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そうだ、学校へ行こう ※トウマ視点





「トウマくん! 学校に通ってみる気はないかい!?」


 バンッと、小屋の扉が勢いよく開かれる。時の魔法の練習をしていた俺は、その大きな音と声に驚いてビクッと肩を震わせた。


 そのせいで集中力が途切れ、手と手の間でふわふわと浮かんでいたピーロボの動きが荒ぶり、突然ものすごいスピードで回転を始める。


[アワワワ! クルクルクルクルクルクルクルクル!]

「わああ! ピ、ピーロボ! え、えと、ええっ!? あと、ど、どうすればいいんだこれ!?」

[ワワワワワワ! トメテトメテトメテトメテ!]

「ロ、ローデンさん助けてください!」

「…なんや。魔法の練習してたんかい。ちょいと待っとれ」


 あたふたしている俺とピーロボのもとに近づいてくるローデンさん。ピーロボを見つめ、タイミングを見計らい、素早い動きでひょいと片手でピーロボを掴んだ。


 高速回転で目を回したようで、ピーロボはローデンさんの手の中でゲロゲロと声を漏らす。


[ゲロゲロ]

「すまんな、驚かせてもうて」

「た、助かった…。ありがとうございますローデンさん。…? 何持ってるんですか?」

「ん。これか? これは、学校案内のパンフレットや」

「パンフレット?」


 言って、ローデンさんは手に持っていたパンフレットをテーブルの上に置く。パンフレットの表紙には記号のような文字が書かれていた。


 俺はまだこの世界の文字を勉強していないので、何が書かれているかはまったくわからない。


「どうしてパンフレットなんて。…え、もしかしてローデンさん、学校に通うんですか?」

「わいやない。トウマくんが通うんや」

「俺が?」


 きょとん。と目を瞬かせる。

 理由を聞くと、ローデンさん曰くどうやら俺にはまだこの世界での一般知識がまったくと言っていい程頭に染み付いていないらしい。時の番人になったからには豊富な知識も少なからず必要だと言うので、この際だから学校に通って色々学んでこい。との事。


 学校に通えば文字も覚えられるし、剣の扱い方も魔法の扱い方も基礎から教えてくれるそうなので、一石二鳥ならぬ一石四鳥で万々歳。


「…確かに俺はこの世界についてまだよくわかってないところがありますけど、学校なんかに通ってる暇なんて俺にあるんですか?」

「何言ってんねん。わいらは時の番人。時間なんて腐るほどあるやろ? …それに」

「それに?」


 ニシシ、と笑いながらローデンさんはパンフレットを開く。


 開いたページに載っている建物を指でトントンと叩き、ぐっと顔を近付けてきた。


「トウマくんはまだまだわいらと違って"少年"やろ? 少年は学校に通って青春を謳歌せなアカン!」

「せ、青春…ですか…」

「せや。青春や。なに、学費の事は心配あらへん。この学校はな、卒業生の紹介状があれば三年間はタダも同然なんよ。寮もあるみたいやからいちいちここへ帰ってくる必要はなし!」

「卒業生? ローデンさん?」

「うんにゃ。わいじゃのうて、リィとトールくんや。相談してみたところ、二人が紹介状を書いてくれる事になっとる」

「……」


 パンフレットを見る。

 確かに、ローデンさんの言った通り俺にはこの世界についての一般知識はまったくと言っていいほどに皆無で、文字もわからなければ時々ローデンさんたちが話す言葉もわからない時がある。


 いつかは勉強しなきゃなとは思っていながらも、なかなかその時間が取れなくて、今日の今日までずるずると先延ばしにしてきてしまったのだ。そんなタイミングでのローデンさんからの"学校へ通わないか"との提案。時の番人には時間が腐るほどあるらしいので、それならちょうど良いかもしれない。


「この学校、何処にあるんですか?」

「おっ、トウマくん乗り気やな! ここは…えーと、あ、あったあった。ここは、北の国にあるみたいやな」

「北の国?」


 確かそこって、アメリアたちの。


「うーん。北の国っちゅうと、ここは南の国やから船で行かんとあかんなぁ。…トウマくんは、船は平気なんやっけ?」

「はい。船酔いはしないタイプです」

「なら大丈夫やな。…わいも船酔いしない身体に生まれたかったわ」


 言いながら、ローデンさんは肩を落とす。


 そういえば、"あの時"は船酔いしてましたね。薬も効かないほどの重度の船酔い。見てて少し可哀想に思ってました。


「…んじゃ、学校に通うって事で決まりでええな」

「? 何してるんですか?」

「リィに連絡すんねん。あいつ今ちょうど北の国に居るからな。…あ、もしもしリィ? わいや。わい」


 言って、ローデンさんは端末でリィドさんと通話を始める。俺が学校に通う事を伝えると、液晶に映ったリィドさんは"手続きと紹介状は任せてくれ"と頷いて口元を緩ませた。


 ローデンさんたちが話している間、再びパンフレットを見つめてペラペラと捲る。写真だけしか情報がわからないけれど、見た感じ俺が今まで通っていた学校と大差ないみたいだ。


「うん。じゃああとは頼むな。トウマくんは今からそっちに向かわせる。…はいはい。それじゃあ。…よし、トウマくん。早速出発やから荷物纏めてきて」

「え? 今からですか?」

「思い立ったら吉日。その日に決めた事はその日にやる。善は急げや」

「…わ、わかりました」


 立ち上がって荷物を取りに行く。学校に通うために必要な物はと考えながらリュックに自分の物を詰めていき、数分後には俺はローデンさんと一緒に小屋の外に出た。


 ここから船のある港町までは歩きだと二時間くらいで辿り着くらしい。北の国に行く船が出るのは、日が暮れてから一時間後だそうだ。


「そんじゃ、行ってくるで。わいらが帰ってくるまで留守番頼むな。ピーロボ」

[ピー]


 小屋の留守をピーロボに任せて、俺はローデンさんに付いていく。しばらく歩いて少し拓けた場所に出ると、そこには見覚えのある灰色の鳥が居た。


 鳥は俺たちの姿を見るや、ピャーと大きく鳴き声をあげる。


[ピャー]

「この鳥は、あの時の」


 懐かしい思い出。


 この鳥は、森に迷い込んだシャスティアとアンジェラを街に送っていく時に出会ったあの灰色の鳥だった。


「どうしてここに?」

「こいつで港町まで行くんや」

「へぇ、なるほど。…って、は!?」


 目を見開いて驚く。


「そんなの聞いてませんけど!?」

「聞かれてへんからな。…なんや、不満か?」

「あ、いや、不満とかそういう事じゃなくて…」

[ピイイィヤアァアア!!]

「……、」


 あの時の事を思い出して口元を引きつらせる。この鳥で港町まで行くって事は、またこの鳥の背中に乗るって事で…。


「…またこれに乗るんですか?」

「? ああ、そういやトウマくんこいつに乗るの苦手やったな。忘れてたわ」

[ピャー]

「せやけど、こいつで行かんと間に合わへんねん。我慢しい」

「……」


 …我慢。


[ピャー]

「じゃあ、鳥ちゃん。トウマくんの事頼むな」


 渋々、鳥の背中に乗る。

 俺が乗ったのを確認すると、ローデンさんは鳥の身体を軽く叩いた。


「え、ローデンさんは行かないんですか?」

「わいはこれからやる事があんねん。本当は付いていきたいけどな。残念やけど、ここで一旦お別れや」

「そう、ですか…」


 それは本当に残念だ。


 じゃあここからは、俺一人で港町に行って船に乗って北の国に行って学校に行かなきゃいけないのか。で、出来るだろうか。


[ピイイィヤアァアア!!]

「うわっ!?」


 大きく鳴き声をあげて、鳥は翼を広げる。バザバサと翼を動かし、風を巻き起こしながら鳥は俺を落とさないように空に向かって飛び立った。


 ここで、俺が苦手な物を紹介。

 空を飛ぶもの。縦に揺れるもの。横に揺れるもの。大きな鳥。その他諸々。以上。


「トウマくーん! 頑張ってなー!」


 ローデンさんの姿と声がだんだん小さくなる。森全体が見渡せるところまで飛び上がれば、鳥は港町のある方向に身体を向けて翼を動かした。


 今から俺が注意するのは、港町に辿り着くまで鳥から落ちない事。ただそれだけ。これ以外はない。俺は必死に鳥の羽毛を掴んでぎゅっと目を閉じた。




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