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師匠の弟子





 師匠ことエーデリア・エフィラさんには、私やトールさんの他にもお弟子さんが二十七人居る。


 その中の三人は私たちと同じようにこの屋敷で生活しているそうなので、顔を覚えてもらうためにもちょっと挨拶にいってみようと思います。



+


「…ここかな?」


 まず一人目。一人目の部屋は私の部屋から二つ部屋を越えた先にあった。トントンと緑色の扉を叩けば数秒後に中から声して、扉が開かれる。


「はいは~い、どなた~?」

「! あ、えと、…こんばんは」

「あら。貴女は。確か夕食の時に会ったわね」

「は、はい。初めまして、私は」

「知っているわよ。貴女の事は師匠さんから聞いているわ。確か名前は、アメリアちゃんだったわね」


 扉を開けて中から出てきたのは、金色の髪の女の人だった。女の人は、私を見て口元を緩ませる。


「さっきは時間がなかったからゆっくり話も出来なかったわね。私はラーフェイよ。よろしくね」


 彼女の名前は"ラーフェイ・ピーア"さん。彼女は東の国の出身で、とある事情から師匠の元で修行をしているそうだ。


 実は彼女は男の人だったりする。身体は男の人だけれど心は女の人という…所謂"オネェ"というやつだ。


「立ち話もなんだから入って。紅茶でもご馳走するわ」

「お、お邪魔します」


 部屋の中に招かれて、用意された椅子に腰を降ろす。紅茶を飲むという行為は、食後の一杯は自身の部屋でというラーフェイさんのお決まりの行動なんだそうだ。


 手渡された紅茶を飲む。ほどよい味で、とても美味しい紅茶だった。お母様が淹れてくれるものより美味しいかもしれない。


「どう? 美味しい?」

「はい、とても!」

「ふふっ、そうでしょう? この紅茶の茶葉はフォージアムの中でも3本の指に入る程のお店で独自にブレンドされた最高級のものなんだから! …う~ん。この芳醇な香り、たまらないわ~!」


 目をとろんとさせながらラーフェイさんは言う。茶葉については専門外なのでよくわからないけれど、この屋敷での修行が終わって家に帰る時が来たらお母様にお土産として買っていくのもいいかもしれない。


 するとそこで部屋の扉が開く。入ってきたのはフードを被った男の人だった。部屋の中に入ってきた彼に気付いて、私とラーフェイさんは彼の方へ顔を向ける。


「ラーフェイ、ちょっといい?」

「んもぉ、何よ。今からこの子に紅茶の素晴らしさを教えてあげようとしていた所だったのに! 何か用?」

「コロタマ知らない?」

「コロタマ? …さぁ。そういえば今日はまだ見てないわね」

「そう。…何処行ったんだろう」

「あの子の事だからまた散歩とかでしょ? そのうち帰ってくるわよ」

「……」


 近付いてきた彼の言葉に応えると、彼は腕を組んで眉をしかめる。フードから見えたのは灰色の髪の毛と頬に浮かぶ一筋の傷痕だった。


 紅茶を飲みながらじっと見つめていると、私の視線に気付いたのか彼は此方に顔を向ける。


「…、誰?」

「ちょっと、忘れちゃった? 夕食の時に会ったでしょ? 彼女が新しく師匠さんの弟子になったアメリアちゃんよ」

「アメリア…。…?」

「ごめんね。彼ちょっと記憶力が乏しくって。すぐ人の名前とか忘れちゃうのよ」


 おほほほほ。笑いながらそう言って、ラーフェイさんは男の人の頭をポンポンと叩く。


「紹介するわね。彼の名前はスイ。本名じゃないんだけれど、私たちはそう呼んでいるわ」

「よろしく」

「は、初めまして。アメリアです」

「…で? 用はそれだけかしら?」

「いや。あとこれ」

「? なにこれ?」

「じいさんに頼まれて、代わりに返しにきた」

「おじいさんに…って。ああ。そういえば貸してたわね」


 男の人…スイさんから受け取ったのは一冊の分厚い本。

 ラーフェイさんは思い出したかのように呟いた。


「この時間は、おじいさんは寝ているの?」

「…うん。ぐっすり」

「ご老体は寝るのが早いって言うけれど、こんな時間に寝るなんて勿体無いわよね。ここからが楽しい時間なのに」

「あのじいさんは特別だから」


 肩を竦めて、ラーフェイさんは紅茶を飲み干す。そこでまた扉が開かれた。今度はゆっくりとではなくバンッと大きな音を立てて。


 音と共に廊下から何かが勢いよく入ってきて、それはスイさんの背中に速度をそのままに思い切りぶつかる。大きな音がしてから数秒の間の出来事だったために、私たちの中の誰もが反応出来ずに互いに目を見開いて驚いた。


「ス、スイさん!?」

[スイ! スイ! やっと見つけた! やっと見つけた!]

「…痛い」

「スイ、大丈夫?」


 ぶつかってきたものの影響で床に這いつくばったスイさんをラーフェイさんが立ち上がらせる。


 見ると、スイさんの足元で丸い球のようなものがコロコロと転がっていた。楕円形の大きな目が付いたそれは時々ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


[スイ! スイ! 捜した! 捜した!]

「もお、コロタマ! 危ないからそんな風に人にぶつかるんじゃないっていつも言ってるでしょ!? スイがもし怪我でもしたらどうするの!?」

「大丈夫。…コロタマ、どこ行ってたんだ?」

[パン! パン!]

「パン?」


 飛び跳ねがら言い、銀色の丸い球…コロタマは身体の真ん中の繋ぎ目から上半分を開く。その中に入っていたのは紙袋に入ったパンだった。


 ラーフェイさんは紙袋を手に取って、それをまじまじと見つめる。


「あら、良い匂いね。どうしたのこれ?」

[スイの夜食にどうかって店主から貰った。中身は、ただのパン、アップルパイ、ただのパン、スパイスパン、ただのパン、ただのパン、クリームパン、キャラパン、ただのパン、スパイスパン、パンパン、キャラパン、ただのパン]

「いっぱい入ってるのね。…ほぼただのパンみたいだけど」


 紙袋の中をガサガサとかき分けて、ラーフェイさんはパンを手に取る。


 何か食べたいのはあるか。と聞かれたのでスパイスパンを一つ貰った。こんな時間に、しかも夕食後にパンを食べるなんていけない事だけれど、スパイスパンと聞いてしまったからには食べないわけにはいかない。


「…夕食後にパンってどうなんだ?」

[夕食後のパン! 太る元! 駄目! 絶対!]

「ちょっと! 持ってきた本人がそれ言う!?」

[でも、スイは太らないから平気。超人胃袋。超人胃袋。胃袋掃除機。胃袋掃除機]

「その言い方やめろ」


 開けっ放しの上半分を戻して、スイさんはコロタマを抱き上げる。

 コロタマは嬉しそうに目を細めて笑った。ちょっと可愛い。


[ラーフェイ。パン返して。体重の増加は駄目。駄目]

「体重の増加って言わないで! それにただのパンなんだから誤差の範囲よ! スパイスパンはわからないけど!」

「っ、わ、私はまだ食べ盛りなので大丈夫かと!」


 多分。


[パンは100グラム辺り約250キロカロリー。菓子パンのカロリーは約250~450ぐらいあるから確実に太る。夕食のパスタがカロリー約550と過程するなら今日の一日でのラーフェイの摂取カロリーは一般男女性(おネカマ)さんの一日の平均摂取カロリーを余裕で越えてる。越えてる]

「ああああ! 聞こえない! 何も聞こえないわ! ほら、パンは返すからさっさと出てってちょうだい!」

「…ごめん、ラーフェイ」

「スイが謝る事じゃないわ。それじゃ、おやすみ」

[スパイスパンのカロリーは]

「はい、さよなら!」


 バタン、と扉を閉める。


 スパイスパンのカロリーを言われそうになったけれど、言われる前に閉まってくれて良かった。


「はぁ。まったく…。ごめんなさいね、アメリアちゃん」

「いえ…」


 とても騒がしいロボットでしたね。


「…あの子は、スイさんの?」

「いいえ。スイのロボットってわけじゃないみたい。でも、出会った時から彼の傍をうろちょろしててね。"スイは僕が守るんだー!"って、最初は大変だったわ」


 パンを食べながらラーフェイさんは言う。


「スイさんって、どこの出身なんですか?」

「さぁ。聞いた事ないわね。気になるんなら明日聞いてみるといいわ」

「……」


 疑問に首を傾げながら、パクッとスパイスパンを食べる。スパイスパンはとても辛くてとても美味しい。生み出した人は天才だ。


 ラーフェイさんの言った通り、明日になってもスイさんの出身について気になってるようなら朝御飯を食べる時にでも聞いてみよう。そしてそれからも私とラーフェイさんの談話は続き、お開きになった頃には夜中の3時を余裕で越えていた。


 ラーフェイさんとスイさん。あと、彼女たちが"おじいさん"と言っていた人。この3人が師匠さんのお弟子さんで私とトールさんと同じく屋敷で生活している3人。接しやすい人たちで良かった。これから彼らとトールさんと師匠との共同生活が始まる。


 短い付き合いだけれど、この一年間楽しく過ごせればいいな。



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