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柱の異変と"なんちゃって貴族" ※アイシクル視点

 




「なあ、アメリア。これのどこが"空まで伸びている柱"なんだ?」

「あ、あれぇ…?」


 学園から離れ、リィドさんの家があった場所に辿り着く。俺たちの目の前にあるのはアメリアが言っていた巨大な柱。しかしこの柱はどう見ても空までは伸びていなくて、彼女の身長の4分の1くらいの長さしかなかった。

 柱…というか石と言った方がいい感じもあるが、俺はそれを見てアメリアを横目で見つめる。アメリアは眉を下げて困っているような表情を浮かべていた。


「ほ、本当に伸びてたんだよ!空まで!私が嘘言ってないってのはわかってるでしょ!?」

「……」


 確かに、先程の彼女の言動には嘘と断定できるものはなかった。

 足を進めて柱の側面に手を置く。そこはひんやりと冷たい。


「あとの長さのヤツ何処いったの…」


 訳がわからない。と言った表情でポツリと呟き、アメリアは俺と同じように柱に触れて、反対側へと歩いていった。

 何の変哲もないただの柱(石)。特に怪しい所も見当たらず、俺は眉をひそめて腕を組んだ。来た事を後悔しそうな勢いで拍子抜けだ。


「うーん。…なんでこんな事に?」

「……」


 不思議そうに、柱を見つめるアメリア。

 そんな彼女の顔を見て、俺は息を吐いた。



+


 突然だけど、俺はアメリアの事が好きだ。

 だけどアメリアは、俺に対する態度からしておそらく俺の事が嫌いなのだろう。


 彼女と初めて会ったのは、俺が9歳の時。

 誕生日を祝うパーティーの会場で、親父の友人であるラインハーツさんが連れている女の子を見た。それがアメリアだった。ラインハーツさんの腕にぴったりと身体をくっつけて、びくびくと肩を震わせながら泣きそうな表情を浮かべていたアメリアを見て、びっくりさせようとした俺は親父の後ろから声を掛けた。そうしたら震えていた彼女の肩は更にビクッとなって少し面白かったのを覚えている。


 ラインハーツ家は、貴族の中ではもっとも地位の低い…"なんちゃって貴族"と呼ばれているカテゴリーの中に入っている貴族だった。

 貴族には"最高貴族""上位貴族""中位貴族""下位貴族"の四つの呼び方があり、"なんちゃって貴族"というのはその中でも下位貴族と呼ばれている者たちの総称だった。


 本来ならば、そのカテゴリーの中に居る貴族の家の者は最高(上位も含む)地位の貴族の家の者とは関わってはならないという規則なのだが、俺の親父とラインハーツ家の当主であるラインハーツさんは幼い頃からの友人…謂わば"幼馴染"という間柄で、親父の顔もあるという事からラインハーツ家は特別枠としてこうして俺たち(ディー家)と関わり合いになる事を許されていた。


 アメリアは、そのラインハーツ家の一人娘だった。なかなか子宝に恵まれなかったラインハーツさん夫婦の間にようやく生まれた綺麗な朱色の髪を持つ女の子。親父に聞かされていたから、アメリアっていう女の子の存在だけは知っていた。


 そして、9歳の誕生日。

 俺とアメリアは、その場で親父たちに互いを婚約者だと紹介された。…たぶん、一目惚れだった。

 パーティー会場で初めてアメリアを見た時、まだ9歳ながらに胸の奥で何かが熱くなるのを感じていた。ラインハーツさんの腕にくっついてびくびく震えていた彼女はとても可愛かった。あまり覚えていないけど、おそらくその時から、俺はアメリアをからかい始めていたんだと思う。よく言う、"好きな子はいじめたい"ってヤツだ。


 そして、俺は少しやり過ぎてしまった。いつからか彼女は俺と距離を置くようになった。会話はかろうじてしてくれるものの、どこか俺とは一線を引いている感じで。寂しくもあり、自業自得だからしょうがないってのもあり、なんだか複雑な心境だった。だから、この想いは一生彼女に届く事はないと思っている。


 もし、もう一度人生をやり直せるなら、すぐにでもこの時に戻って彼女との関係を修復したい。


+



「アメリア。もう帰ろう。日が暮れる」

「アイシクル。ちょっとこっち来て!」

「ん?」


 腕を解いて空を見ると、もうすぐ夜になろうとしていた。

 そろそろ危ないかもな。と思いつつアメリアに声を掛けると、彼女は手招きをして俺を呼ぶ。近付けば、彼女は俺の方に顔を向けて口を開いた。


「アイシクル。光の魔法使えたわよね?それ出してくれない?」

「何で?」

「…ここに何か書いてあるの。暗くてよく見えないから。照らして欲しくて」

「……………」


 アメリアは言う。

 何が何だかわからないが、俺は彼女に言われた通りに手のひらを回してその上に光の球を出現させた。アメリアはそれを柱の傍まで近付ける。光の球に照らされた柱には薄くだが文字が刻まれていた。


「…文字?」

「"炎の精霊、ここに眠る"?」

「えっと、…"炎の精霊の力を解放せし時、依代(よりしろ)となる者の魂には証として紋章が刻まれる"…。なんだこれ?」


 よくわからず首を傾げる。

 うーん。と悩んで、アメリアは眉をひそめた。そこで俺はその下にも文字が刻まれている事に気付く。


「…"我の(あざな)を呼びし時、我は汝の前に現れん。…我の字は"」


 《イフィアド》


 文字を読む。すると次の瞬間、大きな音を立てて柱にヒビが入った。ヒビは文字が刻まれている箇所から縦方向に伸びていって、最終的には柱を真っ二つに割ってしまう。

 倒れこそはしないものの、二つに割れた柱を見て、俺とアメリアは目を見開いた。


「アイシクル、何したの?」

「何も…。ただ、字を読んだだけ」


 俺たちは顔を見合わせる。

 と、そこで柱の割れた所から無数のトゲが付いた蔦のようなものが這い出てきた。一本、二本、三本。止まる事なく出てくるそれに俺はアメリアの腕を引いて足を一歩引く。そしてそれが柱全体を覆うと、今度はその中心に炎の球体が現れた。


「…何だ?」


 頭に"?"を浮かべる。

 炎の球体から熱が伝わってくる。アメリアを見れば、彼女はその球体を見つめて不安なのか眉を下げていた。


『我が(あざな)を呼んだのは貴様か?』

「!」

「えっ、何この声?」


 突然声が聞こえて、アメリアは俺の腕にくっつく。アメリアは不安や恐怖を感じる時、こうして誰かにくっつく癖があった。

 声はどうやら、炎の球体から出ているみたいだ。


『我が(あざな)を呼んだのは貴様か?』


 もう一度聞いてくる。

 その声に眉をひそめて警戒しながら応えると、炎の球体は勢いよくその場で回転を始めて俺たちの周りに炎の渦を作り出した。渦は次第に俺たちの身体を完全に包み込み、逃げ場を閉ざしてしまう。


『問おう。我の依代(よりしろ)と為りし者に』


 そして三度(みたび)声が聞こえた時、俺の目の前が一瞬で暗くなった。



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