剣聖武闘大会4
剣聖武闘大会。決勝。
会場内の熱気は最高潮に達していた。
《さぁ、白熱してきた剣聖武闘大会一般の部もいよいよ大詰め! 決勝戦となりました! 予選準決勝と数多の強者を掻い潜り決勝へと駒を進めた二名による優勝を賭けた熱き戦い! しかと最後まで刮目せよ! それでは参りましょう! 決勝戦! トール選手とゼット選手の入場だああ!!》
実況者の声で、トールさんと謎の仮面ゼットさんが出てくる。二人が出てくると観客席は一斉に歓声をあげた。その声に応えるかのように謎の仮面ゼットさんが両手をあげてアピールする。
「おい。目立とうとするな」
「ええやろこれくらい。ほれ、トールくんも手あげて見てくれてる人たちに応えてやり」
「…断る」
二人は向かい合い、戦闘開始の合図を待つ。しかし彼らは武器を持っていなかった。武器を持っていない事に疑問を持ち、実況者は首を傾げる。それは、観客席に居る人たちも同じだった。
《おっと? トール選手もゼット選手も武器を持っていない? これはどういう事だ?》
ざわざわとする観客席。
その声を聞きながらトールさんは懐に手を伸ばし、一つの宝石を取り出した。謎の仮面ゼットさんも同じ物を手に取って、それをくるりと回す。二人が手にした宝石には見覚えがあった。紫色をした歪な形の宝石。あれはクリスタル・ウェポンと呼ばれる宝石だ。トールさんが持っているのはわかるけれど、謎の仮面ゼットさんが持っているのはどうしてだろう。
「来ましたわ! ゼット様の秘密兵器! あれを使えばゼット様の優勝は間違いなしですわ!」
「知ってるの?」
「当然ですわ。あれは選ばれたお方にしか扱えない最高級の武器。その名も…!」
「クリスタル・ウェポン?」
「そう! クリスタル…って、貴女知っていますの? あれが何なのか?」
「うん。…前に一度見たことがあって」
一度だけじゃなくて、何度も。
時の番人にしか使えない未知の武器"クリスタル・ウェポン"。それは、使う人によって武器の種類と形状が異なる、不思議な力を持つ不思議な宝石。
「なあ! さっきも言うたけど、ほんまにこれ使うても大丈夫やねんな!?」
「何度も言わせるな。被害が無ければ問題はない」
「"被害"ね。…まぁ、あらかじめ観客席には被害は出ないようになっとるみたいやけど、…トールくんが問題はない言うとるし、怒られなければええか。…そんじゃ、出番やで"ヨイチ"!」
「現れろ、"クロウ"!」
そして、トールさんと謎の仮面ゼットさんは手にした宝石を武器に変化させる。謎の仮面ゼットさんが持っていた宝石は弓へと姿を変え、トールさんが持っていた宝石は鉤爪と呼ばれる魔獣が持つ爪の形を模した武器へと姿を変えた。
《おっとこれはどういう事だ!? 何もない所から武器が出てきたぞ!?》
どうやら実況者にはトールさんさんたちが持っていた宝石は見えていなかったらしい。
「あの弓は、」
謎の仮面ゼットさんが持つ弓。あの弓の形にも見覚えがあった。あの弓は確か"彼"が持っていた弓と同じものだ。それを謎の仮面ゼットさんが持っているって事は、つまり…謎の仮面ゼットさんの正体は…。
《トール選手もゼット選手も今までとは違う武器での参戦という事でしょうか? これは見物です! …それでは参りましょう! 剣聖武闘大会決勝! 戦闘開始!》
実況者の声が戦闘開始を宣言する。
観客席の人たちは盛大に歓声をあげ、トールさんと謎の仮面ゼットさんはその言葉を合図に同時に動き出した。
「先手必勝! 頼むでヨイチ!」
謎の仮面ゼットさんが、弓を構えて矢を放つ。素早く放たれた矢は真っ直ぐトールさんのもとへ飛んでいく。それをトールさんは慌てる事なく弾き返し、三本の爪を淡く光らせながら謎の仮面ゼットさんとの距離を詰めていった。
「力を放て、クロウ!」
「っ!?」
腰を低くし、トールさんは腕を振り上げて謎の仮面ゼットさんを攻撃する。淡く光らせていた爪の刃から青白い衝撃波が放たれ、それは謎の仮面ゼットさんの喉元を掠った。
寸でのところで衝撃波を避けた謎の仮面ゼットさんの喉元からは少量の血が流れる。衝撃波は空高く飛んでいき、小さくなって消滅した。
「距離を詰めれば弓は無力とでも思っとるんちゃうやろうな?」
「その考えはお前には通用しない」
「ようわかっとるやないの!」
謎の仮面ゼットさんは弓を持ち変えてトールさんを攻撃する。謎の仮面ゼットさんの弓は近距離でも攻撃出来るように弓の先端部分に小さな鋭い刃が隠し武器として付けられていた。
刃に当たらぬようにトールさんは素早くその場から離れて、小さく息を吐く。それからも二人の攻防は続き、しばらくの間は拮抗した戦いが繰り広げられた。
《これは凄い! 凄すぎる! なんなんだこの戦いは!? これはどちらが勝ってもおなしくはない状況だぞ!?》
「…ほんとに凄いわね、あの二人」
「むむむむ! しぶといわねあの金髪! さっさとやられなさいよ!」
[トール! トール! 頑張れ! 頑張れ!]
「トールさーん! ファイトー!」
手すりに手を置いて、トールさんを応援する。実況者の言う通り、これはどちらが勝ってもおかしくはない状況だ。個人的にはトールさんに優勝して欲しいけれど、でも謎の仮面ゼットさんの正体が"あの人"だった場合、どちらが勝っても負けても悔しい気分にはなる可能性がある。
「はぁ、…はぁ。さ、さすがトールくん。なかなか倒れてくれんな」
「お前相手に手加減は出来ないからな」
「はぁ、…なら、わいのとっておき見せたるわ。トールくんにもリィにも、主にも見せた事がないとっておきの技をな」
「…?」
謎の仮面ゼットさんは弓を構え、矢を地面に向けて放つ。矢は勢いよく地面の中に潜っていき、地面を這うように進んだ。
トールさんは眉をひそめて地面を見つめる。すると次の瞬間、足元の地面から放たれた矢が飛び出して来て彼の頬を素早く掠めた。トールさんの頬に一筋の血が浮かび上がる。
「っ、」
「どうや! 秘技・土竜蛇! めっちゃ練習してんやで!」
《ああっと、トール選手不意を突かれた! なんなんだあの技は!?》
「…なるほど。これは予想外だな」
「まだまだ何発でもイケルで! 身体に穴が開かへんように気い付けや!」
謎の仮面ゼットさんはもう一度、矢を地面に放つ。今度は一本ではなく何本も。勢いよく放たれた矢は地面を這い、再びトールさんの足元から飛び出した。それを見てトールさんは飛び上がり、上空から衝撃波を放つ。飛び出た数本の矢は衝撃波によって撃ち落とされた。
「だったらこっちも使わせてもらう」
地面に着地し、鉤爪を構えてトールさんは息を整える。目を閉じて少しすると、トールさんの足元から風が生み出され、鉤爪の三本の刃が緑色に光りだした。凄まじい風が会場内を包み込む。
「三爪緑龍、一破刃!」
そして彼は、腕を振り上げて身体全体を使いながら緑色の衝撃波を放った。放たれた衝撃波はまっすぐ謎の仮面ゼットさんに向かって飛んでいく。
矢で弾き返そうとするも、その衝撃波の勢いはトールさんが今まで放ってきた衝撃波よりも速度が上回っていた。謎の仮面ゼットさんは舌打ちをして飛び上がり、上空から弓を構える。しかし目線の先にはトールさんの姿はなかった。気付いた時にはもう遅い。
「ここだ」
「…!?」
飛び上がった謎の仮面ゼットさんの背後。気配を消してトールさんもそこに居た。衝撃波を利用して謎の仮面ゼットさんの背後に回っていたのだ。
トールさんは鉤爪を振り下ろし、謎の仮面ゼットさんを攻撃する。背後を取られてしまったらどうすることも出来ない。謎の仮面ゼットさんはその攻撃を受けて、地面に激突した。
《おおっと! これは凄まじい攻撃! ゼット選手立ち上がれるか!?》
「ゼット様!」
仮面の女の子が叫ぶ。
その場に倒れたまま動かない謎の仮面ゼットさんのもとに判定員が近付く。地面に着地して、トールさんは鉤爪を宝石の形に戻した。
「……」
謎の仮面ゼットさんは動かない。
判定員が実況者を呼び寄せて、耳打ちで結果を伝えた。
《き、決まったあああ! 勝者トール選手!! トール選手が見事勝利を勝ち取った!!》
実況者の声が響く。
それを聞いて、観客席の人たちは一斉に歓声をあげた。
「やったわトールちゃん! 優勝よ!」
「凄いぞトール! さすが私の弟子だ!」
[トール!トール! 凄い! 凄い!]
師匠たちはトールさんの優勝に喜んでいる。見ると、声には出していないけれど、スイさんもメイドさんも嬉しそうにしていた。
私も嬉しい。凄く。けれど、ふと隣を見ると、仮面の女の子が肩を震わせていた。泣いているみたいだった。
「…ざ、残念だったね。ゼットさん。でも、ゼットさんも強かったよ? 地面から矢が出てくる所とかヒヤヒヤしたし!」
「慰めはよしてくださいませ! あああん! ゼット様が負けちゃったああ!」
うえーん。と、仮面の女の子は声をあげて嗚咽を漏らす。私は眉を下げて、彼女の背中に手を置いた。
謎の仮面ゼットさん。顔を隠していた理由はわからないけれど、たぶん"あの人"だよね…。
《剣聖武闘大会、一般の部優勝はトール選手です! みなさん、トール選手に盛大な拍手を!》
実況者の言葉で、会場内は拍手の音に包まれる。トールさんはそれを見て息を吐き、救護班によって運ばれていく謎の仮面ゼットさんと一緒に控え室に戻っていった。
そして興奮冷めやらぬ状況の中、引き続き"魔法使いの部"の予選が始まる。表彰式は、一般の部と魔法使いの部、子供の部がすべて終了してあとにまとめて行われるそうだ。
「師匠! トールさんの所に行ってもいいですか?」
「ん? …ああ。構わない。一人で行けるか?」
「はい。仮面の女の子も一緒なので大丈夫です!」
「え? 私も行くんですの?」
「謎の仮面ゼットさんのお見舞いしたいでしょ?」
「!」
私の言葉を聞くと、仮面の女の子は肩を震わせる。そして私は女の子の手を引いてその場から走り出し、控え室に向かった。控え室に行くと、そこには救護班に手当てされている謎の仮面ゼットさんが居て、彼のもとに仮面の女の子は駆け寄る。トールさんもその近くに居て、私は彼に近付いて"優勝おめでとうございます"と伝えた。
わー! と観客席が盛り上がっている。魔法使いの部の戦いも白熱しているのだろう。
「ゼット様、大丈夫ですの?」
「ああ。なんとか。…ったく、少しは手加減しいやトールくん! もうちょっとで気い失いそうやったで!」
「あの程度で油断するお前が悪い」
「なんやと!?」
「ト、トールさん…!」
「…はぁ。まぁええわ。とにかく優勝おめでとさんやなトールくん。リハビリ成功万々歳や!」
言って、謎の仮面ゼットさんは立ち上がる。救護班の人に"もう大丈夫だ"と伝えて、仮面の女の子の頭をポンと叩いてから歩き出した。謎の仮面ゼットさんの背中を仮面の女の子は追っていく。
「そんじゃあなトールくん。また表彰式で」
「今回は負けましたけれど、次は負けませんからね! 覚えておきなさい!」
「…たぶん次はないよ、仮面ちゃん」
手をあげて、謎の仮面ゼットさんは仮面の女の子と一緒に控え室から出ていった。それを見てトールさんは息を吐いて肩を落とす。
謎の仮面ゼットさんが言っていたように、これにてトールさんの長いリハビリは終わった。私も息を吐いて、トールさんの方に顔を向ける。
「トールさん、お疲れ様でした」
「…ああ」
控え室に備え付けてあるモニターには、魔法使いの部の戦いの様子が映し出されていた。




