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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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最終試練。師弟対決。






「風よ切り裂け!」


 トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。五年目。最終日。本日はトールさんによる最終試練の日だ。トールさんの放った風の刃が私に襲い掛かる。水の魔法で無数に来る刃を撃ち落としながら私は足を動かし、離れた場所に居るトールさんに近付く方法を考えていた。


 桃藤湯から帰ってきてから今日まで、私はアイシクルと一緒にトールさんに勝つための模擬戦闘を繰り返してきた。桃藤湯でのスイさんとコロタマとの会話のおかげで思い付いたこの方法で、私は現在トールさんに挑んでいる。トールさんに勝つために思い付いた方法。それは、魔法剣だ。


「水の流れよ! アクアショット!」


 剣を振り、再び水の球を勢いよく放つ。真っ直ぐに飛んでいく水の球は、普段私が放つそれよりも一回りも二回りも大きかった。


 それをトールさんは難なく避け続け、風の魔法を放ってくる。トールさんの得意な魔法の属性は"風"のようで、先ほどから彼は風の魔法のみを多用していた。


「風よ吹き荒れろ!」

「水の流れよ、我を守れ! アクアシールド!」


 激しく吹き荒れる風が竜巻となって襲い掛かる。


「っ、…!」


 水で生み出した盾がミシミシと音を鳴らす。少しでも気を緩めてしまえば簡単に吹き飛ばされてしまいそうだ。


「ほう。この風を受けてまともに立っていられるとは。魔法剣の力を借りているとはいえ、さすがだな」


 両足に力を入れて、風が止むまで踏ん張る。風が止み、それまで私を守ってくれていた水の盾が音を立てて崩れ去った。


 息を吐かせぬ魔法合戦。師弟同士の戦いは長い時間続いていて、そんな私たちの戦いを離れた場所にてアイシクルたちは見つめていた。


「ならば、これならどうだ?」


 トールさんは言う。手にしているのは指輪だった。いつの間にかトールさんの指に嵌められていた緑色の指輪。何処かで見たことがあるようなその指輪を、彼は上空に放り投げた。


 指輪に埋め込まれた宝石が淡く光を放つ。くるくると回転しながらゆっくりと落ちていく指輪を見て呪文を唱えると、その指輪に風が纏い始めた。次第にその風は指輪を包む球となって目の前に現れる。


「あれは…?」


 上空に浮かぶ風の球。周囲に吹いている風をも巻き込んでふわふわと浮いているそれは、見た目害はなさそうな雰囲気だった。


 しかし、次のトールさんの一言で風の球は瞬時に凶器の球へと変貌する。


「風よ、敵を撃て! シェルブレイド!」


 彼の言葉に反応して、風の球はぐにゃぐにゃと形を変化させる。何をしてくるんだと思いながら眉をひそめて見つめていると、形を変えた球の中から勢いよく風の刃がバシュンと出てきた。


 数えきれないくらいの風の刃が球の中から無限に出てくる。それを見て私は目を見開き、最初に放たれた刃が足元の地面を抉る前にその場から走り出した。しかし風の刃は方向を変えて逃げる私を追い掛けてくる。


「水の流れよ! アクア!」


 走りながら水の球を放つ。けれどそれは風の刃によって簡単に消されてしまった。球から放たれる風の刃は途切れることなく迫ってくる。


 風の刃は容赦なく地面を抉り、背後にある花壇や陶器の置物を壊していく。あとで師匠に怒られないかな、との心配は今この状況ではあまりしない方がいいのだろう。


「……、」


 とりあえず、あの風の球をなんとかしないと。でもどうやって。


 ひそめた眉をそのままに考える。このまま逃げていても埒が明かない。一番最適なのは、トールさんに近付いてなんとか一撃でもいいから喰らわせる事なんだけれど。


「…!」


 そうだ。今、私は魔法剣の力で魔力が増えてる。だったら。


「っ、」


 そこまで考えて、私は逃げるのをやめて足を止める。風の刃を全身に浴びる事になるけれど、仕方がない。トールさんと戦うって時点で大怪我は承知の上だ。


 風の球が私の動きに合わせてピタリと止まる。風の刃が容赦なく私に襲い掛かり、顔や腕、足や脇腹に無数の浅い傷を作った。水の防御魔法を唱え、自身を守る。こういう時、防御魔法ではなく結界魔法を放つ事が出来れば幾分か楽なんだけれど、結界魔法を使うには防御魔法を極めなきゃならないので私には無理だ。アイシクルに結界魔法とはなんたるかを聞いた事があるけれど、少し聞いただけでも頭が爆発しそうになった。そもそも魔力の量が圧倒的に足りないので、やろうとしても出来ないのだ。


「…何をするつもりだ」


 風の刃をその身に受けて動かなくなった私を、トールさんは不思議そうに見つめる。


 目を閉じて、剣を構えて息を吐く。出来るかどうかは運次第。けれど、魔法剣で魔力の量を増やしているからきっと大丈夫。心配はない。


「…すぅ」


 息を吸う。


 そして、頭に浮かぶ魔法の呪文を口にして足元に魔法陣を描いた。


「…水の流れよ。その身を光に委ね、渦となって敵を撃て! アクススパイラル!」


 叫ぶと、剣の刀身から水の渦が現れる。渦はそのまま刀身を少しずつ巻き込みながら大きくなっていって、今もなお襲い掛かる風の刃を次々と消し去っていった。


 そして私は剣を持つ両手に力を込めて、水の渦を風の球目掛けて勢いよく飛ばす。渦は刀身に巻き付いたまま凄まじい速さで風の球に向かって真っ直ぐに伸びていき、風の球を飲み込んだ。渦の中でバチバチと大きな音がする。風の球が抵抗でもしているのだろうか。


「あの魔法は、…」


 ポツリと、トールさんは呟く。


 音がしなくなったと同時に渦も消えてなくなり、指輪だけとなったそれは逃げるようにトールさんの元へ戻っていった。


「…ふぅ」


 ホッと息を吐く。


 一か八かの魔法だったけれど、どうにか使えたみたいで良かった。魔法剣なしの私だったら絶対に撃ててないよあんなの。魔法剣様々だ。


「……、」


 指輪を嵌め直し、トールさんは足元に魔法陣を描く。次は何をしてくるのかと魔法剣を構えて私は眉をひそめた。


 トールさんは口を開き、呪文を唱え始める。すると、私の足元にもトールさんと同じ魔法陣が描かれた。頭の上に"?"を浮かべてそれを見ていると、突然その魔法陣から淡い緑色の光を帯びた茨が飛び出してきて私の身体に巻き付く。


「わっ!?」


 茨に巻き付かれた事でバランスを崩し、私は尻餅を付いてしまった。尻餅を付いた拍子に魔法剣が手から離れて消えてしまう。


 いばらは、ぎゅうと強く身体のあちこちを締め付けた。痛みで表情が歪む。


「な、何これ…!」

「風の魔法。"茨姫"。一時的に相手の動きを止める妨害魔法だ」


 身動きが取れなくなった私を見て、トールさんが近付いてくる。解いてみろ。とでも言うような表情で私を見下ろし、トールさんは腕を組んだ。


「形勢逆転…とまではいかなかったようだな。狙っていたとも思えんが」

「いたたたた! これ解いてください! 痛いんですけど!」

「安心しろ。時間が立てば自然に解ける」

「!」


 言って、トールさんは手を伸ばして手のひらに小さな風の球を生み出す。私はそれを見て目を見開き、肩を震わせた。


「えっ、トールさんまさか」

「勝負はまだ終わってはいない。最後まで油断はするな」

「っ、」


 茨が一層強く締め付けてくる。今ここでトールさんが風の球を放てば確実に私は負けてしまって、最終試練はおそらく不合格だ。


 不合格になった場合についてトールさんは何も教えてくれなかったけれど、だいたい想像は付く。なんとかしていばらを解く方法を考えなければ。


「っ、」


 茨の棘が身体に食い込み、血が流れる。身体中血だらけだ。風の球が大きくなっていく。いばらは解ける気配がない。私はもうここで負けてしまうのか。ぎゅっと目を閉じて諦めかける。


 しかし、いつまで経っても風の球は私を襲う事はなかった。恐る恐る目を開けると、風の球は無くなっていて、私はきょとんと目を丸くする。


「…だが、まぁいいだろう。試練は終わりだ」

「え?」

「聞こえなかったか? 試練は終わりだと言ったんだ」

「終わり、…終わり?」

「ああ。結果は合格だ。良かったな」


 トールさんは言う。


 彼の言葉を聞いて、私は呆気に取られた。これで最終試練は終わり? しかも"合格"って、私、勝ってないのに。


「で、でも私、トールさんに勝ってないですけど」

「? 勝つ?」

「だって言ったじゃないですか! 最終試練は俺と戦って"勝てば"合格だって!」

「…、ああ。そういえば確かにそう言ったな。なら」

「…!」


 茨が身体から離れる。いばらが解けたのを見て、トールさんは私を立たせた。そしてトールさんは息を吐いて私の手を取り、それを自分のお腹にくっ付ける。


「これで、お前は俺に一発当てた。お前の勝ちだ」

「え、…?」


 トールさんのお腹にくっ付いた自分の手を見つめる。ちょっと理解出来ないんだけれど。


「よ、よくわからないんですけど…」

「本来、この最終試練には勝ち負けなどは存在していない」

「?」

「この試練で重要だったのは、俺の攻撃に対してお前がどんな行動を取るのか。今のお前の身体の中にどれだけの力が蓄えられているのか。その蓄えられた力をいかにして放出し、実践に役立てるのか。それだけだ」

「じ、じゃあ、なんで"勝つ"なんて」

「その方が本気を出せるだろう」


 淡々として口調でトールさんは言う。

 彼のその言葉を聞いて、私はぽかんと口を開けた。


「じゃあ、私は…」

「何度も言わせるな。最終試練は合格。これで、準備は概ね整ったと言えるだろう。俺の役目は終わった」

「……」


 トールさんの言葉を復唱する。

 合格。最終試練は合格。合格。合格。


 合格……!


「アメリアちゃんおめでとう!」

「わっ!?」


 トールさんのお腹から手を離して、ようやく彼の言葉を理解する。合格。最終試練合格。私は無事に合格出来たんだ。


 口元を緩ませて喜びを噛み締めていると、今まで私たちの戦いを見ていたラーフェイさんが勢いよく抱き付いてきた。吃驚して顔を向けると、彼女は私以上に喜んでいた。


「おめでとうアメリアちゃん! 私、自分の事のように嬉しいわ!」

「ラ、ラーフェイさん……痛いです」

「アメリア、おめでとう」

[アメリア。めでたい。めでたい]


 ラーフェイさんのあとから、アイシクルとスイさん、コロタマも近付いてくる。今日はメイドちゃんに頼んでお祝いパーティーね。とラーフェイさんは言った。


 そこに、師匠がメイドさんと一緒に屋敷の中からやって来る。トールさんとアイシクルの名前を呼んだ師匠は何やら嬉しそうな表情を浮かべていた。


「トール、アイシクル。お前たちに朗報だ」

「…何でしょう?」

「?」


 師匠の言葉に、トールさんとアイシクルは頭の上に"?"を浮かべる。


 私たちも師匠の方に顔を向けて、首を傾げた。


「聞いて驚け。先ほど私の所にお前たちの両親から連絡があってな」

「母さんたちから?」

「ああ。…本日付けで、お前らディー家は"最高貴族"に昇格した」

「…は?」


 師匠の言葉に、その場に居る全員がぽかんとする。最高貴族って上位貴族の人のみがなることを許されているっていう貴族の事だよね? 最高貴族になるためには、"貴族制定協会"という所で設定されている条件を半分以上クリアしないとなれないって言われている。噂では、その設定されている条件というのが無理難題なものばかりで、上位貴族の人たちはその条件をクリア出来るように日々努力しているのだとか。


 そんな上位貴族の夢である最高貴族にディー家がなったって事は、条件を半分以上クリア出来た。という事か。


「おめでとう、トール、アイシクル。私も鼻が高い気分だ。まさか弟子の中で最高貴族になる奴が出てくるとはな」


 師匠は言う。


 アイシクルは驚いた表情を浮かべてトールさんの方に顔を向けた。けれど、トールさんは表情を変えずに腕を組んで肩を落とす。


「? なんだトール。嬉しくないのか?」

「…いえ。喜んでますよ、これでも。顔に出ないだけです」


 そうは言っているけれど、どう見てもその表情は喜んでいるとは思えない。


 トールさんの表情を見て、師匠は息を吐く。そして師匠は"それじゃあお祝いをしよう!"と言って笑った。トールさんたちの最高貴族昇格と私の最終試練合格のお祝いだ。


「メイド。今日の夕飯は豪勢に頼むな!」

「……」

「あ! なら私も手伝っていいかしら? 私の特製料理、トールちゃんたちに食べてもらいたいわ!」


 ラーフェイさんの言葉にメイドさんは頷く。


 キッチンに立つ許可を貰って嬉しそうに喜びを露にした彼女は、"それでは早速"と何故か私の腕を持って歩き始めた。


「えっ、ラーフェイさん?」

「アメリアちゃんも手伝うのよ」

「私もですか?」

「ええ。もちろん今日の主役はアメリアちゃんだけれど、トールちゃんたちも主役だからね。それにアイシクルちゃんはアメリアちゃんの婚約者ですもの。お祝いに、アメリアちゃんの手料理をアイシクルちゃんに振る舞わなきゃ」


 ラーフェイさんは言う。

 アイシクルに、手料理を振る舞う…。


「で、でも私、料理なんてしたことないです…!」

「大丈夫よ、教えてあげるから。うんと美味しいものを作ってトールちゃんたちを喜ばせましょ?」


 言いながら、ラーフェイさんは私の方に顔を向けてウィンクを一つ。


 それを見て、私は口元を引きつらせた。



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