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精霊戦争記 ~異世界に転生した私が世界を救う話~   作者: aki.
第4章「時は戻り、幼少へ」
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魔法の師





 窓から射し込む光が眩しい。

 目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。


 寝ぼけ眼で起き上がって、周囲を見渡す。妙に子供っぽい部屋だ。その理由は、ベッドの近くに置いてあった鏡を見ればすぐにわかった。


「…ぁ、」


 鏡の中に映っていたのは子供だった。それは、子供の姿をした私だった。


 子供の頃の私。子供時代のアメリア・ラインハーツ。私は、無事に戻ってこられたようだ。


「アメリアー!!」

「!?」


 バンッと大きな音を立てて、部屋の扉が開かれる。声を発しながら入ってきたのは顎髭の生えた中年の男の人だった。私のお父様だ。


 お父様は私の姿を確認すると、一目散に駆け寄ってきて強く抱き締める。問答無用で頬擦りをしてくるから頬に顎髭が当たって少しだけ痛い。


「うーん。おはよう我が愛しい娘よ! 一つ歳を取ってまた一段と可愛くなったなぁ!」

「んん、おと、…パパ。お髭が痛い」

「ん? ああ、すまんすまん」


 子供の頃の私は、"お父様"ではなく"パパ"と呼んでいたため呼び方には気を付ける。


 …うむ。どうやら記憶は消えていないみたい。私の記憶は"記憶継承"というものを行ったため時間が戻っても消去されずにそのまま残っていた。ローデンさんの言っていた通りだ。


「さあ、今日は忙しくなるぞ! なんたって今日はアメリアの誕生日だからな!」


 お父様は言う。


 はて。お父様の言葉に首を傾げて頭の上に"?"を浮かべる。ベッド脇の棚の上に置いてある電子卓上カレンダーを見ると、今日は()の月の十日。私の誕生日の日付だった。なるほど。だからお父様はこんなにテンションが高いのか。


「9歳の誕生日おめでとう、アメリア。これからのお前も健康でありますように」


 お父様は私を抱き上げ、額に唇を押し当てる。お父様からのキスは久しぶりで少しだけくすぐったかった。



+


「アメリア。今日はお前に紹介したい人が居るんだ」


 その日の午後。リビングにて、お母様から受け取ったプレゼントの箱を開けていると、お父様が私に声を掛けてきた。


 紹介したい人が居るとお父様は言い、私の隣に腰を降ろす。この時期の私はまだ紙に包まれた箱の開け方がわからなくて下手くそだっため、周囲にはビリビリに破られた包み紙の紙切れが散乱していた。


「紹介したい人?」

「ふっふっふ。聞いて驚け。……なんと、今日からお前にも魔法師の先生が付く事になったんだ!」


 お父様は、ニッと口元を緩ませて笑う。その顔はまるで悪戯に成功した少年のようだった。魔法師とな。


「魔法師って、…あなた、よくそんなお金あったわね」


 キッチンからお母様がケーキの乗ったトレイを持ってやってくる。魔法師とは、そのままの意味で、魔法を教えてくれる先生の事だ。


 しかし魔法師を雇うには莫大なお金が掛かり、それ故、主にお金に余裕のある上位貴族や中位貴族の親が子供のために雇うのが一般的。到底、私たちのような下位貴族が手を出せるお人ではない。そんな雲の上のような人を雇えた? お父様が? 下位貴族なのに?


「実はさ、アメリアのために特別に魔法を教えてもいいって人が声を掛けてくれたんだよ」

「まあ」


 お母様から貰ったプレゼントの中身はオルゴールだった。蓋を開けるとゆっくりと音楽が鳴り始める。


 ピンク色と青色の宝石が蓋のあちこちにちらばったちょっと豪華なオルゴール。可愛い。


「約束をしてあるから、そろそろ来ると思う」


 そう言ったあと、玄関のチャイムが鳴った。来た来た。と、お父様は立ち上がってリビングを出ていく。魔法師の先生って一体誰だろう。考えていると、少し経ってお父様が私を呼んだ。お父様の声を聞いて、私はオルゴールをテーブルの上に置いて玄関へ。そこには、お父様と見覚えのある男の人が立っていた。お父様と喋っていた男の人は、近付いてきた私に気付くと此方に顔を向けて眉をひそめる。何でここに彼が。


「ああ、アメリア。紹介するよ。…って、紹介する意味はないか。知ってる人だもんな」


 はは。と笑って、お父様は眉を下げる。


「今日からアメリアの魔法の師をしてくれるトール・ディー君だ」

「……」


 お父様の後ろに隠れて、男の人…トールさんを見つめる。


 お父様に紹介されると、トールさんは私を見つめたまま口元を緩ませて柔らかな笑顔を浮かべた。


「よろしく、アメリア。アイシクルの誕生日パーティーで会って以来かな?」

「……」

「ほら、アメリア。ちゃんと挨拶しなさい」

「…、よ、よろしくおねしゃす」


 目線はトールさんの方を向けたまま、ペコリと頭を下げる。そこへ、お母様もやって来た。


 お父様とお母様とトールさん。3人は楽しそうに会話に花を咲かせている。その会話を聞きながら、私は少し疑問に思っていることがあった。


「……、」


 トールさんをじっと見つめる。


 ……どうして、トールさんは"そのまま"なのか。



+


 そして、私とトールさんは今後の事を話し合うために私の部屋へ。


 私の部屋に入って扉を閉めた瞬間、トールさんはそれまで浮かべていた笑顔を失くし、眉をひそめてベッドに腰を降ろした。先ほどまでの表情はやはり余所様用(よそさまよう)だったようだ。


「どうやら、無事に記憶の継承は行われたようだな」

「……」

「そうでなくては困るが、万が一という事もある。また"前"のような最悪な結果になっても迷惑だからな」

「…、」

「……、なんだ?」

「! あ、いえ…」


 何の了承もなく普通にベッドに座ったのは、まぁ、トールさんは上位貴族で私は下位貴族なわけだから別にいいとして。それよりも私が今気になっているのは、先ほども言ったように、トールさんの"そのまま"問題。私は首を傾げて、一体どういう事なのかと聞いてみた。


 トールさんの今の姿は、時間が戻る前の、結界という場所の中で話したトールさんの姿そのままだった。


「…ああ、これか。俺たちの時間は止まっているからな」

「?」


 止まっている?


「俺たち"時の番人"は、その名の通り"時を守護する者"。時を守護する者に時間は不要だからと、俺たちの主が俺たちの中から時間という概念を取り上げたんだ」

「俺たちって、もしかしてローデンさんやリィドさんも?」

「ああ」


 だから俺たちは、たとえ時間が戻ったとしても姿は変わらずそのままで居られる。と、トールさんは言う。


「…? でも、私、前に一度子供のトールさんに会った事ありますよ?」

「それは、リィドの魔法で幻を見させられていたんだろう。俺は、昔も現在(いま)もずっとこのままだ」

「……」


 なんとそれは吃驚。

 世の中には不思議な事もあるものだ。


「…で」

「で?」

「何故俺がお前に魔法を教える羽目になったのかだが、」

「あ。そうです。それも聞きたかったんです」


 トールさんのまったく変わらぬその姿が気になりすぎて、魔法の師の件を忘れかけていた。


「…お前の魔法の腕をある程度戦える所まで引き上げるためだ」

「魔法の腕、ですか?」

「ああ。本当は、俺ではなくリィドがこの件に関しては適任なんだがな。この時点では、お前はまだあいつとは出会っていないから、仕方なく俺が来たってわけだ」


 凄く不服そうな表情で、トールさんは言う。


「……確かに私の魔法の腕はリヴィスが居ないと絶望的ですもんね」


 自分の両手を見つめる。


 リヴィスと契約する前の私は、全魔法の中では比較的簡単と言われる水の魔法もまともに撃てた事は一度もなく、呪文を唱えて水の球は出現させる事は出来るのだけれどそれ以降がどうしても駄目で、周囲に居る人に迷惑を掛けてしまうのが常だった。そのおかげで、何度学校の先生に怒られた事か。


「前回の失敗の原因はすべてお前にある。その理由は沢山あるが、その中でもお前の魔法力の無さが一番を占めている。お前が少しでも魔法に長けた者だったならば状況は変わらずとも少しは粘れたのだろう」

「……」

「だからそれを改善するため、こうして俺がお前専属の"魔法の師"として稽古をつけてやろう。というわけだ。わかったか?」

「…は、はい。なんとなくわかりました」


 なるほど。そんな理由があって、トールさんは私の家にやって来たのか。


 魔法師を雇うのには、莫大なお金が掛かる。トールさんはお父様に何て言って私の魔法の師になるという事を伝えたのか。


「ちなみに、魔法師料は無料だ」

「!?」


 無料!?


「えっ、そ、それ、いろいろ大丈夫なんですか!?」

「金のためにやるものではないからな。それに俺の家には金が腐るほどある。今さらそんな小遣い程度にもならん金は不要だ」

「…さ、さいですか」


 うっわ。今さらっと凄い事言ったよ、この人。全国の下位貴族の人たちが聞いたら問答無用で発狂しそうな言葉だ。


 …で、でも無料なら我が家の家計にダメージは無いからありがたいっちゃありがたい。


「で、これからの計画だが」

「?」

「今日この時から五年。今から五年の歳月を掛けて、お前の魔法の実力を誰よりも高いものにする。もちろん、この俺の魔法力よりも高くだ」

「…え、」


 トールさんは言う。


 この時から五年。それまでに私の魔法の実力を誰よりも高いものにするって、結構な無茶を言いますね。


「前回以上の結果を残せ、アメリア。…ま、お手柔らかにはするつもりだから覚悟はしておけ」

「…えぇ、」


 そう言ったトールさんの表情は、今まで見た事もないくらいに清々しく不敵な笑みそのものだった。


 こ、これから大丈夫かなぁ……私。



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