兄vs弟 2 ※アイシクル視点
「トールくん、何してんねん! アイシクルくん殺す気か!?」
ローデンさんの声が聞こえる。
防御壁を張ったのは、ローデンさんとリネアさんだった。
壁を張ってもなお兄貴の攻撃は止まらず、握りしめた拳をただただ力任せに勢いよく壁にぶつけ続けている。
「っ、ちょ、なんやこの力!? 壁にヒビ入ってもうてんけど!?」
[トール、剣や鉤爪だけじゃなくて拳も使えたのか。まだまだ隠し球を持っているとは、流石だ。私も見習わないとな]
「感心してる場合やないよ!? こうしてる間でもトールくんめっちゃ拳叩いてきてるし、そのせいで壁も長くはもたん! このあとどうするか考えん……と!?」
話している間に防御壁が壊される。そのすぐあと、リネアさんが動くことが出来ない俺を抱えて、ローデンさんと共に兄貴の後方へ飛んだ。
俺を守るようにして二人は前方に立ち、ローデンさんはクリスタル・ウェポンと呼ばれる紫色の宝石を弓に変え、リネアさんは何もない空間から赤と蒼の宝石が装飾された杖を生み出してそれぞれ構える。
「…邪魔をするな!」
俺たちの方を振り向いて、兄貴は手を伸ばす。兄貴の足元には魔法陣が描かれ、その瞬間、俺たちの背後に二つのポータルが出現した。そのポータルによってあっという間にリネアさんとローデンさんは飲み込みまれ、二人は何処かへ飛ばされてしまう。
「ローデンさま!!」
「リネアさん!」
「な、…!?」
シャスティアとアンジェラが叫ぶ。
何が起こったんだ、今……?
[アイシクル、これは少々危険かもしれない]
「え?」
身体の中からブレイズが出てくる。
兄貴は、苦しそうに表情を歪ませて唸り声をあげていた。
「ぐ、っ……! あぁ……っ!」
「危険って?」
[……アレを見てみろ]
「?」
眉をひそめながらブレイズが見ていたのは、兄貴の手。そこには先ほどケルンに付けられた噛み傷があった。傷からは血が流れっぱなしで、地面に小さな赤い水溜まりを作っている。
おそらく兄貴は、あの傷のせいでおかしくなってしまったのだろう。と、シャスティアたちと一緒に居るケルンの姿を見てブレイズは言った。
[……どうやら、あのケルベロスという犬は俺たちが思っている以上に厄介な犬らしい]
「……、」
ケルンを見る。
ケルンは、兄貴を見て吠え続けていた。
[それより気を付けろ。ここからは約束がどうとか言っている余裕はないぞ]
「!」
言って、ブレイズは兄貴を見る。
唸り声をあげながら兄貴は頭上と足元に魔法陣を描いていた。今にも攻撃してきそうな雰囲気に俺は剣を構えて意識を集中させる。
「……っ、や……めろ! 俺に、構うな……っ、!」
そして兄貴は、頭上に描いた魔法陣から風の刃を放った。此方に向かって勢いよく飛んでくる風の刃をブレイズの合図で俺たちは別方向に避ける。
「っ、……」
避けた先にも風の刃は飛んできた。俺はそれを防御壁で防ぐ。魔法陣から次々と放たれる風の刃のせいか、兄貴に近付く事はおろかその場から動く事も難しかった。
ブレイズも、襲いくる風の刃を防ぐので手一杯の様子だ。
「これが"浸蝕"か…っ!」
[…アイシクル!]
「! …フュージョン・ブレイズ!」
風の刃が止み、そのタイミングで俺はブレイズと融合する。
身体の内側から沸き上がる炎を感じながら目前に魔法陣を描き、剣を取り出した。
「!」
剣先を兄貴の方へ向ける。
ブレイズと融合して変化した俺の姿を見て、兄貴は目を見開いた。
「お、まえは……!?」
「?」
「何故、お前がここに居る……っ!」
「兄貴……?」
突然、兄貴は叫ぶ。
歪んだ表情は変わらないが、その目は俺を睨んでいるようだった。
「そう、か。……やはりお前は、俺が何処で何をしていても立ちはだかってくるんだな…っ!」
「兄貴、何を…」
「ならば」
[っ、アイシクル、気を付けろ!]
奥歯を噛み締めて、兄貴は言う。
頭上に浮かべた魔法陣はそのままに、兄貴はそこから剣を取り出した。見たことのない真っ黒な剣だ。その剣を見ているとぞわぞわと胸がざわめく。
「ならば、もう一度この剣でお前を殺してやる。おとなしくしているんだな」
そして、兄貴は剣を構えて此方へ向かってきた。眉をひそめて、兄貴の剣を受け止める。近くで見ると、ますます嫌な感じのする剣だ。
「っ、」
剣と剣が激しくぶつかり合う。なんとか兄貴の動きには付いていけてるけど、様子がおかしくなる前の兄貴とは全然違っていた。力も。速さも。
兄貴の中には、まだこんな力が残っていたのか。
「閻閃」
「!?」
剣の刃に真っ黒な炎を纏わせ、一気に振り上げる。ゼロ距離で放たれれば避けるのは難しく、俺はそれを全身に浴びてしまった。
兄貴から離れて、地面に跪く。炎はすぐに消えたが、両腕と顔と首に少しだけ火傷を負った。ちょっと熱い。
[大丈夫か、アイシクル?]
「っ、…なんとか」
立ち上がって、剣を構える。
融合しても、やっぱり優勢なのは兄貴の方だった。休ませてくれるはずもなく、兄貴の攻撃は続く。
此方も刃に炎の力を宿らせて攻撃するが、避けられて防御されて反撃されて、あまりうまくいかず散々だった。ここまで攻撃が当たらないとなると、……もう笑うしかない。
「シャスティア、私たちに出来る事はないのでしょうか?」
「…アンジェラ、貴女にも感じるでしょう? 今のトールさまの力はとてつもないですわ。ここで私たちが出ていった所で、無駄な怪我を負うだけです。ローデンさまたちにも言われましたでしょう? アイシクルさまに加勢したいのは山々ですけれど……悔しいですが、見ているしかありませんわ」
[わん!]
シャスティアたちが心配そうに此方を見ている。
兄貴の眼中に彼女たちの事が映っていないのは幸いだ。
「……、」
まったく攻撃が通らず、イライラしてくる。
もうこの戦い終わりにしたい。
「……は、」
息を吐いて肩の力を抜く。いや、そんな事思っちゃ駄目だ。俺がここで戦う事を放棄してしまうと、兄貴は次にシャスティアたちの方へ行ってしまうかもしれない。
たとえこの戦いに負ける要素しかなかったとしても、兄貴との戦闘は何があっても辞めてはいけない。考えろ。考えろ。考えろ。どうすればいい。どうすれば、俺は兄貴に…。
「ぐ、ああっ……!」
「!」
兄貴の唸り声が大きくなる。
見ると、兄貴の身体には剣と同じく真っ黒な炎が纏わり付いていた。




