黒山羊の飼い主 ※トウマ視点
黒山羊の飼い主が判明した。
その人は、学校の離れにある小屋に住んでいるらしい。
早速、預けていた黒山羊を連れて訪ねてみると、そこには"黒ゴマ"と書かれた看板と"隠れ家"と書かれた看板が飾られた二つの小屋が横並びに建てられていた。二つの小屋は同じ大きさで、片方の小屋は中の様子が見えるようになのか四方を青い格子状の柵で囲っていて、ペット小屋みたいな感じになっている。
「黒ゴマ、…これがお前の名前か?」
[メェ~]
"黒ゴマ"と書かれた看板を見て、黒山羊の方に顔を向ける。どうやらここが黒山羊の住んでいる所で間違いないようで、黒山羊は看板に頭を擦り付けていた。黒山羊をそのままに俺は"隠れ家"と書かれた看板の方に足を進める。
隠れ家って看板に書いちゃったらそこはもう隠れ家ではないんじゃないかと思いながら、扉の前に立ってノックを三回。"ごめんください"と声をあげると、しばらくして中から声が聞こえた。
「はいはい。誰かの?」
「! あ、えと…」
音を立てて扉が開くと、中から出てきたのは白髪のお爺さんだった。まさかご老人が出てくるとは思わなかったのでちょっと吃驚。
首を傾げて俺を見つめるお爺さんに簡単に事情を話すと、少しきょとんとしたあとお爺さんは口元を緩ませて小さく笑った。
「ほうほう。そうかそうか。君が黒ゴマを見つけてくれた生徒じゃな。話は聞いておるよ」
「…ごめんなさい。届けるのが遅くなってしまって」
「なに。いいんじゃよ。黒ゴマを連れてきてくれただけでワシは嬉しい」
お爺さんの話だと、黒山羊…黒ゴマには脱走癖があるらしくて、よく小屋から抜け出しては何処かへ行ってしまうらしい。その度に"捜索願"が学校宛に出されているのだとか。
普段は先生たちが総動員で黒ゴマを捜すそうで、見つからない時は一ヶ月以上も捜している事があるらしい。
「立ち話もなんじゃから、中に入るといい。お礼も兼ねて何か振る舞おう」
「あ、いえ、お構い無く…。俺は黒ゴマを届けに来ただけ」
[メェ~]
「! うわ、ちょ…っ」
黒ゴマを送り届けたらすぐに帰ろうかと思っていたのだが、お爺さんからの誘いといつの間にか傍に来ていた黒ゴマの後押しで、有無を言わさず俺は小屋の中へ足を踏み入れてしまう。
小屋の中に入ってまず目に飛び込んできたのは壁一面に飾られた様々な形をした時計だった。それは壁だけではなく床の上や棚の上、テーブルの上にも数えきれないくらいに何個も置かれていて、どの時計も差している時刻がバラバラだった。
「蜂蜜ミルクじゃ。旨いぞ」
「どうも…」
お爺さんにカップを渡されて椅子に座る。何処を見ても時計だらけで居心地はあまり良くはなかった。どうしてこんなに時計がいっぱい…。
「気になるかね?」
「えっ、あ、いえ…。えと、どうしてこんなに時計が?」
「ワシは時計集めが趣味での。あれもこれもと言っとる間に、いつの間にかこんなになってしまったんじゃ」
合い向かいに座り、お爺さんは紅茶を飲む。時計集めが趣味。だからこんなに時計があるのか。なるほど。
[メェ~]
「ん、」
数ある時計を見つめながらカップに口を付けて蜂蜜ミルクを飲む。口いっぱいに甘さと暖かさが広がってとても美味しかった。
するとそこに黒ゴマが小さく鳴き声をあげて俺のお腹に顔を押し付けてくる。あまりにも突然すぎる行動に口に含んでいた蜂蜜ミルクを溢しそうになった。
「ほう。黒ゴマが懐いておるの」
[メェ~]
「こら、邪魔するな。飲めないだろ」
[メェ~]
「ほほ。どうやら君は"良い"生徒のようじゃな」
「…良い?」
「そうじゃ。こうして会えたのも何かの縁。お近づきの印に良い物をあげよう」
言って、お爺さんは棚の引き出しを開けて中から何かを取り出す。
渡された物を見てみると、それはお守りだった。赤と緑の布で作られた、神社などでよく売られているようなタイプのお守り。表面には文字が書かれていたが、刺繍で縫われていたのと達筆だったのが重なり、何て書いてあるかはわからなかった。
「…これは?」
「ワシが作った"安全第一のお守り"じゃ。ご利益あるぞ」
「……」
お爺さんは言う。
中には、一枚の厚紙と黒と白の石ころが二つ入っていた。厚紙には魔法陣が描かれている。
「石?」
[メェ~]
「その石には魔力が込められていての。きっとどこかで君の役に立つ時がくるだろう。大切にの」
ほほ。と、お爺さんは笑う。
最近よく人から物を貰う事が多いな。
そして、俺はお爺さんに別れを告げて小屋を出る。蜂蜜ミルクを飲み干してそろそろお暇しようと立ち上がった時、お爺さんから"またいつでも遊びに来ていいからね"と言われた。
[メェ~]
小屋を出て、黒ゴマをペット小屋へ連れていく。柵越しに頭を撫でれば黒ゴマは小さく鳴き声をあげた。
いつの間にか空はオレンジ色に染まっていて、もうすぐ夜になる。寮には門限が決められているため早く戻らなくては。
[メェ~]
「もう脱走するんじゃないぞ」
そう言って、俺は黒ゴマに背を向けて歩き出す。
しかし黒ゴマは柵から顔を覗かせて俺の服に噛み付いた。くいっと強く引かれて俺は黒ゴマの方に顔を向ける。
[メェ~]
「…また明日来るから」
[……]
口元を緩ませて、黒ゴマの頭に手を置く。そんな俺の気持ちを感じ取ってくれたのか、黒ゴマはすぐに口を離してくれた。それじゃ。と笑って手を振り、その場から走り出す。俺の姿が見えなくなるまで黒ゴマは"メェ~"と鳴き続けていた。
その日の夜。寮に戻った俺を待っていたのは、あのお爺さんについての驚愕の真実だった。
「まさかマジで知らなかったのか? 校長の事?」
「お気の毒様だな」
「……」




