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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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夕食の時間





「…あの、ラーフェイさん。この格好って意味あります?」

「あるわよ! 大いにあるわよ! 料理をするうえで一番大事なのは格好よ? ねぇ、メイドちゃん?」

「……」


 ラーフェイさんに連れてこられたキッチンにて、私はスカートの裾を持ち上げながら眉を下げる。キッチンに到着して早々、私は傷だらけだった身体をラーフェイさんに綺麗に治され、どういうわけか服を着替えさせられた。


 彼女曰く"キッチンに立つもの。それ相応の格好をして料理に挑むべし!"だそうです。


「…でも、なんでメイド服?」

「そこはメイドちゃんに合わせたのよ。それに、一度でいいからメイド服って着てみたかったのよね」


 ラーフェイさんは言う。


 私が今着ているメイド服は黒を基調としたワンピースタイプのメイド服で、メイドさんが着ているものとは少しだけデザインが違っていた。ラーフェイさんも同じくメイド服を着ているけれど、彼女のそれも私たちが着ているものとはデザインが違う。メイド服って色んな種類があるんだね。


「それじゃあ、早速取り掛かりましょうか。まず何から作るの?」

「……」


 ラーフェイさんはメイドさんに聞く。するとメイドさんはポケットから一枚の紙を取り出し、それを彼女に渡した。


 紙には、料理に必要な材料と分量が細かく書かれている。まず最初に作るのは野菜のスープのようだ。


「スープに必要なのは、…アメリアちゃん、冷蔵庫からキャベツと玉ねぎ出してくれる?」

「…わかりました」


 どうやら本当にこの格好で料理をするみたいだ。指示に従い、冷蔵庫からキャベツと玉ねぎを取り出す。


 作業台に置かれたまな板の上にまずはキャベツを置いて、包丁で必要な分だけ切り分ける。そこから食べやすいように一口サイズに切っていくのだけれど、これは包丁で切っても手で直接切ってもどちらでもいいそうだ。


「玉ねぎは最初に皮を剥いてね。そしたら包丁でざっくりと四等分にするの」

「皮を剥いて、四等分…」


 料理をする時は、まず作りたい料理の完成形を頭の中でイメージして、少しずつそれに近付いていけるように手を動かしていくのが基本だとラーフェイさんは言っていた。作りたいのは野菜のスープだから、頭の中でイメージするのは"キャベツと玉ねぎとあと何種類かの野菜が入った具だくさんのスープ"。キャベツは一口サイズで玉ねぎも同じような大きさ。他の野菜も大きかったり小さかったり。


 頭の中でイメージした料理の完成形はあくまでもイメージだから、そのままそっくり完璧に再現しなくてもいいとも言っていた。多少違う所があってもそれは個性だ。だそうです。


「切れたらボールに入れてメイドちゃんに渡してね」

「はい」

「それが終わったらあとはメイドちゃんに任せて、私たちは私たちの料理を作りましょ」

「?」


 私たちの料理…?


「言ったでしょ? アメリアちゃんの作った料理をアイシクルちゃんに振る舞うって。私は先に準備してるから、玉ねぎを渡したら声を掛けてね」


 ふふふ。と、口元を緩ませてラーフェイさんは冷蔵庫の中から必要になる材料を次々と取り出して作業台へ移す。何を作るつもりなのかはわからないけれど、冷蔵庫から色んな野菜や調味料を取り出している辺り、簡単に出来るものではないのだろう。


 作業台に置かれた野菜たちを見て、口元引きつらせる。しかしとりあえず今は目の前の玉ねぎに集中しよう。そう思って、私はまな板の上に置いた玉ねぎを見つめた。



+



「師匠さんたち、お待たせ! 夕食が出来たわよ~!」


 それから私たちは夕食の準備に時間を掛けて、出来上がった料理を師匠たちの居る部屋へ持っていく。キッチンから出る頃にはすっかり日が暮れていた。


 扉を開けて中に入り、テーブルの上にトレイを置く。既に着席していた師匠たちの元に最初に作った野菜のスープを溢さないように配膳し、スプーンも側に置いた。バスケットに入ったパンもテーブルの真ん中に。


「はい、トールちゃんの分」

「…ああ」


 人数分のスープを配り終えると、メイドさんはトレイを持って部屋を出ていく。次の料理を持ってくるためにキッチンへと戻ったのだろう。


「それじゃ、食うとしようか!」

「私たちも座りましょ」


 ラーフェイさんに背中を押されて、私も席に座る。席に座るとスープの良い匂いが鼻を掠めた。出来上がった直後にも感じたこの匂い。とても美味しそうで、食べるのがとても楽しみだった。


 手に持ったスプーンでスープを掬い、口に運ぶ。口の中に広がるのは野菜の旨味とコンソメの味。とても美味しい。特に玉ねぎ。


「…アメリア、聞いてもいい?」

「?」


 スープを堪能していると、隣に座っていたアイシクルが声を掛けてきた。顔を向けると、彼はパンを食べながら不思議そうな表情で私を見つめている。


「なに?」

「いや、その…。何でメイド服着てるの?」

「!」


 アイシクルの言葉を聞いて、ピクリとスプーンを持つ手を震わせる。そこにはあまり触れてほしくなかったけれど、まぁ、気になってしまうよね。


「あら、アイシクルちゃんも気になっちゃった?」

「気になっちゃったっていうか、さっきから目に入ってきて不思議だったんで…」

「ふふ。その服、メイドちゃんの手作りなのよ。私がデザインして作ってもらったの!」

「え!? この服手作りなんですか!?」

「そうよ。製作期間は一ヶ月。みんなには内緒で頑張ったんだから!」


 よく言わずに我慢したわ私! と、自慢気に言うラーフェイさんの表情は笑っていた。それはまるで"悪戯に成功した少年"のような表情で、それを見て私は呆気に取られる。


 まさかこの服が手作りだったなんて…。てっきり市販の物を買ってきたのとばかり思っていたのに。


「それで、どう? 感想は?」

「感想?」

「メイド服を着たアメリアちゃんを見ての感想よ! どう? 凄く似合うと思わない?」

「……」


 ラーフェイさんに聞かれて、アイシクルは私の身体をじっと見つめる。


 下から上へと目線を動かし続けて、少し経つと彼はふいと顔を逸らした。ちょっとだけ顔が赤くなっているのをラーフェイさんは見逃さない。


「どう? どう? アイシクルちゃん? 似合うでしょ? 似合うでしょう? 素直な感想言っちゃっても構わないのよ?」

「べ、別にいいでしょ言わなくても…!」

「あら。言わないとわかんないでしょ? アメリアちゃんも欲しいわよね? アイシクルちゃんのご感想?」

「え? …いや、私は」


 ニヤニヤと口元を緩ませて笑うラーフェイさんと、その表情を見て眉をひそめるアイシクル。彼女たちの顔を交互に見つめて、私は眉を下げた。


 そこで、メイドさんが次の料理を持って部屋に戻ってくる。二品目は私とラーフェイさんの合作料理だ。合作……と言っても、作ったのはほとんど私。ラーフェイさんは指示を出していただけだ。


「おお。これも美味そうだな」

「オムライス?」

[オムライス! オムライス!]


 スープを食べ終えて、私とアイシクルの目の前にも二品目が置かれる。二品目は、卵がふんわりとチキンライスの上に被さったオムライスだ。卵にかけられたソースが良い匂い。


「師匠さん。これ、アメリアちゃんが作ったのよ」

「なに? アメリアが?」

「日頃のお礼にって頑張ったのよね」

「…美味しく出来たかどうかは、味見し忘れたのでわかりませんけど…たぶん大丈夫かと」

「大丈夫よアメリアちゃん。自信持って! 私とメイドちゃんがついてたんだもの。美味しいに決まってるわ!」

「ふむ。なるほど。そういう事なら味わって食わないとな」


 言いながら、師匠はスプーンを持って一口分のオムライスを掬う。まぁ、それ以外にも理由はあるけれどね。と、小さくニヤニヤと笑うラーフェイさん。その表情に私は眉を下げたまま口元を緩ませた。


「……」


 ふと、アイシクルの方に顔を向ける。彼は既にオムライスを口にしていた。もぐもぐと静かに食べている。


 美味しいのか。それとも美味しくないのか。感想を聞いてみたいところだけれど、もし"美味しくない"って言われたらと思うとなかなか言葉が出ない。


「…。師よ。少し席を外してもよろしいですか?」

「ん? …ああ。構わないよ」

「すぐに戻ります」


 トールさんが席を立って部屋を出ていく。アイシクルから視線を外して、何処へ行くんだろうと頭の上に"?"を浮かべた。メイドさんも続いて部屋を出る。


 その瞬間、師匠の大きな声が聞こえてピクリと肩を震わせた。顔を向けるとそこにはオムライスをパクパクと素早く食べている師匠が。口いっぱいにオムライスを頬張っているせいか顔が膨らんでいる。


「これは美味いぞアメリアもぐもぐ。今まで数あるオムライスをもぐもぐ食してきたがもぐもぐこれはそれらに匹敵もぐもぐいやそれ以上だもぐもぐの美味さだもぐもぐ」

「師匠さん。喋るか食べるかどっちかにしてちょうだい。何言っているのかわからないわ」

「…うん。本当に美味い」

[アメリアのオムライス。美味しい。美味しい]


 スイさんもオムライスを食べる。


 どうやらこのオムライスは師匠とスイさんの口に合ったようだ。初めて作った料理が喜ばれるのはとても嬉しい。


「師匠さんとスイには好評みたいね。それじゃあ、アイシクルちゃんの感想も聞いてみたいわ」

「え?」

「アメリアちゃんが愛情込めて作った初めてのオムライス。食べてみての感想よ。さっきから黙々と食べてるから聞くまでもないと思うけれど」


 口元を緩ませて、ラーフェイさんは言う。


 彼女の言葉を聞いて、アイシクルは残り半分以下となったオムライスと私の顔を交互に見つめる。スプーンで掬っていたオムライスを口に運び、少しの咀嚼のあと彼はポツリと呟いた。


「…うん。まぁ、うん。美味しいよ。凄く」

「!」


 言って、アイシクルは視線を逸らす。

 そう言った彼の顔は赤くなっていた。


 "美味しい"と言ってくれたアイシクルの言葉を頭の中で復唱して、私は口元を緩ませる。それと同時に胸の中が温かくなっていくのを感じた。


「あら。アイシクルちゃんの口にも合ったみたいね。良かったわね、アメリアちゃん。…これであとはトールちゃんだけなんだけれど、…彼、何処へ行ったのかしら?」

[オムライス冷める。冷める]

「もお。せっかくアメリアちゃんが作ったのに。冷めちゃったら美味しさ半減じゃない」

「そう言ってやるな。あいつも忙しい身だ。許してやれ」


 眉をひそめるラーフェイさんを見て、師匠は言う。見ると、師匠はオムライスを完食していた。


 私も、スプーンを持ってオムライスを食べる。少し冷めていたけれど、とても美味しかった。ラーフェイさんとメイドさんのアドバイスを聞きながら作って正解だった。機会があったらもう一度作ってみよう。


「……」


 扉を開けて、メイドさんが戻ってくる。野菜のスープとオムライスに続いて三品目の料理を運んできたようだ。豪勢な夕食の時間はまだまだ終わらない。


[魚! 魚!]

「おおっ。これはまた大きな魚だな」

「これも美味しそうね!……でも、こんなに食べちゃって明日の体重が心配だわ」

[ピ。ラーフェイの現在の体重は]

「っ、ちょっとコロタマ! あんた今何言おうとしてる!?」

「…ごめん。"体重"って言葉に反応しちゃったみたい」


 三品目として運ばれてきた魚料理を見て、師匠とラーフェイさんたちはそれぞれ感想を漏らす。


 しかし、"すぐに戻ります"と言っていたトールさんは、それから夕食の時間が終わっても戻ってくる事はなかった。



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