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恋する精霊





「…や、やっと着いた…っ」

「ごくろーさん」


 西の国セントミアから船で数十日の海の旅。ようやく私たちは東の国ジハーグへと到着した。桟橋に下ろされたタラップから船を降りて、周りの景色を見る。到着したのが早朝だからなのか人があまり見当たらなかった。


「……」

「? どうしたローデン。降りないのか?」

「いや、降りる。降りるけど、ちょい待って。今勇気出してるから」


 私、アイシクル、シャスティア、トウマくん、リィドさんと順番に船を降りていき、あとはローデンさんが船を降りるだけとなる。しかしローデンさんはタラップと桟橋を繋ぐ境目の所で足を止めて表情を歪ませていた。それを見て、リィドさんは眉を下げて腰に手を置く。


「…ここまで来たんならもうなるようになれ。やけど、どないしよう。やっぱすげぇ怖ぇ」

「手伝ってやろうか?」

「だ、大丈夫。大丈夫。リィの手は借りん。この船旅の間で心の準備は出来たはずなんや。全部ゲロんなって海に放出されてなければ、あとはほんの少しの勇気でイケル」


 ローデンさんの方を向いて、アイシクルたちと顔を見合わせる。ジハーグ行きを渋っていた理由は結局聞けなかった。ローデンさんの船酔いがずっと続いていて、それどころではなかったからだ。


「…すー。…、よし!」


 深く息を吸って強く意気込み、ローデンさんはタラップから桟橋へ片足を付ける。足を付けた瞬間、ゴゴゴと大きな音と共に地面が揺れた。


 地震かと驚いて私たちは目を見開くけれど、ローデンさんとリィドさんはそんなに驚いていなかった。驚いてはいないけれど、この地震を受けて何やら呆れている様子。…何故。


「あー、はは。…反応早」

「この様子だとすぐに来るぞ」

「せやなぁ。まぁ、心配あらへんよ。ドンと来いや」


 はは。と、ローデンさんは力なく笑う。何の話をしているのかと聞いてみると、どうやら先ほどの地震はローデンさんを歓迎する地震で、地の精霊ノームが引き起こした自発的な地震なんだとか。


 地の精霊ノームは、大精霊の1人でローデンさんの事が大好きなんだそう。だから先ほどの地震は歓迎の印でもあり、歓喜の印でもあるみたいです。


「ノーム? 精霊ノームがここに居るのか?」

「ああ。普段は地中に潜ってるけど、今は柱ん中に居るんちゃうかな?」

「柱…。って、この国にも柱があるんですか?」

「あるで。ずっと昔からな。フラウィやセントミアと違って、ここにある柱は何年もおんなじ場所にあって根を這ってんねん」


 リィドさんの家があった場所にあった魔法陣から出てきた何処までも伸びる柱。いつの間にか小さくなっていたけれど、それらは学校の訓練場とセントミアの森の中に突然現れた。


 リヴィスの話では、柱というのは突然現れては突然消えていくという所謂ミステリーサークル?的なものらしくて、ずっとその場に留まるというのは絶対にあり得ないのだそうだ。


「この国にある柱は例外なんや」

「地の精霊ノームが、あろうことか人間に恋をしてしまったからな」

「恋?」


 船を降りて、町にある宿屋へ。少し休もうと取った部屋の中で、ローデンさんとリィドさんによる話の続きを聞く。


 本来ならば、柱は現れたらいつかは消えなければならない。しかしこの国にある柱は地の精霊ノームの手によって消滅を長年に渡り免れていた。精霊ノームが柱の中にプログラムされている誓約を勝手に書き換えてしまったのが原因だった。


「? ちょっと待ってください。柱の出現って今回が初めてじゃないんですか?」

[柱の出現は人間が知らないだけで何度も出現と消滅を繰り返しています]


 イヤリングからリヴィスが出てくる。


[人間に認識されたのは今回が二度目です]

「一度目はわいとリィや」

[思えばあの瞬間が、ワタシたち精霊の不幸の始まりだったのかもしれませんね]

「何言うてんねん。不幸の始まりだったのはわいや」


 はぁ。と、ローデンさんとリヴィスはほぼ同時に溜め息を吐く。


「…その話を聞くと、精霊ノームが恋した人間って」

「ローデンだ」

「あらまぁ」

「ローデンに恋した精霊ノームは、消滅する際にどうしてもこいつの傍を離れたくないって理由でプログラムを書き換えて、それ以来ずっとこの国に留まってるってわけ」

[まったくあの子たちは。いつまで経っても戻ってこないと思ったら……]

「「……」」


 アイシクルと顔を見合わせる。

 話はだいたいわかった。ローデンさんがジハーグに来るのを渋っていた理由が精霊ノームが原因だという事も。


[ローデーン!!]

「! …来た」


 その時、勢いよく部屋の扉が開かれる。大きな音と大きな声をあげて現れたのは白いワンピースを着た小さな女の子だった。


 女の子は茶色と赤の髪を靡かせながら嬉しそうにローデンさんに抱き付く。


[ローデン! 久しぶりー! 会いたかったよー! もうすっごく捜したんだから! 何処行ってたのよー!]

「っ、苦しい苦しい! 離れんか!」


 勢いよく抱き付いてきた女の子を強引に引き剥がし、ローデンさんは溜め息を吐く。と、そこにもう1人部屋の中に入ってきた。女の子と同じ白いワンピースを着た男の子だ。


[はぁ、はぁ…。ちょっと待ってよ。姉さん早すぎ…っ]

[遅いわよノエル! やっと来たの!? 私はもう再会のハグは済んだわよ!]

[再会のハグって、…それただ突撃したってだけでしょ]


 男の子は女の子を見て、溜め息を吐く。そして彼は私たちの顔を順に見つめて、頭を下げた。


[すみません。姉さんが迷惑を掛けて]

[ちょっと! いつ誰が迷惑掛けたってのよ!]

「現在進行形で大迷惑掛かってんのやけど」


 無自覚って怖いわぁ。と、ローデンさんは言う。


 えーと、……君たちは誰ですか?


「ったく。人の目を気にせんのは相変わらずみたいやな」

[す、すみませんローデンさん。姉さんがいつもいつも]

「ノエルは謝らんでよろしい。今ここで謝らんといけんのはこいつやから」

[怒ってる顔のローデンも久しぶり! もっとその顔よく見せて!]

「……」


 頬を染めて表情を綻ばせる女の子にローデンさんは眉をひそめて再び溜め息を吐く。見ていると、どうやらこの子たちはローデンさんと知り合いみたいだ。


「あの、リィドさん。あの子たちは?」

「まるっきり私たちの事は無視されていますわね」

「すげぇ髪色」

「もしかして、あの子たちが?」

「はは、…ごもっとも」


 眉を下げて、リィドさんは頬を掻く。


 あの子たちが、地の精霊ノーム……?


[もう、姉さん。僕たちがここに来たのはローデンさんが目的じゃないでしょ?]

[んー。もうこのままローデンをもっかい契約者にしようよー]

[それは駄目だよ。ローデンさんはもう僕たちの主にはなれないの。ほら、離れて]

[んああ! もっとローデンとくっついてたいいぃ!]


 男の子が女の子の腕を持って、ローデンさんから距離を取らせる。引き剥がしても引き剥がしても抱き付いてこようとしてくる女の子に眉をひそめたままローデンさんは何度目かの溜め息を吐いた。


 そして、男の子は私たちの方に顔を向けて近付いてくる。女の子を引っ張りながら私たちの中から誰かを捜す素振りを見せ、男の子は"あっ"と声を出してトウマくんの前に立つ。


[トウマさん…ですよね?]

「あ、…うん。そうだけど…」

[えーと、おほん。僕たちは貴方を次の契約者の1人に選びました。しきたりに従って、これからトウマさんには僕たちが作った試練を受けてもらいます]

「…は?」


 にっこりと笑って、男の子は言う。


 男の子の言葉を聞いて、トウマくんは頭の上に"?"を浮かべて首を傾げた。


「試練って、えーと、…どういう意味?」

[詳しくは行ってから説明します。では、行きましょうか]

「えっ? ふぇ?」


 男の子はトウマくんの手を取って、首にかけていた小さな笛を口に含む。大きく息を吸って笛を吹くと、ピーッという甲高い大きな音が部屋に響いた。音が鳴ってしばらくすると、次にドタドタと何かが走ってくるような音が部屋の外から聞こえてくる。勢いよく扉が開き、中に入ってきたそれを見て私たちは目を見開いた。


[メェ~]

「「「黒ゴマ!?」」」


 部屋の中に入ってきたのは、なんと黒ゴマだった。黒ゴマは"メェ~"と声をあげて優雅にその場に佇む。男の子は黒ゴマの頭を撫でて、口元を緩ませた。


[よしよし。いい子いい子]

[メェ~]


 え。何で黒ゴマが……?


[呼び出してすぐの所悪いんだけど、僕たちを地の柱の中に送ってくれる?]

[メェ~]


 言うと、黒ゴマは頭をふるふると振る。そして、先ほどの笛の音よりも大きな声で黒ゴマが鳴き声をあげると部屋中を覆い囲むように一瞬にして魔法陣が現れた。転送法陣と呼ばれたそれを見て、ローデンさんとリィドさんは顔を見合わせる。


「な、何ですのこれは!?」

「…っ、そうか! わかったで! この黒山羊"精霊の使い"か!」

「精霊の使い?」

「何ですかそれ?」

「精霊の使いは、精霊のために生み出された…簡単に言うと使用人みたいなものだよ」

「どうりでいけ好かん顔しとると思うたで! 焼いて喰うっつうのは継続やな!」

「精霊の使いを焼いたら殺されるぞ」


 魔法陣の光がだんだんと強くなっていく。

 男の子が"柱の中"とか言っていたから、行き先はおそらく……。


[姉さん。姉さんはもう1人の契約者を迎えに行ってあげて。多分もう着いてると思うから]

[え、何で私が? ノエルが行きなよ]

[姉さんが行かないと意味ないでしょ。姉さんの方の契約者だよ? ほら、早く早く]

[ん~! ローデンと離れたくないいぃ!]

[わがまま言わないの。はい、行ってらっしゃい]


 トン。と、男の子は女の子の背中を押す。

 それと同時に魔法陣の光は更に強くなり、パンッという風船が弾けたような音と共に私たちはその場から姿を消した。


 一度目も突然。二度目も突然。三度目も突然。精霊さんってばみんなして突然が好きなんだろうか。


[メェ~]

[むー! もー! またローデンと離れちゃった! まだまだ話したい事がいっぱいあったのに!!]

[メェ~]

[…。はぁ。でもしょうがないよね。めんどくさいけど、ノエルに言われちゃったし迎えに行ってあげよう。あんたも来てね。また転送してもらわなきゃだから]

[メェ~]



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