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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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上位貴族 VS 下位貴族 2






 魔法剣を生み出す方法は二通りある。

 一つは、剣の刀身に魔法の力を宿して生み出す方法。もう一つは、専用の魔法陣から直接生み出す方法だ。

 けれど、前者の方法で魔法剣を生み出している人は今まで見たことがない。


「ミーリャ! 頑張れー!」

「そんな下位貴族ケチョンケチョンにしてやれ!」


 剣術の模擬戦闘でも行われていた野次が今回も耳に聞こえてくる。


「ルールは簡単ですわ。先にどちらかの片膝が地面に付くか、それか、先にどちらかの魔法剣を消滅させた方の勝ちです。準備はよろしくて?」

「いつでもどうぞ!」


 両者向かい合って互いに一礼する。魔法陣に手をかざして、私たちは自分たちだけの魔法剣を取り出した。魔法陣から生み出した魔法剣の属性は、ミーリャさんが火で、私は水と光。魔法剣の属性は地水火風光の五つの中から好きな属性を一つから三つ選び、選んだ属性が二つ以上の場合はその属性をペアでくっ付けさせる事が出来る。


 選んだ属性が火と地ならば火と地の両方の魔法の力が魔法剣に宿り、二つの力を重ね合わせた合体魔法や、その魔法の限界値(バースト)をはねあげ、単体で撃つよりもより強力な魔法を魔法剣を介して放つ事が出来る。…まぁ、強力な魔法が使えるかどうかは使ってる本人の魔力量次第なんですけれど。


「私の魔法剣の属性は炎! お熱いのをくれてさしあげますわ!」


 ミーリャさんは自信満々だ。彼女の手にしている炎の魔法剣は、柄、鍔、刀身、全部が炎に包まれていた。炎そのものが剣になってる感じ。柄も炎って、熱くないのだろうか。


 それに比べて、私の魔法剣は刀身のみ水と光で出来ていて、柄と鍔は普通の剣と同じ。ピンと張った水の刀身の中には二本の細長い光の線が浮かんでいて、それが太陽の光に反射してキラキラ光っている。とても綺麗。


「えーと、一体どうしてこんな事になったのかはわかりませんけど。これより、アメリアさん対ミーリャさんによる魔法剣を使用した戦闘演習を行います!」


 私たちの間に立って、先生が言う。

 突然決まった事なのに、即時対応してくれる先生に感謝。


「…アメリア、本当に大丈夫かな?」

「うーん」


 トウマくんの言葉にアイシクルは腕を組んで顎に手を添える。


 ミーリャさんの実力はクラスで二番目と聞かされている。アイシクルのクラスでの平均がわからないから何とも言えないけれど、先程の模擬戦闘の経験から考えると、めちゃくちゃ苦戦するという事はないだろう。


「では、…戦闘開始!」

「先手必勝! こちらから行きますわ!」


 先生の合図で、すぐにミーリャさんは此方に向かって駆けてくる。炎の魔法剣を振りかざし、地面を蹴って飛び上がった。


 ヒールを履いているにもかかわらずよくそんなに動けるものだと感心しながら万が一のための防御魔法を自身に掛ける。水と光の膜を全身に纏い、上空から襲い来るミーリャさんの一撃を受け止めた。


「っ、」


 一撃が重い。


「水の流れよ! アクア!」


 力任せにミーリャさんの魔法剣を弾いて、水の魔法で攻撃する。魔法剣から放たれたそれはミーリャさん目掛けてまっすぐ飛んで行くけれど、炎の魔法剣の一振で一瞬で蒸発し消え去ってしまった。


「その程度の魔法など魔法ではありませんわ! 本物の魔法というのはこういうのを言うのです! …炎よ。竜の渦となりて轟炎となれ! フレイムドラゴン!」


 炎の魔法剣を振り下ろし、刀身全体から炎の渦を生み出す。その炎は勢いよく地面スレスレを這い、私のもとへやって来た。


 水と光の膜で身を纏っているとはいえ、あの炎の攻撃を受けてしまえば無傷とはいかない。私は眉をしかめて光の魔法を放つ。


「光よ。迫る者から我を守れ! ルクトシールド!」


 目の前に光の盾が現れ、勢いよく這い上がってきた炎の渦を間一髪のところで防ぐ。


 本来ならば光の盾は数回程相手の攻撃を防げる有能魔法のはずなのだけれど、一撃が重かったのかそれは一回でヒビ割れて砕けてしまった。


「っ!?」

「さぁ、立て続けに参りますわ!」


 盾が砕けてしまった影響で、足元がよろける。その隙を見逃さずミーリャさんは続けて炎の魔法を二連続で放った。


 二つの炎の魔法が、体勢を立て直す前の私に向かってまっすぐに飛んでくる。膜があるから一撃耐えられるとしても、二撃目でどうなるか。


「っ、…水の流れよ! アクアショット!」

「そんな下級魔法如きで防げるほど私の魔法は甘くありませんわ!」

「きゃあ!?」

「「アメリア!」」


 アイシクルとトウマくんの声が聞こえる。水の球体を放つも、これも蒸発して消えてしまった。


 一撃目の炎が身体にぶつかる。これは膜が防いでくれて痛みはなかった。しかしすぐに二撃目の炎が身体にぶつかり、私は痛みに悲鳴をあげる。地面に膝を付けないように踏ん張り、魔法剣を構え直した。


「っ、は、…はぁ」

「先程の威勢は何処に行ったのかしら? やはり下位貴族は口だけね!」

「…く、」


 前言撤回。

 めちゃくちゃ苦戦してる。


『何をしているの、みっともない』

「!」


 そこで、頭の中から声が聞こえてくる。

 声の主は私の身体から霊体のようにすっと出てきて、口元を尖らせた。


『あんなに大口を叩いておいて何可哀想な事になってるのよ。なんちゃって貴族の意地はどうしたの?』

「こ、これでも頑張ってるんです!」

『頑張ってるって。何処をどう見れば頑張ってるように見えるのよ。はたから見てると滑稽よ、貴女』


 はぁ。と、溜め息を吐いて、声の主…アメリアさんは言う。私の身体から出てきてまで貶さないでください。


『手を貸してあげましょうか?』

「…いりません。帰ってください」

『このままだと貴女負けるわよ。負けたらあれ以上に苛められちゃうかもね』

「……」

『貴女だけじゃなくて、トウマくんも苛められちゃうけれど、それでもいいの?』

「……」


 言われて、トウマくんの方に顔を向ける。彼は心配そうに私を見ていた。

 水の魔法で回復し、彼女の言葉に首を振る。


「…全然よくない」

『だったら、私の手を借りて反撃しましょうよ。 これからの貴女とトウマくんのために。私の力なら、あんな生意気上位女一瞬で蹴散らせるわ』

「でもそれじゃ、"卑怯な手"を使って勝った事になる。それは嫌です」

『卑怯? 何が卑怯なの? 私の力は貴女の力。そこに卑怯も何もないわ。どうせ相手には私は見えないんだし、別にこだわらなくても』

「そういう問題じゃないんです。私は、私一人の力でミーリャさんに勝たないと。そうじゃないと意味ないんです。一方的に"卑怯だ卑怯だ"って言われて、トウマくんも含めて馬鹿にされて、悔しいじゃないですか。卑怯な手は使ってないのに使ったって言われて悲しいじゃないですか。それなのに、負けそうだからって理由でそれを使ってしまったら、一体何のためにここで戦っているのかわからなくなってしまいます」

『……』

「だから、私はこのままで大丈夫です。頑張って、あの人に勝ってみせます」


 言って、私は足元に魔法陣を描く。


 私のその言葉を聞いて、アメリアさんは呆れたような表情を浮かべて再び溜め息を吐いた。


『わかったわ。もう手を貸そうかなんて言わない。…その代わり、一つ教えてあげる』

「?」

『水と光の魔法。合体魔法なんだけれど、それを撃つ事が出来ればもしかしたらあの女に勝てるかもしれないわ』

「え?」

『ヒントは、ルクトとアクアショット。…それじゃ頑張って』


 それだけ言って、アメリアさんは私の身体の中に戻っていく。

 水と光の合体魔法。それさえ撃てればミーリャさんに勝てる…って。


「…?」


 眉をひそめて考える。

 ヒントは、光の魔法ルクトと水の魔法アクアショット?


 ルクトは照らして、アクアショットは攻撃する。


 照らす、攻撃。

 照らす。攻撃。

 攻撃。照らす。


 ………………。


 ……………。



「…あ」


 そうか。

 わかった。


「何を一人でブツブツと喋っているのかしら? 負けそうになってるからって、自棄になった?」

「まさか! ようやく見えたんです! 貴女をボコる道筋が!」

「は…?」


 口元を緩ませて、足元に描いた魔法陣を変更する。アメリアさんから貰ったヒントをもとに、私はそこから光の魔法と水の魔法の呪文を唱え始めた。


「一体何をするつもり? もう何をしたところで貴女の負けは確定しているわ。諦めなさい」

「虚空より生み出された光よ。剣に宿りて顕現せよ。水の力と融合し、その秘めたる力を解き放て」


 水の刀身に光の球を取り込ませる。水の刀身は光の刀身へと姿を変えて、一時的にそれは光の魔法剣となった。光の刀身の周りには水の膜が張り、キィンと小さく音を鳴らして震える。


「この一撃にすべてを込めて、貴女を跪かせてみせます!」

「弱い犬ほどよく吠えますわね。…いいでしょう。だったらこのまま八つ裂きにしてやりますわ!」


 地面を蹴って走り出す。炎の魔法剣と水と光の魔法剣がぶつかり、ミーリャさんと私は互いに最高火力の魔法を魔法剣から放ち、その場を爆風で吹き荒らした。強風並みの風が舞い、アイシクルたちの視界を遮る。風がおさまった時、その場に立っているのは、私か。それともミーリャさんか。


「アメリア!」

「なんだ今の? すげぇ魔力感じたけど?」

「ミーリャのじゃね? 下位貴族にあんなすげぇ魔力出せるわけねぇよ」

「ミーリャ様!」

「おい見ろ!」


 風が、完全におさまる。

 その場に膝を付けていたのは。


「はぁ、…はぁ…」

「っ、…」


 その場に膝を付けていたのは、ミーリャさんだった。ミーリャさんは"信じられない"とでも言うように目を見開いて驚いた表情を浮かべている。


「えっ!?」

「おいマジかよ!?」

「ミーリャが負けてる!?」

「嘘だ! あいつ! また卑怯な手を使って勝ったぞ!」

「ミーリャ様! 立ってください! まだ勝負は終わっていません!」


 クラスの人たちが"わーわー"騒いでいる。

 私たちの様子を見て、先生は手をあげて"勝者は私だ"とみんなに伝えた。


「やった! アメリア!」

「…一時はどうなるかと思った」


 私の勝利にトウマくんは喜び、アイシクルは肩を落とす。


 魔法剣を消して、私は膝を付けたミーリャさんに手を差し伸べた。それを見て、彼女は顔をあげる。


「勝負。ありがとうございました」

「…、」


 口元を緩ませて笑う。


 差し伸べられた手を、ミーリャさんは顔をしかめて払いのけた。立ち上がり、彼女は口を開く。


「冗談ではありませんわ! こんな勝負は認められません! 私が貴女如きに負けるなんて、あってはなりませんわ!」

「……、」

「貴女はまた"卑怯な手"を使って私に勝った! そうです! きっとまた貴女はそうやって勝ったに決まっていますわ! そうでなくてはいけませんわ! そうでなくては…っ」

「ミーリャさん、」


 ミーリャさんは歯を食い縛り、怒りの表情を浮かべる。クラスの人たちが騒いでいる中、アイシクルとトウマくんが私のもとに近付いてきた。私を守るようにアイシクルが前に立つ。


「ミーリャ! いい加減にしろ! これでわかったろ! アメリアは実力でお前に勝った!」

「…実力? あれが実力ですって? とんだお笑い草ですわ! 私はミーリャ・オーシャンド! 後に"最高貴族"へとなりうるオーシャンド家の一人娘ですのよ!? そんな私が、こんな下位貴族の女なんかに負けるなんてあってはなりませんわ! アイシクル様の婚約者だって! どうしてこんな女なんかにその座を奪われなければならないの!? こんなのおかしいですわ!!」


 ミーリャさんは叫ぶ。

 荒ぶる彼女を止めようと先生が慌てて声を掛けるも、彼女は止まらなかった。


「悔しいですわ! 悔しい! 悔しい! 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!」


 頭を抱えてうずくまるミーリャさん。

 そんな彼女の様子を、私はアイシクルの後ろから眉を下げて見つめていた。その時、一瞬だけ彼女の身体を黒い靄っぽいものが包み込む。


「許しませんわ。絶対に。許しませんわ。貴女だけは。許しませんわ。何もかも。許しませんわ。絶対に。絶対に絶対に絶対に絶対に!」


 ひとしきり叫んだあと、ミーリャさんは糸が切れたように倒れた。倒れたミーリャさんを先生が抱き起こし、彼女を心配してクラスの人たちも近付いてくる。


「ミーリャ!」


 保健室に連れていって休ませる。そう言って、先生は彼女を連れて学校の中へと戻っていった。クラスの人たちは、一斉に私たちの方へ顔を向ける。その表情は怒りに満ちていたけれど、しかし彼らは一言も言葉を紡がずにその場から離れていった。


「…なんだか、勝ったのに勝った気がしないな」


 自分たちから離れていくクラスメイトたちを見つめて、アイシクルは言う。結局、勝ったところで"卑怯"という言葉を払拭する事は出来なかったと私は眉を下げて小さく息を吐いた。見ると、トウマくんはクラスの人たちの方をじっと見つめている。なんだか険しい表情。


「…トウマくん?」

「! ……な、何?」

「ううん。…難しい顔してどうかしたのかなって」

「…、いや。なんでもない。ただ、ちょっとおかしなものが見えて」

「「?」」


 トウマくんの言葉に、私とアイシクルは頭の上に"?"を浮かべて顔を見合わせる。


 たぶん気のせい。トウマくんは顎に手を添えて、そう言った。



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