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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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怪奇! パンプキンさん! ※トウマ視点





[めぇ~]

「…」


 寮から出て学校へ行く。その途中で俺は小さな黒山羊と出会った。目の前に佇んでいる黒山羊はじっと俺の顔を見つめたあと、自身の足元に生えている草を食べ始める。


 見ると、黒山羊の頭に生えた二本の角の片方にはぴったりと腕輪みたいなのが嵌まっていて、そこに埋め込まれている宝石は数秒感覚で青白く光を放っていた。


[めぇ~]


 草をむしゃむしゃと夢中で食べる黒山羊。首輪をしているから、野生というわけではなさそうだ。


「……、」


 恐る恐る、頭に触れてみる。

 ふわふわしていて、とても触り心地が良かった。


[めぇ~]

「…お前、どこから来たんだ?」


 目線を合わせて、草を食べ続ける黒山羊に話し掛ける。


 言葉なんて通じないのはわかっている。しかしもしかたらこの黒山羊は迷子なのかもしれないから、見つけてしまったからには飼い主のところに連れていってあげないと。


「学校までは、…まだ時間はあるか」


 立ち上がって、端末の時計を見る。

 まだまだ時間はありそうだ。


「飼い主のとこに連れてってやるからな」

[めぇ~]


 もう一度、目線を合わせて黒山羊の身体に触れる。口元を緩ませて笑うと、黒山羊は顔を上げて小さく鳴いた。するとそこで突然視界が暗くなる。それと同時に背後から声が聞こえてきた。とても低い声だ。


[君がトウマくんだね…?]

「っ、!」


 ビクッと肩を震わせて、ゆっくりと顔を声の方に向ける。そこに居たのは大きな男?の人だった。その人はハロウィンの時期によく現れる穴の開いたかぼちゃを被っていて、その下にマントを羽織っている。見るからに怪しい人物だ。


「あ、あなたは…、っ!?」

[君の未来を教えよう]


 頭の上に"?"を浮かべて聞いてみるも、かぼちゃ頭は聞く耳を持たず俺の言葉を遮るように食い気味に顔を近付けてくる。あと少しで顔と顔がぶつかってしまいそうな距離で、かぼちゃ頭はもう一度"君の未来を教えよう"と言ってきた。俺の、未来?


「…な、何を言ってるのかわかんないんだけど」

[君の未来を教えよう]

「……」


 同じ事しか言わないかぼちゃ頭。

 視界いっぱいに広がるオレンジを見ていると、だんだんと怖くなってきた。


[君の未来を教えよう]

「あ、え、えと…そ、そういうのは、ま、間に合ってますんで」


 いつまでもここに居るのはマズイ。そう思った俺は、かぼちゃ頭から視線を逸らさずに後退りし、隙を見て一気に黒山羊を抱き上げて走り出した。


 抱き上げた黒山羊が、"めぇ~"と呑気に鳴き続ける。しばらく走ったところで後ろを振り向けば、かぼちゃ頭はその場にじっと佇んでいて追い掛けてくる事はなかった。



+


「…それって、パンプキンさんじゃね?」


 学校に到着して黒山羊を一時的に先生に預かって貰い、俺はその足で教室へと向かう。朝のホームルーム。午前の授業が終わって昼食の時間。俺はその時間を利用して先程の出来事をみんな(アメリア、アンジェラ、サンゼル、アストル)に話した。最後まで話せば、サンゼルの隣に座ってパンを食べていたアストルが口を開く。


「パンプキンさん?」

「学校に伝わってる七不思議の一つだよ。朝、学校に行く途中に突然目の前に現れて"君の未来を教えよう"ってめっちゃしつこく言ってくるかぼちゃのお化けがいるんだ」

「そんなのが居るのか?」

「この学校の生徒で知らない奴なんか居ねぇよ」

「パンプキンさんに出会ってしまったら最後。未来を教えて貰うまではいつまでもいつまでも追い掛けてきて、未来を聞かないとぶちギレられて殺されるって話だ」


 逃げたのは間違いだったな。と、アストルは言う。ぶちギレられて殺されるって。どんだけ未来教えたいんだよパンプキンさん。アストルの話を聞いて、口元を引きつらせながらパンを一口かじる。


 見ると、アメリアがアンジェラの腕にくっついて怯えていた。どうやらパンプキンさんの話は彼女にとっては怖い話のようだ。


「気をつけろよトウマ。パンプキンさんはいつでも何処に居てもやって来るからな」

「…、ご忠告どうも」


 パンプキンさんは、その人の都合などお構い無しで突然やって来る。いつまでもいつまでも追い掛け回し、未来を聞いてやらないと怒らせてしまって殺されてしまう。要は、次にパンプキンさんに出会った時は大人しく未来を聞けばいいって事だよな。あの時は恐怖が勝ってしまって逃げてしまったけど、話を聞いたらあまり怖さは無くなってきたので今度は大丈夫だ。


 パンプキンさんが現れたら逃げずに話を聞いてあげよう。そう思って、俺は一人頷いた。しかし。


+


「はぁ、…っ、はぁ」


 教室の壊れた壁から外に出て、全速力で走る。振り向くと、パンプキンさんが物凄いスピードで追い掛けてきていた。何処に逃げようかと迷いながら適当に足を動かす。とりあえず、みんなの安全を考えて誰も居なそうな場所に移動しないと。


「トウマ! そいつ聞いてた話のパンプキンさんと違う! 気を付けろ!」


 教室からアストルが叫ぶ。

 魔法で速度を落とさせようとするが、パンプキンさんには通用しなかった。炎も水も、地も風も、俺が覚えている全部の魔法がその身体…というか顔面で弾き返されてしまって、もう手の打ちようがない。


 こんなみんなが居るところで時の魔法は使えないし、一体どうしたらいいんだ。



+


 パンプキンさんに追い掛け回される羽目になったのは今からちょうど一時間前。昼食の時間を終えて、午後の授業に入った時。先生が黒板に"精霊は一体どうやって生まれるのか"という議題を書いていると、窓側に座っていたクラスメイトの一人が外で怪しく動く黒い影を見つけた。その怪しい影が、かぼちゃ頭とマントを羽織ったパンプキンさんであるとわかった時にはもう時既に遅し。パンプキンさんは俺たちの教室めがけて突撃してきて、教室の壁を破壊した。


 パンプキンさんが現れた事で教室中は大パニックに陥り、先生の指示のもとクラスメイトたちは廊下へ避難。が、俺はその場から動かなかった。…いや、動けなかったと言った方がいいのか。パンプキンさんが魔法を使って俺の身体を拘束していたから動けなかったんだ。身体を拘束されて動けずにいる俺のもとに近付いて、今朝と同じように"君の未来を教えよう"と言ってくるパンプキンさん。その目は赤く光っていた。これはヤバい。そう思った俺は無理矢理魔法で拘束を解いて、その場から逃げ出した。自爆して、自分とパンプキンさんに同等のダメージを与えたんだ。ローデンさんに教わった最終手段だが、人にはお薦め出来ない。凄く痛いから。


 そして、それから一時間。

 パンプキンさんと俺の鬼ごっこが続いているのである。



+


「はぁ、…は、…」

[君の未来を教えよう]

「しつこいな、もう…っ!」


 アストルの言う通り、パンプキンさんはどこまでも追い掛けてくる。


 走る先には学校の塀。塀の奥には森が続いていて、俺は地の魔法でそこを登る。塀の一番上に足を付けて振り向くと、パンプキンさんがすぐ下に居た。じっと俺を見つめている。目はまだ赤い。


[君の未来を教えよう]

「……」


 次にパンプキンさんに出会ったら大人しく未来を教えて貰うっていう決意はどうしたんだ。っていうくらいに俺は今パンプキンさんから逃げ回ってる。恐怖を感じたからとかではない。


 たぶん、本能でこうしているんだと思う。俺の意思とは関係なく、本能がパンプキンさんから逃げろと指示してきているんだ。それくらいにパンプキンさんという人物はヤバい人物なのかも。


[き、ききききき]

「?」

[ききききき君のののののみみみみ未来をををををおおおお教えよよよよよよううううう]

「!?」


 塀に登ったのはいいけど次はどうしようかと考えて、キョロキョロと辺りを見渡す。その時、下に居たパンプキンさんの様子が変わった。


 かぼちゃの頭をぶるぶると震わせて、ギシギシと音を鳴らして身体を回転させる。あり得ない動きで形を変えた身体からは羽織っているマントを引きちぎるようにして細長い白い脚が四本出てきた。二足から四足歩行へと移動方法も変えて、パンプキンさんはそのまま塀を登ってくる。それを見て俺は目を見開き、慌てて塀を降りて塀に沿って走り出した。パンプキンさんもその変化した姿のままついてくる。


[き、きき君のののみ、み未来を、おお教えよう]

「な、なんなんだよあれ!?」


 パンプキンさんってあんなんなの!?

 思いながら、俺は再び塀を登り学校へと戻る。しかし塀を乗り越えた直後、パンプキンさんは塀を壊して入ってきて、その衝撃で俺は地面に倒れてしまった。


 走り続けて疲労が溜まっているのか、思うように上手く立ち上がれない。いつものパンプキンさんの声を聞いて振り向けば、いつの間にか目と鼻の先にパンプキンさんの顔があった。


[き、君の未来を、おおし教えよう]

「……」


 視界いっぱいに、再びオレンジ。

 なんかシューシュー言ってる。

 …超怖い。


「トウマくん!」


 遠くからアメリアの声が聞こえる。パンプキンさんの目が赤から緑に変わった。すると。


[…4つの]

「?」

[4つの運命を突破されし時、4つの魂は終焉へと向かう。…それは世界の終焉を意味し、やがて破滅へと導かれる。それを止めるは1つの運命。唱えるカードは"希望"]

「…、」


 パンプキンさんは言う。

 言うと、パンプキンさんはマントの中から脚とは違う細長い手を伸ばして、四枚のカードを俺に渡した。


「カード…?」


 渡されたカードを見つめて首を傾げる。四枚のカードにはそれぞれ不思議な模様の魔法陣が描かれていた。


 未来を教えて満足したのか、パンプキンさんの姿が消える。目の前ですっと煙のように消えていったパンプキンさんを見て、俺は肩の力を抜いて溜め息を吐いた。助かった。


「おーい、トウマー!」


 パンプキンさんが消えたのを確認すると、アメリア、アンジェラ、サンゼル、アストルが近付いてきて俺を起こしてくれる。


「大丈夫ですか、トウマさん?」

「…しばらくはかぼちゃ食えないかもしれない」

「お前じゃなくても俺らのクラスは全員もれなくしばらくかぼちゃ食えんよ」


 トラウマ確定だもの。

 サンゼルの言葉に、アメリアたちは強く頷く。


「お前たち! 無事か!」

「あ、先生!」

[めぇ~]

「うわっ、黒山羊!?」


 今夜は夢にパンプキンさんが出てくるかもしれない。そう思いながは眉を下げて再び溜め息を吐くと、先生が教室方面から走ってきた。俺の傍にはいつの間にか黒山羊の姿があって、俺の持つカードに興味があるのか口元を動かしていて食べようとしている。


「トウマ、怪我はないか?」

「…はい。なんとか」

「そうか。良かった。…それにしても何だったんだあれは?」

「あれはパンプキンさんです、先生」

「パンプキンさん? パンプキンさんって、あの?」

「はい。そのパンプキンさんです」


 先生に、どうして俺がパンプキンさんに追い掛け回される事になったのかを説明すると、それを聞いた先生は俺の肩に手を置いて"ご苦労様だったな"と眉を下げる。うん。本当にご苦労様だよ。


 この話をローデンさんたちにしたら、どんな反応を返してくれるだろうか。話す機会は無さそうだけど。


[めぇ~]

「…」


 黒山羊の頭を撫でて、三度溜め息を吐く。

 そして次の日。パンプキンさん事件の影響で、俺たちの教室は改修が終わるまでしばらくの間使用禁止となった。



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