模擬戦闘にて
前半→アメリア視点
後半→アイシクル視点
トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。四年と十二ヶ月目。本日、私はアイシクルと一緒に模擬戦闘を行っていた。
あと一ヶ月でトールさんから伝えられた"五年"という期間が終わりを迎える。そこで、トールさんから言われたのは"最終試練"の話だった。最終試練の内容はトールさんと一対一の勝負をして勝つ事。辛勝でも彼に勝つ事が出来れば無事に合格。晴れて私はトールさんに一人前の魔法使いとして認められるのだ。もし勝つ事が出来なくて不合格だった場合は、…それはトールさんは教えてくれなかった。
そんな理由もあり、私はあと一ヶ月後に行われる最終試練のためアイシクルに頼んで練習相手をしてもらっている。アイシクルならトールさんの弟だし、実力も彼と似たり寄ったりだと思うので練習相手には申し分ない。
模擬戦闘のルールは魔法のみ使用OKで、先に相手を戦闘不能にさせた方の勝利。アイシクルの実力は学年の中でもトップクラスの成績だと聞いているから私には絶対に勝ち目はないだろうけれど、ですが瞬殺されないように頑張りたいと思います。しかし、そう思っていたのも束の間。彼との戦闘を開始して早30分。既に私は満身創痍であった。
「はぁ、…はぁ」
場所は師匠の屋敷の裏庭。荒くなった息を整えながら、眉をひそめて離れたところに居るアイシクルを見つめる。30分前に戦闘を開始してからずっと、私は劣勢の道を突き進んでいた。
「水の流れよ、敵を撃て! アクアショット!」
足元に魔法陣を描いて、水の魔法を放つ。頭上から放たれた水の球が一直線にアイシクルのもとへ向かった。
それを見て、アイシクルは結界魔法を使って水の球を弾く。そして足元に魔法陣を描き、彼も私と同じように水の球を放った。私はアイシクルみたいに結界魔法などは使えないので、頑張って避けるしかない。
「光よ、刃となれ! ルクトアロー!」
水の球を避けきれば、今度は光の刃が迫ってくる。体力の問題で光の刃は避ける事が出来なくて、私はまたも身体に傷を負ってしまった。
その場に尻餅をつく。すると、心配したのかアイシクルが声を掛けてきた。"大丈夫?"と聞かれたので声の代わりに片手をあげてそれに応える。
「よ、…と」
立ち上がって、息を吐く。
まだ戦闘は終わっていない。私は足元に魔法陣を描いて、炎の魔法の詠唱を始めた。
「炎よ燃えろ! フレイム!」
放たれた炎の球がまっすぐ飛んでいく。アイシクルは再び結界を張り、球を弾いた。あの結界魔法がある限り、アイシクルには一撃足りとも傷を与える事は出来ない。それならまずはあの結界をなんとかしなければ。そう思うのだけれど、一体どうやったらあの結界魔法を壊せるんだろう。
やっぱり、初級魔法ばかりやってるだけじゃ駄目なのかな。
「アメリア!」
「?」
考えていると、アイシクルが私を呼ぶ。見ると、彼は両手をあげて眉を下げていた。
あの合図は、模擬戦闘を行う前に私たちで決めた"途中棄権"の合図。もう戦いたくない! っていう時に出す合図だった。
「アメリア! もうやめよう! 魔力の差が大きすぎる! このまま戦っててもアメリアに勝ち目はないよ!」
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そう言って、俺は両手をあげてアメリアに言う。けれどアメリアはそれに首を振って、俺の合図無視した。本人は、まだまだ戦うつもりのようだ。
「……、」
これが、一ヶ月後に控えた兄さんとの最終試練のための練習試合だと言う事はわかってる。それもあって、俺はアメリアに頼まれて"全力を出して"戦っているけど、いくらなんでもこれでは勝負にならない。これ以上やったとしても、アメリアが今以上にボロボロになるだけだ。
「…うーん」
どうして兄さんは、最終試練でアメリアと戦おうと思ったんだろう。彼女の今の実力では兄さんには勝てないのは目に見えているのに。
[だったら、わからせてあげようよ]
「…!」
目の前に居るやる気満々なアメリアを見て、眉をひそめて考える。と、そこでどこからともなく声が聞こえた。キョロキョロと辺りを見渡して声の主を捜す。"ここだよ"と導かれて振り向くと、そこには男の人が立っていた。赤い髪の男の人。彼は俺を見て口元を緩ませて笑っている。見覚えのある人だった。
「貴方は、」
[やあ。また会ったね]
男の人は言う。
全力鬼ごっこの時に出会った男の人だ。確か名前は、ブレイズさんだったか。
「どうしてここに…」
[君に会いに来たんだよ。言ったでしょ、また近いうちにって]
「……」
[…それより、あの子]
「?」
[あの子、自分の力量をわかっていないみたいだ。せっかく君が途中棄権を申し出てあげたって言うのに]
「…アメリアは頑張りすぎる所があるんです」
[頑張りすぎる、ね。俺から言わせてみればああいうのは無鉄砲だと思うけど]
無鉄砲。言いながら、ブレイズさんはアメリアを見つめる。
さっき"わからせてあげよう"って言っていたけど、あれはどういう意味だろう。首を傾げて聞いてみると、ブレイズさんは淡々と答えた。
[ああいうのには、強制的にわからせてあげた方がいいんだ。己の実力がわかっていない馬鹿には、それが一番いい]
「え?」
[俺の魔力を一時的に貸してあげるよ。それで一発、熱いのを浴びせてやれ]
「!」
言うと、ブレイズさんはまるで幽霊のようにその場から消える。その瞬間、右腕が少しずつ熱を持ち始めて手のひらから勝手に炎が生み出された。足元に魔法陣が描かれる。赤い魔法陣。炎の魔法を放つ時に描く魔法陣だ。でも、俺が描く魔法陣とは少し違う。
「なん、だ…?」
「水の流れよ! アクア!」
「!」
俺の行動を見て、アメリアが水の魔法を放つ。自分の合図無視を受け入れて戦闘続行したのだと思ったのだろう。
だんだんと右腕が燃えるように熱くなる。手のひらから生まれた炎はそのまま手首から腕、肩にまで伸びた。それを見て俺は目を見開き、吃驚する。
「…っ!?」
まっすぐ飛んでくる水の魔法を腕を振り上げて消し飛ばす。水の魔法は一瞬で消えた。
現れた蒸気がもくもくと空へ昇っていく。炎で燃えた右腕を見て、アメリアも驚いているようだ。
「アイシクル…? どうしたのそれ!?」
右腕が熱い。右腕が上手く動かせない。まるで誰かが俺の右腕を操っているみたいだ。
「っ、」
右腕が勝手に振り下ろされて、手のひらから炎が放たれる。炎は地面を這い、蛇のようにうねりながら物凄い速さでアメリアに向かって飛んでいった。
それをアメリアは避けようと足を動かす。しかしそれよりも速く炎は彼女の足元を囲み、彼女の逃げ場を無くした。そのまま炎は彼女の足元をくるくると回り続け、そして。
「きゃあ!?」
「アメリア!」
そして次に、炎はアメリアの顔に目掛けて飛び上がった。昇り竜のように勢いよく飛び上がった炎は空に向かう。足元から向かってきた炎をアメリアが完全に避けきれたとはまったく思えない。俺は目を見開いたまま慌てて彼女の元へ行こうとしたが、右腕の炎が先ほどよりも熱くなって、次第にそれは激痛に変わった。
アメリアの元へは、俺たちの戦いを見守るために離れた場所で見学していたラーフェイさんとスイさんが近付く。
「ぐ、っ、…あああああっ!」
右腕の炎は消えない。
消えるどころか、だんだん強くなってきているように感じた。
「…っ、アイシクル!」
アメリアの声が聞こえる。
俺は右腕を地面に押し付けてその場に踞る。俺の叫び声を聞いたのか、スイさんが駆け寄ってきて水の魔法で右腕の炎を消してくれた。炎が消えた右腕は真っ黒に焦げていて痛々しい。これは火傷で済まされるようなものではない。
「アイシクル、しっかり」
「…っ、」
右腕の痛みが消えない。
見ると、アメリアは額を押さえて表情を歪ませていた。
[…どうやら、君にはまだ俺の魔力を預けるのは早かったみたいだね。ごめんよ]
「…、」
いつの間にか、ブレイズさんが俺の隣に居る。その表情は先ほどと同じく笑っていた。
そして俺は、痛みに耐えられなくなってその場で気を失った。




