東の国へ ※アンジェラ視点
「ジハーグへ、ですか?」
「ああ」
シーエンス家の屋敷。リビング。この部屋には今、お父様と私しか居ない。お父様は食事中で、私はお父様から言われた"ジハーグに行け"との言葉に驚いていた。
東の国ジハーグには私の婚約者候補の男性が住んでいて、その人は国の中でも最高の地位を持つ名家の長男にあたる人だった。今回はそんな彼からの呼び出しだ。この間の食事会の際にお会いしたばかりだと言うのに、一体何の用なのだろうか。
「お前に、約束のものを見せたいと言っていたそうだが。何か約束でもしていたのか?」
「約束…?」
お父様に聞かれて考える。この間の食事会で、私は一体彼と何を話したのだったか。思い返してみると、そういえば確か、話の途中で私が大の迷路好きだという話になって、それならばと彼が"自宅の屋敷の庭に迷路を造る"と突拍子も無いことを言い出し、あれよあれよという間に話が大きくなって…。
「え。まさか。あれは冗談ではなかったのですか?」
「? よくわからないが、今すぐにとのお達しだ。早急に荷支度をして出掛けなさい」
「……はい。わかりました、お父様」
お父様に一礼をして、踵を返しリビングを後にする。自室へと戻り、私はすぐにクローゼットから旅行鞄を取り出した。鞄の中に必要な物を詰め込み、外出用の衣装に着替える。窓の縁には黄土色の小鳥が2羽留っていて、それを見て私は深く息を吐いた。
「…はぁ」
アメリアさんの行方がわからなくなってから何日経ったのだろう。学校では"欠席扱い"となっているけれど、アメリアさんのお母様は、アメリアさんは突然居なくなったのだと話していた。アイシクル様とシャスティアさんのお二人もアメリアさんと同時期に行方がわからなくなったという話で、その話を聞いてから私は凄く心配していた。そんな状況での婚約者候補からの呼び出しは、ただただ憂鬱でしかなく、出来る事ならばお断りしたいという心境だった。
ですが、彼の家と私の家は家族ぐるみのお付き合いでお父様同士も仲が良く、もしお断りの一報を伝えたのならばお父様にご迷惑が掛かってしまう。家族にだけは迷惑を掛けてはいけないとの想いから、そんな理由もあり、私にはお断りを申し出るなんて選択肢は初めからないのだ。
「…行ってきますね、お母様」
勉強机の上に置いてある写真立てに入っているお母様の写真を見つめ、口元を緩ませる。
写真越しに笑うお母様の表情はとても穏やかで、とても幸せそうだった。




