妖精獣の住む廃城
[ピャー]
「!」
エスティールさんにお礼を言ってから道具屋を出ると、扉を開けた瞬間"ピャー"という甲高い鳴き声が聞こえてきた。
何だろうと思いながら声の方に顔を向けると、そこに居たのは鳥。大きな灰色の鳥。その鳥は、私たちの姿を見て鳴き声をあげ続けていた。
[ピャー、ピャー]
「わ! 何この鳥?」
「待たせてごめんね、ポポ」
「…ポポ?」
ピャーと鳴く鳥のもとへクロノさんは近付き、手を伸ばしてふさふさの顔に触れる。優しく撫でてやると、その鳥は気持ち良さそうに目を細めた。
聞いてみると、どうやらこの鳥はクロノさんが飼っているペットらしい。リネアさんとトウマくんも、この鳥の事を知っているようだ。
[もしかして、ここまでポポで来たのかい?]
「はい。この子に乗って移動すれば時間が短縮出来ますし、いっぱい買い物しても荷物置きに困りませんから。それに、今から行く場所へはこの子に乗ってじゃないと行けませんし」
「えっ、そうなのか?」
「うん。妖精獣は山に囲まれた廃城に住んでるからね。…歩きでも行けるけど、山を登るだけで半日は掛かるわ」
[うわ、それは大変だね]
「半日…。こいつに乗るくらいなら俺は半日掛けて歩きを選びたいなぁ」
灰色の鳥…ポポを見つめて、トウマくんは言う。鳥が苦手なのか、彼の表情は歪んでいた。
「やっぱり! この鳥には見覚えがありますわ!」
「シャスティア、知ってるの?」
「ええ。前に一度だけアンジェラと一緒に乗せてもらった事がありますの」
[ピャー]
「ふふ。この子も貴女の事は覚えてるって。再会出来て嬉しいみたい」
[ピャー]
「私もお会いできて嬉しいですわ。改めて、あの時のお礼を申し上げますね」
手を伸ばして、シャスティアもポポに触れる。クロノさんが触れた時と同じく、目を細めて気持ち良さそうにしていた。ポポは、人懐っこい性格のようだ。
「それじゃあ行きましょうか。妖精獣の所へ」
[ピャー!]
クロノさんが言うと、ポポは羽を広げて大きく鳴き声をあげる。人数的に全員乗れるのか心配になったけれど、その心配は杞憂。全員余裕でポポに乗る事が出来た。
そして私たちは彼(彼女?)に乗り込み、妖精獣の居る場所へと向かう。妖精獣が居る場所はシャーレの南西。ウォーロからはそんなに離れていない場所だった。
+
「着いたわ。ここがそうよ」
ポポに運ばれる事、数十分。ピャーと羽を羽ばたかせて地面に降り立ち、私たちは妖精獣の居る場所へ辿り着いた。
ポポから降りて、周囲を見渡す。クロノさんから聞いた話、ここには昔、大きなお城があったらしい。だいぶ前にお城に住んでいた王様が病気で失くなり、それ以降手入れをする者が誰も居なかったため廃城になってしまったようだ。
「うぅ、…」
「大丈夫か、トウマ?」
「ちょっと、何処かで休ませて…」
[ピャー]
ポポから降りたトウマくんをアイシクルが支える。見ると、トウマくんの顔色はすこぶる悪かった。心配そうにポポがトウマくんの方に顔を寄せる。
リネアさんとクロノさん曰く、トウマくんは"高い所で揺れる物"が苦手なんだそうです。
「おい! あんたら!」
馬車酔いに近い感じなのかなと思いながらトウマくんを見つめて首を傾げる。するとその時、大きな声で誰かが私たちに声を掛けてきた。声の方へ顔を向けると、そこに居たのは紺色の髪の男の人。彼は武器を構え、眉をひそめて私たちを睨み付けていた。
「ここに何しに来た。返答次第じゃ容赦はしないぞ!」
[ピャー]
「待ってゼオン! この子たちは違うわ!」
「…クロノ?」
叫ぶけれど、ポポからクロノさんが降りてきたのを見て、男の人はきょとんとする。ゼオンと呼ばれた男の人のもとへ走り寄って、クロノさんは私たちの事を説明した。
かくかくしかじか。一通り説明を終えると、ゼオンさんは小さく息を吐いて、武器を降ろす。
「へぇ、こいつは驚いた。ここに狩猟民以外の奴が来るなんてな」
「ゼオン。今、あの子は?」
「やっと大人しくなった所だ。さっきまでここの近くにハンターが来ててさ、ピリついてたんだ。悪い」
「ううん。私たちの方こそ、突然来ちゃってごめん。ハンターが来てたって?」
「おそらく偵察だろうな。あいつがこの時間何をしているのか探ってたんだろう。ご丁寧に草なんて被ってカモフラージュしててさ。バレバレだっての」
「そっか。ハンターが来てるんじゃ、あの子を会わせるのは厳しい?」
「うーん。…いや、それはたぶん大丈夫だ。あいつも馬鹿じゃない。ハンターとそうじゃない奴の判別くらい出来るだろう」
そう言って、ゼオンさんは私たちに背を向ける。信用してくれたのか"付いてこい"と言われ、私たちは彼のあとを付いていった。
私たちが妖精獣に会いに行ってるその間ポポはというと、クロノさんの指示で空を旋回しているそうです。ハンターの動きを空から見るためだとか。
「…この世に一匹しか居ない魔獣だから、ハンターたちが狙いに来てるんでしょうか?」
[おそらくそうだろうね。トウマからすれば、たった一匹しか居ない魔獣を捕まえるなんて言語道断なのだろう?]
「当たり前です! 幻、伝説、希少の名が付く動物、魔獣を捕まえるなんて重罪です! 見つけたらシヴァリウスを使ってでも死刑よりも重い刑を与えてやります!」
[うん。シヴァリウスをそんな事に使ったら可哀想だけれど、ほどほどにね。…えと、ゼオンくんと言ったかな? 君は、どうしてここに?]
廃城へ行くための通り道。トウマくんと話したあと、リネアさんが私たちの前を歩くゼオンさんに声を掛ける。その声に振り返り、めんどくさそうにしながらも彼は口を開いた。
「俺は、あいつを守るためにここに居る」
「守る?」
「ああ」
「魔獣保護…みたいな事ですの?」
「それとはちょっと違う。あれは大勢でやる活動だろ。俺は、個人的にあいつを守ってるんだ」
「個人的に守ってる…」
[どうしてか、理由を聞いても?]
「……。…さ、着いたぞ。ここがあいつの住処だ」
話したくないのか、ゼオンさんはリネアさんの言葉を無視して足を止める。彼が会話を止めてしまった事で、この話は強制的に終わってしまった。
ゼオンさんの声に周囲を見渡すと、そこは、所々崩れて廃れてはいるけれど、元々はお城だったって事がすぐにわかるくらいに立派な場所だった。ここの何処かに、妖精獣が居る。
「ようこそ。俺たちはあんたらを歓迎するぜ。妙な真似をしない限りな」
そう言って、ゼオンさんは口元を緩ませた。




