魔法陣から伸びる謎の柱
「リィドさん!」
大爆発のあった場所まで全速力で走ってくると、そこには白衣を着た藍色の髪の男の人がうつ伏せになった状態で倒れていた。名前を呼びながら駆け寄ると、彼は顔を上げて私を見る。
彼の名前は"リィド・エーシェント"さん。彼は、この森の中でひっそりと暮らしている知る人ぞ知る凄腕のお医者さんだ。ちなみに、私の憧れの人でもある。
一体何があったんだろうと首を傾げる。この場所には確かリィドさんの家があったはずだけれど、見渡して見つかるのは黒く焦げた大量の木片のみ。
「あ、アメリア。おはよう」
「お、おはようございます。…じゃなくて!だ、大丈夫ですか!?何があったんですか!?」
もしかしてリィドさんを狙ったテロではないだろうか。そう思い、私は眉をひそめる。しかしどうやらそうではないようで、リィドさんはゆっくりと身体を起こし、自分の家があった方を向いた。
「イ…テテ……。火薬詰めすぎだろ……っ」
「リィドさん、何が…?」
「……ああ、うん。家を爆破したんだよ」
「…………はい?」
………、家を、爆破?
「え、家を、爆破?…何故?」
「事情があってね。…ああ。えと、そうだな。わかるように言うと」
リィドさんは顎に手を添える。
「少し火薬の量を見誤っていたようで、予想外に爆発してしまったんだよ」
不注意だね。
そう言って、はははと笑った。
いや、笑い事じゃないですよ。家無くなっちゃったんですよ。これからどうするんですか。ホームレス生活でも始めるんですか。
「とにかく、たいしたお怪我がなくて良かったです…」
「ああ。それは俺も良かった」
不幸中の幸い。
リィドさんは立ち上がり、家のあった場所まで歩いていく。
ついていくと、そこには消滅した彼の家と同じ大きさの魔法陣があった。地面を掘るように描かれた魔法陣を見て、リィドさんは眉をひそめる。魔法陣からは、なんと言ったらいいか、変な黒い煙のようなものが出ていた。
「……やっぱ駄目か」
ポツリと呟く。
駄目…?
「あの、リィドさん…。この魔法陣は」
どういう意味だろうかと思って聞いてみるが、そこまで言って私は口を閉じる。何故ならその途中で魔法陣が黒く光りだしたからだ。
光を見てリィドさんは目を見開き、私の腕を引いてその場から距離を取る。何が何だかわからないままにリィドさんの隣に立つと、その瞬間魔法陣から巨大な柱が現れた。魔法陣と同じくらいの大きさの柱は物凄いスピードで空に向かって伸びていく。
「な、何……!?」
遥か彼方まで伸びていった柱を見て呆気に取られる。リィドさんは私の腕から手を離して、同じく柱を見つめた。
「リ、リィドさん! こ、これ一体何なんですか!?」
「………、アメリア」
「! はい…?」
「学校に遅刻するよ」
「えっ、」
唐突。今、それ言います!?
リィドさんの場違いな発言に吃驚。
「学校は大切だよ。今から走っていけばギリ間に合うんじゃないか?」
「いや、…」
いやいやいやいや、リィドさん。今はそれどころじゃない気がします。学校とかどうでもいいので、この柱がなんなのか知ってるのなら教えてください。
それに、何が"やっぱ駄目か"なんですか!
「リィドさん、説明してください!あの魔法陣は…。なんなんですかこれは!?」
「……君は知らなくていい事だよ」
「は…?」
「ほら、本当に早くしないと遅刻するから。行った行った」
「ちょ、!リィドさん!」
聞く耳持たず。
リィドさんは私の背を押して無理やり歩かせる。納得いかない。私は眉をひそめてリィドさんを睨み付けた。笑いながら私をある程度まで歩かせると、彼は"いってらっしゃい"と優しい口調で言いながら手を振る。
「……、」
聞く耳を持たなくなったリィドさんは、もう何を聞いても口を割ってはくれないだろう。はぁ。と溜め息を吐いて、私は言われた通り学校へ行くため足を動かした。眉を下げて、彼を見つめながら歩く。
リィドさんは、私が見えなくなるまでずっと笑いながら手を振っていた。