ゼラニウム遺跡 1
「はぁ、はぁ、はぁ……」
シャスティアを追って、遺跡の奥までやって来た。見失わないようにとのリヴィスの指示で、ちゃんと彼女の背中を見て気を付けて走っていたっていうのに。
なのに、なのにどうして……。
「どうして見失ってしまったんだ……っ!」
言いながら、両手で顔を覆う。
嘆いていても後悔していても時は戻ってはくれないのでどうしようもないけれど、どうしてもっと早く追い付く事が出来なかったのか。
私の足が遅かったの? それともシャスティアが速かったの? それか私がもっとシャスティアに話し掛けていれば良かったの?
[アメリア]
「うぅ、リヴィスごめん。シャスティア見失った」
[わかっています。謝らなくてもいいですよ。これは貴女のせいではありません]
「私のせいだよ。私がもっとシャスティアの背中を凝視していればこんな事には」
[いいえ、アメリア。これは貴女のせいではない。ワタシたちは絶対にあの方に追い付く事は出来ないのです。…いえ。追い付く事が出来なくなっているといった方がいいでしょうか]
「? どういう意味?」
[おそらくワタシたちは、この遺跡の主による試練に巻き込まれてしまったようです]
「え?」
リヴィスは言う。
精霊の試練。精霊と契約を結ぶためには、その精霊が持つ"精霊壺"というものを手に入れなければならない。しかし精霊壺を手に入れるためには精霊が与えた試練にクリアし、契約の証を示さないといけないのだそうだ。精霊壺には様々な形があり、リヴィスの場合だとイヤリング、この遺跡に住む精霊の場合だと指輪、という風になっているそうです。
「この遺跡に住む精霊って……?」
[この遺跡に住んでいるのは"シルフ"、風の精霊です]
「風の精霊、…試練中って事は、契約者は?」
[シャスティア・アール。彼女は球を持っていました。彼女がシルフの契約者かと]
「!」
シャスティアが…!?
「どうしてシャスティアが!?」
[どういった経緯でそうなったのかはわかりませんが、シルフの事です。おそらく適当に選んだのでしょう]
「て、適当……」
適当で契約者って決めていいのか。
あ、でも私の時も…いや、あれは適当っていうより仕方がなかったっていう方が合ってる気がする。
「うーん、まぁ、とりあえずここでこうしてても仕方ない。先に進もう。シャスティアを見つけなきゃ」
[シャスティアを捜すよりも、シルフを会いに遺跡の奥へ行くのが懸命かと。彼女の目的地もそこですので]
「ん? あ、そうか。精霊を呼び出すには、球が必要不可欠なんだもんね」
まだまだ精霊については勉強中だけど、精霊は"休息地"と呼ばれる球(シャスティアが持っていたもの)の中で普段は生活している。契約者と契約を結んでしまえば精霊檻が球の代わりをつとめてくれるけど、そうじゃない場合はほぼあの球が生活拠点らしい。
精霊は普段、あの球の中に居る。
リヴィスも球の中から出てきたわけだけど、精霊が居なくなったあとあの球はどうなるのかと以前に聞いた事がある。リヴィスはそれに"あの球は大切なアクセサリーとして常に手持ちにあります"と答えていた。大切なアクセサリーとして手持ちにありますって、…生活拠点、アクセサリーになっちゃうんだね。
+
「あ、」
長ったらしい通路をひたすら歩いていると、しばらくして広い部屋に辿り着いた。
何もない、ただ広いだけの部屋。部屋の奥には通路が続いていて、そのまま通り過ぎようと足を止めずにいるとその途中で何故か歩けなくなってしまう。油断していたため、額を思い切りぶつけてしまった。痛い。
「……~~っ」
[大丈夫ですか?]
「大丈夫なわけないでしょ…っ」
額を押さえてぶつかった箇所に手を触れる。そこには壁のようなものがあった。見えない壁。それは部屋の奥に進むのを拒むように立ち塞がっていた。頭の上に"?"を浮かべる。何故これ以上進めない…?
[アメリア]
「?」
リヴィスが何か発見する。
彼女が見ている方に顔を向けると、そこには台座があった。近付くと台座の上には手持ちサイズの端末が置いてあり、端末の下には文字が刻まれている。
「何これ?」
端末を手に取って、まじまじと見つめる。液晶画面に触れてみても反応はない。裏側を見ても、何もなし。何に使う物なの、これ?
"わああああ!!"
「ん?」
その時、何処からか声が聞こえてきた。部屋の中を見渡すけれど、ここには私たち以外誰も居ない。わああああ。と、また声が聞こえる。耳を棲まして聞いてみると、どうやらこの声は天井付近から聞こえてきているようだ。
天井を見上げながら、声が何処から聞こえてくるのかを探す。少し歩いた所の天井。そこに穴が空いていた。正方形の穴が1つ。人が1人通れるか通れないかくらいの穴だ。
"わああああ!!"
声がだんだんと近付いてくる。同時にガタガタという音も聞こえていた。誰か落ちてきてる?
[これは、誰か落ちてきますね]
「や、やっぱりこれ人の声だよね……」
このまま落ちてきたら地面に激突して怪我では済まない。最悪の場合、打ち所次第では死んでしまうかも。想像したくないけれど、その光景が頭の中に浮かんで表情が歪む。
「ど、どうしようリヴィス」
[ワタシにお任せを]
そう言うと、リヴィスは両手いっぱいに水の球体を生み出し、それを穴の真下へ。すると球体はみるみるうちに大きくなっていき、直後、穴の中から勢いよく声の主が落ちてきた。
ドボンと音を立てて無事に落ちてきた人が球体の中に収まったのを確認すると、リヴィスは指をパチンと弾いてそれを壊す。パンッという音と共に球体が割れて水飛沫が飛んできた。
「ごほっ、」
水の球体に落ちてきたから、中に居た人は当たり前だけれどずぶ濡れ。私は、その人の姿を見て目を見開いた。
「え、アイシクル!?」
「……?」
[まぁ]
穴から落ちてきたのは、なんと吃驚。アイシクルだった。驚いて彼の名前を言うと、アイシクルは私の方に顔を向けて同じく目を見開く。
「アメリア! 何でここに…!?」
「何で。はこっちの台詞なんだけど! アイシクルこそどうしてここに!?」
どうしてアイシクルがここに居るのか。頭に"?"を浮かべて困惑する。
私の言葉を聞いてアイシクルはキョロキョロと辺りを見渡し、立ち上がった。ずぶ濡れなので、髪の毛と服からは水が滴り落ちる。
[水も滴るなんとやら。ですね]
「? …、そういえば、何で濡れてるんだ?」
「天井にある穴から落ちてきたあんたを助けたの。水で出来た球で」
「球?」
[はい。あと一歩遅かったら、貴方はおそらく重症でした]
「!? そ、そうだったのか。…ありがとう、助けてくれて」
[どういたしまして]
お礼を言われて、リヴィスはにっこりと笑う。普通の口調で"重症でした"って言われると、なんか怖い。
「それはそうと、早く濡れた服をなんとかしないと風邪引くよ」
「ん。ああ。それなら問題ない。…双炎武神!」
「?」
問題ない……?
アイシクルの返事に首を傾げる。すると彼はポケットからクリスタルを取り出して、それを瞬時に双剣武器に変えた。そして、片方の剣の柄と鍔と刃にほんのりと赤みを帯びさせ、自分の服に付いた水滴を少しずつ取り除き乾かしていく。
完全に服が乾いたのを見て、彼は武器をクリスタルに戻した。
「な?」
「……」
[なるほど。双炎武神は炎属性の武器。使い方次第では手持ち乾燥器になるわけですね]
「使ったのは初めてだけどな」
まさか一発で出来るとは思わなかった。そう言ってアイシクルは眉を下げて笑う。
うん。アイシクルの服が乾いて風邪を引く心配がなくなったってのは良い事だけれど、武器って戦う以外にも用途ってあるんだね。
「……!」
その時、手に持っていた端末の液晶画面が光を放つ。吃驚してそれを見ると、何やらそこには矢印が映し出されていた。
水色の太い矢印。画面中央に映っているそれは部屋の壁の方に向いていた。アイシクルとリヴィスも私の持つ端末を見る。
「なんだこれ?」
[矢印、ですね。壁の方を指していますが…]
「……」
矢印が向いている方に歩いてみる。壁に近付くと端末がピコンピコンと音を鳴らし、液晶に映る矢印が二重丸に変化した。この壁に、何かあるのだろうか。
「アメリア……!」
「……………」
恐る恐る壁に手を触れる。
次の瞬間、手の触れた部分から一瞬で円形状に壁が消えた。壁が無くなった事で向こう側が丸見えになる。壁の向こうには部屋が広がっていた。私たちの居る部屋と一緒。でも、向こうの部屋には部屋の中央に壁みたいなのがある。
「壁が無くなった?」
[いえ。無くなったのではなく透明になったのかと。それで向こう側が見えているんです]
「…、あ!」
「どうした?」
「あれ。シャスティアとローデンさんじゃない?」
向こう側の部屋の入り口付近。そこにはシャスティアとローデンさんが居た。2人は部屋の中を見渡しながら、中央にある壁に向かって歩いている。
「ローデンさん、居なくなったと思ったらあんなところに」
ピコンピコンと端末が音を鳴らす。
しばらく、そのまま音は鳴り続けていた。




