか?」

「…?」

「…まぁ、いい。気付いていないのならそれでも構わん。とにかく、お前が何を言おうと俺の意思は変わらない。いい加減諦めろ」

「……」


 眉をひそめて、口を噤む。私の表情を見て、仮面の男の人はトールさんの方へ顔を向けた。たぶん仮面の下では困惑の表情を浮かべているだろう。


 そんな私たちを見て、トールさんは息を吐く。そして一旦ポータルから離れ、荷物袋を男の人に預けると彼は私のもとまで歩いてきた。


「…安心しろ。何も"今生の別れ"というわけではないんだ。いずれまた何処かで会える」

「……」

「先ほども言ったが、俺たちは端末で会話が出来る。これまでと大して変わらん」

「…傍にトールさんが居ないってだけで、だいぶ変わりますが」

「……」


 眉をひそめたまま、トールさんを見つめる。すると、トールさんは息を吐いて私の頭にポンと手を置いた。優しい手付きで撫でられて、吃驚した私は目を見開く。


「…これは、言わないでおこうかと思ったんだが」

「?」

「この五年間、よく頑張った。お前にしては上出来だった。このまま精進していけば、お前は確実に今以上に強くなれるだろう」

「!」

「最初の頃はお前の実力を見てどうなるかと思ったが、人間努力すれば変わるものだな。俺も勉強させられた。底辺だった奴でも最終試練であれだけの魔法が撃てるようになるんだから人生何があるかわからん」

「……」

「…それと、これは聞かなくてもいいが」

「?」

「オムライス美味かった。冷えきってて食えたものじゃなかったがな」

「え、」


 トールさんの手が頭から離れる。


 そしてトールさんは私に背を向けて、仮面の男の人と一緒にポータルの中へ入っていった。彼らが入ったと同時にポータルは瞬時に消える。


「……」


 ポータルが消えて、しばらく私はその場に呆然と立ち尽くしていた。頭に手を置いて、先ほどのトールさんの言葉を口にする。


「…美味しかったって言った?」


 "オムライス美味しかった"って言ったよね、さっき。私の頭を撫でて、おまけに言っときますみたいな感じで"オムライス美味しかった"って言ったよね? 美味しかったって言ったよね? 美味しかったって!


 それにトールさん、私の事褒めてくれた。よく頑張ったなって。よく頑張ったなって褒めてくれた。


「……~~~っ、褒めてくれた事は嬉しいけど、それはさすがに反則です!!」


 渾身の叫び。

 去り際に何て事を言っていくんだあの人!


 赤くなっていく頬を両手で覆って、大きく声に出して叫ぶ。その声は、中庭全体に響き渡った。


「……っ。よし、決めた!」


 眉をひそめて、ぎゅっと拳を握る。トールさんが居なくなってしまったのは凄く悲しい。冗談ではなく、本気でトールさんには傍に居て欲しかった。傍に居て、私の成長を見守り続けて欲しかった。しかしもうその願いは彼には届かない。


「……ぐす、」


 トールさんは、"このまま精進していけば私は今以上に強くなれる"と言っていた。私はまだまだ弱いままの弟子だけれど、その期待に応えられるように、これからも私はトールさんの背中を追い掛けて修行を続けていこうと思います。


 授業がなくなったからと言っても、トールさんはまだまだ私の魔法の師匠だからね! そう決意して、私は頬を伝う涙を拭って気合いを入れた。



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