時間停止
前半→アメリア視点
後半→ローデン視点
地下道には魔獣がうようよ居る。
襲い掛かってくる魔獣を片っ端から魔法で蹴散らしていきながら私は出口を目指して足を進めていた。あの子は未だ眠っている。
「水の流れよ! アクア!」
水、炎、風、土。今のこの子の魔力で出来るすべての魔法の力を駆使して襲い来る魔獣から身を守る。
水の魔法を放ち、何十匹目かの魔獣を倒した所で私は息を吐いた。疲れたからではない。
「……はぁ。もう、地下道長すぎ」
肩を落として、眉を下げる。
さすが"地下道の広さ=街の広さ"なだけはある。もう何時間ここに居るのだろうか。
[グルルルッ]
「…、また来た」
再び魔獣が現れる。
魔獣を見て溜め息を吐き、私はいつものように魔法で対処しようと足元に魔法陣を描いて詠唱を始めた。けれど。
[……]
「?」
魔獣の唸り声が突然ピタリと止まる。それまで動いていた身体も、まるで魔法にでもかけられたかのようにピクリとも動かなくなった。眉をひそめてそれを見つめていると、その時、腕に付けられた腕時計型の端末が音を鳴らして喋り出す。
[時間停止。 時間停止]
「…時間停止?」
端末の機械音声を聞いて首を傾げる。時間停止とはどういう意味なのか。というか、喋るのね、これ。
「……」
魔獣を見つめる。牙を剥き出したまま、魔獣は私を睨み付けていた。
恐る恐る近付いてみるも、魔獣は近付く私には目もくれず変わらず動く気配はない。指で突っついてみても反応なし。まるで剥製を見ているようだ。
「…んん?」
顎に手を添えて考える。けれど、考えれば考えるほど"?"が沢山浮かぶだけで答えなんて見つからなかった。
時の番人の誰かが時間を止める魔法でも使ったのか。だとするとあの3人のうちの誰が…?
「…でも、これは好都合だわ」
誰が時間を止めたのかわからないけれど、私からしてみたらこれは絶好のチャンス。時が停止している今なら間に合うかもしれない。二十四時間以内に外に出て、あの女性に会いに行く。停止した時間が動き出すのがいつになるのかわからないから動き出すのなら早くしなければ。
うん。と、一人頷いて私は歩き出す。魔獣の身体は、時間が動き出すまでずっと止まったままその場所にあった。
+
時が停止した事に気付いたのは、フライパンの中で作っていた焼きそばの音と動きが止まり、その直後に腕に付けていた端末から"時間が停止した"との報告が来たからだった。
「……、」
台所を出て窓から外を覗くと、風で揺れているはずの木も、散歩に来ていた動物も、目に見える何もかもが動きを止めていて、そこには異様な光景が広がっていた。
「あー、と…。これは…?」
どういう事だと表情を強張らせる。リィかトールくんがやったのか? と考えていると、そこで端末が音を鳴らした。液晶をタップすれば、リィの顔が映し出される。
『ローデン。これはどういう事だ?』
「んー、わいも何が何だかさっぱり。今、焼きそば作ってたんやけどフライパンがビクともせんようになったわ」
もう一度、外の様子を見ながら端末越しにリィと話す。聞けば、リィも人と話していた最中だったようだ。
『…? お前が止めたんじゃないのか?』
「なんでや。わいはそんなヘマせんよ。わいはリィかトールくんがやったのかと思ってるわ」
『俺がやるわけないだろ。時間を止めるのは緊急の時だけって決めてるからな』
「じゃあ、トールくんか?」
『…トールもあり得ないだろ。止める理由がない』
「なら、誰がやったん?」
『…さあ。本当にお前じゃないのか?』
「違うっての。何でそんな疑うねん」
『いや、お前ならやりかねないかなって』
「……」
リィの言葉に表情を歪ませる。まぁ、リィがそう言う理由もわかるっちゃあわかるけども、そんなハッキリ言う事じゃないだろ。軽く凹むんだけど。
返す言葉がなく黙っていると、再び端末が音を鳴らす。今度はトールくんからだ。液晶をタップすると、渋い表情を浮かべたトールくんの顔がリィの隣に映し出される。
「トールくん。トールくんも気付」
『何故時を止めた?』
「は?」
『どうせお前の仕業だろう。何故時を止めた?』
「ちょ、ちょい待てやトールくん! 気持ちはわからんでもないけど、今回ばかりはわいのせいやないって!」
『お前以外に誰がやると言うんだ。すぐにバレる嘘を吐くな』
「嘘やないって! そりゃ確かにわいはリィやトールくんに比べたらめっちゃトラブルメーカーやけど、今回ばかりはホンマに違うって! 賭けてもええわ!」
『…なら、誰がやったと言うんだ?』
『俺でもなくて、トールでもなくて、ローデンでもない。…俺たち3人ともじゃないとすれば誰が? 俺たち以外に時の魔法を使えるのは居ないはずだけど』
「…まさか、トウマくんか?」
『『…トウマ?』』
ふと頭に浮かんだのはトウマくんの顔。現在トウマくんはクロノ石を求めて森の奥深くの洞窟に行っている。
もしかしたら、トウマくんがそこでクロノ石を手に入れて時の魔法を使ったのだろうか。でも、クロノ石を手に入れたってだけじゃ時の魔法は使えないはず。
『トウマがどうしたって?』
「うん。実は、」
リィたちに事情を話す。
トウマくんがクロノ石を取りに洞窟へ行っているという事を話すと、リィもトールくんも驚いた表情を浮かべた。
『そんな話聞いてないんだけど?』
「トウマくんがクロノ石を持って帰ってきたら話そうと思ってたんや」
『…あまり勝手な行動を取るな。相談するとか事前にやれる事はあっただろ』
「トールくんに相談したら絶対反対するやん」
『当たり前だろ。あいつにはまだ時の魔法は早すぎる』
「……」
肩を竦める。
ほら。やっぱり反対する。トールくんがそんなんだから事後報告にしようと思ったんだよ。
『これをやったのか? トウマが?』
「その可能性は高い。…とりあえず、連絡取ってみるわ。困ってるかもしれへんし」
言って、リィたちとの通話を終える。
時を止めたのが本当にトウマくんなら、一体何のために時を止めたんだ?
「…悩んでても仕方ない。とりあえず連絡や。えーと、トウマくんの番号は、と」
端末にあらかじめ入っているトウマくんの番号をタップして、プルルルと音を鳴らす。
呼び出し音が数回鳴った所で、液晶にトウマくんの顔が映し出された。




