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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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温泉の三人






「はあぁあ~。やっぱり温泉はいいわねぇ…。アメリアちゃんもそう思うでしょ?」

「そうですね」


 両腕を伸ばしてラーフェイさんは言う。彼女の言葉を聞いて、私は口元を緩ませた。


 私たちは今、温泉に入っている。


「それにしても、アイシクルちゃんったら酷いわよね。女の子の顔に傷を付けちゃうなんて」

「悪気はなかったんだと思います。私が額をおさえてる時、アイシクル、少し慌ててましたし」

「…、アメリアちゃんのその火傷の痕もそうだけど、アイシクルちゃんの火傷も治癒魔法じゃ治らなかったのよね? 大抵の傷や火傷はだいたい治療の魔法をぴょいっとやっときゃ治るんだけど。どうしてかしら?」


 まぁ、だからここに来てるんだけどね。

 ラーフェイさんは言う。


 現在、私たちが居るのは"桃藤湯(とうとうゆ)"という温泉宿。何故私たちがここに居るのかというと、私とアイシクルの模擬戦闘から数日後、私の額に受けた火傷の痕を気遣ってラーフェイさんが夕食の席で"温泉に行きましょう!"と提案してきたからだ。


 何の脈絡もなく突然言ってきたものだからその場に居た誰もがポカンとしてしばらくの間制止していたけれど、それを破ったのはエーデリア師匠で、"それはいいな!"との師匠の言葉で私たちの温泉行きが決定した。火傷を治す目的でもあるためアイシクルにも声を掛けて、彼も今ここに来ている。ちなみに、この桃藤湯はラーフェイさんの行き着けの温泉宿だそうで、ここへは定期的に癒されに来ているらしい。


「そういえば、昨日の夜は何処行ってたの?」

「え?」

「夜。慌てた様子で部屋を出ていったじゃない。気分でも悪かったの?」

「! 見てたんですか!?」

「見てたっていうか、音で起きちゃったのよ。そしたら慌てて部屋を出てくアメリアちゃんを見たの」

「……」


 ラーフェイさんの言葉に唖然とする。


 温泉宿に来て、部屋割りは男と女で分かれていた。だから私とラーフェイさんと師匠は同室だ。ラーフェイさんを"女の人"と見るか"男の人"と見るかで迷う所だけれど、彼女は迷いなく私と師匠に付いてきたので同室になった。まさか、あの時起こしていたなんて。


「それで、何処に行ってたの?」


 口元を緩ませながら、ラーフェイさんが詰めてくる。私は彼女のその表情を見て眉を下げた。

 アイシクルを追い掛けてました。とは、口が裂けても言えない。恥ずかしいとかそんな理由ではなく、ただただそれを彼女に話してしまうとめんどくさそうだからだ。


「少し、外の空気が吸いたくなって」

「外の空気? それだけ?」

「はい」

「それだけであんな慌てる?」

「う、…は、早く吸いたかったんです! 外の空気吸いたい、早く行こう! って」

「……」


 疑いの眼差し。


 口元を引きつらせて笑い、私は彼女から少し離れた。そして納得したのかラーフェイさんは"まぁいいか"と元の位置に戻る。


「…はぁ」


 小さく息を吐く。

 昨日の夜。私はアイシクルを追い掛けて、宿の裏にある林の中へと足を踏み入れた。


 どうしてそんな所にアイシクルが入っていったのかはわからない。けれどそれを見た時、感じた事のないざわつきが胸の中で沸き起こって、いてもたってもいられなくなって慌てて彼のあとを追い掛けた。アイシクルを見つけた時、彼は湖を見ていた。その表情はなんだか虚ろで心ここに在らずという感じだったから私は気付いてもらえるように彼の腕を掴んで無理やり振り向かせた。


 私の方へ顔を向けた彼の表情は、普通の、いつも見ているような表情で、それを見て私はホッとした。私の顔を見たアイシクルは驚いた表情を浮かべていて、そのあと軽く怒っていた。そのあと私はアイシクルと"約束"をかわして、宿に戻ってきた。というわけなんだけれど、そういえばあれからアイシクルと話をしていない。


「お。入っているな!」

「師匠!」


 するとそこでガラリと音を立てて扉が開き、師匠が入ってきた。タオルを肩に掛けて腕を組みながら師匠は私たちを見て、お湯の中に足を入れる。


「タオルで隠さないスタイルは相変わらずみたいね、師匠さんは」

「隠す必要なんてどこにもないからな」

「一応、私はまだ"男"なんですけど?」

「問題はない。お前は私の身体を見て欲情するか?」

「しないわね。全然」


 そんな会話をしつつ、師匠は私の隣へ腰を降ろす。見ると、師匠の身体は傷だらけだった。こんなにまじまじと師匠の身体を見る事なんてなかったからなんだか新鮮だ。


「ん? なんだ?」

「! …いえっ」

「どうしたのアメリアちゃん? 師匠さんの超絶麗しボディに見惚れちゃった?」

「えっ!? あ、いやその、私は、」

「ラーフェイ。それは嫌味か?」

「あら。私は嫌味は言わないタイプよ?」

「い、いえ! そうではなくて! …師匠の身体、傷だらけだったからちょっと驚いてしまって」

「ん、…ああ。そういえばアメリアには見せていなかったな」


 師匠は、自分の身体を見つめる。


「長年剣士などやっているとどうしても傷というのは嫌でも付いてしまうものだ。"傷は剣士の勲章"という言葉があるが、私のこれは勲章というよりも汚点だな」

「汚点?」

「ああ。私のこれはすべて油断から付けられた傷たちだからな」

「師匠さんはね。受けた傷は治癒魔法で治さずに、こうして傷痕として残しているのよ」

「……」


 確かに言われてみれば、治癒魔法が使えるのであれば身体に傷痕なんて残らない。それらの傷は全部自然治癒で治し、戒めとしてわざと身体に残しているのだと師匠は言った。


「でもそのおかげで、男が近寄って来なくなっちゃったのよね?」

「ああ。それだけが今のところの懸念だ」

「男、ですか…」

「私もそろそろ身の振り方を考えなければならない歳だからな。困ったものだ」


 そう言って、師匠は腕を組んで眉をひそめる。悩んでいる師匠を見つめていると、ふいにラーフェイさんが後ろから抱き付いてきた。


 いくら彼女が女の人の心を持っているとは言え、身体はまだまだ男の人のままだからちょっと恥ずかしい。


「アメリアちゃんは、師匠さんみたいな傷だらけの身体にはならないようにね。あれは悪い大人の例だから」

「…でも、カッコいいと思いますよ。私、師匠の身体好きです」

「あら」

「はは。そんな嬉しい事を言ってくれるのはアメリアだけだ」


 聞いていたのか、師匠が私の頭を撫でる。そして師匠は両手で温泉の湯をすくって、それを火傷がある私の額にかけた。お湯が火傷の痕を通り、ポタポタと落ちる。


「わっ、何するんですか?」

「火傷を治すために湯に浸かっているんだろう? だったら、火傷しているここにかけてやらんと意味がないだろう」

「そ、それはそうですけど、…熱いです! かけすぎですってば!」


 じゃばじゃばと額にお湯をかけられる。


 ラーフェイさんも私に抱き付いたままそれに混ざってきて、しばらくその場には私の叫び声と師匠たちの楽しそうな声が響いた。



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