ゼラニウム遺跡 4
「光の雨を喰らえ!」
頭上から降る光の矢が、魔獣を襲う。
次々と生まれ出てくる魔獣たちを倒していく私たちだけれど、魔獣たちの増殖スピードは私たちが攻撃するよりも速く、一匹倒しても二匹、二匹倒しても四匹とキリがなく終わりがなかった。
[水の波動よ! 我らに力を!]
「押し流せ!タイダルウェーブ!」
リヴィスと力を合わせて、目の前の魔獣を倒していく。私の背後にはアイシクルとシャスティアが居て、彼らも自分に襲い掛かってくる魔獣を斬り付け、技を放っていた。
増え続ける魔獣たちと、終わりが見えない戦いを繰り返す私たち。そんな私たちの姿を頭上から一人の男の子が笑いながら見下ろしていた。
「ふふふ。あはははは! なんて面白い光景なんだろ! そんなんじゃいつまで経っても終わらないよー!」
「じゃかあしいこのガキ! 高みの見物決め込んどらんでさっさと降りてこんかいわれぇ! そのいけ好かんドタマに風穴空けたるわ!」
笑いながら言った男の子の言葉にローデンさんが素早く反応して上を向く。
魔獣たちとの戦いで体力を消耗し、倒しても倒しても途切れる事がない魔獣の姿がストレスになっているようで、口から出る言葉には多少のトゲがあった。口が悪いのは多分そのせい。
「随分と威勢がいいお兄さんだね。やっぱり連れてきて良かったかも」
「は?」
「ふふ。じゃあ改めて自己紹介するよ。僕の名前はシルリフ。シルリフ・エイツィア。よろしくね」
「シルリフ…?」
男の子は言う。
シルリフ。どうやらそれが男の子の名前らしい。
「シルリフって、確か宿屋の…」
「宿屋?」
「ああ。ここに来る前に町で会ったんだ」
「シルリフ…、あ! あん時の!」
「思い出した?」
男の子…シルリフは口元を緩ませて笑う。
「このガキ! あん時はよくも騙してくれたな!」
「騙したなんて人聞き悪いな。僕はただ命令されて君たちを連れてきただけだよ」
「命令?」
「そう。僕の主、サラマンダー様の命令でね」
[サラマンダーだと……!?]
シルリフの言葉に、シルフは目を見開く。
「サラマンダーって、炎の精霊…だよね?」
[ええ。炎の精霊サラマンダー。ワタシたちと同じ、大精霊の1人です]
「……」
[サラマンダーの手下が何でこんな所に!]
「そんなの決まってるじゃん。君たちをまとめて殺すためだよ」
[は?]
「僕個人に恨みはないんだけどさ、サラマンダー様には恨まれてるんだよね。君たちはさ。だから殺すんだ。悪く思わないでよ」
[恨み?]
[サラマンダーがワタシたちに何の恨みを持っていると言うのです!?]
「そんなの知らないよ。サラマンダー様は秘密主義だからね。僕はただ命令を遂行するだけ」
[[……]]
シルフとリヴィスは顔を見合わせる。
シルリフは手のひらを私たちの方へ向け、魔獣たちに私たちを喰い殺せと命令した。
[……っ、]
歯を喰いしばり、シルフはシャスティアの元へ。眉をひそめて怖い表情を浮かべながら近付いてきた彼に、シャスティアも同じく眉をひそめた。大きく深呼吸をして、指輪を差し出す。
「な、なんですの?」
[シャスティア。この指輪を受け取ってくれ。この場を切り抜けるには君の力が必要だ]
「は?」
[このままじゃ、俺たちは全員魔獣に喰い殺されて終わる。この状況を打破するためには、シャスティアと俺の力を合わせる必要があるんだ]
「力を合わせる? どうして私が?」
[お前が俺の主だからだ]
「私は貴方の主になった覚えはありませんわ!」
[なら、このままここで喰い殺されてもいいのか?]
シルフとシャスティアは話し合う。話し合う、っていうか説得してるって言った方が正しい。そんな2人の元にローデンさんが近付き、彼はシャスティアの肩に手を置く。
「シャスティアちゃん、ここは大人しく受け取っとき」
「は?」
「こんなとこでわがまま言うても仕方あらへんやろ。シェルと契約すると便利やで。空飛べるし、夏にはセルフ扇風機出来るし、空飛べるし、空飛べるし」
[何で空飛べる3回言うんだよ。他にないのか]
「空飛ぶのが一番のオススメやからや。…ってなわけで」
[お]
「! …ちょ! また貴方はいきなり…!?」
「ほい。これで契約完了」
そして、ローデンさんはシャスティアの手を強引に掴んでシルフの精霊壺を彼女の右手薬指に嵌める。
「んじゃあ、試しにドデカイの一発頼むわ。"俺ら"を巻き込むくらいの奴をな!」
にっこりと微笑んで、親指を立てる。
そんなローデンさんの顔を見て、シルフは呆れながら息を吐いた。
[ローデン。お前相当キレてるな]
「黒い物体がうじゃうじゃしてんの見ると虫酸が走んねん。それと、あとはあのいけ好かんガキのせいやな」
[なるほど]
「一体お二人で何の話をしていますの? 私は契約なんてするつもりはありませんわ!」
「するつもりはありませんわ。やないねん。シャスティアちゃんはもう契約するしかない。君はもう選ばれたんや。破棄なんて出来ない」
「なっ、…!?」
「…ええか、シャスティアちゃん。この場を最小被害で収めるにはどうしてもシャスティアちゃんの協力が必要不可欠やねん。シャスティアちゃんとシェルの力さえあれば難なく切り抜けられる。だから」
「だから、大人しく彼と力を合わせて戦え。と? 冗談言わないで。精霊だか何だか知りませんけれど彼はこの私を侮辱したんですのよ? そんな方とどうして一緒に戦わないといけないのですか? ましてや協力なんて…。断固お断りです!」
「…うーん。何でそない協力が嫌なんや?」
「そんなの貴方に関係ないでしゃう」
「……はぁ。わかった。じゃあ協力せんでええよ」
「?」
「シャスティアちゃんは、シャスティアちゃんが思う通りに自由にやればええ。シェルがそれに合わせればええだけの話や。精霊の力は契約した時点で主の魔力が上乗せされる。シャスティアちゃんの魔力がなんぼのもんか知らんけど、シェル一人を使う分にはまぁ余裕やろ。な、シェル?」
[…、簡単に言うなよ]
「シェルの力を理解してる上で出てる言葉やでこれ。シャスティアちゃんとシェルならやれるって信じてるんや。そうでなきゃこんな言葉は出えへんよ」
[……]
肩を竦めて笑い、今度はシルフがシャスティアの手を掴む。目を閉じて再び息を吐き、自身の足元に風を生み出した。
「ちょっと。私はまだ何も…!」
「シャスティアちゃん。文句はあとで聞いてやるから今は集中しい。わいらの事は居ないものと考えて、自分だけが助かろうと思えばええ。わいらはシャスティアちゃんに言わせてみればノミ以下なんやからな」
[ノミ……]
ノミ以下って、……それはちょっと酷い。
「今回だけやから。な?」
「……。はぁ。わかりましたわ。今回だけでしたら仕方ありません。貴方の言葉に従いますわ。ですが…次はありませんから。その時は貴方が自分でやりなさい」
「かまへんかまへん。…よーし! シェル! お許しが出たで! ドーンと行ったり!!」
[お望み通りに]
ローデンさんの言葉にシルフは口元を緩ませる。
足元を舞っていた風は次第に大きくなり、竜巻となってシルフとシャスティアを包み込んだ。
「わっ、凄い風…!」
[シェルとシャスティアの魔力が重なり、それが風となって放出されているのです。…なんて凄まじい力…]
強い風の力が私たちに襲い掛かってくる。
油断していると吹き飛ばされてしまいそうだ。
[行くぞシャスティア。なるべく全体を巻き込め]
「私に指図しないでくださいませ」
風が止み、竜巻の中から姿を現したシャスティアは手を伸ばして目を閉じる。シルフの力が彼女の身体を包み、ドレスと髪の毛にその証として緑色の紋様が浮かび上がった。
深く息を吸い、浅く息を吐き、魔獣たちの気配を一匹ずつ漏れなく察知していく。手のひらに小さな風を纏わせ、ゆっくりと目を開いた。そして、シルフとシャスティアは魔獣たちに攻撃する。
[吹き荒れろ嵐!]
「トルネード!」
唱えると、手のひらに纏っていた小さな風が弾けて、巨大な竜巻が魔獣たちを襲う。
竜巻に巻き込まれた魔獣たちの断末魔が耳をつんざき、思わず耳を塞いだ。竜巻を見つめ、シルリフは目を見開く。
「っ、ちょっとなんなのこの魔力! こんな話聞いてないんだけど!」
僕、帰る!
そう言って、彼は指を鳴らしてその場から姿を消した。このままでは自分も巻き込まれてやられてしまうと思ったのだろう。
「竜巻から逃れてしもうてる魔獣がおる! そいつらはわいらが処理するで! アイシクルくん、アメリアちゃん!」
「!」
「あ、はい……!」
ギリギリの所で竜巻から逃れた魔獣が数匹私たちに襲い掛かってくる。ローデンさん曰く、素早い動作で攻撃すれば魔獣が増える前に全滅させられるかもしれない。との事。私とアイシクルはその言葉に従い互いに一匹ずつ素早く魔獣を倒していく。数を増やさないようにしながら早く身体を動かすのはちょっとキツイ。
しばらくして、竜巻に飲み込まれ断末魔をあげていた魔獣たちの声は無くなる。私たちの周りにも魔獣は居なくなり、竜巻も次第に威力を弱めて消えていった。
「よっしゃ、やった!」
魔獣たちを倒し、ローデンさんは両手を突き上げる。
[う、わ。想像以上のが出たな]
「な、なんだったんですの今のは…」
[…はは。凄いなシャスティア。初めてにしては上出来だ]
「あれは、貴方がやったんですの?」
[いいや。あれはお前がやったんだ。俺がやった事と言えば、お前の魔力の底上げくらいだよ]
「………」
シャスティアたちに近付く。
シルリフも魔獣たちも居なくなって、この場所は完全に安全となった。
「やったね、シャスティア! 凄い凄い!」
「っ、…ま、まぁ、あれくらい当然ですわ」
シャスティアの手を握って声を掛ける。全面に喜びを露にする私を見て、シャスティアは面を喰らいそっぽを向いた。
ちょっとだけ顔が赤くなってる。褒められて嬉しいみたいだ。
「おつかれさんやね、シェル」
[ああ。ローデンも、残りの魔獣の処理ごくろーさん]
「シャスティアちゃんの気が散らないように退治すんのは大変やった」
[そうには見えなかったが?]
ははは。と、笑い合う。
そして、少しの談笑のあと、私たちはシルフに頼んで出口を作って貰った。
「はあぁ、ようやく帰れる」
[長い道のりでしたね。ワタシもさすがに疲労が蓄積されています]
出口の扉を前に、私は肩を落として溜め息を吐く。
[悪かったな。勝手に連れてきて]
[本当ですね。ここから出たら貴方には罰を与えます]
[うっは。ウンディーネ姉さんの罰とか久しぶりなんだけど]
「? 貴方もついてくるのですか?」
[ん? 当然。俺はもうシャスティアと契約したからな。主と契約を結んだ精霊はいつでも何処でも主と共に]
「えっ、…では、もう貴方は……」
「シャスティアちゃんから離れんようになるなぁ」
「…っ!?」
精霊壺を手に入れ、精霊と契約した人間は、何時いかなる時も精霊と共に行動しなければならない。
世の平和を保つためにうんたらかんたら……って、リヴィスから読めと言われていた本に書いてあったけれど、そのあとの文章は申し訳ない忘れてしまった。
「あ、ああああ貴方! 私を騙しましたわね!」
「騙した? 何の話や?」
「貴方先ほど"今回だけ"と言いましたわよね!? その言葉を聞いて、私はてっきりこの精霊との契約は1回限りだと…!!」
「? 言ったかそんなん? すまん、覚えとらん」
「~~~っ。この私に嘘を吐き、その上しらばっくれるなんて…。紳士の風上にも置けない人ですわ!」
「わい、紳士とは程遠い人生歩んでるし。元々の風上に居ないわ」
「意味わからない事を言わないでくださいませ! もう、腹が立って仕方がないですわ! 私は先に帰らせていただきます!」
眉をひそめながら怒鳴り、シャスティアは力いっぱいに扉を開けて外に出ていく。
バタンッと大きな音を立てて扉が閉まり、それを見て私たちはローデンさんの方に顔を向けた。
「あちゃー。怒らせてしもた。どうしよう」
[これは、近いうちに謝られた方がよろしいかと]
「だってああでも言わないとシャスティアちゃんやってくれへんやろ。わいなりに考えたんや」
[にしても、だな。女性はデリケートなんだからもっと丁寧に扱え。これで何度目だよお前?]
「うるっさいわ! あの状況で"でりけーと"云々なんか考えられっかい! ってかそれ関係あんのか!?」
「シャスティアは怒るとだいぶ長いので、謝る時は言ってください。協力しますから」
「あ、えと、…うん。そうなったら頼むわ。ありがとう、アメリアちゃん」
眉を下げて、ローデンさんは言う。
さて、私も外に出よう。と思いながら扉を開けると、そこには思いもよらない景色が見えた。…………あれ?
「…ってか、主行っちゃったけど、こんなとこに居ても大丈夫なんか?」
[ん? …ああ。大丈夫。ここから出ても、たぶん土地勘ないだろうし。外で待ってると思う]
「そうか。……うーん。ほんなら、リィの事も心配やし、外出たら港町に戻るか」
背後で、ローデンさんたちの会話が聞こえる。
外を見ると、そこは森だった。知らない森の中。私は首を傾げて眉をひそめる。
「アメリア?」
外を見つめて困惑している私に、アイシクルが声を掛けてきた。
「どうしたんだ?」
「ア、アイシクル。外見て。外」
「外?」
「何が見える?」
「何って、森だけど」
「森だけどって、驚かないの?」
「驚く? 何で……って、ああ。もしかしてアメリア知らないのか?」
「? 何を?」
首を傾げる。
そして私は、次に出る彼の言葉に吃驚するのだった。
「ここは西の国だよ。君は知らない間に、北の国から此方に飛ばされたんだ。どうやってかは知らないけど」
「え、」




