黒龍の羽を求めて 3
黒い渦は、アイシクルたちの周囲にも漂っていた。黒い渦の存在が邪魔をして、彼らとハンターたちの戦いがよく見えない。目を凝らすと渦の中に白い点のようなものもいくつか見えて、私の頭の上にはたくさんの"?"が浮かぶ。
「あれは一体…?」
[その白い羽にはね、みんなの中にある呪いの種と、その弱点を見るための力があるの]
「え?」
[この世界、マジュリア・ルーアに住む生き物たちみんなの身体の中にはね、呪いの種があるんだよ]
「呪いの種?」
[うん。呪い種は何もしなければただの種なんだけど、ちょっと刺激を与えるとだんだん大きくなっていって爆発しちゃうんだ。黒龍の羽を手にしたあのハンターさんたちみたいに]
眉を下げて妖精獣は言う。
彼女が何を言っているのか全然わからない。呪いの種? 弱点?
[スペスはその羽で、みんなの中から呪いを消そうとしたの。でも駄目だった。呪いは、消えるどころか増える一方だったの。そのせいでスペスもみんなと同じように…呪いにやられちゃった]
「その、スペスっていうのは?」
[スペスはスペス。スペスはわたしの]
言いかけた瞬間、バンッと大きな音が聞こえてくる。その音と共に妖精獣の姿が目の前から突然いなくなって、一瞬何が起きたのかわからなかった。
パラパラと音がして、音の方に顔を向けるとそこには石の壁にめり込む彼女の姿が。それを見て私は目を見開き、慌てて彼女に近付く。
「妖精獣!」
[う、うぅ…]
「ぐぁっはははは! 妖精獣! 妖精獣を撃った!! 妖精獣をこの手で撃ったぞ!! これで貧しい暮らしからおさらばだ!! がはははは!!」
「!」
声を聞いて振り向く。そこには、岩の上に立ち銃口をこちらに向けて不気味に笑うハンターが居た。この人、ゼオンさんたちと戦っていたはずなのに。
「ふふ、ふはっ、ふははは! これで俺は大金持ち。大金持ちだ! そうなったらようやくあいつらに馬鹿にされずに済む! はははは! どうだ! 俺はやれば出来る!! 無能な腰抜けはてめぇらの方だ!!」
「っ、…」
ハンターの身体には黒い渦。しかし彼の身体を漂っているそれは妖精獣の周辺に漂っている渦とは違ってとても大きくとても気持ち悪かった。
ハンターを見つめながら、眉をひそめてイヤリングからリヴィスを呼び出す。するとそこでハンターの背後からゼオンさんがやって来てハンターの胸を貫いた。岩の上に強く叩き付けるとハンターの身体を漂う黒い渦が少しずつ薄くなって消えていく。
「っ、…ぐ、は…っ!」
「先に地獄へ行ってろ」
「ぜ、おん…っ、きさまっ! この、うらみは…っ、ぜってぇ、…は…ら」
黒い渦が消えると同時に、ハンターは何も言わなくなった。胸から剣を抜いて、ゼオンさんは刃に付着した血を振り払う。
「大丈夫か?」
「ゼオンさん。はい、私は。…でも、」
妖精獣を見る。
妖精獣は気を失っていて、頭から血を流していた。
「そいつなら心配ない。あんな鉛弾でやられる奴じゃないからな。…それより、あんたも精霊出したんなら戦いに加勢しろ。見えるようになったんだろ?」
「見える? あの、黒い渦みたいな蛇の事ですか? ゼオンさんにも見えてるんですか?」
「…いや。俺には見えてないが、あいつの羽の効果ならよく知ってる。詳しくは話してやれないけどな」
「……」
「…、あんたは、今の俺がどう見える?」
「え?」
「俺の蛇は、今どのくらいだ?」
「どのくらいって…」
聞かれて、口を噤む。ゼオンさんの身体の周囲にも黒い渦は漂っていた。
妖精獣は、この世界に住むみんなの中に呪いの種はあると言っていた。恐る恐る自分の身体も見てみると私の周りにもそれはあって、少しだけ身体が震える。
「わ、たしと…そんなに、大差はありません」
「…、そうか」
頷いて、ゼオンさんは私から離れていく。ゼオンさんの背中を見つめながら、私は表情を歪ませた。アイシクルたちを囲む黒い渦は少なくなってきている。
私の目、一体どうなっちゃったの…?
+
「風よ、切り裂け!」
「紅蓮の炎! 敵を焦がせ!」
「氷蒼斬!」
アイシクルたちとハンターたちの戦いは、もうすぐ決着がつこうとしていた。リヴィスと共に彼らの元に近付いて、周囲の状況を確認する。
アイシクルたちの周囲に漂っている黒い渦と、ハンターたちの周囲を漂っている黒い渦は明らかに違っていて、見分けるのは簡単だった。大きさも、太さも、白い点の位置もまったく違う。
[アメリア!]
「水の流れよ!」
リヴィスと協力して、襲い掛かってくるハンターから身を守る。足元に魔法陣を描いて、黒い渦の中にある白い点に当たるように狙いを定めて水の魔法で攻撃すれば、いとも簡単にハンターは近くに居た仲間を巻き込んで水飛沫と共に遠くに吹き飛んでいった。
呪いの種と弱点。あの白い点は、もしかして弱点なのかな。だったら私がやる事は一つ。弱点である白い点に一点集中で水の魔法を当てまくる!
「はあぁっ!」
倒れたハンターたちが起き上がる直前に、彼らの身体をゼオンさんの剣が貫く。そうして次々とハンターたちは倒されていき、最後の一人の身体を貫いた頃には私たちは息も絶え絶えで満身創痍だった。
ハンターたちの周囲を漂っていた黒い渦は完全に消えて、そこには人数分の血だまりと死体だけが残る。荒くなった息を整え、私は同じく疲れているリヴィスをイヤリングに戻した。
「こいつで最後か。みんな、お疲れさん」
「はぁ、はぁ。…やっと終わった…っ」
「この人たちのタフさには、私感服いたしましたわ。倒しても倒しても起き上がってくるなんて、一体どんな訓練をしたらああなりますの?」
「普通にやっただけじゃ、こいつらは倒せない。致命傷を与えていたのに何度もこいつらが起き上がってきた理由は、あんたらの武器と魔法に呪いが掛かってなかったからだ」
[呪いが? どういう意味だい?]
首を傾げて、リネアさんがゼオンさんに聞く。そのあとゼオンさんがリネアさんたちに自身の剣を見せて詳しく説明していたけれど、その説明を私はうっすらとしか聞けなかった。
何故なら、リヴィスをイヤリングに戻したあと、突然頭がボーッとしてきたからだ。視界も歪み、少しだけだけれど吐き気もしてきている。
「っ、…」
「アメリア、どうした?」
私の様子に気が付いたのか、アイシクルが近付いてくる。ハンターたちとの戦闘中、彼はずっとブレイズさんと融合していた。
いいなぁ。いつか私もリヴィスと融合してみたい。
「ごめん。ちょっと、…気分が悪くなっちゃって」
言っている途中で足元がおぼつき、倒れそうになる。咄嗟にアイシクルが支えてくれたおかげでなんとか地面との接触は免れた。
「顔色が悪いな。魔力の使いすぎか?」
「…っ、ごほ!」
「! アメリア!」
急激な吐き気に襲われ、その場に座り込む。両手で口元を覆うとしたけれど間に合わず、私はそのまま嘔吐してしまった。
そんな私を見てアイシクルは目を見開き、慌てて同じく座り込む。声を荒げた彼に気付いて、シャスティアたちも近付いてきた。
「アメリアさん、どうしたんですの!?」
「アメリア!」
「はぁ、はぁ…っ、ごほっ、ごほっ」
焦点が定まらず、何も考えられない。力も入らなくなってきた。アイシクルたちの声がしているはずなのに、彼らの声も微かにしか聞こえてこない。
だんだんと視界が狭くなる。一体どうしてこんな状態になっているのだろう。アイシクルの言う通り、魔力を使いすぎた? でも、魔力の使いすぎでこんなに気分が悪くなるなんて聞いた事がない。仮に本当に魔力の使いすぎだとしても、せいぜい倒れるくらいで吐き気まではないだろう。
「まさか、羽の力が強すぎたのか…?」
ポツリとゼオンさんは呟く。
羽の力…?
「っ…」
駄目だ。もう意識が保てない。
ごほごほと何度も咳をする。
意識を失う前に最後に見たのは、私を心配するアイシクルたちの表情ではなく、そんな彼らの向こうで私を見つめながら笑う誰かの姿だった。




