スイとコロタマ ※コロタマ視点
[スイ。スイ。お腹空いた。お腹空いた]
「ん?…ああ、もうそんな時間なのか。じゃあご飯にしようか、コロタマ」
[ご飯! ご飯!]
僕の名前はコロタマ。
コロコロ転がる丸い球だから、名前はコロタマ。
ここは、真ん中の国。
森の名前は忘れたけど、その森の中にある小さな小屋に、僕は僕のご主人と一緒に住んでいた。
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[スイ。今日のご飯は何? なあに?]
「うん。アメリアたちのおかげで野菜がたくさん収穫出来たからね。しばらくは野菜料理中心だよ。だから今日は、カレーかな」
[カレー? 野菜いっぱい?]
「そう。野菜いっぱいカレー」
僕のご主人さまを紹介。
僕のご主人さまの名前はスイ。
僕がスイと一緒に居るようになったのは、もうずっと昔。スイがまだ自分が何者なのか知らなかった頃からのお付き合い。
その頃から、僕とスイは一緒。これからもずっとずーっと一緒。
これは約束。僕からスイへの約束。この約束は、絶対に破っちゃいけないんだ。
「…うん。これであとはルーを入れて煮込むだけだ。コロタマ、"彼女"を呼んできてくれる? 奥の部屋に居るはずだから」
[ぬ? がってん!]
スイに頼まれ、僕はテーブルの上から飛び降りてリビングから奥の部屋へと向かう。
奥の部屋の前まで辿り着くと、僕は僕専用の扉から部屋の中に入って周囲を見渡した。ピピピピと音を鳴らしてセンサーを働かせる。しかしそこには人の気配が感じられず、僕はちょっとだけ混乱した。
[ぬ。…誰もいない]
スイに報告。
踵を返してリビングに戻り、スイに部屋に誰も居なかった事を伝える。するとスイは首を傾げた。ぐつぐつと煮込み途中のカレーを見つめながら顎に手を添えて考える。
そして、"あっ"と声を漏らすとスイはテーブル横にある棚から一冊のノートを取り出して、中身をパラパラと捲り出した。スイが取り出したのは"スイの記憶ノート"と呼ばれるスイのノート。記憶力が乏しいスイのために、昔一緒だった仲間が用意してくれた大切なノートだ。そのノートにはスイにとっても僕にとっても大切な思い出と記憶が詰まっていた。
「…あー。ごめん、コロタマ。彼女は今は散歩中で、ここには居ない」
[ぬう]
ノートを見つめながら、眉を下げてスイは言う。スイのその表情を見ていると、僕もつられて悲しくなった。
何処に散歩に行ったのか。ピピッと音を鳴らして検索すると、彼女は現在チュウオウタワーに居る事がわかった。チュウオウタワー。遠い。
[迎えに行くの?]
「ああ。ご飯は一緒に食べないと楽しくないからね」
[僕も行く! 僕も行く!]
「コロタマはここで留守番だよ。誰かがカレーを見てないと駄目だからね」
[でも、スイ一人だと迷うよ?]
「ノートがあるから平気だよ。なるべく早く戻ってくるから」
[ぬう。…わかった]
「それじゃあ、行ってくる」
言って、スイはノートを片手に小屋を出ていく。パタンと扉が閉まったのを確認して、僕はぴょんとキッチンの上に飛び乗り、じっとカレーが入った鍋を見つめた。頼まれたからにはずっと見てる。ぐつぐつ。ぐつぐつ。カレー楽しみだな。
ノートにはスイが自分で書いた手書きの地図が載っているから大丈夫。事故とかがない限りはスイは迷わない。でもこの前、スイは小屋の外にノートを持っていったにもかかわらず森で迷子になっていた。だから油断はできない。
[ぐつぐつ。ぐつぐつ]
ピピッと音を鳴らして、落ちないようにその場でクルクルと回る。とても心配。スイ、大丈夫かな。
やっぱり僕も一緒に行った方が良かったかな。スイの言葉を無視して、強引にでも一緒に行っていればこんなにもスイを心配する必要はなかった。でも僕はスイの言葉に従って"留守番"を選んだ。
[うぅうぅうぅ…]
クルクル。クルクル。クルクル。
迷いに迷って、僕は回って回って回り続ける。
クルクルと回り続けて数分。僕は目を回して、ズドンと大きな音を立ててキッチンから落ちた。その衝撃で、床にちょっとだけ穴を空けてしまう。これは帰ってきたらスイに怒られるヤツだ。猛省しよう。
[カレー。スイ。カレー。スイ。カレー。スイ。カレー。…スイー、早く帰ってきてー]
カレーが出来上がるまで、あと少し。
スイが戻ってくるのは、いつになるのかな。




