見られる。怒られる。
「アイシクル様! お誕生日おめでとうございます! これ、今年のプレゼントですわ!」
「アイシクル様! 私は、アイシクル様が好きと仰っていましたのでチョコレートケーキを焼いて持ってきましたの! 受け取ってくださいませ!」
「アイシクル様! 私は……!」
「アイシクル様~!」
「あー、……あー、うん。ありがとう。嬉しいよ」
登校時間を過ぎた。と言っても、すぐに授業が始まるわけではないので、まだまだ玄関口付近には生徒がたくさん居る。
学校内に入ると、待ってましたと言わんばかりに数名の女の子たちがアイシクルを取り囲んだ。そのうちの一人が言った"お誕生日"という言葉聞いて、ようやく私は今朝のアイシクルの言葉の意味を理解する。
「…なんやあれ?」
「……。」
……そうか。今日はアイシクルの誕生日なのか。そういえば、そうだったね。忘れていた。
「……あれ、ほっといてもええんか?」
「あの光景を見て私に何をしろと。あの人が誰に囲まれていようと私には関係ないですから」
「…。冷たいなぁ、アメリアちゃん」
「…っていうか、なんでついてきてるんですか?」
「ん? 言うたやろ? これから長~い付き合いになるて。わいのこれからは、アメリアちゃんに付かず離れずや」
「……………」
言って、ローデンさんはケラケラと笑う。
付かず離れずって……。
「アメリア!」
「?」
アイシクルが戻ってきた。
何やら疲れている様子で、彼は眉を下げている。どうやら女の子たちは去っていったようだ。
手には、女の子たちから貰ったプレゼントが握られていた。可愛らしい装飾が飾り付けられた大きな紙袋だ。
「何で来てくれないんだよ?」
「何でって。…私が行く意味ある?」
「………」
はぁ。と、溜め息を吐かれる。
アイシクルが誰に囲まれていようと、誰にプレゼントを貰っていようと私には関係がない。勝手にしてくれって話だ。
「アメリア・ラインハーツ!!」
呆れられながらアイシクルが私を見てくる。しばらく話していると、二階に登る階段付近から私を呼ぶ声がした。
顔を向けると、そこに居たのは茶色の髪の女の人。彼女は腕を組んで、眉をひそめながら私を睨み付けていた。
「見ていましたわよ! 先ほどの光景! あれは何なんですの!?」
言いながら、彼女は私に近付く。
カツカツとヒールの音がその場に響いた。
「…誰や?」
「君は確か、アメリアと同じクラスの…」
「シャスティア・アールですわ。アイシクル様。朝から貴方のお顔が見れるなんて光栄です。私倒れてしまいそうですわ」
「ど、どうも……」
ほほほ、と笑う。
「シャスティア。どうしてここに…?」
「たまたま通りかかっただけですわ。そうしたら、またもやあり得ない光景を目にしてしまったもので。いてもたってもいられず声を掛けてしまいましたの」
「あ、あり得ない光景?」
「これですわ!」
ビシッと、アイシクルの持つ紙袋を指差す。
「貴女一体どういう神経していますの!? 毎年毎年! 確か貴女とアイシクル様は婚約者ですわよね!?」
「あ、…うん。一応」
「だったら何故彼が他の女から貰ったプレゼントを普通の顔して見ていられますの!? あり得ませんわ!!」
怒るシャスティア。私は、アイシクルの持っている紙袋の方に目を向けて少し悩んだ。
この状況どうしよう。
「貴方も貴方ですわ!」
「!。…俺?」
「ええ。何故貴方も普通の顔してプレゼントを頂いているのです? アメリアという可愛らしい婚約者が居るのであれば、それは丁重にお断りするべきではないのですか!」
「…、いや、さすがにそれは」
「私が貴方の立場ならば、必ずお断りしていますわ。"婚約者が居るので受け取れません"と。…という事で」
「あっ」
「これは没収とさせていただきます」
「姉ちゃん強引やなぁ」
「これくらいは当然ですわ。これは、貴方方の将来を思っての行動です。"バツ"とでもお受け取りくださいませ」
シャスティアはアイシクルの手から強引に紙袋を奪い取り、私たちの肩に貼ってあるシールを見つめながら言う。
「…、というか、貴方はどなたですの? ここは部外者は立ち入り禁止なのですが…?」
「ん? ああ。わいの事は気にせんといて。アメリアちゃんのマスコットやから」
「は…?」
ローデンさんは、両手を頭の後ろで組んでケラケラと笑う。
マスコットって、無理ありすぎない…?
「…アメリアさん。貴女の交遊関係は一体どうなっていますの?」
「え、えーと…。ローデンさんとは、さっき出会ったばかりで……私もなんとも…」
ははは、と眉を下げて笑う。
「…まぁ、いいですわ。部外者を連れてきて怒られるのはアメリアさんですし」
「……」
「それよりも、私は心配なんです」
「…ん?」
心配……?
「心配って?」
「アメリアさんとアイシクル様の事ですわ」
「俺たち?」
「私、こう見えて貴殿方の恋を応援していますの。片や一流貴族の御子息。片やギリギリ貴族の仲間入りを果たし"なんちゃって貴族"と呼ばれている三流貴族の娘」
「……、」
「本来ならば、決して交わる事のない二人。そんな二人が婚約者だなんて、なんてロマンに溢れているのでしょう!」
「…はぁ」
「…なぁ、さっきからこの嬢ちゃん何言うてんの?」
「…あまりわかりたくない」
一人高揚するシャスティア。
シャスティア・アール。私と同じクラスに在籍している彼女は、アンジェラと同じく南の国"シャーレ"の出身で、"中位貴族"と呼ばれているアール家のご息女である。
ロマンス関連の小説を好んでよく読んでいるようで、その中でも"身分違いの恋"とか"許されざる恋"とか"人種を越えた愛"などが大好きなんだとか。人種を越えた愛。というのがよくわからないけれど、つまりシャスティアは私とアイシクルのような"障害のある人たちの恋"というのに萌えているのだ。
「それなのに貴女ときたら。…アメリアさん」
「?」
「貴女は少々アイシクル様に冷たくありませんの? そんな事では、いつか誰かさんに彼を取られてしまいますわよ?」
「……」
シャスティアは言う。
私は、ちらりとアイシクルの方を見た。アイシクルも私を見ていて、ばっちりと目が合う。アイシクルはモテる。先ほどの光景を見ていればそれは一目瞭然で、おそらくプレゼントを渡した子は全員彼を狙っているのだろう。
「…まぁ、私がとやかく言う資格はないのでこれ以上は言いませんがね」
はぁ。と、溜め息を吐く。
「それでは、私はこれで失礼しますわ。またあとでお会いしましょう。アメリアさん」
私たちに頭を下げて、シャスティアは背を向けて歩いていく。歩いていく彼女を見つめて、私は深く息を吐いた。
言いたい事を言うだけ言って去っていったな。
「…なんやったんや、あれ?」
ローデンさんが、ポツリと呟く。
「アメリアちゃんは妙なんと友達なんやなぁ。吃驚したわ。プレゼント取られて残念やったな」
「……まぁ。しょうがないですよ。ケーキは食べたかったですけど」
「あのプレゼント、どうするんやろ?」
「さぁ。チョコレートケーキは食べるんじゃないですか? あとのは知りませんけど」
アイシクルが貰っていたプレゼントの中身、チョコレートケーキしか把握してないから、あとの物が食べ物なのかどうかはわからない。どうするんだろう、あのプレゼント。
あとで聞いてみようかな。思っていると、授業開始のベルが鳴った。
「んぁ? チャイムや」
「授業が始まるな。…早く行こう、アメリア」
「?。アイシクルのクラスは逆方向でしょ?」
「"最高貴族特権"。誕生月に限り、最高貴族の者はクラスを変更して授業を受けても構わない」
「えっ」
「へぇ。そないルールあるんか」
「だから、今日一日ずっとアメリアと居られるってわけ。…嬉しい?」
「…。あー、そうね。嬉しい嬉しい」
「めっちゃ棒読みやな」
「……」
私の言葉を聞いて、アイシクルは眉を下げて口元を緩ませる。
最高貴族特典なんて初めて聞いた。
「で、ローデンさんもついてくるんですか?」
「当たり前やん。わいはアメリアちゃんのマスコットやからな」
「……」
マスコットってガラじゃないんですけど。見た目年上みたいですし。
私は再び深く息を吐いて、ローデンさんを見る。ローデンさんは、ケラケラと笑っていた。




