トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業 2
トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。一年と三ヶ月目。本日から新しくアイシクルも一緒にトールさんの魔法の授業を受ける事になった。どうしてそんな事になったのかというと、私がトールさんに"なんだかトールさんとアイシクルって兄弟なのに関係がギクシャクしていますよね。……そうだ。だったらアイシクルも一緒に授業を受ければ少しは関係が改善するんじゃないですか?"と提案したため。
アイシクルには既にトールさんとは違う魔法の師が付いているけれど、一人の人物に複数人の魔法の師が付く事は珍しくないから別に気にする必要はない。
「アイシクル。お前は俺の弟だが、もちろん甘やかすつもりは微塵もない。気合い入れてついてこい」
「…わかってるよ」
「……」
トールさんの言葉を聞いて、無愛想にアイシクルは応える。二人の間には"気まずさ"が流れていた。さぁ、今日も張り切っていこう。と意気込める雰囲気ではなく、彼らの様子を見て私は眉を下げる。
「アメリア。誘ってくれてありがとう。一緒に頑張ろうね」
「え? あ、う、うん! 頑張ろう、アイシクル!」
アイシクルは身体の事もあるからあまり無理は出来ないけれど、これから私とアイシクルは同じ魔法の師に魔法を教えてもらう同志だ。一緒に強くなっていけたらいいけれど、私の実力とアイシクルの実力を考えると…。うん。一緒には無理そうだ。
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トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。一年と十か月十二日目。本日はこれまでの授業で培った技術を応用してちょっとした小テストを行います。
場所は、私の家の庭。トールさんたちのご実家に比べてそんな広い庭ではないけれど、小テストをする分には十分すぎる広さだというので、今回はここを使用する事となった。お母様の許可は頂いているため、多少騒がしくしても問題はない。
「テストの内容は簡単だ。ここから、あの的目掛けて魔法を撃ってもらう」
私たちの今居る位置から目標の的までは約数メートル。トールさんが立っている所から魔法を放ち、見事に的に当てる事が出来ればテストは合格だ。
使用する魔法はどんなものでも構わない。今までトールさんに教えてもらった魔法は、水と炎と風。私はここはやはり水の魔法を使う。その選択肢の中では一番得意なのが水だからだ。
「炎よ燃えろ! フレイム!」
まずは、アイシクルの番。
唱えれば、バシュンと手のひらから勢いよく炎の球が飛び出し、大きな音と共に数メートル先の的に当たる。炎の球が当たった的は、周囲の地面にバラバラになって落ちた。
「はー…」
一瞬の出来事に唖然とする。
よくあんな速い球を撃てるものだ。
「次はお前だ」
「あ、はい…!」
ボーッと見つめていると、トールさんに呼ばれた。アイシクルと入れ替わりで指定の位置に立ち、手のひらを的へ向ける。水の魔法を撃つのだから、手のひらから水の球が飛び出すイメージを頭に浮かべれば大丈夫。
目を閉じて、集中。水の球を的に当てればいいだけ。たったそれだけ。大丈夫。私なら出来る。
「水の流れよ! アクア!」
唱えると、手のひらから水の球がゆっくりではあるけれど形成されていく。ある程度大きくなれば、バシュンと音を立ててそれは的に目掛けて飛んでいった。
アイシクルの出した炎の球より威力の低いそれは、真っ直ぐに確実に的に向かって飛んでいく。しかし、もうすぐで的に当たるという所で惜しくも水の球は弾けて地面に落ちた。それを見て、私は目を見開く。
「あっ!」
あと少しだったのに…!
「トールさん! もう一回!」
「駄目だ」
泣きの一回を頼んでみる。
やはり駄目だった。悔しい。
「惜しかったね。あと少しだったのに」
アイシクルが近付いてくる。
「うん。でも、水の球は出せたよ。私にしては凄い進歩じゃない?」
「的に当たらなければ意味はない」
トールさんも来た。
私たちは、トールさんの方に顔を向ける。
「残念だが、アメリア。お前は不合格だ」
「…はい」
眉を下げる。的までの距離がもう少しだけ短かければ良かった、なんて思ってはいけない。この事実を受け止めて、次は当てられるように努力しないと。精進あるのみ。
そして、本日の授業が終わり、トールさんとアイシクルは家に帰っていく。私はこのまま自主練習のためその場に残る事にした。
「…水の球をイメージして、それを手のひらに」
目を閉じてイメージする。ゆっくりではあるけれど、シュルシュルと水の球が手のひらの先に現れた。
ここまでは問題ない。あとはこの球を的に当てるだけ。簡単な事だ。真っ直ぐに、ただ撃つだけ。
「アメリア」
「!」
すると、そこで声を掛けられた。その声に反応して顔を向けると、そこにはアイシクルが。
トールさんと一緒に帰ったんじゃなかったのか。
「アイシクル? どうし、…ぶわっ!?」
「!?」
声を出した瞬間、集中が途切れて水の球が破裂する。大量の水が顔から肩にかけてすべて降り掛かり、ずぶ濡れになった私は眉を下げて肩を落とした。水を浴びるのは今回で何度目だろう。
「アメリア! 大丈夫!?」
目を見開いて、慌ててアイシクルが駆けてくる。
「う、うん。大丈夫。いつもの事だから……」
「ごめん。俺が声を掛けたから」
眉を下げて、アイシクルは言う。
炎の魔法を出して、濡れた箇所を乾かしてくれた。
「…アイシクル。トールさんと一緒に帰らなかったんだね」
「うん。兄さんに言われたんだよ。アメリアの手伝いをしろって」
「手伝い?」
「あの的に、魔法が当たるようにする手伝い」
的を指差す。
私の魔法が的に当たらない限りは次の段階へは進められないので手伝ってこい。とトールさんに言われたんだそうだ。
「そ、それは…ご迷惑をお掛けます」
「全然。迷惑だなんて思ってないから気にしないで。それに、兄さんに言われなくてもアメリアの手助けをするつもりだったから」
アイシクルは言う。
兄さんに言われなくても。という部分を強調したのはどうしてだろうか。
「あとちょっとで的に当たりそうだったから、少し練習すればすぐに当たるようになるよ」
「……」
頑張ろう。とアイシクルは笑う。
その表情を見て、私は改めて感じた。
時が戻ってからというもの、このアイシクル、めちゃくちゃ優しい。
時が戻る前の…私に意地悪だったあの頃のアイシクルは何だったんだと疑問に思うくらいにその要素は何処にも見当たらなかった。
意地悪要素がないから彼を苦手に感じる事がなくて、普通に仲良く出来てしまっている。なんだか調子が狂ってしまうけれど、トールさんに"仲良くしろ"と言われている手前、都合が良いと言えば都合が良い。
「…? アメリア? どうかした?」
「…ううん、なんでもない。それじゃあ、お言葉に甘えて手伝ってもらおうかな」
「うん。任せて。どんどん頼ってくれていいからね!」
とことん甘えさせて貰います。
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トール先生による、楽しい楽しい魔法の授業。一年と十か月十六日目。
本日の授業は本当ならお休みだったのだけれど、この間の的当てリベンジとしてトールさんに無理を言って家まで来てもらった。アイシクルも一緒。
「水の流れよ! アクア!」
この数日間、アイシクルに甘えて甘えて甘えまくって自主練習をした水の魔法。教えてもらった事を頭の中で復唱しながら目の前の的にだけ集中して、手のひらに生み出した水の球を勢いよく放つ。バシュンと音を立てて、水の球は真っ直ぐに的に目掛けて飛んでいった。
的に向かって飛んでいく水の球。球は失速する事なく、途中で弾ける事もなく、そして何の問題も起きずにそのままの勢いで的に当たって、的はバラバラに砕けて地面に落ちた。
「! 当たった!」
的だったものが地面に落ちたのを確認して、歓喜の声をあげる。
近くに居たアイシクルと一緒に喜んでいると、それを見たトールさんが近付いてきた。
「どうですか、トールさん! 見ましたか今の! アイシクルにコツを教えてもらってやっと当てられるようになったんです!」
「…まぁ、これは出来て当然なんだが、…一応褒めてやる。よくやった。合格だ」
「!」
褒めてもらえた! 凄く嬉しい……!
「…出来て当然って言うけど、アメリアは兄さんとは違って魔法は苦手なんだ。魔力だって少ないのに、その状況下のなかでこの数日の間であそこの的に当てられるように練習したんだ。頑張ったんだからもっと他に何か言うことあるだろ」
アイシクルは言う。
妙に突っ掛かる言い方で言葉を返した彼の言葉を聞いて、トールさんは一瞬だけ眉をひそめた。
「…。用は済んだみたいだな。俺はこれで失礼する」
しかしトールさんは何も言わず、私たちに背を向けて歩いていく。
それを見て、アイシクルは眉をひそめた。
「……、」
アイシクルがトールさんの授業に参加してから約半年が経ち、兄弟の関係は良くなるどころかなんだか更に悪くなってるような気がしていて、なんだかこの先不安でいっぱいです。




