やっぱり修行と言ったらスライム ※トウマ視点
[ぷにーっ!]
[ぷにぷにーっ!]
「……っ、氷結斬!」
勢いよく振り下ろされた氷の剣の先端から広範囲に尖った氷の刃が生み出され、目の前から襲い掛かる大量のスライムを一気に巻き込む。ドラゴンは流石にない! と小屋に戻った際にローデンさんに抗議してみた所、紆余曲折はあったけれど最終的には(渋々だが)わかってくれて、主さんに頼んでドラゴンの代わりに"初心者にも優しい魔獣"を(これも渋々)用意してくれた。これでようやくクリスタル・ウェポンの力を試す事が出来る。
ドラゴン相手だと、ドラゴンの方の力が強すぎて剣が真ん中から小枝みたいにポキッと折れてしまっていたから、全然修行にならなかった。やっぱりスライムはやりやすい。
「炎よ燃えろ! フレイム!」
[ぷにーっ!!]
氷の剣を振ったあと、炎の魔法を固まって身動きが取れなくなったスライムに喰らわせる。ボワウッと一瞬だけ大きな音を立てて、氷と共にスライムは断末魔をあげながら溶けていった。その場には水色のスライムだった液体が残る。
炎の魔法の習得は、トールさんの指導の元、めっちゃスパルタだった事もあり数日でマスターした。
[ぷにぷに!]
「はぁ、……はぁ、」
もう何時間、スライムと戦ってるだろうか。手首と繋がっている氷の剣の先端を足元の地面に突き刺して少しだけ休憩。その間でも、スライムは無限湧きなので次々と地面からぴょんと飛び出してくる。
鳴き声なのか、ぷにぷにと鳴きながらぴょんぴょんと飛び跳ねるスライムたち。その内の一匹がせっせと俺の居る所までやって来て、ぴょこんと俺の頭の上に乗った。このスライムたち、主さんが使役している魔獣だからかとても友好的である。
[ぷーにー!]
「…はは。修行の相手してくれてありがとな。おかげでこいつの使い方もなんとなくわかってきた」
言いながら、氷の剣を見つめる。
リィドさんから貰った俺専用のクリスタル・ウェポン"氷の剣シヴァリウス"。刃と柄と鍔のすべてが氷で出来ている特殊な武器で、リィドさんから貰った時は紫色の歪な形をした宝石だった。
クリスタル・ウェポンは、時の番人にしか扱う事の許されていない特別な武器だと聞かされていて、もしもこれを時の番人ではない普通の人間が扱う事があればそれは重大な罪になるらしい。バレれば、それ相応の罰が待っているのだとも言っていた。罰、とは一体。
[ぷにぷにっ!]
「…、よし! 休憩終わり!」
剣を抜いて、片手でパンッと頬を叩く。頭に乗ったスライムが声をあげ、ぴょんぴょんと周りに居るスライムたちが勢いよく飛び跳ねた。
このスライムたちは本当に友好的である。友好的であるスライムたちを倒してしまって罪悪感はないのかと思われてしまうかもしれないが、罪悪感がないと言ってしまえば嘘になる。しかしこのスライムたちは、倒してしまっても結界の中で主さんが復活させてくれているみたいなので、まぁ、それならばいいかと割り切って倒しまくっている。
[ぷに? ぷにっ、ぷにっ!]
「? どうした?」
頭の上に乗ったスライムが何やら慌て始める。どうしたのかと思っていると、スライムたちも同じようにぷにぷにと騒ぎ始めた。もしかして、誰か近付いていてるのか?
「…スライムたち! 一旦解散! お前は俺と一緒に隠れよう!」
[ぷにっ!]
俺の指示を聞いて、スライムたちは一斉にバラバラに散っていく。頭の上に乗ったスライムは俺と一緒に木の陰に隠れた。
俺たちとスライムたちが居なくなって数秒後。その場には二つの人影が現れる。
「はぁ、はぁ…っ。な、なんなのあれ!?」
「けほっ、…。わ、わかんない。もしかして、あれが噂に聞いていたドラゴンなのかな?」
荒い息を整えながら、二つの人影は会話を始める。人影の正体は、二人の女の子だった。一人は茶色の髪の高そうなドレスを身に纏っていて、もう一人も青色の髪に高そうなドレスを身に纏っている。
俺は、その二人の女の子の姿を見てて、"ん?"と首を傾げた。何だか、何処かで見た事のある女の子たちだ。
「どうしよう。街から随分離れちゃったよ?」
「大丈夫よ! あたしたちが帰ってこないって事がわかればお父様たちが捜しに来てくれるわ!」
「…お父様たち、ここまで捜しに来てくれるかな? この森、立ち入り禁止区域でしょ?」
「心配する事ないわよ、アンジェラ! あたしと居れば大丈夫だから!」
……!。
あの女の子たちは、もしかして。
[ぷにっ!]
「…!」
女の子たちの様子を見ていると、スライムが突然声をあげる。それとほぼ同時にドスンと地面が揺れ、どこからともなく声のようなものも聞こえてきた。
それは女の子たちにも聞こえていたようで、彼女たちはピクリと肩を震わせて自分たちの周りを見渡す。するとその数秒後、密集している木を薙ぎ倒して巨大な生物が咆哮をあげながら彼女たちの前に現れた。
[グオオオオッ!]
「……!?」
巨大な生物の姿を見て、俺と彼女たちは目を見開く。あれは、ドラゴンだった。俺が"ドラゴンは流石にない!"とローデンさんに抗議する元凶となった魔獣だ。
緑色の皮膚にゴツゴツとした鱗、背中には二つの大きな羽が生えていて、口から覗く鋭く尖った牙と射貫くように睨みをきかせた二つの瞳がその凶悪さを強調させている。どうしてあんな所に。というか、何で放置してるのあんな危険なもの。
「っ、もう追い付いてきた!」
「…っ」
グオオオオッと、再び咆哮をあげる。
大きな声に吃驚して、二人はその場に尻餅を付いてしまった。すぐに立ち上がる事が出来ず、彼女たちは少しずつ後ずさる。
[グオオオオ!]
「な、何よ! 別に、あんたなんて怖くないんだから!」
「シャ、シャスティアちゃん……」
鋭い眼光が、彼女たちの姿を捉える。
今にも食べてしまいそうな雰囲気に、俺は眉をひそめて剣を強く握った。
[グオオオオッ!]
「「!」」
ドラゴンは彼女たちを睨み付け、そして襲い掛かる。
このままだと彼女たちは本当に食べられてしまう。迷っている暇はないと、俺はその場から走り出して氷の剣を振り上げた。
「っ、氷結一閃!」
剣を橫に振って、勢いよく氷の刃を放つ。その一撃は見事にドラゴンに命中してダメージを与えた。
氷の刃が当たった瞬間、ピキピキと音を立ててドラゴンの身体が氷の膜に覆われていく。ドラゴンは苦しそうに咆哮をあげて、やがて全身が氷漬けとなりドスンと地面に倒れた。ドラゴンが動かなくなったのを確認して、俺は肩を落として溜め息を吐く。
[ぷーにー!]
「…た、倒しちゃった」
吃驚。何で倒せたんだ。
「あ、」
ハッとして、俺は女の子たちの方を向く。二人は怯えた表情を浮かべながら俺を見つめていた。
目線を合わせるようにしゃがみ、大丈夫かと聞いてみる。すると、安心したのか青色の髪の方の女の子が突然泣き始めた。
「ふえぇぇぇぇん!」
「な、泣かないでよアンジェラ! アンジェラが泣くと、あたしまで…っ、ひっく」
「……」
よほど怖かったんだな。そう思いながら、彼女たちの頭にポンと手を置く。それが引き金となって、茶色の髪の女の子の方も涙を浮かべて泣き始めた。
頭の上に乗ったスライムが、慰めるように、ぴょんと彼女たちにすり寄る。
「「ふえぇぇぇぇん……!」」
「……、」
やっぱり、この二人は……。
+
「ひっく、うぅ…」
[ぷにー?]
しばらくして、彼女たちの泣き声は収まってきた。彼女たちが泣いている間、俺はシヴァリウスを元の宝石の形に戻して、ドラゴンの様子を観察したりしていた。
ドラゴンは流石にない。とか言っておきながら全然倒せてしまった。最初に戦った時は歯が立たないくらいにめちゃ強だったんだけど、本当、どうして倒せたんだろうか。俺が成長したのか。それともドラゴンが弱体化したのか。
「あ、あの…」
「?」
考えていると、声を掛けられた。
振り向くと、女の子たちが俺を見上げていて、青色の髪の女の子の方がスライムを抱えていた。
[ぷにー]
「た、助けてくれて、ありがとうございました」
恥ずかしそうに言った青色の髪の女の子に対して、茶色の髪の女の子の方は眉をひそめて不服そうな表情を浮かべている。
そんな彼女たちの顔を見て、俺は口元を緩ませて笑った。
「どういたしまして。君たちが無事で良かった」
「…ほら、シャスティアちゃんも。お礼言わないと」
「あたしはいいわよ」
「ダメ! 助けてくれた人には感謝しないと!」
「……」
言われて、茶色の髪の女の子は更に深く眉をひそめる。
そして、腕を組んで彼女はそっぽを向きながら"ありがとう"と小声で言った。
[ぷにぷに!]
ぴょんと、スライムが俺の頭の上に乗る。
どうやら、頭の上が気に入ったようだ。
「君たちは、街から来たんだよね?」
「はい」
「どうしてこの森に?」
「それは、」
「ドラゴンの噂を聞いたからよ」
「?」
ドラゴンの噂?
「最近、街の近くにある森の中でドラゴンを見たっていう噂が広まってて、そんなの嘘に決まってると思って試しに来てみたの」
「…そしたら、本当に居た。と?」
「……」
女の子たちは顔を見合わせる。
森で見たドラゴン。街で噂になってたのか、知らなかった。主さんたちも知らなかったのかな。
「!」
するとそこで、茶色の髪の女の子の方のお腹が鳴る。
音が鳴った瞬間、彼女は顔を赤くして恥ずかしそうにお腹をおさえた。
「ふふ。安心したらお腹が空いたね」
「っ、お、お腹なんて鳴ってないわよ!」
[ぷにぷに!]
…そういえば、そろそろ日も暮れてくる時間か。俺も、少し小腹が空いたな。
「君たち、帰り道はわかる?」
彼女たちに、街に帰れるかどうか聞いてみる。しかし彼女たちは互いに顔を見合わせたあとゆっくりと首を振った。
まぁ、それもそうだ。ドラゴンに追い掛けられていたみたいだったし、走ってきた道なんて覚えてないよな。
[ぷにー]
「…うーん」
顎に手を添えて考える。
どうしよう。俺も、街への行き方はわからない。
[ぷに。ぷに]
スライムが、頭の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
考えて考えて、考え抜いた結果。俺が導きだした案は。




