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クリスタル・ウェポンと精霊





「それではこれから、アイシクルくんにクリスタル・ウェポンの使い方とその歴史について説明していきたいと思う!」


 今日は学校がお休みの日。

 場所は私の家の2階・空き部屋。

 正確には空き部屋じゃないのだけれど、これはまた後で話します。


 現在、この部屋に居るのは私とアイシクル、そしてローデンさんの3人。ローデンさんは部屋の窓側に背を向けて立っていて何故か黒ぶち眼鏡を掛けていた。それを私とアイシクルは床に座って見つめている。


 クリスタル・ウェポンというのは、この前の柱の中の洞窟…睡蓮の洞窟での一件でローデンさんたちが使っていた歪な形の宝石武器の事。詳しい事はあとで教えるという約束を果たすため、学校がお休みの本日、ちょうどいいとの理由でローデンさんはアイシクルに"クリスタル・ウェポンの使い方と歴史"についての講義を行っていた。


「歴史? それってそんな古くからあるんですか?」

「んー。歴史っちゅーても百年か二百年ぽっちやねんけど、クリスタル・ウェポンを使う身としてはどんなに浅い歴史やとしても知っといておいて欲しいってやつやな」

「…はぁ」

「えーと、じゃあまずクリスタル・ウェポンいうんは…」


 私はクリスタル・ウェポンとは一切関係がないのだけれど、内容的になんだか面白そうだから参加させてもらっています。


「ほんなら、…出てこい"ヨイチ"!」


 アイシクルにクリスタル・ウェポンの歴史を一時間に渡って話をしたあと、ローデンさんはズボンのポケットから歪な形の宝石を取り出して、ポンッとそれを一瞬で変化させる。


 ローデンさんのクリスタル・ウェポンは弓。名前は"ヨイチ"。遠距離、後方支援に特化した武器らしい。


「こうしてクリスタル・ウェポンを出して、敵にバーンッて攻撃するんや。声の掛け方はなんでもええで。…じゃあ次はアイシクルくんの番や」

「え。俺もやるんですか?」

「当たり前や。何のための授業やねん」


 言われて、アイシクルは上着のポケットから歪な形の宝石を取り出す。


 アイシクルの武器は、確か双剣だったはず。


「えと。じゃあ……。現れろ、双炎武神(そうえんぶじん)


 半信半疑で宝石に向かって武器の名前を呟く。そのすぐあと、彼の声に呼応するかのように宝石が眩しく光を放った。


 みるみるうちに宝石は形を変え、やがて二本の剣の姿となり、私たちの前に現れる。


「「おー」」


 双剣の柄を両手に持ち、アイシクルと私は声を揃えた。双剣から元に戻す時も"戻れ"と声を一言掛ければいいだけだと言って、ローデンさんは弓を元の宝石に戻す。


「…ローデンさん。ちょっといいですか?」

「なんや?」

「宝石の真ん中に文字みたいなものが刻まれてたんですけど、あれは何です?」

「ああ。これか? これは武器の種類を表しとるんや。ほら、わいのこれの場合は"弓"。読めへんくてわからんだろうからこれは無視してもええよ。ちなみにアイシクルくんのに書いてあるんは"剣"。双剣やからな」

「……」


 双剣を元の宝石の形に戻す。

 宝石の真ん中に刻まれているのは、確かに"剣"の文字だった。何で漢字なんだろう。


 ローデンさんの出身国が漢字を使ってるのかな。確か東の国って言ってたね。


「…それはそうと、アメリアちゃんはさっきから何してんの?」


 宝石…クリスタル・ウェポンをポケットに戻して、ローデンさんは私の方に顔を向ける。テーブルの上に置いていたノートが気になったのだろう。目の前に開いたままの状態でそこにあるノートを私はローデンさんに見せる。ノートには、魔法の呪文がびっしりと書かれていた。


「これです」

「ん? なんやこれ?」

「各地に住むと言われている精霊の名前と、リヴィスが使う魔法の呪文です。精霊の名前が書いてあるのは、たぶんこれから出会うだろうから失礼のないように名前だけは覚えておいておくようにって。呪文の方は、一発で覚えるのは流石に難しいから練習用に書いておけって」


 二つともリヴィス(ウンディーネ)からの指示です。そう言うと、ローデンさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かばせて声を漏らした。


「うっわ。なんやムズい言葉がぎょーさん書いてあるな。わいにはこんなたくさんの字書くの無理やわ。字にすると頭に入ってこーへんねん」

「そうですか? 私は今のところ楽しめてますけど」


 この世界には、四人の精霊が居る。


 水の精霊ウンディーネ。

 炎の精霊サラマンダー。

 風の精霊シルフ。

 地の精霊ノーム。


 それぞれの精霊は"精霊の柱"という世界に四つある柱と共に存在していて、世界をあらゆる危機から守っている。と言われていた。


「…んで、どないしてそんなん勉強しとるん?」

[精霊を使役する者として、精霊のなんたるかを知っておく必要があらからです]

「ん?」


 聞くと、イヤリングから声と共に光が放たれる。光はそのままテーブルの上にちょこんと着地した。光は弾け飛ぶように消滅し、中から小さな女の人が出てくる。綺麗な水色の羽根が生えた女の人。イヤリングから出てきたって事は、おそらくこの人はリヴィスだ。


「? 姉ちゃん誰や?」

[この姿をお見せするのは初めてですね。ワタシはリヴィスです]

「は!? リヴィス!? なんでそんなちっちゃくなってんの!?」


 小さくなっているリヴィスを見て、ローデンさんは目を見開く。わなわなと肩を震わせて彼女を指差していた。ちょっと待って凄く可愛い。


[この方が今後アメリアのサポートをするのに最適だと思ったからです。……可愛いですか?]

「うん! 凄く可愛い!」

[ありがとうございます、アメリア]

「……」


 口元を緩ませて、リヴィスは笑う。


 服や髪型などにあまり変化はないけれど、小さな姿になった事で彼女は"綺麗な女の人"というより"可愛らしい少女"という感じになっていた。カメラがあったら連写したい。


「アメリアのサポート?」

[はい。精霊の力を持ったと言えどまだまだアメリアは経験が不足しています。ですから、今後彼女が一人前の精霊使いに成長するその日まで、ワタシがサポートという形でお手伝いしていこうかと]


 アイシクルの問いに、リヴィスは淡々と答える。普通に言っているけれど、私は別に一人前の精霊使いになりたいだなんて一言も言っていない。昨日の夜、眠る前に彼女が勝手に決めてしまった事だ。


 ちなみに"精霊使い"というのは、精霊を使役して戦う人の事で、簡単に言えば"魔導師(魔法を使って戦う人)"みたいなものだ。


「精霊使い…」

[はい。そして今は、そのために必要な一般的知識をあらかたアメリアに教えている最中なのです]

「そ、そうなんやね……。大変やな、アメリアちゃん」


 学校でやるような国語とか数学とかの勉強などはあまり好きではないけれど、こういう"ザ・ファンタジー"的な要素のある勉強は大好きです。精霊とか魔法の事とか、世界に住む私たち人間以外の種族の事とか。普通にわくわくします。まぁ、勉強したところで剣や魔法が劇的に上達するわけではないから、まだまだその二つに関しては下手っぴだけれど。


「アメリア。今大丈夫かしら?」

「?」


 そこで、お母様が部屋の扉を開けて声と共に顔を覗かせてくる。お母様は私の方に顔を向けたあと、部屋の中をぐるっと見渡した。


 お母様には見られるわけにはいかないので、部屋の扉を開けたその瞬間リヴィスはイヤリングに戻りました。見事な早業(はやわざ)だった。


「あらあら。随分と良い部屋になったじゃない」


 満足そうに言うお母様。

 その言葉を聞いて、部屋の主であるローデンさんは"そうやろそうやろ!"と鼻高々に腕を組み、部屋の中で特にこだわった箇所を細々とお母様に伝えた。


 私たちが居る場所は、最初の方で言ったように元々は空き部屋だった。しかし現在はローデンさんの部屋として使われていて、何故そのようになったのかというと、ローデンさんには家がないから。知り合いに連絡するとか言っていたような気がするけれど、その知り合いもつい先日に家を失くしたばかりだったようで、途方に暮れていた彼を見かねたお母様が"まぁそれはたいへんいけないわじゃあうちにすみなさいな"と言って、彼に住む場所を提供したのだ。


 ちなみに、その知り合いもそんな理由で家に住み着いてます。リィドさんです。吃驚。部屋は余ってるから問題はないけれど、優しすぎだろお母様。


「お、お母様。それはそうと何か用?」

「ん? あら、そうだったわ。アメリアにお客さんよ」

「お客さん?」


 ローデンさんとの爽やか部屋談義。


 楽しく話している途中で声を掛けると、お母様はハッとして再び私の方に顔を向けた。お客さん? 誰だろう。


「わかった。ありがとう、お母様」


 立ち上がって、私はお母様と共に部屋を出る。アイシクルとローデンさんは顔を見合わせて"お客さん"という言葉に不思議そうにしていた。うーん。今日は誰かと会うなんて約束はしていないはずだけれど、一体誰が訪ねてきたんだろう。首を傾げながら、お母様のあとを歩いて階段を降りる。


 ……その後、私はその家に訪ねてきた"お客さん"の罠によって二度目の柱攻略に挑まざるを得ない状況となってしまった。




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