ゼラニウム遺跡 3
謎解き。謎解き。謎解き。謎解き。
謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き……。
謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き謎解き!!
「あああああもおおお! 謎解き多すぎいいいい!!」
いつになったら終わるのー!? と、第27の謎解きが終わったあとで全力で叫ぶ。
[荒れていますね、アメリア]
「荒れる気持ちはよくわかる。俺も叫びたい気分だし」
[ローデンも今頃叫んでいそうですね]
現在、私たちが居るのは(リヴィスが言うには)遺跡の最深部付近。第1の謎解き部屋を突破してからここまでずっと長い通路と広い部屋を交互に移動させられていて、ただいま結構うんざりしています。
それに加えて謎解きもセットでついてきているので、今まで浴びた事のないこれ以上ない多大な負荷が私にのしかかっている。もしこのまま次の部屋でも謎解きがあったりしたら頭が限界起こして爆発しそうです。
[ほら、アメリア。そらそろ行きましょう。謎は解けているのですからあとは進むだけです]
「うぅ…。頭が変になりそう」
両手で頭を抱えて、リヴィスのあとを歩く。リヴィス、私、アイシクルの順に縦並びで歩き、向こう側へと渡った。今回の謎は"見えない床を探しだして向こう側へ渡れ"というもの。端末を駆使しながらローデンさんたち(ほぼローデンさん)と協力し、互いに助け合いながら私たちは今度の謎も無事に解く事が出来た。
幅が数十センチにも満たないくらいの床の上を落ちないようにして歩いて向こう側へ渡り終えると、ピンポーンと音が鳴り響く。突然鳴るから毎回吃驚する。
[ローデン、そっちには何がありますか?]
《なんも。いつも通り、奥に道が続いてるだけや。いつまでやんねんこれ》
端末に触れ、リヴィスはローデンさんと話す。奥に続く道を見つめて、私は溜め息を吐いた。
「この先の謎解きは何だと思う?」
「この先にも謎解きがある前提で聞かないで。…あんたはいいわよね。頭良いから謎解きの難易度なんて関係ないもん」
「謎解きに頭の良さなんて関係ないよ。謎解きは"ひらめく"か"ひらめかない"かの2択だから」
言いながら、アイシクルは腕を組んで指を2本立てる。彼のその言葉は前にも何処かで聞いた事があった。けれど、謎解きの種類によっては頭の良さも必要になってくるものがあるから一概に"ひらめき"のみが武器になるわけではない。たまにだけれど、問いもわからなければ答えもわからないっていう謎解きがあるからね。
「ひらめきねぇ。…そうは言うけど、私実際にひらめいた事なんてそんな多くないんだけど」
「アメリアは急ぎすぎなんだよ。ゆっくり頭の中で問題を整理して落ち着いてやれば答えは確実に出てくるって」
「そんなもん?」
「そんなもん」
アイシクルは頷く。
本当にそんなもんなのか。次また謎解きが出たら実践してみよう。
そして、私たちは先に進む。
長い通路を歩き続けて数分。道が二つに分かれている場所に辿り着き私たちは足を止めた。二股に分かれている道は今回が初めてだ。
「道が分かれてる」
[どっちへ行けばよろしいのでしょうか?]
「うーん…」
私とリヴィスは顔を見合わせ、アイシクルは顎に手を添えて考える。その時、端末からピピッと音がした。
ピピピ。ピピピ。と音は鳴り続け、次第にその音が大きくなっていく。それと同時に足音が一方の道の先から聞こえてきて、2つの人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「! ローデンさん! シャスティア!」
「アメリアちゃん! アイシクルくんとリヴィスも…!」
一方の道から歩いてきたのは、ローデンさんとシャスティアだった。2人が私たちの元まで近付くと、端末の音が止まる。
私たちの顔を見るや、ローデンさんは眉を下げて大きく項垂れた。
「はあぁあぁ。やっと合流かいな。なんかどっと疲れが…」
「だらしないですわね。殿方ならもっとしっかりしなさいな」
「そんな事言うて。シャスティアちゃんも疲れとるやないか。人の事言えんやろ」
シャスティアは腕を組んで眉をひそめる。言われてみると確かにシャスティアもローデンさんと同じように表情が疲れている感じがした。
ローデンさんたちが二股道の片方から来たって事は、正解の道はおのずと絞られる。
「ローデンさんたちがこっちから来たって事は、正解はこっちか」
「そうだね」
アイシクルの言葉に頷く。
再会の喜びも束の間、先を進むとまたまた広い部屋に辿り着いた。しかし今度は何もないわけではなく、今まで訪れた部屋よりもだいぶ豪華な造りになっている。部屋には2つの池があり、そこに浮かんでいるのは桃色と赤い色の花。私とシャスティアの手首に巻いてあるのと同じゼラニウムの花だった。2つの池を挟んだ道の奥には台座が。どうやらここが最深部のようだ。ようやくここまで来た。
[どうやら終点のようですね]
「よっしゃ!」
「はぁ。ようやく終わりですのね」
溜め息を吐いて、シャスティアは足を進める。台座の目の前で立ち止まり、緑の球をそこにあった窪みに合わせてコトンと置いた。
置いた直後、緑の球が光を放つ。球の周囲に風が纏い、しばらくすると中から1人の男の人が姿を現した。緑色の髪を靡かせて、男の人はシャスティアを見下ろす。
[…よくここまで来れたな]
「あ、貴方は?」
[遺跡の入り口で会ったろ。忘れたか?]
「入り口? …! まさか貴方、あの時の男の子ですの?」
[ニヒ。当ったり~]
口角を上げて笑い、男の人は台座を降りる。そして彼はシャスティアの手を取って自分の名前を口にした。
[改めまして、俺の名はシルフ。字はシェル。以後お見知りおきを。お嬢さん]
「っ、…」
男の人はシルフと名乗る。
じゃあ、あの人が風の精霊……?
[…ん? あれ、そこに居るのは]
[お久しぶりですね、シルフ]
[ああ、やっぱりウンディーネの姉さんじゃん。なんでここに?]
言いながら、男の人……シルフさんは私たちの方へ風の力を利用して飛んでくる。
ふわふわと地面から足を浮かせたまま、彼は私たちの顔を順に眺めた。
[うわ、凄い大所帯。なんでこんなにいっぱい居るの]
[? 貴方が呼んだのではないですか?]
[? いや。俺が呼んだのは、あの子と、この子だけ。他のは知らん]
シャスティアと私を指差して、シルフは言う。その言葉を聞いて、アイシクルとローデンは顔を見合わせて頭の上に"?"を浮かべた。
「シェルがわいらを呼んだんちゃうの?」
[違うなぁ。…ってかよく見たらお前ローデンじゃん。めっちゃ久しぶりに顔見たんだけど]
「? ローデンさん、知り合い?」
「まぁな。詳しくは言わんけど、深い仲や。な?」
[こっちとしては深くはなりたくなかったけど]
「ははは。そう言うなや」
シルフとローデンさん、2人とも楽しそうに会話をする。深い仲というのは間違いではなさそう。
少し話して、シルフはシャスティアの所に戻り再び彼女の手を取る。私たちもその場から歩き出して彼らに近付いた。
[さて、じゃあ本題。花弁の数を見せてもらうよ]
「花弁?」
シルフの言葉に首を傾げる。
シャスティアの手首に巻かれたゼラニウムの花。花弁の数は。
[あれ。花弁がない]
「…?」
[…えーと、そっちの子は?]
「? 私ですか?」
花弁の数は0。0枚。私の手首にも巻いてあるゼラニウムの花の花弁も0枚。それを見て、シルフは眉を下げてシャスティアの手を離した。肩を竦めて息を吐く。
[…はぁ]
「な、なんですの?」
[いや、なんも。どうやら君は協調性の欠片もないクソつまらない人間のようだ]
「は、…はあ!?」
シルフは、自身の周囲に風を纏い浮かび上がる。私たちの遥か頭上で立ち止まり、彼はシャスティアを見下ろした。
「ちょっと! それどういう意味ですの!?」
[どういう意味も何も。そのまんまだよ。君は協調性のないクソつまらない人間。花弁が全部無くなってるのが何よりの証拠だ]
「花弁、…これが無くなってるからってどうして貴方なんかにそんな事を言われないといけないのですの!?」
[…、俺の試練は"協調性と協力"が命。君のそこに付いている花と、あっちの子に付いている花は連動してて、協力を拒んだり自分本位で突っ走っちゃったりすると花弁が1枚ずつ減る仕様になってたんだ。花弁の数は全部で5枚あった。それが今は0枚。これが意味するのは、…わかるよな?]
手首に巻かれたゼラニウムを見る。
そういえば、最初にこの花を見た時にはまだ花弁があった。いつ何処で減って、全部無くなったんだろう。
「それが何なのです!? これが全部無くなったからと言って、私が何故く…クソなどと!」
[…お前、今までの試練での謎解き中、一回でも誰かと一緒に答えを導きだしたか?]
「は?」
ここまで来るまでに解いた謎は全部で27。謎を解いている間、全部じゃないけれど端末越しにローデンさんとシャスティアの会話が聞こえてきていた。
2人の会話を思い出してみると、…うん。ほとんどローデンさんが解決していた気がしないでもない。
「あんなの、あの人が解かなくても私1人の力で十分に解けていましたわ!」
[…嘘言うな。お前、全部ローデンに任せてたじゃねーか。最初から考える気もなかったんだろ]
「っ、」
[…はぁ]
地面に足を付け、シルフはシャスティアと向き合う。
シャスティアは眉をひそめて、シルフを睨み付けた。
[それがお前の人間性って事だな。次からは気を付けろ]
「…貴方に何がわかるんですの? 私の事を何にも知らないくせに」
[確かにわからないな。だから、これから知っていくんだよ]
「?」
言って、シルフは手のひらの上に指輪を生み出す。風を纏い現れたその指輪には緑色の小さな宝石が埋め込まれていた。
あれが、シルフの精霊壺か。
[シャスティア・アール。今この瞬間から俺はお前を主と認める。最底辺からのスタートだけど、最終的にはお前を最高の人間にしてやるぜ]
「…はぁ?」
口元を緩ませて、シルフは笑う。
その言葉を聞いたシャスティアは、眉をひそめたまま腕を組んでそっぽを向いた。
「じ、冗談ではありませんわ! 何故私が貴方なんかの主にならなければいけないのです!」
[そういう"しきたり"なんだよ。いずれ必ず来る災厄から世界を守るためには精霊とその主の力が必要不可欠なんだ。この遺跡は柱の中にある。その中に入れたって事は、お前は俺たちと契約出来る資格を持ってる人間って事なんだよ。だからお前は呼ばれたんだよ、俺にな]
「災厄? 何ですの、それ?」
["サラマンダー"って聞いた事ないか?]
「サラマンダー?」
[サラマンダーは俺たちと同じ精霊なんだ。だけどこいつはとっても悪い奴で、…ん?]
「…、どうかしまして?」
[…何か来る]
「?」
言葉を遮り、シルフは眉をひそめて辺りを見渡す。そんな彼の様子を見て、シャスティアは頭の上に"?"を浮かべた。
空気が少しだけ重くなった気がして、ピリピリとした気配が全身を襲う。
[そこか!]
背後からの強い気配を感じ、シルフは振り向き様に風の力でその気配に攻撃を与える。
強い風が渦を巻いてその場に残るも手応えがなく、彼はシャスティアを守るように身構えた。
「な、なんですの一体……!」
[……………]
目線だけを動かして、気配が何処へ行ったのかを探る。ローデンさんとアイシクルも懐とポケットからクリスタルを取り出し、武器に変化させた。
直後、気配が大きくなる。
いちだんと強い気配のする方へ顔を向けると、そこには黒い獣が居た。以前、睡蓮の洞窟で戦ったあの獣と同じ種類のようだ。
[グルルルル]
[魔獣? …どうしてここに?]
獣の姿を見て、シルフは困惑する。獣は一匹だけではなく、次々と私たちの前に姿を現した。
あっという間に私たちの周囲に獣たちが集まる。ローデンさんが矢を放って一匹倒すも、またすぐに新たな獣が現れてその数は減らなかった。
「うわ。これ倒してもキリなさそうやん」
[完全に囲まれましたね]
「……、」
「? アイシクルくん、どないしたん? 顔真っ青やで?」
「…え? ああ、いや。なんでもない」
獣…魔獣たちは牙を剥き出していて今にも襲い掛かってきそうな雰囲気。
イヤリングに触れて、すぐに水の魔法が撃てるように私は眉をひそめて身構えた。大丈夫。呪文は頭の中にちゃんと入ってる。その時、何処からともなく笑い声が聞こえてきた。




