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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第4章「時は戻り、幼少へ」
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女の子たちを街に帰そう ※トウマ視点





「…で、連れ帰ってきてしまった。と」

「はい」


 結局、俺に出来る事は小屋に連れて帰るしかなかった。


 事情を話すと、ローデンさんは腕を組んでテーブルの前に座る二人の女の子を見つめる。彼女たちはローデンさんが作ったおにぎりを食べていた。


「どうしましょう?」

「どうしましょう? って、そんなん街に帰すしかあらへんやろ」

「街って、ここからどれくらいの所にあるんですか?」

「あー、…と。確かそんな離れてなかった気するけど、地図見てみんとわからんな」


 ちょっと待ってり。と、ローデンさんは俺から離れ、隣の部屋から地図を持ってくる。


 俺たちが住んでいる小屋は森の奥地。そこを指差して付近の街までまっすぐなぞっていくとそこまで遠い距離ではなかった。


「良かった。そこまで遠いってわけでもありませんね」

「この距離やと、今から出ても着く頃には夜になってまうな」

「でも、早く帰してあげないと、あの子たちの両親が心配しますよ?」

「せやねんなぁ。そこも考えなあかんねん」


 はぁ。と、ローデンさんは溜め息を吐く。とにかく、今は女の子たちを街に帰す事が先決。考えていると、どんどん時間が過ぎていってしまって、夜に到着云々の話ではなくなってしまう。


 とりあえず、俺たちは彼女たちを連れて小屋を出た。おにぎりは歩きながらでも食べられるので大丈夫。


「…そういえば、リィドさんは何処に?」

「ん? ああ。リィなら今はアイシクルくんのとこや」

「アイシクルの?」


 何故? と、首を傾げる。


「この頃のリィはアイシクルくんの病気の世話してるんよ」

「病気? アイシクル、どこか悪いんですか?」

「そんな心配する事やない。病気っつっても命に関わるような重いもんやないし、トウマくんが知ってるように未来のアイシクルくんはピンピンしとるやろ?」

「……、」


 病気。と聞いて少しだけ焦る。でも、言われてみれば確かに俺が知っているアイシクルはとても元気だ。しかし、心配はないと言われても病気だと知ってしまえば心配はする。


 リィドさんが付いているから大丈夫だという話だけど、少し様子を見に行きたいな。難しいだろうけど。


「ねー! 本当にこっち?」


 話していると、前を歩いていた女の子たちが振り向いて声を掛けてくる。


「ああ。地図見たから間違いあらへん」

「その地図信用出来るの?」

「地図に信用も何もないやろ。ええから子供はお兄さんの言う通りに歩いてなさい」


 軽くあしらうように言うと、その言葉に不満があったのか茶色の髪の女の子の方が眉を寄せて頬を膨らませる。


 その顔のままそっぽを向いて、それを見たローデンさんは肩をすくませて後頭部で手を組んだ。


「…、しっかし、こうして見るとやっぱりシャスティアちゃんなんやなぁ」

「?」

「時の番人とかやってるとさ、たまにあるわけよ。時を戻す前に知り合いだった奴と、時を戻した先で偶然再会するってやつ。当たり前やけど、そいつの見た目全然違くてさ、ちょっと混乱するんやけど、話してみたら"ああ、やっぱりこいつやな"って思うんよ」


 ローデンさんは言う。


 そう言っている時の彼の表情は、なんだか寂しそうだった。


+


 小屋を離れてからしばらく経って、俺たちは縄と木で出来た吊り橋のある場所に到着した。何十メートルもの距離がある長い吊り橋。幅は二人並んで少し窮屈になるくらいで、それほど古くはなく、俺たち四人が同時に橋の上に乗っても大丈夫そうな造りをしていた。


 足を踏み入れれば、ギシギシと音を鳴らして、風が吹けばゆらゆらと揺れる。壊れる事はないから大丈夫。と思っていても、だいぶ恐怖は感じるものである。


「あ、あの、ローデンさん」

「なんや?」

「俺、今改めてわかった事があります」

「…言うてみ?」

「……、」


 橋の下を見てみる。


 暗くて、底がどうなっているのかわからない。それだけで余計に恐怖が増していく。


「やっぱり、俺…この橋めっちゃ怖いです」


 揺れてますし。


「おお。よく言えたなトウマくん。恐怖心を隠さず人に言うてくなんて偉いで」

「ローデンさんは怖くないんですか?」

「ん? んー。怖いか怖くないかで言うたら、まぁ、怖くはないな」


 見ると、女の子たちも怖がる様子はなくすいすいと吊り橋を渡っていた。


「ほら、トウマくん。さっさと歩き。なんなら手を引いてやろうか?」

「…だ、大丈夫です。一人で歩けます」


 言って、俺は縄から手を離して足を進める。ゆっくりと、そして確実に。一歩一歩。大丈夫。下を見ないで脳内で歌を歌っていけばいつの間にか渡り終えているさ。


「…ねぇ、アンジェラ。吊り橋効果って知ってる?」

「なあに、それ?」

「今、あたしが読んでるロマンス小説にね。その言葉が書いてあったのよ。こういう、吊り橋とかの恐怖や不安を感じる場所で出会った男女は後に必ず恋愛に発展するってものなんだけど…」

「そういうのがあるの?」

「うーん。わかんないけど、あるんじゃないかな? あたしはあんまりそういうの信じてないけど」


 女の子たちが何か話している。


 会話の内容までは聞き取れなかった。怖くてそれどころじゃないから。


[ピイイィヤアアアッ!!]

「「?」」


 すると、その時どこからか甲高い声が聞こえてきた。ローデンさんと顔を見合わせ、どこから聞こえてきた声なのかと捜してみると、その声はどうやら空からのものらしく、俺は顔を上げて空を見上げる。


 空を見ると、そこに居たのは鳥だった。大きな二つの羽を羽ばたかせた巨大な灰色の鳥。そいつは鋭く尖った(くちばし)を大きく開けて俺たちを睨み付けている。


「うっわ、なんやあれ?」

「鳥、ですね」


 ピヤー。と、再び鳴き声をあげて、鳥は勢いよく俺たちに向かって急降下してくる。


 目にも止まらぬ速さ。とは、まさにこの事だろう。その鳥は素早い動きで俺たちと女の子たちの間に割って入り、あっという間に縄を切り裂いた。縄が切られた事で吊り橋はバランスを崩し、俺たちはそのまま足場を無くして落ちそうになる。


「きゃあ!?」

「っ、」


 吊り橋が真っ二つに引き裂かれて、一方は俺たちの小屋があった方へ、もう一方は街のある方へと垂れ下がる。


 かろうじて縄と木の両方に手を掛け、俺は隣にぶら下がっている青色の髪の女の子の身体を支えた。


「…っ、大丈夫?」

「あ、は、はい。なんとか。…でも、シャスティアちゃんは?」

「! そうだ、ローデンさん! …ローデンさん!!」


 キョロキョロと辺りを見渡して、ローデンさんを捜す。しかし、どこを見てもローデンさんの姿はなかった。もう一人の女の子の姿もない。


 もしかして、二人は落ちてしまったのか。


[ピイイィヤアアア!!]


 まだ鳥の声がする。


 ここに居ては危ないと、俺は青色の髪の女の子を支えながら急いで吊り橋を登った。今の状況で"怖い"とか言ってられない。


「…はぁ、はぁ」


 なんとか吊り橋を登りきって、荒くなった息を整える。見ると、吊り橋は完全に吊り橋としての役割を失っていた。


「シャスティアちゃん、もしかして落ちちゃったの?」


 女の子は言う。今にも泣きそうな表情だ。


 俺は、彼女の頭に手を置いて口元を緩ませる。


「大丈夫だよ。きっと。ローデンさんも一緒だと思うし、すぐにまた会える」

「…うん」


 そうは言っても、不安そうな彼女の表情は変わらない。


 ローデンさん、無事だといいけど。


[ピイイィヤアアア!!]

「「!」」


 鳥の声が、すぐ近くから聞こえる。空を見ると、鳥は再び俺たちの元へ急降下してきそうな雰囲気だった。


 俺はズボンのポケットからクリスタル・ウェポンを取り出して、シヴァリウスを呼び出す。氷の剣を構えて、女の子を背後に隠した。


[ピャー!!]

「…お兄ちゃん、」

「大丈夫。俺の後ろに隠れていれば問題ないよ」


 そして鳥は、俺たちに向かって急降下で飛んでくる。炎の魔法で速度を落とそうかと考えるが、それはあまり意味がなさそうだ。


[ピヤー!!]

「っ、」


 ドラゴンの時のように、一撃で仕留められるか。いや、それは流石に出来ないだろう。あのドラゴンもスライムたちと同じで主さんが使役していた魔獣だった。あの時は結論には至らなかったけれど、おそらく主さんが弱体化していてくれたのだと思う。


 だけど、あの鳥は野生だ。誰にも飼われてはいない。強さもあのドラゴンとは桁違いだろう。考えている間でも、鳥の急降下は止まらない。とりあえず、一か八かやるしかないと、そう思った俺は剣を構えて、落ちてくる鳥目掛けて技を放とうとした。


[ピギャーッ!!]

「え?」


 けれどそれは不発に終わる。何故なら、俺が技を放とうとしたその前にどこからともなく雷を纏った矢がものすごい勢いで飛んできて、鳥の身体に命中したからだ。


 それを見て、矢の飛んできた方向に顔を持っていくと、そこに居たのはローデンさんだった。吊り橋があった所にふんわりと浮かぶ形でその場に居るローデンさんの手には弓が握られている。きっとあの弓で鳥に攻撃したんだ。


「ローデンさん!」

「ふぅ、…なんや危なかったなトウマくん。無事で何よりやで」


 ローデンさんの身体に抱き付いていたのは、茶色の髪の女の子。弓を宝石の形に戻して、彼女を抱えると、ローデンさんは俺たちの元へ。


 ストンと地面に足を付け、茶色の髪の女の子は俺の背後に隠れていた青色の髪の女の子に抱き付いた。


「アンジェラ! 良かった! 無事だった!」

「シャスティアちゃん!」


 泣き始める女の子たち。


 シヴァリウスを宝石に戻して、俺は肩を落とした。


「ありがとうございます、ローデンさん。助かりました」

「ナイスタイミングやろ?」

「でも、よく登ってこられましたね。橋から落ちたんでしょ?」

「ん? ああ。あん時はマジで死ぬかと思うたけど、シャスティアちゃんの風の魔法で助かったわ」


 聞くと、ローデンさんはケラケラと笑う。


 風の魔法。……だから浮いていたのか。


[ピ、ヤ…]

「!」

「…なんや、まだ生きてんのかい」


 鳥の声が微かに聞こえてくる。


 矢が身体に突き刺さっていて、そこから赤黒い血が流れていた。近付いていって、ローデンさんは矢を抜く。


「まぁ、こんな矢一本で死ぬとは思わへんけどな」

[ピヤー…]

「ローデンさん。どうするんですか、こいつ?」

「うーん。…こいつのせいで時間を浪費してしもうたからなぁ。本来ならこのまま蒸し焼きにしてもええんやけど」

「……」


 ………蒸し焼き。


「そや。こいつ使うて街まで行こう!」

「え?」

「その方が格段に速いし、こいつの速さなら夕方までには着く。…うん。我ながらええ考え!」


 言うと、ローデンさんは鳥の怪我を治癒魔法で治し始める。


 自分で攻撃しておいて自分で治してあげるって変な光景だけど、…まぁ、けど確かにその方が歩いていくよりは全然良いか。


「…ほい。完了!」

[ピャ? ピャー!]

「すまんなぁ、攻撃してもうて。でもあんさんも悪いんやで? 急に来るから」

[ピャー]


 鳥は、お礼を言っているのかローデンさんの顔にすり寄る。


 どうやらこの鳥はただ気が立っていただけのようだ。


[ピャー!]

「うん。ありがとうな」


 鳥は、俺たちに背中を見せる。


 乗れ。と言っているのか。


「ほら、女の子たち。泣くのはそれぐらいにして行くで」

「! …え、まさかその鳥で行くの!?」

「…ぐす」

「大丈夫や。もうこいつはわいらを襲わへんよ。襲い掛かってしもうた詫びに街まで乗せてってくれるってさ」

[ピヤー!]

「…冗談でしょ」


 よっこいせ。と、ローデンさんは鳥の背中に乗る。茶色の髪の女の子は恐る恐る鳥に近付いて、眉をひそめた。


 手を伸ばすと、女の子はその手を取る。


「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「安心せえ。こいつは安全や。わいが保証する」

「…ふ、ふんっ。これで安全じゃなかったらあんた恨むからね!」


 言って、茶色の髪の女の子も鳥の背中に乗る。


「……」

「ほら、アンジェラちゃんも」

[ピャー]

「ひっ、!」


 青色の髪の女の子の方は、まだ鳥が怖いようで、なかなか乗ろうとしない。


 それを見て、俺は女の子の身体を抱き上げて無理やり鳥の背中に乗せた。そのすぐあとで、俺もそこに乗り、彼女のお腹に手を回す。


「きゃあ!?」

「大丈夫。もし何かあったら、俺が居るから」

「お兄ちゃん…」

[ピャー!]

「いやん。トウマくんカッコいいねぇ。惚れてまうわ」

「…早く出発してください」

「はいよー。行くで鳥ちゃん。目指すはここから東にある街や!」

[ピャー!!]


 そして、鳥は羽を羽ばたかせて飛び始める。怖いのか、女の子は俺の腕をぎゅっと握って目を閉じていた。大丈夫と言い聞かせるように、女の子のお腹に回している腕に力を込める。………。俺も、ちょっとだけ怖い。


 遥か上空まで飛べば、東の方向に街が見えた。その街を視界に捉えて、鳥は羽を広げて優雅に飛行を開始した。


+


 時刻は夕方。


 鳥のおかげでだいぶ時間を短縮出来た。街の出入り口に降り立ち、俺たちは鳥の背中から降りる。


「よーし、到着! ごくろーさん!」

「はぁ、一時はどうなるかと思ったわ」

「本当やで」

[ピャー]


 俺たちから離れて、女の子たちは街に入る。


 俺たちと女の子たちは向き合い、お互いに大変だったなぁと笑いあった。


「そんじゃ、ご達者で。もう森には入るんやないで」

「ありがとうございました。お兄ちゃんたち」

「かまへんよー。…さて、帰ろうかトウマくん」

「はい。…って、また鳥に乗るんですか!?」

「当たり前やろ。その方が早く帰れる。そろそろリィも戻ってくる頃やろ。それまでには小屋に着いとらんと」


 よいしょ。と、ローデンさんは再び鳥の背中に乗る。


 まさかまたあの空の旅をしなければいけないとか。俺としてはもう勘弁なんですけど。


「ほら、何してんねんトウマくん。さっさと乗り」

[ピャー!]

「…はい」


 すっかり、この鳥は俺たちに慣れた様子。さっきまで敵対してたとは思えない。はぁ。と、溜め息を吐いて、俺も鳥の背中に乗った。そして、俺たちを乗せた鳥は再び上空へ。それを見送り、女の子たちは手を振った。


 目指す小屋までは距離がある。それまで鳥の背中に乗ってなきゃいけないなんて、それなんて罰ゲームよ。


「…行っちゃったね」

「…、アンジェラ」

「ん?」

「さっきあたし、吊り橋効果の話をしたじゃない?」

「うん」

「あれ。あながち間違いじゃないのかもしれないわ」

「…ん?」




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