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捜索隊結成 ※ローデン視点





 アメリアちゃんが帰ってこない。


 シュリアさんに話によると、アメリアちゃんは晩飯の時間になれば必ず家には帰ってくるらしい。彼女は晩飯は絶対に何があっても食べる子のようで、この時間だと必ず家の中には居るみたいだ。時計を見ると今はもう晩飯の時間。シュリアさんの話が本当なら今頃はもうアメリアちゃんは家に居るはず。


 高級そうなテーブルの上には、美味しそうな晩飯たちが仰山(ぎょうさん)並んでいた。出来立てほかほか。湯気が天井に向かって伸びていて、それを見るだけで唾液が口の中で溢れてしまう。うーむ。これは、事件の匂いがプンプンや。



+



「…ってなわけで、"アメリアちゃん捜索隊"結成やー!」

「「……」」


 拳を空に突き上げ、元気良く声を上げる。


 わいの後ろに居るのは、リィとアイシクルくん。リィはそんなわいの事を冷ややかな目をして見ていて、アイシクルくんは急に大声を張ったからかちょっとだけ驚いた表情を浮かべていた。


「アメリアちゃん捜索隊…?」

「ほら、魔導新聞とかにたまに載っとるやろ? 行方不明者を捜すためにチームを発足とかなんとか。あれと一緒や」

「…。ローデンって、チームとかそういうの好きだよな」

「チームの結成は信頼を築く上では絶好の機会やからな!」


 ニシシ。と笑うと、リィは"やれやれ"と言いたげな表情で肩を竦める。


 さっそく、わいは捜索の基本…アメリアちゃんが行きそうな場所に何か心当たりがないかとアイシクルくんに聞いた。


「アメリアの行きそうな場所…。うーん。家からそう遠くない所に行ったとすれば、……パン屋、ですかね?」

「パン屋? なんでや?」

「アメリアは、そこのパン屋で売られてるスパイスパンっていうのが好物なんです」

「すぱいすぱん? なんやそれ?」

「スパイスパンっていうのは、ナツメグとか唐辛子とかの数種類のスパイスをお店の人が独自にブレンドして生地に混ぜて焼いたパンの事だよ」


 首を傾げると、リィが教えてくれた。


 へぇ。ここの国にはそんなパンがあるんやね。


「なんや美味そうなパンやな」

「…あーと、美味しそうっていう感想を持つのは自由なんだけど、食べるのはあまりオススメしないかな」

「? 何か問題でも?」

「いや、問題はないんだけど…」

「そのパン、凄く辛いんですよ。この辺じゃスパイスパンってのは有名で、よほどの物好きが激辛好きじゃないと食べられたものじゃないんです」

「おふ。…二人は食べたことあんのか?」

「ああ。あるよ。一回だけ」

「俺もアメリアに勧められて一度だけ。……次の日は一日中腹の調子が悪かったです」


 スパイスパンの味を思い出しているのか、リィとアイシクルくんは顔を見合わせて眉を下げる。


 その話を聞いて、わいは口元を引きつらせた。そんな辛いんじゃ、わいも食べられそうにないな。


「…せやけど、もうすぐ晩飯やろ? そない時間にパンなんか買いに行くんか?」

「あ、それもそうか……」

「他にどこか思い付くとこないんか?」

「他に? …そうですね」


 アイシクルくんは悩む。

 するとその時、どこからか声が聞こえた。


 声のした方を向いてみるとそこに居たのは黒い山羊。そいつは、わいらの元まで"メェ~"と気の抜けた声を出しながら歩いてきた。


[メェ~]

「黒ゴマ?」


 また逃げてきたのか。そう言いながらアイシクルくんが黒山羊の顔に触れる。


 黒ゴマっちゅう名前の黒山羊。確かこいつ、わいとアメリアちゃんたちが初めて出会った時にも居たな。学校の校長のペットやって聞いたけど、何でこんなとこに。


[メェ~]

「…なぁ、黒ゴマ。アメリアちゃんが何処に行ったか知らへん?」

「山羊が知ってるわけないだろ」

「わかっとる。聞いただけや。当てになんかしてへん」

[メェ~!]

「って、うお!? どうしたんや急に!?」

[メェ~!!]

「……! ローデンさん、リィドさん! 足元が!」


 黒い山羊…黒ゴマが突然大きな声で鳴き始めて吃驚する。すると次の瞬間、わいらの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


 先にアイシクルくんが気付いて、わいとリィも足元に目を向ける。それは緑色に光っていて、夜に見るにはめっちゃ眩しかった。


[メェ~!!]

「これ、転移法陣か?」

「え、なんかこの展開デジャブなんやけど…」


 黒ゴマは鳴き続ける。


 光はどんどん眩しさを増していき、わいらは耐えられんと互いにほぼ同時に目を瞑った。そして、次に目を開けたらそこは。



+



「…………、……」



 目を開けると、そこは知らん場所やった。


 ザァザァと聞こえる音に振り向けば、そこには目の前に広がる大きな海。暗くてわからへんけど、近くにちらほらと船のようなものが何隻か停まっていた。海の反対側には建物がある。ここは、港町か……?


「……あの黒山羊何してくれてんねん」

「ここは何処だ?」

「港町みたいだけど、暗くてよくわからないな」


 街灯の灯りはあるけど、それも微々たるもの。もっとよくここが何処かを知るためには"朝になるのを待つ"か"暗がりの中を歩きまくる"しかない。歩きまくるのは凄く嫌や。


「港町ってぇことは、随分遠くまで飛ばされたんか?」

「たぶん」

「…黒ゴマは居ないみたいですね」


 リィに教えてもらった事。どうやらこの港町は国の最北端に位置している町で(たぶん)、アメリアちゃんの家の場所はここから数十キロ程先の場所にあるらしい。(たぶん)


 戻るためには馬車を利用するしかないけど、しかしもう夜も遅い時間だから馬車なんてものは出ていない。徒歩であそこまで戻るなんてのももっての他だ。数十キロ歩いたら確実に死ぬ。


「どないせぇっちゅうんや。こうしてる間にアメリアちゃんがピンチになったらどうすんねん」


 もしそうなったらあの黒山羊丸焼きにして喰ったる。


「あのー……」

「「「?」」」


 黒山羊にちょっとした恨みを持って溜め息を吐く。するとそこで、わいらに声を掛けてきた人物が居た。


 声の方を向くと、そこに居たのは緑髪の少年。少年はわいらの顔を見て不思議そうな表情を浮かべていた。短パンの裾から覗く膝には絆創膏が貼られている。


「えと、こんばんは。おにーさんたち、この町の人じゃないですよね? 何処から来たんですか?」

「…君は?」

「あ、ごめんなさい。僕はシルリフっていいます。この先の宿屋で働いている者です。……えと、それで、見掛けない顔ですが、おにーさんたちは旅の人ですか?」

「旅? たび、旅…。あ、ああ、…ああ、そうや! わいらは旅の人や!」


 腕を組んで考える。リィと顔を見合わせて、アイコンタクトでそれとなく少年の言った"旅の人"という言葉を借りる事にした。


 アイシクルくんもなんとなくそんなわいらの意図をわかってくれた雰囲気で、それに頷く。


「? おにーさんの喋り方、…もしかして東の国の人?」

「ん? ああ、そうや。わいはローデン、よろしゅう」

「そうですか。だったらここまで来るのは大変だったんじゃないですか?」

「大変? あー、えと…まぁ、大変だったような、そうでもなかったような…」

「ここは西の国の最南端の町ですから、東の国から来る人は珍しいんですよね」

「へ、へぇ、そうなんやね…。って、西の国? え? ここ、西の国なんか?」

「? …はい。ここは西の国の最南端の港町"ヤハル"です」

「おふ」


 シルリフの言葉に吃驚する。


 リィとアイシクルくんも、互いに目を見開いて驚いているようだった。


「えと、あの。もしかして知らないで来たんですか?」

「あ、あー、えと、ちょい旅人会議」


 口元を引きつらせて、慌ててわいはリィとアイシクルくんと顔を見合わせる。どういう事やねん、これ。


「おいおいおいおい、どういう状況やねんこれ! わいら今西の国に居るっぽいぞ!」

「落ち着けローデン。あの子が嘘を言ってる可能性はないのか?」

「嘘? …うーん。それはないんやないか? わいらに嘘吐くメリットなんてどこにもないやろ?」

「それはそうだけど、でもこんな夜に子供が一人で居るっておかしくないか?」

「? そうか? わいがあんくらいの頃は夜でも街ん中駆けずり回ってたで?」

「……、ローデンに聞いたのが間違いか」


 とりあえず話し合った結論としては、あの黒山羊野郎無事に帰る事が出来たら絶対に丸焼きにして喰う。


「あの、おにーさんたち、大丈夫?」

「ん?あ、ああ。うん。平気。大丈夫大丈夫。もう何もかもオールオーケーや! あはははは!」

「…。えと、もし良かったら、泊まる所がなければうちに来ますか?」

「え、いいのかい?」

「はい。ここで会ったのも何かの縁ですし、旅の人を放っておくわけにはいきませんので」

「…うーん。なら、お言葉に甘えようかな。ローデンとアイシクルもそれでいいよね?」

「おう。わいはかまへんで」

「……、アメリアはどうするんです?」

「アメリアの事も心配だけど、今はこんな状況になった自分たちの事を優先して考えよう。朝になれば情報も手に入るだろうし。ね?」

「………」


 リィの説得に、アイシクルくんは眉をひそめて渋々頷く。不満そうな顔を見て、わいは眉を下げて笑った。こういう時ほんま冷静よな、リィって。めっちゃ羨ましいわ。


「それじゃあ、行きましょうか。宿屋はそこの階段を上がってすぐですので」

「おう。世話んなります」

「……」


 そして、わいらはシルリフのあとをついていって宿屋へ向かって歩いていく。夜やったから気付かなかったけど、港町の外には大きな森が広がっていた。



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