表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/423

故郷に帰る方法は?





「フラウィに行きたい? 駄目駄目。今の時期、北の海峡に出る船はないよ。諦めな」


 ゼラニウム遺跡から脱出した先に広がっていたのは鬱蒼とした森だった。それから数日かけて、私たちは港町ヤハルに到着する。その足で北の国フラウィに帰ろうと船員さんらしき人に話し掛けた所、言われてしまったのが"北の国には行けない"という言葉。なんとか行けるようにと説得を試みたけれど、どうしても駄目だと一蹴されてしまった。


 西の国・セントミア。この国では、一年に一度だけ北の国に行くための船が一時運行中止になるのだそうだ。理由は、この時期になるとフラウィとセントミアを繋ぐ北の海峡に"セント大王イカ"という巨大なイカが海底から姿を現すため。セント大王イカはとても気性が荒く、もしそれの出現を知らずに船で近くまで行ったとしたら最後、胴体から伸びる触手に船を破壊されて食べられてしまうのだとか。


「どうするの? このままじゃ帰れないよ」

「他に、フラウィに渡れる方法はないんですの?」

「うーん。ちょっと時間が掛かるが、それでもいいなら東の国"ジハーグ"経由でフラウィに渡るっていう手もあるぜ。ほら。ちょうどあそこにジハーグ行きの船が停まってるから、行ってみるこった」


 船員さんが指を差した方向には、確かに船が一隻。荷物を運んでいる最中なのか大量の木箱が近くに積み上がって置かれていた。船員さんに別れを告げて、私たちはその場から離れる。東の国行きの船と船員さんが立っている場所のおよそ中間地点、私たちはそこで足を止めて互いに顔を見合わせて"どうしようか"と相談した。


「東の国って、ローデンさんの故郷でしたよね? ここから遠いんですか?」

「せやなぁ。地図見んとわからんけど、ここから東の国っちゅうと、たぶん半月以上は船の上覚悟やな」

「東の国からフラウィまでは?」

「うーん。ざっと5日くらいやろか?」

「冗談ではありませんわ!!」


 話し合っていると、突然シャスティアが叫ぶ。


「半月以上も立ち往生なんてあり得ませんわ! 私は今すぐ北の国に戻りたいんです!」

「そないな事言うても船がないんじゃどうしようもあらへんよ」

「貴方はそれでもよろしいかもしれませんが私はまだ学生の身なんですのよ!? ただでさえここまで来るのに数日は掛かっているのに今度はそれに加えて半月以上もなんて…。これ以上時間を浪費してしまえば最悪退学ものですわ!!」

「退学って、それはさすがに考えすぎじゃ…」

「いや、無断欠席って扱いになってるのなら退学はあり得るかも」


 顎に手を添えて、アイシクルは言う。

 無断欠席が1ヶ月以上続いた場合は即退学処分、と、学校に入学した時に学年主任の人に説明された。学生手帳にも退学については細かく記載されていて、無断欠席以外にも退学の対象はいくつかあった気がするけれどあまり覚えてはいない。


「無断欠席くらいで退学て。シャスティアちゃんたちの通うてる学校はえらい厳しいんやな」

「普通だと思いますが」

「わいの通うてた学校そんなんなかったで。退学云々はあったような気するけど」


 ローデンさんが通ってた学校。ちょっと気になる。


「うーん。…ならシェルに相談してみるか?」

「シェルに?」

「ああ。シェルは空飛べんねん。上手く行けば一人くらいは抱えながら空飛んでフラウィに帰れるやろ」


 ローデンさんは言う。


 と、そこでシャスティアの指に嵌まっている指輪の中からシェルが姿を現した。今までの話をかいつまんで彼に話すと、眉をひそめて首を横に振る。


[駄目だ]

「どうしてですの?」

[魔力がない]

「魔力?」

[遺跡での戦いでほとんど使っちまって、今俺ん中の魔力はスカンピンなんだよ。だから無理]


 シェルは言う。


 彼の言葉を聞いて、シャスティアは眉をひそめて腕を組んだ。


「使えない精霊ですわね」

[どうとでも。無理なもんは無理なんで。恨むなら自分の魔力の高さを恨んでください]


 お役に立てず申し訳ない。そう言って、シェルは指輪の中へ戻っていってしまった。


「…あかん。詰んだ」

「どうしましょう?」

「せやなぁ…。やっぱ東の国経由で行くしかないか。あそこにはめっちゃ帰りたくないんやけど」


 はぁ。と、ローデンさんは肩を落として溜め息を吐く。北の国に帰る方法として現状それしか選択肢がないのなら仕方がないけれど、およそ半月以上も船の上に居なければいけないなんて一体誰が想像できただろうか。


 シャスティアとアイシクルの言う通り、現在進行形で学校側が私たちを無断欠席扱いにしていれば最悪退学処分は免れない。学校に通えなくなるのはさすがに嫌なので、お母さんたちが事情を察してなんとかしてくれている事を願おう。


+


 そして、リィドさんが心配だとのローデンさんの言葉で私たちは船着き場を離れて1度宿屋へとやってきた。宿屋の前には、まるで私たちが帰ってくるのがわかっていたかのようにちょうどよくリィドさんの姿があった。彼の傍には見知らぬ人の姿もあり、近付くと彼らは私たちの方に顔を向ける。


「ローデン、アイシクル。無事で良かった」

「なんとかな。まったく、あのガキには騙されたわ」


 あのガキ。というのは、おそらくシルリフの事だろう。彼は一体何者だったのか。


「突然居なくなったのには驚いたけど、こうして戻ってきてくれて安心したよ。…おかげで説教ができる」

「!?」


 笑顔を浮かべて、リィドさんは言う。それを聞いてローデンさんは肩を震わせて表情を強張らせた。そこでふと私はリィドさんの傍に居る男の人の方に顔を向ける。そこには黒髪で動きやすそうな格好をした男の人が居た。男の子と言った方がいいかな。私たちと年齢が近そうなその男の子は、緊張でもしているのかローデンさんと同じく表情を強張らせていてキョロキョロと辺りを見渡している。


 セントミアの気候でその格好はちょっと寒いんじゃないかと思いながらじっと見つめていると、私の視線に気が付いたのか男の子が此方を向いた。


「こんにちは」

「…!」


 近付いていくと、男の子は表情をそのままに足を一歩引かせる。


「な、なに…?」

「貴方、名前は?」

「名前? …ト、トウマ…だけど」

「リィドさんの知り合い?」

「え? あ、いや。彼とはさっき会ったはかりで…」


 男の子…トウマくんが言うには、目が覚めたらそこは何故か宿屋の一室で、近くにはリィドさんが居た。そして自分は隕石みたいに空から降ってきた。との事。


 目が覚めたら突然違う場所っていうのは経験があるからわかるけれど、隕石みたいに空から降ってきたって何…?


「アメリア。彼はちょっと記憶が混濁してるんだ。あまり質問はしないであげてくれ」


 リィドさんが言った。


 記憶の混濁? どういう意味だろう?


「リィドさん、どうすれば…」

「トウマは何も言わなくていい。まずは状況を理解する事が先決だ。話はそれから。な?」

「……」


 リィドさんの言葉に眉をひそめて、トウマくんは口を噤む。彼には、何か深い事情があるようだ。これ以上は聞かないでおこう。


「それで、ローデン。フラウィに帰る方法は?」

「うぅ、…フラウィに帰る方法は1つだけ。ジハーグ経由で船旅や。それしかないと船員さんが言うてた」

「え。それ大丈夫なのか?」

「あかんから今からこんな憂鬱やねん!」


 フラウィに帰る方法を聞いて、リィドさんは目を見開く。ローデンさんがジハーグ行きにあまり乗り気じゃない事もそうだけれど、リィドさんのその反応もちょっと気になる。


 東の国ジハーグは、ローデンさんの故郷。故郷に帰るっていうのは誰しもが喜ばしい事っていう訳じゃないのかな。


「半月以上も船の上なんてあり得ませんわ。もし退学なんて事になったら、お父様に何て言われるか」

「シャスティアのお父さんって厳格そうだもんね。怒ったら怖そう」

「もしそうなったらすべての責任をアメリアさんに押し付けますわ」

「なんで!?」


 東の国ジハーグ行きの船が出港するまでは、あと約2時間。それまで私たちは各々の時間の使い方でそれまでを過ごし、ジハーグ行きの船の船員さんの指示のもと、甲板に乗り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ