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スイと仲間たち ※スイ視点






 まずは、彼女の話をしよう。

 彼女の名前は、アメリア・ラインハーツ。…と言っても、彼女は俺の知っているアメリアとは随分と違っていた。


 彼女との出会いは、コロタマからだった。ある日突然、コロタマが彼女を連れて帰ってきたのだ。

 "森の中で拾った"とコロタマは喜び飛び跳ねていたが、その当時の彼女の様子は、自分が何故この場に居るのかわからないといった感じで、終始混乱状態だった。


 森の中での拾い物は、この森の管理を任されている俺の仕事だ。これがいつものガラクタ並みの拾い物ならば、そのまま焼却するか修理するかすればいい。でも今度の相手(ひろいもの)は人間。こんな事は初めてで、どうすればいいのかわからなかった。だから俺は彼女をこの先どうするか決めるまで、しばらくの間は傍に置いておこうと決めた。


+


「アメリア」

「……!」


 そして現在、彼女はチュウオウタワーに居た。名前を呼ぶと、彼女…アメリアは顔を此方に向ける。隣には、このタワーの管理を任されている少年・イオの姿もあった。


「スイ、いらっしゃい」

「スイさん? どうしたんですか?」

「ご飯の時間だから迎えに来た」


 小屋に戻って一緒にカレーを食べよう。そう伝えると、アメリアはパッと表情を明るくさせて口元を緩ませる。


 彼女は、記憶を失っていた。


「ご飯? もうそんな時間なんだね。…僕も何か食べないと」

「なら、イオも一緒にどうだ? 久しぶりにさ」

「ん? うーん。そうだね。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うよ」

「それより、どうしてここに? 場所は教えてなかったはずだけど?」

「あ、…えと、散歩をしていたら自然とこの場所に辿り着いたんです。とても大きな塔だと思って入ってみたら、イオくんが居て」

「突然だったから驚いたよ。一瞬、またあのお姉さんが入ってきたのかと思ったけど、雰囲気が違うから…」

「彼女はあの子とは別だからね。でも、その気持ちよくわかる。俺も最初見た時は困惑した」

「? あの、あの子って…?」

「君とよく似た女の子の話だよ。見た目が君とそっくりなんだ」

「私とよく似た女の子…?」

「うん。詳しい話は出来ないけど、このままここで生活していけば、もしかしたらお姉さんも会えるかもしれないね」

「……」


 イオの言葉を聞いて、アメリアは顎に手を添える。記憶を失っている彼女にとって、俺たちから聞く話は新鮮なんだろう。


 最初に彼女と話し、記憶を失っていると聞いた時は驚いたけれど、今になって思えば、記憶を失くしてくれていて良かったと思う。


「……、」


 アメリアを見つめ続けていると、左腕がピリピリと電気を帯びたように痺れてくる。それと同時に、彼女の中で微かに蠢く禍々しい"それ"の気配に俺は眉をひそめた。


 このざわざわとした感覚は、精霊・サラマンダーを間近で見た時と同じ感覚だった。


「そんな事より、お姉さんもカレー好きなんだね」

「うん。大好きだよ。辛口のカレーなら尚更ね」

「お姉さん、辛口食べられるの? 凄いなぁ。僕なんか甘口で精一杯だよ」

「ふふっ」


 彼女は囚われている。


 直感で、危険だと思った。


+


 数時間後。


 ご飯を食べ終わり、俺は小屋の地下にある封印部屋へと足を運んだ。ここには、この世界にとって大切な物が封印されていた。


 分厚い鉄の扉を開けて中に入ると、部屋の真ん中には魔法陣に護られた台座があった。ドーム状の結界に覆われたそれの前に立つと、台座の上に乗った小さな四角い箱がカタカタと小刻みに動き、話し掛けてくる。


[よぉ、久しぶりだな。何ヵ月ぶりだ?]


 白くて四角い小さな箱。


 この箱と俺は、もうずいぶんと長い付き合いだった。


「先週もここに来ただろ。忘れたのか?」

[はっ。てめぇに記憶の事を突っ込まれたくはねぇが、確かに先週もてめぇはここに来たな。…つーか、最近はすげぇよくここに来るじゃねぇか。そんなに俺様との会話が楽しいのか?]

「…まぁ、退屈はしないな」


 蓋に描かれた大きな目と前面に描かれた大きな口をパカパカと開いて、箱はケラケラと笑いながら俺を見つめる。


 箱との会話が楽しいか楽しくないか。ぶっちゃけて言うと、これが意外と楽しかったりする。俺の知らない事をたくさん知っているし、知識を教えて貰う分にはかなり助かっているから。


[そんで? 今日は何が聞きたいんだ? 先週と同じく、教えられる範囲で授業してやるよ]

「…この間、コロタマが女の子を連れてきたんだ」

[あん?]

「その子は記憶を失っていた。自分の事はかろうじて覚えていたようだけど、それ以外の事はまったくだったんだ」

[おいおい。迷子を保護したって話か? それなら俺様は専門外だぞ]

「その子に、俺の左腕が反応しててもか?」

[あ?]

「…最初は気のせいかと思ったけど、彼女を見ているうちにそれが気のせいじゃないってわかった。精霊サラマンダーを見た時と同じ感覚が、左腕から伝わってきたんだ」

[へぇ。そりゃヤベェじゃんかよ。その女、何者なんだ?]

「アメリア・ラインハーツ。この世界の時間を何度も巻き戻して、終わりのない旅を繰り返し続けた女の子だよ」

[アメリア・ラインハーツ…。聞いた事ねぇ名前だな。てか、時間を巻き戻し続けたって、…ああくそ、だからか。最近時間の流れがおかしいとは思っていたが、そいつの仕業だったのかよ]


 チッ、と舌打ちをして箱は怒りを露にする。その様子を見て、俺は真っ黒に染まった自身の左腕にそっと触れた。俺は、この真っ黒な左腕のおかげで他人の身体の中に巣くう闇を感じ取る事が出来た。


 左腕に触れながら、小さく息を吐く。その時、扉がガコンッと大きく音を鳴らした。振り向くと、扉の向こうから"痛い"という声が聞こえてくる。どれほど強い力でぶつかったのだろう。扉には丸い凹みが出来ていた。この地下部屋にやって来るのは俺の他にはあと一人しか居ない。一機械(ひときかい)と言った方がいいか。


[…あの機械に学習能力はないのか?]

「自分でも開けれるって思ってるんだ。大目に見てやってくれ」


 眉を下げて、扉を開ける。


 扉の前に居たのはコロタマ。名前を呼ぶと、コロタマはパッと起き上がって俺の胸に飛び込んでくる。


[スイ! スイ! 痛い! 痛い!]

「よしよし」

[おい機械! てめぇわざとやってんのか? ぼこぼこぼこぼこ何個も穴ぽこ空けやがって! ちったぁてめぇのサイズを考えろっての!]

[スイ。スイ。お皿洗い終わった。洗い終わった]

[聞けよ!]

「コロタマには声は聞こえないんだ。何言っても無駄だよ」

[だったらてめぇからそのポンコツに言っとけ! 俺様の神聖な御部屋をこれ以上傷付けるなってな!]

「…あー、と。うん。気が向いたらね」

[おいそれ絶対ぇ言わねぇやつだろ!]


 ギャーギャーと、箱は叫ぶ。


 箱にしてはよく喋る。元々は人間だったって話を聞いた事があるけれど、本当かどうかは定かではない。俺は再び小さく息を吐いて、コロタマを足元へ置いた。


[…ったく。つーか、てめぇどうすんだよこれから?]

「?」

[あの闇女だよ。このまま傍に置いとくつもりか?]

「…ああ。そのつもりだよ」

[俺様から言わせてみれば、さっさと殺っちまった方が得策だと思うがな。サラマンダーと同じ反応をしたってんなら尚更だ。その女、かなりヤベェぜ]

「うん。だけど、今のところは危なくはないから。たぶん、記憶を失っているのが抑制になってるんだと思う」

[その女の記憶は、これからも戻らねぇっつー保証はあるのか?]

「…それはわからない」

[だったら、戻った時のために対処法を考えとけ。協力してやるからよ。仕方ねぇ]

「……」

[…どしたよ?]

「いや、ずいぶんと優しいなと思って」

[はっ。これが優しさに聞こえたってか? てめぇの耳もとうとうご臨終かよ。…言っておくが、これはただの媚売りだぜ。てめぇの都合の良いように協力したり相談に乗り続けてさえいれば、ここから出られる日もそう遠くはないかもしれないからな」


 そう言って、箱はクツクツと笑う。封印から出す気は更々ないけれど、協力してくれるって言うのならこれほどまでに嬉しい事はない。俺は口元を緩ませて、箱にお礼を言った。


 そして俺は部屋を出て、封じの術を扉に施したあとコロタマと一緒に階段を登る。俺の腕に抱かれて気分が良いのかコロタマは目を細めて笑っていた。


「……」


 眉をひそめて、箱との会話を思い返す。アメリアは危険。記憶が戻るにしても戻らないにしても、彼女の事はこれから先注意深く監視する必要があるのかもしれない。


 叶うならば、どうかこのまま彼女の記憶が甦る事のないように祈りたい。


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