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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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魔法使用OK! 全力鬼ごっこ!2 ※アイシクル視点





 鬼ごっこは続く。

 あれから3時間が経過していた。


 現在、俺たちは商店街を離れて平民街の旧水道跡地にある大きな半球型の溝の中に身を隠している。元々、川が流れていたらしいこの場所は数年前までは平民街に住んでいる人たちの生命線として活躍していたそうだ。


「…なんとか見付からずに済んだかな?」

「…、」


 声を漏らして空を見上げる。空では、メイドさんがまるでスーパーヒーローのように建物と建物の間を飛び回って移動していた。


 まさか空からも捜索されているとは思っていなかったから、見つけた時には驚いた。空から見つけられないようにと慌ててアメリアの手を引いて隠れられる場所はないかとノープランでここまで来たけれど、なんとか隠れられる場所が見つかって良かった。


「アメリア、大丈夫?」

「…うん」


 声を掛けると、俺の顔を見てアメリアは頷く。ここまでの経緯を話すと、俺は鬼ごっこが開始されてすぐの時、広場にてラーフェイさんに捕まりそうになった。魔法を使って彼女を撹乱して商店街まで逃げ、そしてそこの路地裏で偶然アメリアを見つけた。


 誰かと話していたらしいアメリアだったけれど、本人曰く"なんでもない"と言っていたので特に気にするような事でもないのかもしれないが、なんでもないと言っていた彼女の表情はとてもじゃないけれどなんでもないと言えるような表情はしていなかったので、俺は予定を変更して今も彼女と一緒に居た。あんなに怯えた表情を浮かべた彼女を放ってはおけないし、それにもしそんな彼女を一人にしておいたらすぐに捕まってしまって兄さんに怒られてしまうかもしれないと思ったからだ。


「…ステルスの魔法を覚えておいて良かった」


 ふぅ。と、息を吐く。

 光の魔法"ステルス"。一時的に自分の姿を周りから見えなくするという補助魔法で、効果はそんなに長くは保てないけれどとても便利な魔法だ。


「アイシクル、これからどうするの?」

「そうだな…。いつまでもここには居られないし。スイさんたちを捜すのもいいけど、迂闊に動いたらメイドさんに見つかっちゃうかも」


 このままだと"鬼ごっこ"ではなく"かくれんぼ"だ。なんとかしてメイドさんが見ていない隙にここから逃げなければ。ほんと、空からの捜索なんて卑怯でしかないんだけど…。


「メイドさん、私たちに気付いてるのかな? ずっと上を飛び回ってるけど」

「さあ。でも、感知はしてるんじゃないかな? そうじゃなかったらこんな所にいつまでも留まってないだろうし…」

「ステルスを掛けたまま動けないの?」

「くっついたまま動いて欲しいんならそうするけど。それだと動きづらいでしょ」


 ステルスの魔法は一人で使うならとても便利な魔法だ。けれども、これを二人や三人で同時に使おうとすると話は別。一緒に隠れたい場合は、一緒に隠れたい人が術者の身体にぴったりくっつかなければならないからだ。魔法のレベルが上がればくっつかなくても手を繋ぐだけでいいらしいのだが、俺の光魔法のレベルはまだまだ初期段階でまだまだその域には達していない。


 だから今は、アメリアと俺はぴったりと身体をくっつけている状態で、もしここで身体を離して移動してしまうとアメリアだけステルスの魔法が解けてメイドさんから丸見えになってしまうというリスクがある。そんな危険な事出来るわけがない。


「じゃあどうするの?」

「それを今考えてるんだ」


 眉を下げて、うーんと考える。

 メイドさんの気を引く方法、何かないだろうか。


「…?」


 するとそこで、空を飛び回っているメイドさんに変化が起こった。旧水道跡地から離れていったんだ。飛んでいった方向にあるのは平民街。もしかして、スイさんが見つかった…?


「メイドさん、何処行ったんだろう?」

「…今のうちに移動しよう」


 メイドさんが離れていってくれたおかげで、やっと動く事が出来る。ステルスを解除して、俺はアメリアの手を引いてここから離れた。メイドさんが平民街へ向かったとすると、俺たちは反対側にある広場へ逃げれば少しは安全かもしれない。



+



 旧水道跡地から広場までは、走れば約30分で辿り着く。噴水のある場所まで走ってきて、息を整えながら辺りを見渡した。

 あれから何時間も経っているのに人がまったく減っていない。人通りがいいのは良い事だ。ラーフェイさんも近くには居ないみたい。


「どうやらここには誰も居ないみたいだな」

「はぁ。もう足がパンパンで走れないよ…」

「ベンチがあるから、少しだけ休もう」


 噴水の傍のベンチに座る。

 ふう。と、息を吐いてアメリアは両足を交互に叩き始めた。


「こんなに走ったのは久し振りだよ」

「…ごほっ」

「! …大丈夫?」

「あ、…うん。平気。ちょっと魔法の使いすぎかな」


 咳をしてしまったからアメリアに心配されてしまった。眉を下げて此方を見る彼女に俺は慌てて首を振る。そういえば、アメリアにはまだ言ってなかった。今なら時間がある。かくかくしかじかと俺はアメリアに話した。


「…眼鏡?」

「うん。何でかはまだわかんないけど、この眼鏡を掛けてるとさ、不思議と体調の変化が起こりにくくなったんだ。この眼鏡には、前にも言ったように魔力が抑制される魔法が掛かってるみたいだから、たぶんそれが関係してるんだと思うんだけど」


 こればっかりはエーデリアさんに直接聞いてみないとわからない。


「そうなんだ。…じゃあ、もうアイシクルは大丈夫って事?」

「眼鏡を掛けてる間はね。外しちゃうといつも通りだけど」

「そっか。…よかった」


 俺の話を聞いて、アメリアはホッと胸を撫で下ろして笑みを浮かべる。それを見て俺は顔を赤くし、誤魔化すようにそっぽを向いた。すると、顔を向けた先からものすごいスピードで何かが此方にやって来る。


 それがコロタマだとわかったのは、コロタマが俺の胸に全力でぶつかってきてからだった。違う意味で咳が盛大に出る。


「アイシクル!?」

[アイシクル! アイシクル! アメリア! アメリア! 見つけた! 見つけた!]

「ごっほ、…っ、こ、コロタマ? ごほっ」


 背もたれに背中を預けて、胸に手を置く。咳が止まらない。

 コロタマは俺の足の上で飛び跳ねていた。そこで飛ばないで欲しい、痛いから。


「コロタマ一人なの? スイさんは?」

[スイ捕まった! 捕まった! エーデリアと加勢に来たメイドに捕まった! スイ、僕逃がしてくれた。悲しい。悲しい]


 うえーん。と、コロタマは目を罰印に変えて泣き始める。泣く、と言っても声だけだが。

 アメリアはコロタマを抱き上げて眉を下げる。やっぱり、メイドさんはスイさんを捕まえに行ったのか。スイさんが捕まったとなると、エーデリアさんもメイドさんもラーフェイさんもみんな此方に来るな。


「アイシクル」

「ごほっ、どうやら休憩はここまでみたいだね。ごほっ」

[アイシクル。咳。咳。大丈夫?]

「大丈夫。少ししたら落ち着くから」


 一体誰のせいでこうなったと思っているのか。


[ピッ!?]

「? コロタマ?」

[接近注意。接近注意!]

「え、まさかもう誰か来たのか!?」


 コロタマの言葉を聞いて、俺は立ち上がり辺りを見渡す。しかし何処にもあの三人の姿はなかった。


 アメリアの腕の中で、コロタマは震えている。


[気を付けて。気を付けて]

「気を付けてって言われても…」


 せめて、誰が近付いてきているのかを教えて欲しい。


 首を動かして辺りを見渡し、そこに怪しい人物は居ないか捜す。怪しい人物ってそう簡単には見つからないよね。明らかに怪しい服装をしていたなら話は別だけど。


[前方! 前方! アイシクル!前方!]

「前方?」


 コロタマの指示で顔を前に向ける。そこには、人が忙しく動いている中で俺たちの事をじっと見つめている誰かが居た。


 それは、赤い髪の男性だった。俺の視線に気付いて、男性は此方に向かって歩いてくる。アメリアも彼の方に顔を向けて立ち上がった。


「!?」

「アメリア?」


 目を見開いて、俺の背後に隠れる。


「やあ。こんにちは」

「…こん、にちは」


 目の前までやって来ると、男性は笑顔を浮かべて話し掛けてきた。赤い髪の男性。前髪の右端部分が少しだけ青くグラデーションがかかっていて、首筋には剣で斬られたような傷痕があった。


「アイシクルくん、だよね?」

「え?」


 目線を合わせて男性は言う。

 きょとん。として、俺は頭の上に"?"を浮かべた。


「何で俺の名前を…?」

「あ。そんな警戒しないでくれ。俺はただ確かめたいだけなんだ」


 眉をひそめて睨み付けると、男性は慌てて手を振りながらそう答えた。


「確かめるって…。お兄さん、誰?」

「え? あ、ああ。ごめん。まずは名前だよね。…俺はブレイズって言うんだ。よろしくね」

「……」


 そう言って、男性…ブレイズさんは笑う。


 すると、アメリアの腕からぴょんと降りてコロタマがブレイズさんの足に体当たりをするようにぶつかった。


[体当たり! 体当たり!]

「痛っ、痛い! …えっと、この子は?」

「コロタマ!」

[成敗! 成敗!]


 体当たりを止めないコロタマ。それを見て俺は慌ててコロタマを抱き上げた。ブレイズさんの足は今、青くなっている事だろう。


[せいばいーーー!]

「落ち着いてコロタマ」

「…はは。面白いロボットだね。君のなのか?」

「あ、いえ。俺のじゃ…。知り合いのです」

「知り合いの? へぇ。俺、ロボット好きだから持ってるの羨ましいよ。こういうのって結構値段が高いからなかなか買えないんだよな」


 コロタマをまじまじと見つめて、ブレイズさんは言う。ふるふると震えて、コロタマはブレイズさんを睨み付けていた。


「それと、」

「!」

「君はさっき会ったよね。さっきは本当にごめんね」

「……、」


 ブレイズさんは、アメリアの方に顔を向ける。俺の腕を強く掴んで、アメリアは怯えた表情を浮かべていた。それを見て、ブレイズさんは眉を下げる。


「どうやら、嫌われちゃってるみたいだね。…まぁ、仕方ないかな」


 はは、と笑って頬を掻く。


「その様子だと"まだ"手は届いてないみたいだね。安心した」

「?」


 まだ…?


「でも、油断は出来ない。少し保険を掛けさせてもらうね」

「!」


 そう言って、ブレイズさんは手を伸ばして俺の額に手を置く。何をするのかと見ていると、なんだか少しずつ額が熱くなってきて胸の中にストンと暖かい何かが落ちてきた。…ような気がした。


 額から手を離して、ブレイズさんは息を吐く。


「これでいい」

「……?」

「それじゃあ俺はこれで失礼するよ。そこの二人が怯えまくってるからね」

「[………]」


 そして、ブレイズさんは俺たちに背を向けて歩き出す。しかしその途中で何か言い忘れたのか彼は顔だけを此方に向けた。


 口は開いているけども声は聞こえない。首を傾げて頭の上に"?"を浮かべていると、突然頭の中にブレイズさんの声が響いてきた。吃驚して目を見開く。


『近いうちにまた会おうね』


 それだけを残して、声は聞こえなくなった。人混みに紛れてブレイズさんの姿は消えていく。


「…、」


 なんだかよくわからない人だったな。"近いうちにまた会おう"って言ってたから、また会えるんだと思うけど…。


[ピ!? 接近注意! 接近注意!]


 その時、コロタマが再び叫び出す。上。という言葉で空を見上げると、遥か頭上からメイドさんが猛スピードで此方に落ちてくるのが見えた。それ以外にも、人混みからエーデリアさんとラーフェイさんも此方に向かって走ってきているとの情報で、どうやら彼女たちは挟み撃ち戦法を取ってきているらしく逃げ場は何処にもなさそうだった。ステルスも意味はないだろう。


 鬼ごっこ開始からもうすぐ4時間。俺たちにしては頑張った方かもしれない。そう思った直後、メイドさんが大きな音を立てて俺たちの傍に着地した。



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