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船旅





「おぼぼぼぼぼ」


 西の国セントミアから東の国ジハーグへ渡る船が出港して2日が経った。ローデンさんの体調が昨日から芳しくありません。


 船酔い。だそうです。


「大丈夫ですか、ローデンさん?」

「あかん。このままやと胃の中のもん全部出そうや」


 言いながらも、ローデンさんは吐き続けている。今頃海の中では彼の吐瀉物(としゃぶつ)がゆらゆらと流れ漂っている事だろう。あまり考えたくないけれど。


 この状況で私に出来る事は、ただただ彼の背中を摩ってあげる事だけだ。


「一応、酔い止めは飲ませたんだけど……、この分だとあまり効いてなさそうだな」

「うぅ、今ものごっつカエルんなりたい」

「?」


 カエル……?


「炎よ燃えろ! フレイム!」

「……まったく出ていませんわね」

「フレイム! フレイム! フレイムフレイムフレイムフレイムフレイム!!」

「……で。あちらさんは何をしとるん?」


 言いながら、ローデンさんは顔を背後へ向ける。私たちの居る位置から少し離れた場所にはアイシクルとシャスティアが居た。


 彼らの他にもそこにはトウマくんの姿もあり、トウマくんは腕をぶんぶんと何回も振り下ろして呪文を唱えている。


「少し落ち着け。肩の力を抜いて、自分の中にある魔力を感じ取るんだ」


 行く場所がない。との理由で私たちに付いてくる事になったトウマくんは、現在アイシクルとシャスティアに魔法の使い方についてレクチャーを受けている途中だった。


 事の始まりは昨日。船に乗船してから数時間が経った頃の話。船員さんに与えられた部屋の中でリィドさんに薦められるままにトウマくんはとある本を読んでいた。その本には、この世界についての歴史や魔法の成り立ちについていろいろ書かれていて、その中でもトウマくんが興味を引いたのが"魔法"という2文字の言葉だった。聞いてみたところトウマくんは魔法が使えないらしい。それ故、彼は幼い頃から魔法を使ってみたいとそれはもう強い願望を抱いて今まで生活してきたのだとか。


「魔力を感じ取る……。炎よ燃えろ! フレイム!」


 小さく息を吐き、再び呪文を唱える。しかし結果は同じ。伸ばしている手からは炎はおろか煙も出なかった。眉を下げて、トウマくんは両手を見つめる。


 自分の中にある魔力を感じ取るって難しいよね。私も最初は苦労したよ。


「貴方才能がないんじゃありませんの?」

「!?」

「シャスティア」

「だってそうじゃありませんの。ここまで教えても出来ないんじゃ、もう才能を疑うしかありませんわ」


 腕を組んで、シャスティアは言う。

 彼女の言葉を聞いて、トウマくんは肩を落としその場に座り込んだ。


「うぅ、やっぱ今すぐ魔法は使えないって事なんだな…」

「だ、大丈夫だよトウマ。最初は誰だってこんなもんだ。練習あるのみ!」

「…アイシクルも、最初はこんなもんだったのか?」

「え? あー、えーと…」


 聞かれて、アイシクルは言い淀む。確かアイシクルの場合は魔法を習い始めてからすぐに地水火風の四属魔法は使えていたような気がする。


 なかなか次の言葉が出てこない彼を見て、トウマくんは頭を抱えた。


「…なぁ。トウマくんに魔力ってあるん?」

「うーん。…多少はあるんじゃないか? 俺たちにもあったくらいだし」


 トウマくんたちの方を見ている間でも、リィドさんと話している間でも海に向けての吐瀉は止まらないローデンさん。先ほどよりもだいぶ顔色が悪く、このままでは本当に胃の中のものが全部出てしまいそうな勢いだ。


「…そうか。まぁけど、そんな事よりも今は早急にこの船酔いの方をなんとかせんとあかんわ。…うぶっ、おぼぼぼぼぼ。…はぁ、なんかええ方法あらへん?」

「それは難しいな」

「……、」


 東の国ジハーグに到着するまで、あと数十日。それまで、ローデンさんの胃が無事である事を祈ろう。



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