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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第5章「学校生活と剣術の師」
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炎の柱にて ※ローデン視点





 炎の柱攻略。

 水、風、地の柱を三人で同時に攻略し終え、残りは炎の柱を攻略するのみとなった。炎の柱は一人で攻略するには荷が重すぎるとの話し合いで、最後に残して三人一緒に攻略しようと決めていた。


 そして、炎の柱の目の前。コンクリートで出来た壁に手を触れ、わいらは互いに顔を見合わせる。本来ならば、柱の中に入るためには専用の腕輪が必要なのだが、そんな物わいらは持っていないので時の魔法を使っての強引の侵入になる。それを使用するのは主様だ。侵入の魔法は"わいらが使うのは"ご法度とされているからである。


『準備はいいかい?』

「いつでも」


 主の言葉に応える。

 覚悟を決めてそう言うと、わいらの足元に魔法陣を描いて、主は魔法の詠唱を始めた。魔法陣から放たれる光がわいらを包み込む。


『君たちの無事を祈る。時の加護を我らに』


 時の加護を我らに。

 前に、トールくんが言っていた言葉。わいらの合言葉みたいなもので、"頑張りましょう!" 的な意味を持つ。元々こっちの世界にある"精霊の加護がありますように"という言葉を少しだけもじったものなんだと主は言っていた。


 そして、炎の柱に侵入する。光が眩しくて一瞬だけ目を閉じ、次に開いた時にはもうそこは柱の中だった。



+


「…え?」


 炎の柱に侵入成功。

 目を開けたらそこは炎の柱の中らしく炎に関連したギミックやトラップがいっぱい。…だと、そう予想していたんだけどどうやらそれは全然違っていたらしい。


 目を開けるとそこは一面真っ黒だった。きょとんとして辺りを見渡す。何もない黒一色の空間。何も見えない。リィたちの姿も見えなかった。


「くっら。なんやここ?…リィ! トールくん! そこに居る!? 居たら返事求む!」

「大きな声を出すな。ここに居る」

「あ! トールくん! そこにおったんやな! よかった! って事はリィもそこに?」

「ああ。ローデンも居るみたいで安心した。…それにしても、ここは柱の中だよな? 暗くて何も見えない」


 何も見えなくて姿も見えない。こんな状態では歩くわけにもいかないので状況も何も確かめられない。主との連絡も柱の中では取る事は出来ず、来て早々何も出来なくなってしまった。


「光よ照らせ。ルクト」


 リィが光の魔法で周囲を照らす。光のおかげでわいらの姿は見えるようになったけれど、辺りの景色は変わらず真っ黒のままだった。どこまでも続く黒。なんだか気分が滅入ってくる。


「うわあ、向こうまで真っ黒。どうする? 進む?」

「うーん。いつまでもここで立ち往生してるわけにもいかないしな」

「目指す先があれば進めるだろう」

「? 何するん?」

「道を作る」


 言って、トールくんは足元に魔法陣を描いて呪文を唱える。トールくんが唱えたのは、時の魔法の一つ"(しるべ)"だった。


 俺たちの足元から青白い光が真っ直ぐ伸びる。どこまでも続く黒の空間に、一本線の青白い光が付け足された。


「これがあれば先に進めるだろう。目的地に到着するかどうかはわからないがな」

「なるほど。ないよりはマシって事やな」


 考えたなトールくん。

 肩を叩いて褒めると、トールくんら息を吐いて歩き始めた。



+


 青白い光を頼りに前に進む。

 進めど進めど真っ黒なのは変わらなかった。

 小さく聞こえる足音だけが耳に入ってくる。周りに何もないのがこうも続くとなんだか頭がおかしくなってきそうだ。


「ほんまなんもないな。ここほんまに炎の柱ん中なん?」

「そのはずだけど、…」

「……」


 辺りを見渡しながら口を開く。

 標は、まだまだ奥まで続いていた。


+


「…ん」


 すると、そこで足元に何かがぶつかる。何だ? と思いながら足を止めて顔を向けると、そこにあったのは赤い液体を流して横たわる"何か"だった。

 それが"人間の身体"だとわかった時、わいはぎょっと目を見開いて後ずさる。いつの間にか標が消えていて、リィたちもそこから居なくなっていた。


「っ、」


 血を流して横たわっている人間の身体。うつ伏せになって倒れていたのは、茶色の髪の女だった。長い髪の隙間から覗くピンク色のカーディガンには腹部付近にべっとりと血が付着していて、そこから止めどなく溢れ出る血が俺の足元を少しずつ濡らす。わいは、この倒れた女に見覚えがあった。忘れるわけがない。


「!」


 気配を感じて、ハッと顔を上げる。そこには一人の少年が居た。少年は、じっと俺を見つめている。


 その少年にも見覚えがあった。見覚え…と言っていいのかはわからないが。


『…………』


 すると、少年は走り出す。

 背を向けて逃げるように走っていくその少年を、逃がしてはいけないと、わいは慌てて追い掛けた。


 暗い道を、標もなしにただひたすら少年の背中を追い掛けて走る。しばらくして見えてきたのは扉だった。扉の中に少年が幽霊みたいに入っていく。扉の前で足を止めて、息を整える。開けるかどうかなんて迷っている場合ではなかった。扉を開くと、そこには銃を持って怯えた表情を浮かべている少年が立っていた。


『…、』


 カタカタと銃を持つ手が震えている。

 近付けない。近付いてはいけない。近付いたら、思い出してしまう。あの日の事を。思い出してしまう。


『…俺が殺した』

「!」


 ポツリと少年が声を漏らす。


『…俺が殺したんだ。みんなを、母さんを。俺が…殺したんだ』

『俺が殺したんだ。村のみんなを。一人残らず…。俺の、この銃で』

「…っ、」

『殺したんだ! 俺は! 俺の意志で! 俺の銃で! みんなを! …母さんを、この手で殺した…っ』

「違う! わいは、…俺は殺してなんていない!」


 少年の声を聞いて叫ぶ。

 少年は泣き崩れて、その場に踞った。


 眉をしかめてその様子を見つめていると、そこでわいの身体をすり抜けるようにして誰かが目の前に現れた。後ろ姿しかわからないが、それは白髪の男だった。男は泣き崩れている少年に近付く。


『君…! 大丈夫かい!?』

『っ、…ぐす』

『ああ、可哀想に。もう大丈夫だからな』


 男は少年を立ち上がらせる。

 男の顔は見えなかった。


『生き残っている者が居てくれて良かった。…さぁ、外に出よう』

『……』


 男は少年に笑いかける。

 少年は男を見つめていた。


 …あれ。

 このあと、どうなったんだっけ。


『…、せ』

『?』

『殺せ。何もかも』

『っ!?』

「っ、…」


 男は少年の背中を叩いて、一緒に歩き出す。しかし少年はその場を動こうとはしなかった。


 少年は小さな声でポツリと呟き、持っていた銃の引き金を引いて男の背中を撃つ。ドンと大きな音と共に男は血を流して倒れた。それを見て俺は目を見開く。


『……何もかも殺す。何もかも。…邪魔をする奴はみんな殺す』

「…、違う」


 ポツリと呟く。

 違う。

 これは違う。

 俺は、"この人は"殺していない。


 これは違う。

 これは違う。

 これは違う。


 俺は、殺してなんかない。


 これは違う。

 これは違う。


 これは…っ


『違わないよ』

「!?」


 少年の声が近い。

 いつの間にか、少年は目の前に立っていた。


『違わない。これはすべて現実で起こったんだ。これはすべて君がやった事だよ。ローデン・ズィーバーグ』

『これはすべて君のせいで起きたんだ』

『これはすべて君の浅はかな行動のせいで起きたんだ』

『これはすべて君が君の母親の忠告を聞かなかったために起きた出来事なんだ』

『ここに居る奴らは全員、君が殺したんだよ』

「…っ、!?」


 いつの間にか、少年と俺の周りには人間の身体が無数に横たわっていた。血を流して横たわるそれらを見て、呼吸が荒くなる。


 違う。違う。

 俺は、俺はこんな事……。


「…違う」

『友達も、母さんも、仲良くしていた村の人たちも。みんな君の浅はかさのせいで死を選ばされた。俺を助けに来た男の人も。死を選ばされた』

「やめろ……!」

『これは君の願いでもあったんだよ。"あれ"はそんな君の願いを叶えたんだ。嬉しかっただろう? 心の奥底で願っていた事が現実になったんだ』

「やめろ!」

『認めちゃいなよ。これは、この惨劇は君が、君が自ら望んでやった出来事なんだって。…そうやって、いつまでも否定し続けてないで、目を背けていないでさ。その身体を、もう一度"あれ"でいっぱいにしようよ。そうすれば』

「やめろ!!」



+



「ローデン!」

「っ、」


 少年の声ではない誰かの声が聞こえて、ハッとする。

 見ると、眉をひそめてわいを見つめるリィがそこに居た。


「…あれ、?」

「大丈夫か?」

「リィ? …わいは、」

「お前は幻覚を見させられていたんだ。あいつのせいでな」


 トールくんが言う。

 辺りを見渡せば、あの少年も、血を流して横たわる人間たちの姿も俺の周りから消えていた。


「…?」


 トールくんの言葉を聞いて顔を向ける。

 そこには黒いぷよぷよしたヒト型スライムが一匹、青白い標の上に立っていた。


「…あれは?」

「さあな」


 黒いスライムは、ぷよぷよと動き続けて次第にその姿を変える。その変化した姿は、赤く燃えるような髪の色をしていて同じく燃えるような赤い色の衣装を身に纏っていた。


 見覚えのある姿になったそいつは口元を緩ませて不気味に笑いながら、じっと静かにわいらを見つめていた。



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