トウマくんは修行中 ※ローデン視点
「ご飯やでー!」
南の国シャーレにある西の森。"盗賊たちの住処"と呼ばれているこの森の奥地に、木が仰山密集している場所があった。その仰山ある木の中にポツリと建っている一つの小さな木造の小屋。その小屋の中にわいらは住んでいた。
木造のテーブルの上に今日のお昼ご飯を並べて、隣の部屋に居るもう一人の住人を呼ぶ。そいつは呼んでから数分もしないうちに歩いてきて、両手に抱えていたロボを足元に置いた。カタカタと音を立ててロボが動き出して、わいの元に近付いてくる。
[ローデン。ゴハン。ゴハン]
「…あん? なんやこいつ?」
「昨日言ったろ? 森の中でロボット拾ってきたって。そいつがそう」
足に思い切りガシガシぶつかってくるロボを見て、眉をひそめて首を傾げる。縦と横の幅が10センチ前後くらいの真四角のロボ。踏んだら簡単に壊れてしまいそうだ。
「昨日のロボ? え、これ昨日のロボ? 直したんか?」
「ああ。何かの役に立つかと思って」
ロボを抱えてやって来たリィは言いながら口元を緩ませる。わいはそのロボを拾い上げて、テーブルの上に置いた。
このロボの名前は、ピーロボというらしい。リィが直接付けたわけではなく会話機能を直した際に自分から勝手に名乗ったのだそうだ。
[ローデン。ゴハン。ゴハン]
「ご飯って言われても。こいつ何食うんや?」
そもそも何か食うんか。
[ボクノゴハン。オイル。オイル。ジョウシツナオイル]
「オイル? 油の事か? …油は生憎食用のしかないんやけど。それでもええんか?」
「ピーロボは基本何でも食べるらしいから、食用でも大丈夫だ」
[ゴハン。ゴハン]
「…そうなんね。じゃあ、ちょっと持ってくるわ」
油、油っと。
言いながら、わいは台所に行って食用の油を取ってくる。その間に、リィはテーブルの椅子に座って目の前に並んでいるお昼ご飯を見た。
「…これ、お昼か?」
「ん? うん。そうやで」
「何でお好み焼きなんだ?」
「ええやんか、お好み焼き。久しぶりに食べたかったんや」
[オ、コーノミヤーキ?]
「お好み焼きはわいの好物やねん。覚えときピーロボ」
[ピー。ローデンノコウブツ。オ、コーノミヤーキ]
「何で区切って伸ばしてんねん。お好み焼きや。お好み焼き。伸ばさんでも区切らんでもええ」
[オ、……オーコノーミ、ヤーキー。ヤキー。オーコーノーミーヤーキー。オコノミターキー]
「何で最後鶏んなんねん」
身体の両端から同じく10センチ程の手を生やして、その先っぽでロボ…ピーロボはお好み焼きに触れる。
何をするのかと思いながら見ていると、熱々のお好み焼きを一口サイズにちぎって、身体の表面にベチャッと勢いよくそれを乗せた。荒く乗せたためにソースが広範囲に飛び散る。…ってかそれわいの分のお好み焼きなんやけど。
[ピー。ピー。カイセキチュウ。カイセキチュウ]
「…あー、こいつ何してんの?」
「さぁ…」
リィにもわからないらしい。
[カイセキカンリョウ。オコノミターキー。オモナザイリョウハ、シロイコナ。コイメノソーストキャベツトベーコン。アトアオノリ。オコノミターキー。オイシイタベモノ。オイシイタベモノ]
「お好みターキーやなくてお好み焼きな」
[オコノミターキー]
「……」
あかん。オコノミターキーで覚えてしまった。
そしてピーロボは、お好み焼きを元の場所に戻す。勢いよく戻したため、またもベチャッとソースが飛び散った。
[オコノミターキー]
「…はぁ」
作り直したいけど、今から作り直すのは流石に面倒やからもう我慢しよう。食えば同じや。
「それはそうと、まだ帰ってきてないんだな」
「ん?」
「トウマ」
「トウマくん? …ああ。そうやね。たぶんそろそろ帰ってくると思うよ」
「ただいまでーす」
「お。噂をすればや」
噂をすればなんとやら。そこで、小屋の扉が開いてトウマくんが帰ってくる。トウマくんは紐で結ばれた薪を脇に抱えていた。
おかえり。と、わいとリィが口を揃えて言うと、トウマくんは薪を扉の傍に置いてリィの隣の椅子に腰を降ろす。
「おつかれさん、トウマくん。お昼はお好み焼きやで」
[オコノミターキー]
「…この匂い、やっぱりお好み焼きだったんですね。でも、何でお好み焼き?」
「食べたかったんだって」
「そうなんですか」
[オコノミターキー]
「…で、このロボットは?」
「リィが直したんやて。昨日のぶっ壊れロボ」
「えっ、リィドさんが!?」
[ピーロボ。ピーロボ。リィドニタスケラレタ。オンジン。オンジン]
「恩人は大袈裟だけど……」
「凄いですね。ロボット直せるなんて」
[オコノミターキー]
手を伸ばして、トウマくんはピーロボに触れる。あとでソース拭き取ってあげよう。
「それで、修行の方はどうやったん?」
そして、わいもテーブルの椅子に腰を降ろし、リィとトウマくんと一緒にいただきますと両手を合わせてからお好み焼きを食べ始める。
お好み焼きを食べながらの会話の内容は、トウマくんの修行の事。ピーロボにちぎられた一口サイズのお好み焼きを口に入れて聞いてみた所、返ってきたのは"かなり厳しかった"との言葉。厳しかったとはこれいかに。
「薪拾いは、まぁ簡単でしたよ。薪を拾うだけですから。…でも、そのあとの」
「ドラゴン退治?」
「そう。そのあとのドラゴン退治です。それが厳しかったんです」
「どの辺が?」
「全部です。ドラゴンって確か、俺が認識してるものだと最強の生物じゃないですか。何でそんな生物を修行に使うんですか?」
「修行って言ったらドラゴン退治やろ?」
それはローデンだけだろ。ポツリとリィがお好み焼きを食べながらが呟く。
「ドラゴンって、ゲームとかだと終盤辺りで出てくるモンスターですよ? 序盤ではまず出てこない生物なんです。まだまだ旅に出たての冒険者には荷が重い生物なんです! 何でそんな生物を修行相手に選んだんですか!」
「何でと言われても。わいも最初はドラゴン退治から入ったんやで? リィもそうやろ?」
「…俺は無難にスライムからだった」
「え、そうなん?」
初耳なんやけど。
「ほら! やっぱり最初はスライムからですよね? 旅の始まりはやっぱりスライムですよね? ドラゴンなわけないんです!」
「なんやトウマくん! 折角わいが用意してやったのに難癖か!?」
「修行相手を用意してくれるのはありがたいですけど、最初にドラゴンはないです!ドラゴンは最後の難関として出してください!」
「なら他に何を出せばええんや?」
「スライムです! スライム! 水色の可愛い奴です! ぷにぷにした! 主さんとかに頼めば無限に出せるでしょう!」
わいとトウマくんの言い争いは徐々にヒートアップし、ついにはお好み焼きなど食べる余裕などなくなるくらいになった。
お互いに立ち上がって、テーブルを挟んでの言い合いはそれからしばらく続き、落ち着いてくる頃になるとお好み焼きはだいぶ冷めきっていた。
+
時は、アメリアちゃんの時間と世界の時間を巻き戻したあとに遡る。アメリアちゃんの他にも、わいとリィ、そしてトールくんはもう一人結界の中に招待していた。
それが、トウマくんだった。
《では、そこの少年。四月一日斗真の処遇について話し合おう》
トウマくんが目を覚ました直後に、わいらの主さんが結界の外から声を発する。その声の方に顔を向けて、トウマくんを真ん中に、わいらは顔を見合わせた。
「…というか、そもそもこいつはどこから来たんだ?」
腕を組んで、トールくんは言う。
トウマくん。本名・四月一日斗真。トウマくんは、リィが言うには空から隕石みたいに降ってきたらしい。
「どこからって、わいらと同じやないの?」
「別の世界からか? それはあり得んだろう。この世界にやって来れる人間は3人ではなかったのか?」
《確かにトールの言う通り、このマジュリアにやって来れる他世界の人間は3人が限度。だが、稀に例外が存在すると聞いた事がある》
「例外…。それがトウマ?」
《おそらく》
「主さんは、トウマくんがここに来る事はわからんかったんか?」
《私とて万能ではない。例外の者の存在を感知するのは難しい》
「……………」
主さんでも、トウマくんの事はわからず。結界の中でこの世界の全記憶を探ってみてもトウマくんのような例外は今までにないみたいだ。
うーん。と、顎に手を添えて考える。
「あの、さっきから一体何の話を……? 同じって?」
「トウマ。俺たちも君と同じなんだよ」
「え?」
「俺たち3人とも、トウマと同じ世界からこっちにやって来た人間なんだ」
「…は?」
リィは言う。
その言葉を聞いて、トウマくんはポカンとして、わいとトールくんの顔を交互に見た。
「それって、どういう…?」
「トウマくん。君はこっちに来る時に、テレビから手が伸びてきたってリィに言うてたらしいな」
「…はい」
「それ。わいらも経験しとるんよ。トウマくんみたいにテレビからっちゅーわけやないけど、おかしな手が伸びてきてグワーッていきなり掴まれて、はい異世界にポイってな」
「…ローデンさんたちも?」
「ほんで。右も左もわからんかったわいらを主さんは拾ってくれたっちゅーわけ」
《四月一日斗真》
「!」
《君の意見を聞きたい。君は、これからどうしたい?》
「…どうしたいって?」
《私たちは先ほど世界の時間を戻した。世界の命運を担う者たちの存在を失くしてしまったからだ》
「それと、アメリアちゃんの願いやからね」
「? アメリアの?」
《私たちはこれからもう何度目かもわからないやり直しを行う。斗真。もし君が生きたいと願うならば、君を私たちの仲間に迎えよう》
「仲間?」
「え、なんやそれ聞いてへんのやけど?」
《今考えた》
「……………」
主さんは言う。
主さんの言葉に、リィもトールくんも吃驚したようで互いに顔を見合わせていた。
「主、それはいくらなんでも」
《何。時の番人に定員オーバーなどないのだ。君たちがいいのならば、私は斗真を仲間に引き入れたい》
「…、どうするよ」
「…。俺は構わない。主が決めた事だからな。従うまでだ」
「…トウマ。君はどうするんだ?」
「……俺は」
トウマくんは考える。
しばらく時間が経つと、トウマくんは口を開いた。
「もし、仲間になったとして、元の世界に帰れる事は?」
《残念だが、この世界に来てしまった人間はもう戻る事は出来ない》
「…………」
トウマくんは、眉をひそめる。
わいらの仲間になる。という事は、トウマくんも時の番人になるという事。仲間が増えるのはわいにとっても嬉しい事やけど…。
《どうする、四月一日斗真》
「……………」
そして、トウマくんは口を開く。
トウマくんの返答は……。




