ゼラニウム遺跡 2 ※ローデン視点
風の遺跡。
別名・"ゼラニウム遺跡。
アイシクルくんと離ればなれになってしまった後、わいは何故かシャスティアちゃんと出会い、共に遺跡最深部を目指していた。
「なんですの、ここは?」
遺跡最深部目指して歩き始めてから、どれだけの時間が経ったか。わいらは、広い部屋に辿り着いた。
「何もあらへん」
「道を間違えたわけではありませんわよね?」
「うーん。ここに来るまでに他に道なんてなかったから、ここが正規ルートのはずやけど」
顎に手を添えて、眉をひそめる。
風の遺跡には昔一回来た事あるんやけど、あの頃と比べてだいぶ内部構造違うててめっちゃ混乱しとる。
「………ん。」
あ。立て看板発見。
「んー、何々?」
部屋のど真ん中に立て看板を発見したわいは、そこまで歩いていって看板に書いてある文字を読む。書いてあったのは精霊文字やった。こういう時、ちゃんと学校で勉強しといて良かったと思う。
「? 何を見ていますの?」
他の所を見ていたシャスティアちゃんが近付いてくる。文章の途中まで読んで、わいはシャスティアちゃんの方に顔を向けた。
「これは何ですの? 文字のように見えますが…」
「見るのは初めてか? これは精霊文字ってもんや」
「精霊文字?」
「精霊文字ってのは、そのまんま精霊が書いた文字の事。他種族の者に読まれんようにって生み出された文字って言われとる」
「読めるんですの?」
「あなどるなかれ。こんな事もあろうかとわいは精霊文字検定2級の資格を持っとる。こんなんお茶の子さいさいや」
「…なんですの、それ?」
疑いの眼差しと本当にあるのかそんなもんって表情でシャスティアちゃんはわいを見る。絶対信じてへんな。
そんな顔するんやったら、しゃーなし、声に出して読んだろうやないか。
「えーと、…おほん。"これは第1の謎解きである。この部屋には壁がある。ここに居る者と隣に居る同じ境遇の者たちとも協力し、先に進め"…?」
隣の部屋。
同じ境遇の者……?
「"隣の部屋に居る者たちと連絡を取る場合は、裏の台座に置いてある端末を使用する事"…。何やこれ?」
「協力…」
「裏の台座、…あ、これか」
立て看板の裏。確かにそこには台座があった。台座の上には端末も置いてあって、それを手に取れば液晶画面がピカピカと光って音を鳴らす。液晶画面をタップすると、光を放っていたそこから見知った顔が出てきてちょっと吃驚した。
「うおっ」
《え、何で急に…。あ、ローデンさん!》
「! …アメリアちゃん!?」
画面に映ったのは、わいらが捜していた人物、アメリアちゃんやった。
突然の捜し人の登場に吃驚して、わいは思わず声を上げる。あちらさんも吃驚しているようで同じような反応をしていた。
「アメリアちゃんこんなとこにおったんかい! 捜したんやぞ! 無事で良かったわ!」
《え? あ、えと、お、おかげさまで?》
アメリアちゃんの無事な姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。見ると、アイシクルくんも一緒に居るようだ。
「アイシクルくんも無事で何よりやわ。はぐれた時はどうしようかと思うたで」
《はぐれたって言うか、ローデンさんがむやみやたらに罠に嵌まり続けたのが原因でしょう》
眉をひそめて、アイシクルくんは言う。わいの警戒心の無さが露呈した話はしないでいただきたい。
あんなに罠が仕掛けられてるなんて普通思わんやろ。侵入者対策…ってか、試練中の妨害にしてもやり過ぎやぞあれは。槍とか炎とか電流とか大玉とか、どれか1つにしいや。
「きゃあ!?」
「?」
アメリアちゃんたちと話していると、離れた所からシャスティアちゃんの悲鳴が聞こえる。
声を聞いて顔を向けると、そこにシャスティアちゃんの姿は無かった。あれ? と首を傾げて、わいは辺りを見渡す。シャスティアちゃんが消えた。
「シャスティアちゃん?」
名前を呼ぶ。
返事はない。
「シャスティアちゃん!」
もう一度呼ぶ。
しかし返事はない。
え。何これ。ホラーか。
《ローデンさん、どうかしたんですか?》
「あー、…えと、ちょい緊急事態」
シャスティアちゃんが居た場所は、声からして看板の奥の壁の近く。
立て看板を見て、わいが端末を見つけて、…で、アメリアちゃんたちと話して。その間、シャスティアちゃんは何をしてたんや。
「……、」
眉をひそめて考える。
これは謎解き。立て看板に書いてあった文章を思い出す。この部屋には"壁"がある。隣に居る同じ境遇の者たちとも協力して先に進め。…もしかして隣の部屋に居る同じ境遇の者たちってアメリアちゃんたちの事か?
「アメリアちゃん。アメリアちゃんたちは今何処に居るんや?」
《え? あ、えと、部屋…です。何もない部屋。先に道は見えてるんですけど見えない壁があって通れなくて困ってて…》
「見えない壁…?」
アメリアちゃんたちの話では、どうやらあっちの部屋には先に進むための道があるらしい。しかし先には進めず、見えない壁がそれを阻んでいるようだ。
……うむ。見えない壁か。
「壁、…」
アメリアちゃんたちの居る部屋の先に道があるって事は、わいらの居るこの部屋にも先に続く道があるって考えていいはず。
立て看板の奥にある壁に手を触れてみる。何の変哲もないただの壁。特に変わった所は見当たらないが。
「……!」
ペタペタと壁を触りまくる。
手当たり次第作戦で触りまくっていると、その途中で突然手が壁に吸い込まれた。右っ端の壁の中に手がすっぽりと収まって、ちょっと吃驚する。
《ローデンさん、どうかしたんですか?》
アイシクルくんが聞いてくる。
手が入ったって事は、この壁通れるんか?
「……」
意を決して、恐る恐る通ってみる。
「……、お」
通れてしまった。
「アイシクルくん。壁通れた」
《は?》
壁を通ってアイシクルくんにそれを伝える。辺りを見渡せばまたもそこには何もなし。奥には壁があって、シャスティアちゃんもそこに居た。シャスティアちゃんを見ると、わいと同じように壁をペタペタと触っている。
「シャスティアちゃん!」
声を掛けるも、シャスティアちゃんはどんどんと先へと行ってしまう。通れる壁を発見し、何の躊躇もなく入っていってしまった彼女を見て、ちょっと慌てた。
《アメリア。通れました》
《リヴィス!? いつの間に…!》
どうやらこの壁の謎はアメリアちゃんたちの居る部屋にも適応されているらしい。
端末越しにアメリアちゃんたちの会話を聞いて、わいは次の壁を通り抜けようとしているシャスティアちゃんの腕を掴んで声を掛けた。
「シャスティアちゃん! ちょっと待てって!」
「っ!? ちょっと! 触らないでくださる!?」
パシッと、わいの手がシャスティアちゃんの手に払われる。その時ふと見えたのがシャスティアちゃんの手首に巻かれた花やった。
赤色の花。確かゼラニウムっちゅう名前の花だったか。花の名前は嫌っちゅう程覚えさせられたからだいたいはわかる。花弁の数も。
「おっと。すまんすまん。でもこうでもせんとシャスティアちゃん止まってくれないと思うたから」
「……」
眉をひそめて、シャスティアちゃんはわいを睨み付ける。わいはもう一度シャスティアちゃんの手首に巻き付いているゼラニウムを見た。
ゼラニウムの花弁の数は5枚。しかしそこには花弁が3枚しかなかった。あれ? と首を傾げる。
「…何ですの? 人の顔をジロジロと。失礼ですわよ」
「! ああ。えと、…」
3枚。花弁が3枚? どうして3枚? ゼラニウムって確か花弁は5枚のはずだよな。もしかして、シャスティアちゃんの手首のそれはゼラニウムじゃないとか? いや、でもあれはゼラニウムで間違いないはず。何で2枚足りないんだろう…。
「…シャスティアちゃん、どんどん先に行き過ぎ。わいも居るんやから行くんなら声くらい掛けて」
「は? どうして私が声を掛けなくてはいけないんですの? そっちが気付いてついてくればいいだけの話ですわ」
「うん。まぁ、そりゃそうなんやけど…。一緒に行動してる以上は仲間なんやし、協力しながら行こうや」
「協力? 何故この私が貴方なんかと協力しなくちゃいけないんですの?」
シャスティアちゃんの声が、少しだけ低くなる。わいを睨み付けたまま、シャスティアちゃんは腕を組んで息を吐いた。
「いいですこと? 私と貴方はただの他人です。仲間などではありません。"一緒に居る"のではなく"貴方が勝手に私についてきている"だけです。勘違いなさらないでください」
「……、」
……なんか、地雷踏んだっぽい。
「で、でも、看板にも書いてあったやろ。協力して先に進めって」
「断固お断りですわ。素性も何もわからない人と協力なんて出来るわけがありません」
言って、シャスティアちゃんは壁を通り抜ける。まぁ、確かに素性も何もわからない人と協力なんて出来ないのはごもっともな意見だ。
シャスティアちゃんを追って、わいも壁を通り抜ける。壁を通った瞬間、何処からともなくピンポーンと音が鳴った。謎解きはこれで終わりで正解のようだ。端末越しにアメリアちゃんたちの会話が聞こえる。アメリアちゃんたちも壁を通り抜けられたみたいで3人の嬉しそうな声が聞こえてきた。ええなぁ、楽しそうで。
「まだ道が続いていますのね。…まったく、この遺跡は何処まで続いているんですの?」
はぁ。と、シャスティアちゃんは溜め息を吐く。腰に添えた手。手首に巻かれたゼラニウムの花弁が1枚ひらりと足元に落ちた。
「うーん。さっきの看板に"第1"って書いてあったから、まだまだ先は長そうやな」
「…という事は、まだまだ貴方と一緒なんですのね。最悪ですわね。色々な意味で」
「そう言わんと。せっかくなんやし仲良くしようや」
「絶対に嫌です」
「……」
あかん。
完全に機嫌損ねてしもうた。




