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迷宮 ガーベラ・スカビオサ 2 ※ローデン視点





「もう、最悪ですわ! どうしてまた貴方と二人きりなんですの!?」

「どうしてと言われても…」

[一応俺も居るぞ]


 転送法陣によって、わいらが連れて来られたのは柱の中だった。眩しい光が止んだと思ったら、その場にはシャスティアちゃんしかなくて、辺りを見渡しても何処を見てもアメリアちゃんやアイシクルくんたちの姿はなかった。


 まぁ、そんな慌てんでも一緒に転送法陣で飛ばされてきたんだから何処かには居るだろう。という事で、わいはシャスティアちゃんと一緒にトコトコと何もない道を歩いている訳やけど、どうやらここは迷路みたいだ。


「右か左か。シャスティアちゃんどっちがええ?」

「どちらでも構いませんわ」

「……、」


 ツンツンとした口調で、腕を組みながらシャスティアちゃんはわいの質問に答える。アメリアちゃんから"シャスティアは怒ると結構長い"と言われていたけど、本当にここまでずっと彼女は怒りっぱなしだった。船の上で、船酔いが少しだけマシになっていた時に一度だけ謝ろうかと行動を起こした事があるけど、シャスティアちゃんはわいの姿を視界に映したくなかったのかことごとくわいの事を避けていて謝るどころの話ではなかった。


 それだけ、シャスティアちゃんは"根に持つタイプ"やと言うことで、これからどうしようかなと思うてる。


「…シェルはどっちがええ?」

[ローデンのお好きに]

「あんさんまでそないな事言わんといてくれへん? 会話のコミュニケーションぐらい取ろうや」


 肩を落として、溜め息を吐く。


 初っ端からこんな仲悪い感じやと、これから先前途多難やで。


[んー、じゃあ…。あの、花が咲いてる方]

「花?」


 シェルが指差した方へ顔を向ける。そこには確かに花があった。コンクリートの床から突き出したコンクリートの壁に沿って咲いている一輪の小さな花。わいは、その小さな青い花を見て息を呑んだ。


[ローデン?]


 花を見つめて表情を強張らせたわいに疑問を持ったか、シェルは首を傾げる。


[ローデン!]

「! あ、ああ、すまん。えと、花が咲いてる方な」


 あきらかに様子がおかしかったわいに眉をひそめて、シェルは"どうかしたのか"と聞いてきた。けど、その質問にわいは"なんでもない"と口を緩ませながら答えて、花のある左の道へ足を動かす。


「……、」


 青い花を横目に、シェルとシャスティアちゃんには悟られないように振る舞いながら心を静めて通り過ぎる。


 あの花はもう見ないものとばかり思っていたのに、地の精霊ノームちゃんたちはほんま意地悪やな。


+


[…ここは?]

「真っ暗ですわね」

「ちょい待ってな」


 辿り着いた先の扉を開けて中に入ると、そこは真っ暗で何も見えなかった。ポケットからクリスタル・ウェポンを取り出して、わいは自分たちの周囲を明るく照らす。


 クリスタル・ウェポンには二つの使い道がある。一つは魔獣と戦うための武器として使う道。もう一つは、ここみたいな真っ暗な場所へやって来た時に"灯り"として使う道。灯りとして使う場合はクリスタル・ウェポンを手にして真ん中に掘られた文字を軽く撫でれば淡く光るのでそれでOK。簡易懐中電灯の出来上がりや。


「あまり離れんとついてきや」

「そんなの言われなくてもわかっていますわ」


 クリスタル・ウェポンの灯りを頼りに足を進める。真っ暗なとこに来たと言っても迷路なんは変わらんのやね。当たり前やけど。


[…こうも暗いとさっぱり道がわかんないな]

「心配あらへんよ。わい、こう見えて迷路は得意なんや。今まで通ってきた道の地図はだいたい頭に入っとる。ドンと頼ってくれてええよ」

[ドンとねぇ…]

「シャスティアちゃんも頼ってくれてかまへんよ」

「誰が貴方なんかに頼るものですか。それと、ちゃん付けはやめてくださる?」

「…、なんでや?」

「貴方にちゃん付けされる筋合いはないからです」

「ちゃん付けは嫌か?」

「私はもう子供ではありませんわ」

「……そうか。なら、考えてみるわ」


 わいから見れば、シャスティアちゃんはまだ子供の部類なんやけどなぁ。学生やし。アメリアちゃんと同い年くらいやろうし。シャスティアちゃんの言葉に応え、彼女の今後の呼び方について考える。ちゃん付けが嫌となると、選択肢が呼び捨てか名字呼びになるんやけど。呼び捨てやとめっちゃ怒られそうやし、名字呼びだとなんか変やし。どないしたらええの。


[…っ、ローデンストップ!]

「!?」


 シェルの大声に吃驚して、足を止める。どうしたんだと顔を向けると、シェルはわいの足元を指差した。見ると、そこには足場がなく、わいは目を見開いて足を引かせる。


 灯りで前方を照らせば、ずっと先の方まで足場がなかった。両端のコンクリの壁はあるのに足場の道だけごっそりないって、迷路にありがちな罠だ。


「…っ、あっぶな。あと少しで落ちるとこやったわ」


 シェルに止めらていなかったら今頃まっ逆さまに落ちていて最悪死んでいた。本当に危ない。考え事をしながら歩くのは止めなさい。って、そういや前にリィに言われたな。危ないからって。


[引き返すか?]

「…いや。引き返しても他に道なんてあらへんよ。どう考えても、ここを行くしかない」

[どうやって行くんだ?]

「んー。…飛んでく? 走り幅跳びみたいに」

[それは無理だろ。見た限りじゃ結構遠くの方まで足場はないぞ]

「なら、シェルがわいら抱えて飛んでくとか」

[一人ならまだしも二人も抱えられん。それに、魔力が持つかどうか]

「そうか……」


 うーん。八方塞がり。


 どないしよう。


「…、…ん?」

[? どうした?]

「いや。今、なんか声が」

[声?]


 何かいい案はないか。と考えていると、そこで微かに声が聞こえてきた。声と一緒に足音のようなものも聞こえてきて、わいは来た道の方に顔を向ける。


 グオオオオッ。と今度ははっきりと大きな声が聞こえ、シェルとシャスティアちゃんもそれに気付く。それは、だんだんと近付いてきていた。


[ローデン、これって]


 シェルと顔を見合わせる。こんな暗がりの中で獣の咆哮のような声が聞こえて、そしてそれが物凄い速さで近付いてきていて…。って、いちいち考えなくてもわかる。これは、凄くピンチや。


「ど、どないしよう?」


 クリスタル・ウェポンは今懐中電灯代わりにしとるから武器としては使えない。頼りになるのはシャスティアちゃんとシェルの魔法だけになるけど、この暗がりの中で風の魔法なんて使ったらどうなるかわからん。


 シャスティアちゃんの方に顔を向ける。シャスティアちゃんの表情は冷静やった。声を掛けると、シャスティアちゃんは此方を向き眉をひそめる。


「たかだか声一つで情けない声を出すんじゃありませんわ」

「情けない声って。…しゃあないやろ、この場合。近付いてきてんのはたぶん獣や。けど、今のわいらには戦う手段がない」

「そのクリスタルなんたらを使えばよろしいのではなくて?」

「これは今、(あか)りちゃんやから使えんよ」


 それにクリスタル・ウェポンを武器に変えてしまうと、わいらの周囲が真っ暗になってしまって戦うどころの話ではなくなってしまう。灯りちゃんは大切。何処でも。何をしようとも。


[来たぞ!]

「!」


 声の主が、わいらの前に現れる。灯りを照らして姿を映すと、それはいつぞやの黒い獣の魔獣やった。魔獣は、牙を剥き出しにしてわいらを睨み付けている。他に魔獣の姿は見当たらない。一匹だけみたいだ。


[グルルル…ッ]

「こいつ、前にも見たな」

[ああ。俺の棲み家を荒らした奴だ]

「どうしてここに?」

[さぁな。たぶんここも棲み家にしてるんだろ]


 肩を竦めて、呆れ半分でシェルは言う。


 前方には魔獣。後方には足場のない落とし穴。ほんと、どないせえっちゅうんじゃ。


「まったく、仕方ありませんわね」


 悩んでいると、シャスティアちゃんがわいらの前に出る。指輪をしていない方の手を魔獣に向けて伸ばし、その周りに風を纏わせた。


[シャスティア?]

「貴方たちに戦う勇気がないのはよくわかりましたわ。あの獣は私に任せなさいな」

「いや、別に勇気がないとかそういう問題じゃなくて」

「敵を目前にして手をこまねいているのであれば、それは戦う勇気がないのと同じですわ。貴方たちは私の後ろで指を咥えて見ていなさい」


 そう言って、シャスティアちゃんは伸ばした手に纏わせた風を魔獣に向けて勢いよく放つ。風はそのまま魔獣を包み込み、その身体に数ヶ所の小さな切り傷を生んだ。しかし、それはあまり魔獣には効果がない様子。魔獣は風を吹き飛ばし、大きく咆哮をあげた。


「なかなかやりますわね。では、これなら…!」


 シャスティアちゃんは次に炎を放つ。炎に包まれた魔獣は苦しそうな声をあげ、その場で暴れまわった。


「これでどうですの!」

[なかなかやるな。これならイケルか?]

「…いや、そう簡単にはいかないみたいや」


 大きく咆哮をあげ、魔獣は炎を吹き飛ばす。次は俺の番とでも言うように今度は魔獣の方からわいらに向かって突撃してきた。


 避けるか攻撃して身を守るか。この場合は二つに一つやけど、シャスティアちゃんの場合はそのどちらも選択肢にはないみたいで、突撃してくる魔獣に再び炎を浴びせた。まぁ、攻撃は最大の防御っていうからね。


[グルルル…ッ!]

「なんだか拍子抜けですわね。もっと歯応えのある相手だと思ったのですが」

「油断は禁物やでシャスティアちゃん。相手は魔獣や。それに」

「黙っていてくださいませ。腰抜けは喋らないのが基本ですわよ」

「こ、…っ」

[ぷふっ。腰抜けだって]


 わいの方に顔を向けずにシャスティアちゃんは言った。誰かから"腰抜け"って言われたのは久しぶりだ。見ると、シェルが笑いを堪えてわいを見ている。堪えるくらいならいっそ笑ってくれ。その顔見てるとイラついてくるわ。


[グオオオオ!!]


 魔獣の咆哮は続いている。このまま、シャスティアちゃんにだけに戦わせるわけにはいかない。灯りを消さずに戦う方法は、クリスタル・ウェポン以外の武器を使用する事やけど、わいの手持ちで武器と言えるものは今は何もない。拳で戦うって事も出来なくはないが、わいの貧相な力では魔獣には通用しないだろう。


「…………、」


 眉をひそめて、魔獣を見つめる。明るさを取るか暗さを取るか。究極の選択やなぁ…。



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