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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第4章「時は戻り、幼少へ」
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兄と弟 2





 トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。二年と二ヶ月十日目。授業と授業の間の休憩時間。場所はいつもの私の家。私とアイシクルはリビングにてお昼ご飯を食べていた。今日のメニューはお母様特製のハムとタマゴのサンドウィッチとポテトサラダのサンドウィッチだ。


 テーブルを挟んで合い向かいに座り、サンドウィッチを黙々とむしゃむしゃと食べる。本日の授業は、以前学校の課外授業で懐かれてそのままお持ち帰りした妖精プクプに関連しての授業だった。プクプにお昼ご飯を分けてあげようと思い、私は左耳に付けていた緑色のイヤリングをパチンと指で弾く。するとその中からポンとプクプが出てきて、テーブルの上に降り立った。


 いつでもプクプを呼び出せるようにと、トールさんから貰った小さなイヤリング。時を戻す前にリヴィスを容れておくために使っていたイヤリングと形が似ているそれは、やはり手作りで特別な加工が施してあった。……既製品を使ってはいけない縛りでもあるのだろうか。


[むしゃむしゃ]

「美味しい?」

[はい。とっても!]

「良かった」


 ポテトサラダのサンドウィッチを口いっぱいに頬張り、プクプは満面の笑みを浮かべながら言う。それを見て、私も口元を緩ませてサンドウィッチを食べ続けた。一つ食べ終えて、もう一つ、あと一つとサンドウィッチがどんどん減っていく。なんだか先ほどから私ばかりがサンドウィッチを食べているような気がする。アイシクルもちゃんと食べているのかと顔を向けると、彼は両手にサンドウィッチを持ったまま眉をひそめ、何やら考えている様子だった。


 そういえば、トールさんは行き先も告げずに何処に行っちゃったんだろう。


「…ねぇ、アイシクル」

「ん?」

「その、…トールさんと何かあったの?」

「……」


 それは、本日の授業開始前の話。私の家にやって来たトールさんとアイシクルは何やら二人して不穏な空気をその身から放っていて、とてもじゃないけれど気軽に声を掛けていい雰囲気ではなかった。


 二人の間の不穏は今に始まった事ではないけれど、今日はその不穏さが特に増していて、こんな事を言ってはアレだけれど全然授業に集中出来なかった。あの空気感は、ただの兄弟喧嘩のそれではない。


「見た感じで言うけど、えと、今日のトールさんとアイシクルは…その、なんかギスギスしてたっていうか。いつもそうだけど、アイシクルに対するトールさんの言葉がいつもより冷たかったような気がしたっていうか」


 慎重に、考えながら言葉を選ぶ。

 そんな私の言葉を聞いたアイシクルは息を吐いて、サンドウィッチと共に出されていたミルクティーを飲んだ。


「…ごめん。アメリアには迷惑掛かってるよね」

「え? あ、えと、ううん。別に平気! ちょっと気になっちゃってさ…」

「…昨日、兄さんと口論になったんだ」

「?」


 ポツリと、アイシクルは話し始める。事の始まりは昨日の晩。アイシクルのお父様が放った一言からだった。



+


 その日の夜。アイシクルたちの家では、リビングにて上位貴族の友人たちを集めたちょっとしたパーティが行われていたらしい。普段、そのパーティにはアイシクルとトールさんは参加しないのだけれど、何故かその日だけはお父様の命令で二人ともパーティに参加したそうだ。


 豪華な食事が並んだテーブルを囲み、同じく豪華なお酒と豪華なスイーツに上位貴族の方々はご機嫌そのもの。そんな中、お父様は友人たちにアイシクルたちを紹介して回っていた。そして時は過ぎ、そろそろそのパーティがお開きになる頃。お父様は二人に伝えたのだ。


『これからのディー家を支えていくのはお前たちだ。二人で協力して、この屋敷と"ディー"の名を守っていってくれ』


 と。


 しかし、その言葉を聞いてトールさんはこう言った。


『…すみませんが、俺にはそれは約束は出来ません』


 と。


 彼のその言葉は、お父様とアイシクル、その場に居た上位貴族の友人たちを驚かせた。


『何故約束出来ぬ。理由を聞かせてくれるか?』

『俺には、その資格はないからです』

『…資格?』

『はい。元々、俺はこの家に拾われた身です。ここまで育ててくれた恩は確かにありますが、俺にその役は不適任かと』


 トールさんは言う。

 そして、トールさんはアイシクルの方に顔を向けて言葉を続けた。


『だから、この話はアイシクルにだけ話してください。俺よりこいつの方がディー家を支えていくに相応しい』

『トール、お前…』


 言って、トールさんはお父様に背を向けてリビングを出ていく。

 その姿をアイシクルは慌てて追い掛け、あれはどういう意味なのかと聞いた。


『どうって、そのままの意味だが?』

『…何であんな事言ったんだよ?』

『事実を述べただけだ。俺にはディーを繋げていく事は出来ない』

『どうして!?』

『お前とは違って、俺にはやる事がある。家を継ぐなんてくだらん事をしている暇なんて何処にもないんだ。そんな面倒なものはすべてお前に譲ってやる』

『なん…だよ、それ…』

『話はそれだけか。ならば俺は行く。もう追い掛けてくるなよ』

『っ、』


 トールさんの言葉に、アイシクルは眉をひそめて拳を握る。なんでそんな事を言うんだ。なんでそんな無責任なんだ。そんな感情が渦を巻いて、言い様のない怒りがアイシクルを襲った。


 …どうして。


『どうして兄さんはそうなんだよ! どうして兄さんはいつも、俺にも母さんにも父さんにもそんな冷たい態度なんだよ! 俺にだけそれならまだ我慢出来る! だけど、母さんと父さんにまでそんな態度取るなよ! なんだよ! ディーを支えていくのは俺の役目じゃないって! 血の問題なんて今はどうでもいいだろ! 何もかも全部俺に押し付けてんじゃねぇよ!!』


 アイシクルは叫ぶ。


 しかし、そこにはもうトールさんの姿はなかった。アイシクルの叫びだけが廊下に響いて、虚しく消える。


『…っ、ごほっ…げほっ』


 力任せに叫んだからか、咳をしてアイシクルはその場に踞る。


 心配して様子を見に来た彼のお母様がそれを発見し、慌てた様子でアイシクルを部屋に連れていった。



+


「ごほっ、」


 アイシクルから話を聞いて、咳が出る。はぁ。と、溜め息を吐いて、アイシクルはポテトサラダのサンドウィッチを手に取った。


 衝撃の事実。トールさんって、ディー家の人じゃなかったのか。


「…と、まぁ、こんな事があって、今はちょっと気まずいというか…」


 はは、と眉を下げて笑う。


「それにさ、それだけじゃないんだ」

「え?」


 まだ何かあるの?


「兄さんにはさ、婚約者が居たんだけど、…いつの間にか勝手にそれも破棄してたみたいで」

「え、…」


 アイシクルの言葉に、目を見開いて驚く。

 婚約を破棄って、…。確か、トールさんの婚約者って。


「父さんが吃驚してた。理由を聞くと、その理由も"俺にはやる事があるから、そんなくだらん事には付き合えない"だって」

「……」


 トールさんのやる事。つまりそれは、時の番人に関係する事で。


 時の番人については、アイシクルたちには内緒にしているみたいだから、なんとなく冷たい態度になってしまうのはわかる。でも、婚約破棄はいくらなんでも相手の女性に悪いのではないか。


「トールさんの婚約者って、確かライラさん…だったよね?」

「うん。…あれ? ライラさんの事、アメリアに言ってたっけ?」

「…! あ、えと、前にトールさんに聞いた事があって!」

「……」


 トールさんの婚約者。ライラ・アストーレさん。遠目からしか見た事はないけれど、とても綺麗な女性だったと記憶している。


 ミルクティーを飲んで、ライラさんの事を考える。するとそこで、腕に付けている端末が音を鳴らした。噂をすればトールさんからだ。


「トールさん?」

『悪いが、今日はこれで終わりだ』

「……」

「え? どうしてですか?」

『…外せない用が出来た。アイシクルも聞いていたな。夜には戻るから、そう伝えておいてくれ』


 そう言って、トールさんの声は聞こえなくなる。一方的に切られた端末を見つめて、私は眉を下げた。


 外せない用事って、何だろう…?


「また勝手に決めやがった」

「ま、まぁ、トールさんはトールさんなりに色々考えてるんだよ」

「……」

「そ、それより、今日はもうこれで終わりみたいだから、私の部屋で何かしようよ。何でもいいよ。本を読むとか、積み木ゲームするとか」

「…。そういえば、アメリアの持ってる本の中に読みたいのが何冊かあるんだ。貸してくれるとありがたいんだけど」

「本? う、うん。いいよ。何冊でも貸してあげる! じゃあそうと決まったら早く行こう! …お母様ー! ご馳走さまー!」


 言って、私はプクプをイヤリングに戻してテーブルから離れる。トールさん関連の話題は今は地雷しかない事がわかったので、さっさと別の話題に切り替えてアイシクルの頭の中から"トール"という名前を引っこ抜くしかなかった。


 そして、私とアイシクルは階段を登って二階の私の部屋へ。アイシクルの読みたい本とは何かと思いながら、私は本がたくさん並んだ棚へ彼を連れていった。



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