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謎の黒空間とアメリアさんと真っ白な私

 




 目を開くと、そこは真っ暗な空間だった。

 …ううん。空間かどうかもわからない。

 目を瞬かせて、私はキョロキョロと辺りを見渡す。何処だここは。


「…………?」


 とりあえず周囲を探索してみようと足を動かす。しかし身体が思うように動かない。

 頭に"?"を浮かべて自分の足を見つめる。その足は真っ白だった。他の部分も足と同様に真っ白で、どうなっているのかと疑問に思いながら首を傾げる。

 なんで私真っ白なの?

 顎に手を添えて、うーん、と悩む。

 するとそこで、ふと誰かに見られているような気がして私は顔を上げた。


「……あ、」


 見ると、目の前に誰かが立っていた。その人は私の事をじっと見つめて口元を緩ませながら笑っている。私は、その人に見覚えがあった。

 鮮やかな朱色のセミロングの髪に、綺麗な花の装飾品が左胸付近にワンポイントとしてあてがわれた薄い紫色を基調としたワンピース。髪には水色の綺麗な月の装飾が施されたバレッタ。手首にはブレスレット。足元には…。…というか、あれは紛れもない私だった。


「………んん?」


 どうして私が私の目の前に居るのか。

 いや、でも私はあんな色のバレッタは持っていない。


「…………………、」


 私は私?の姿を上から下まで見つめる。するとそこで、私?が声を掛けてきた。

 まさか声を掛けられるとは思ってなかったので、私は驚いて小さく声を漏らす。


《…お久しぶりね》

「え?」


 お久しぶり…?


《またこうやって会えるなんて思ってもいなかったわ》

「えっと…」

《あれからどう?私になっての生活は順調かしら?》

「いや、あの…。失礼なんですけど、ちょっと待って」


 さも私たちは知り合いです。っていう感じで私?は私に話し掛けてくる。

 いや、いきなり《あれからどう?》なんて聞かれても何の事なのか全然さっぱりよくわからない。親戚のおじさんみたいな厄介な絡まれ方したよ今。まず説明してください。貴女は誰なんですか。何で私は真っ白なんですか。


「貴女は誰なんですか?見た目は私みたいですけど、」

《?。あれ、忘れちゃったの?》


 聞くと、きょとんと目を丸くして彼女は私に近付く。手を伸ばせば触れられそうな距離までやって来た彼女は、私の頬に手を添えて微笑んだ。

 おだやかな表情。

 私は彼女の顔をじっと見つめる。


《私は貴女よ。…あー、と。この言い方じゃちょっと語弊があるか。…私は貴女。私は貴女が私になる前の私。…転生前の私…かな?》

「……は?」


 彼女は言う。転生前の私?

 きょとんとして、頭に"?"を浮かべる。自分で言っていてわからなくなっているのか彼女は眉をひそめて頭を抱えていた。

 転生前の私。

 私が彼女になる前の?

 よくわからないけど、この意味が示すものは私が考えられる中ではひとつしかない。


「……えっと、…まさかですけど、…貴女は、本当の?」

《!、そう!それ!本当の私!》


 言うと、彼女はすっきりした表情を浮かべて笑う。そんな彼女の顔を見て私は表情を引きつらせた。


 本当のアメリア・ラインハーツ?

 え、嘘でしょ。何で彼女がここに?


《…どうして私がここに居るのか。って顔してるわね》

「!」


 しまった。顔に出てた。

 でも今、私の顔は真っ白だ。

 どうしてわかった?


《私ね、失敗したの》

「……え?」

《"異世界転生"に失敗した。貴女にはなれなかったの》


 彼女…アメリアさんは言う。

 異世界転生に失敗した?

 って、…。え、転生って成功とか失敗ってあるの?


《そんな上手い具合にはいかないね。私は今までたくさんの罪を重ねてきたから、そのバチが当たったのかな》


 うーん。と顎に手を添えて考える。

 そんな彼女を見て、私は少しだけど思い出した。


 ……そうだった。

 私が[アメリア・ラインハーツ]に転生する時も、彼女はこうして楽しそうな態度を浮かばせながら私に接触してきたんだ。

 こちとら貴女の謎の力でのせいで理不尽に事故って死んでしまったっていうのに、何のお詫びの一言もなく平然とした態度と口調で"私は貴女になるから代わりに世界を救え"発言。

 終始ヘラヘラしながらだったから、どうして貴女はそんな楽しそうにしていられるんだってずっと思っていた。


《だから私、貴女の助けになろうと思ってここに来たの》

「は?」


 助け……?

 そう言って、彼女は口元を緩ませる。


《"イフィアド"の事は、もう知ってる?》

「イフィアド?」

《ええ。…あいつはとんでもない人だから。気を付けて欲しいの》

「……………」


 イフィアド。

 その名前には聞き覚えがあった。

 そういえば、アイシクルがそんな名前を言っていたような…。


《まぁでも、今はイフィアドは柱に封印されてるから大丈夫なのかな?》

「…柱?…柱って、あの魔法陣から出てきた?」

《え、何でわかるの?》


 きょとん。と、アメリアさんは首を傾げる。

 柱の事。柱に刻まれた文字の事。

 私が先程まで見ていた事をすべて伝えれば、彼女は目を見開いて表情を強張らせた。


《……封印、解いちゃったの?》

「解いちゃったっていうか…、あれが貴女の言う"解かれた"って意味なら、たぶん」


 はは。と眉を下げて笑う。

 笑い事じゃない。アメリアさんは眉をひそめてそう言いながら、再び顎に手を添えた。


《…なら、また繰り返しちゃうのかな?》

「ん?」


 繰り返す…?


《………ううん。そんな事ない。今度こそ。今度こそ大丈夫。だって、私はもう私じゃないんだもの》


 まるで、自分に言い聞かせるようにアメリアさんは呟く。

 そして彼女は、こほんと咳払いをした。


《うん。大丈夫。何の問題もないわ。とりあえず、イフィアドの事はもうおしまい》

「……………」


 にっこりと笑う。

 もうおしまいって…。

 先程の貴女の反応を見るに、これはそんな簡単に終わらせちゃったら駄目なような気がしますが。


《ここで一つ質問。貴女は、人生のやり直しって出来ると思う?》

「?」


 あ、本当に終わらせるんですね。

 とても大事そうな話な気がしたけど、別にいいんですね。了解です。

 ん?

 人生のやり直し…?


「うーん。…よくわかりませんけど、もしそれが出来るっていうのならちょっとやってみたい気はします」


 もし出来るのなら、ですけど。

 私は言う。

 私のその言葉を聞いたアメリアさんは息を吐いて腕を組んだ。


《人生のやり直しって、意外と大変なのよ。また赤ん坊からだしね》

「?」

《でも、楽しい事をもう一度体験出来るっていう点は良かったかな。あとは最悪でしかないけれど》

「………アメリアさん?」


 そう言ったアメリアさんの表情はおだやかだった。それを見て、私は頭に"?"を浮かべて首を傾げる。

 なんだか、言い方に違和感。


《…私はね。人生をやり直してるの》

「え?」

《自分の人生をやり直し、…リセットしたの。ちょうど近くに他人の人生を戻す事が出来る人が居たから》


 アメリアさんは、髪に留まったバレッタに触れる。


《私はね、どうしても自分の人生を変えたかったの。だけど、結果は変わらなかった。何度も。何度も。…何度リセットしても結果は何も変わらない》

「…どうして、人生を変えたかったんですか?」

《…とある男の子を助けたかったから》

「?」


 男の子…?


《だから私は、人生を変えようと思ったの》

「男の子って?」

《言うわけないわ。貴女絶対に怒るから》

「ん?」


 笑いながら、アメリアさんは言う。

 言ったら私が怒る?

 どうして私が怒るんだろう?


「…アメリアさんは、その男の子の事?」

《…うん。大好きな人だった。大好きだったから、私は何度も人生をやり直し続けて彼を助けようと頑張った。でも、さっきも言ったけど、それは無理だったの》

「……………」


 何度も人生をやり直す。

 私が[アメリア]になる前の世界に居た時、人はそれを『タイムリープ』と呼んでいた。確かそれは様々な小説の中でも多々扱われてきたジャンルのひとつで、私もよくそれ系の小説は好きで読んでいた。

 まさかここに来て、実際にそれを経験している人に出会うとは。それも凄く身近に。さすがファンタジーな世界。


《だから、これは貴女に頼もうと思う》

「……ん?」


 頼む、?


「頼むって、何を?」

《決まってるわ。その男の子を助ける事を、よ》

「……は」


 アメリアさんの言葉を聞いて、ぽかんとする。

 私は、アメリアさんの言った"男の子"というのが一体誰なのか一切わからない。わからないのに、彼女は私にその子を助けてって言いましたか。


「…どうして私が?」

《これは、貴女にしか出来ない事だから》

「私にしか出来ないって…どういう意味ですか?」

《そのままの意味よ。貴女は私に転生した。だから貴女は私の代わりにやらなければいけないの》


 アメリアさんは笑う。

 その笑いは、どこか不気味に思えた。

 そこで突然視界がぐにゃりと曲がる。

 ん?と頭に"?"を浮かべて目を擦るも、擦っても視界は曲がったまま。それどころか曲がり具合が酷くなっているような気がした。なんだか眠くもなってきた気もするし、…これは一体?


《…ああ、そろそろ起きる時間なのね》

「え?」


 起きる時間…?


《それじゃ、明日から頑張ってね"アメリア"。私のようにはなっちゃ駄目だよ》


 ふふふ。と、アメリアさんは笑い続ける。

 彼女の姿がだんだん見えなくなる。気持ち悪くなるような視界のぐにゃり加減に耐えられず、私はぎゅっと目を閉じた。私の意識はそこで完全に途切れた。



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