ここは何処?
「…………ん、」
何処かで風が吹く音がする。
どのくらい気を失っていたんだろうか。目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
「………ここ、は?」
ゆっくりと身体を起こして辺りを見渡す。
最初に目に入ったのはレンガで出来た石壁。
その近くには数個ほどの灯火台があった。
頭の上に"?"が浮かぶ。
此処どこ……?
「…………」
よいしょ。と立ち上がってスカートの裾をパンパンと叩く。どうやら怪我はしていないようだ。
「………」
キョロキョロともう一度辺りを見渡す。灯火台に灯った火のおかげで暗くはないけれど、知らない場所に一人で居るのは凄く怖い。どうして私こんな所に居るのだろうか。一人で来たにしてはここまで来るまでの記憶が無さすぎる。
[アメリア]
「ひょわあ!?」
顎に手を添えて考える。そこで突然背後から誰かの声が私を呼んだ。驚いて振り向くと、そこに居たのは手のひらサイズリヴィスだった。彼女の姿を見て肩を落とし、私はホッと胸を撫で下ろす。
「リ、リヴィス! 吃驚した…!」
[驚かせてしまいましたか。すみません]
見ると、リヴィスの身体は青く光っていた。これは"精霊特有の発光現象"というもので、暗い場所に行くと自然とこうなるらしい。夜道の散歩に便利。
「ど、どこか行ってたの?」
[はい。いくら声を掛けても起きなかったので退屈しのぎに探検をしてきました]
「…た、探検?」
「はい。ですが探検と言ってもここら一帯をざっと見てきただけですが…」
それでもここが何処かはわかりませんでした。と、リヴィスは困った表情を浮かべて眉を下げる。行動力逞しい。
[…それはそうとアメリア、それは何ですか?]
「ん?」
そこで、リヴィスは私の左手首に目を向ける。"それ"とは何の事だと私もリヴィスと同じように左手首に目を向けた。
見ると、そこには花があった。綺麗な桃色の花が手首に緩く巻き付いている。いつの間にこんな物が。
「何これ…?」
[これは、ゼラニウムですか?]
「ゼラニウム?」
[はい。ゼラニウムは主に西の大陸に多く群生している花です。何故その花がここに…]
眉をひそめて考える。
ゼラニウムって聞いた事がある名前だ。この世界では初めて聞くけれど。
「…アメリアさん?」
「[?]」
花を見つめて、リヴィスは考え続ける。そこでまた私を呼ぶ声がした。声のした方に顔を向けると、そこには"何でここに居るんですか?"と聞きたくなるような人物が。私は、彼女の顔を見て目を見開く。
「やっぱりアメリアさんだったのですわね。…こんな所で何をしていますの?」
「シャ、シャスティア!?」
私を呼んだ声の主はシャスティアだった。彼女は、右手に緑色の丸い球を持って不思議そうな表情で私を見つめている。
「シャスティア、そっちこそ何してるの?」
「聞いているのは此方ですわ。貴女、どうやってこの遺跡に入ってきたんですの?」
「…いせき?」
眉をひそめてシャスティアは言う。
遺跡。と聞いて、私とリヴィスは顔を見合わせた。
「ここ、遺跡なの?」
「遺跡なのって、…。貴女まさかここが何処だかわからずに入ってきたんですの?」
「入ってきたっていうか、気が付いたらここに居たっていうか……」
はは。と、眉を下げて笑う。
私の言葉を聞いて、シャスティアは深く息を吐いた。見ると、シャスティアの左手首にも花が一輪巻き付いている。私と同じゼラニウムの花。しかし色が桃色ではなくて赤色だった。赤いゼラニウムもとても綺麗だ。
「貴女は何処にいても何をしていても呑気ですわね。少し羨ましいですわ」
「え、えっと、…それほどでも?」
「褒めていません。…っと、こんな所で油を売っている場合ではありませんでしたわ。早く行きませんと」
「?」
行く……?
「行くって?」
「この奥にある祭壇です。そこにこの風の球を戻して差し上げないといけないんですわ」
言って、シャスティアは持っていた緑色の球を見せる。キラキラと輝く緑色の丸い球。その球を見て、リヴィスは突然目を見開いた。
[っ、この球は…!]
「リヴィス、知ってるの?」
[貴女、この球を何処で?]
「何処でって、遺跡の入り口ですわ。頼まれましたの。小さな少年に」
[少年…?]
「ええ。とても可愛らしい男の子でしたわ」
シャスティアの言葉を聞いて、リヴィスは眉をひそめる。そんな彼女の様子に私は首を傾げた。一体どうしたんだろう。
「それでは私はこれで失礼しますわ。もしここから出るのであれば出口は」
[…出口に向かう必要はありません、アメリア。彼女についていきましょう]
「え?」
「? 今何て言いまして?」
[貴女についていくと言ったのです。どうやらこの場所はアメリアにとって重要な場所のようですので]
リヴィスは言う。
私にとって重要な場所……?
「何を言っていますの? …っていうか、貴女はどなた様なのですか?」
[…申し遅れました。ワタシはリヴィス。アメリアに仕える精霊です]
「せいれい…?」
[奥に行くのであればこの先は危険な道のりとなるでしょう。もし一人で行ったとなればその場合の貴女の死亡率は限りなく高く、生きてはここを出られません。しかしワタシたちがついていけば少なくとも死ぬ事はなくなり、かつ時間の短縮にもなるかと思いましょう]
「……」
[効率的に考えてもワタシたちがついていく事は貴女にとってメリットしかないはずです]
「……、」
[どうか、ワタシたちの同行をお許しください。シャスティア]
胸に手を置いて、口元を緩ませながらリヴィスは頭を下げる。しかしそれを見たシャスティアは考える間もなく眉をひそめて"必要ないですわ"と歩き始めた。
その瞬間、ゼラニウムの花弁が足元に一枚ひらりと落ちる。
「ち、ちょっと待ってシャスティア!」
私の静止も聞かず、シャスティアはどんどんと奥へと行ってしまった。
「…行っちゃった」
[アメリア。彼女を追いかけましょう]
「え?」
[先ほども言ったように、もしこの先を一人で行くとなれば彼女の死亡率は限りなく高い。ヘタをすればおそらく一瞬であの世行きでしょう]
「そ、そんなに危険なとこなの? ここ?」
[ええ。アメリアが思っているよりも数倍は危険かと]
「……」
思わず顔が引きつる。
かまわず、リヴィスは言葉を続けた。
[アメリア。ここからは覚悟しておいてください]
「?」
[ここはおそらく風の遺跡。またの名を"ゼラニウム遺跡"と呼ばれている場所です。そして、それが意味しているのは、ここは"柱の内部"だと言うこと]
「え、」
柱……?
「柱って、リヴィスが居た…あの洞窟があった?」
[ええ。誰の仕業かはわかりませんが、知らぬ間にワタシたちはその誰かに柱の内部に連れてこられたようです]
「誰かって……」
[しかし、その"誰か"はだいたい見当がつきます。おそらくは彼ではないかと。彼はこういうのが好きですから]
ふふふ。と、リヴィスは笑う。
リヴィスが言う"彼"というのが誰の事なのかよくわからないけれど、そんなに危険な場所だと言うのなら先へ行ったシャスティアが心配だ。
「だったら早く行かないと! シャスティアを追いかけよう!」
[ええ。行きましょう、アメリア]
そして、私たちもその場から足を動かしてシャスティアの後を追って奥へと向かう。果たして奥がどっちなのかっていう疑問はあるけれど、シャスティアが歩いていった方向に走って行けばとりあえずは大丈夫だとリヴィスは言っていた。
この先には一体どんな危険があるのか。
私たちが追い付くまでシャスティアには無事でいて貰いたい。




