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謎のお爺さんと、ちょっと違う私





 トウマくんたちが地の柱に入ってから、早いものでもう3時間以上が経過していた。

 柱の中と外では時間の流れが違うから結構な時間待たされるんだろうなとは覚悟していたけれど、3時間以上はさすがに待ちすぎている。ただでさえ暗い森だったのが、夜になった影響で更に暗くなって怖さが倍増し、トールさん曰く、トウマくんたちが今日中に戻ってくる可能性はもう限りなく低いそうだ。


 と、いうわけで、この時点で私たちの野宿が決定しました。"野宿だ! わーい!"。だなんて、喜びませんよ。


+


『…それで、どうして私たちは今ここでこうしてるんだっけ?』

「薪拾いをしてたらアメリアが小屋を見つけて、気になるからって理由で入ってみたらこうなった」


 腕を組んで、アイシクルは言う。現在私たちは、地の柱のすぐ近くで見つけた小屋の中に居た。目の前には二人の子供たちが居て、私たちの事など気にも止めずにおままごとに没頭している。


 木製のテーブルの上に綺麗に並べられた玩具(おもちゃ)の食卓を見つめて、合い向かいに座っている子供たちは楽しそうに会話を弾ませていた。男の子が一人と女の子が一人。会話の内容を聞いてみるとどうやら彼女たちは"夫婦"という設定らしい。


『うぅ…なんでこんな事に。今頃トールさんどうしてるんだろ?』

「ケルン、それ玩具だから食べちゃ駄目だぞ」

[クゥン…?]


 アイシクルの肩の上。うつ伏せの状態で身体の力を抜く。子供たちは、おままごとに夢中でやめる気配はない。この小屋に入った時は、彼女たちの他にもお爺さんが居た。白髪と白い顎髭が特徴的なお爺さんで、今は2階でちょっとした探し物をしている。

 トールさんも待っているし、あまり長居も出来ないからとすぐに小屋を出て行こうとしたのだけれど、それはお爺さんによって止められてしまった。お爺さんは"ふむふむ"と顎髭を触りながら私をじっと見つめて"ちょっと待っとれ"と言ってそそくさと2階へ行ってしまったから、私とアイシクルは今待ちぼうけをくらっている状態だ。


 私とアイシクルの事を知っている風な口振りだったり、初対面なのに私が"私"である事をすぐにわかったりとなんとも不思議な雰囲気のあるお爺さんだった。


『お爺さん、戻ってこないね』

「……、」

『…? どうしたの?』

「いや、…この小屋、やけに時計が多いなって」

『ん?』


 アイシクルに言われて、キョロキョロと顔を動かす。


 棚の上や壁、テーブルの上、天井などなど、確かにこの小屋の中には彼の言う通りたくさんの時計があった。置時計やら壁掛け時計やらその種類は様々で、中には見たこともない形の時計まである。


『なんでこんなにあるんだろ?』

「…時刻も全部が全部揃ってるわけじゃないみたいだし、見るからに日常的に使ってる感じでもないんだよな。…これなんて秒針動いてないしさ」

『時計集めが趣味とか?』

「まぁ、それだったら納得か」

「いやあ、すまぬすまぬ。長いこと待たせてしまったな」

「『!』」


 話していると、お爺さんが戻ってきた。白い箱を持って2階から降りてきたお爺さんはゆっくりとした足取りで私たちのもとまでやって来る。


 テーブルに箱を置いて、"別の部屋に行ってなさい"と優しい口調で呟けば、子供たちはそそくさとおままごとを終了し、私たちから離れていった。


『箱?』

「あの、これは?」

「ほほ。まぁ、開けてごらん」

「『……』」


 言われて、アイシクルは箱の蓋を開ける。中を覗くと、そこには四角い小さな鏡が入っていた。鏡を取り出して、お爺さんはそれをテーブルの上に置く。お爺さんが言うには、この鏡に私の姿を映すと何かが起こるらしい。


「さぁ、アメリア殿。鏡の前に立つのじゃ」

『……』


 お爺さんは言う。


 いや、"鏡の前に立つのじゃ"って言われても。


[わんわん!]


 鏡を見つめて、ケルンが吠える。


 鏡には、特にこれといって変わった所はどこにもなかった。


「そんな警戒しなくて大丈夫じゃよ」

『……』


 なかなか動かない私を見て、お爺さんは笑う。私は、アイシクルの方に顔を向けて少しだけ悩んだ。


 鏡の前に立つのはいいけれど、チュウオウタワーの時みたいな事にはならないよね…?


『……』


 そして私は、意を決してアイシクルの手を借りてテーブルの上に降りる。恐る恐る鏡の前に立つと、そこには現在の私の姿が映った。


 二回目だけれど、特に変わった所はどこにもない。ただただ白くて丸い私の身体が映っているだけだ。


『…えと、?』


 よくわからなくて首を傾げる。


「あの、この鏡は一体…」

「その鏡を使って、アメリア殿を元の姿に戻すんじゃよ」

『!』

「戻せるんですか!?」

「少しの間、その鏡の前でじっとしておれ。じんわりとお主の身体が変化する事じゃろう」


 お爺さんの言葉に、私とアイシクルは顔を見合わせる。アイシクルは目を見開いて驚いていたけれど、顔のパーツがない私は感情を表に出す事は出来ないのでその代わりに全身をくまなく使って吃驚を表現した。


 そして、お爺さんに言われた通りに鏡の前に立って1分が経過した頃、鏡に映る私の身体に変化が起こる。私の身体がじんわりと消えていったのだ。私の身体が消えてしばらくすると、それと入れ替わりになるように女の人の姿が現れる。鏡に映った女の人を見て、アイシクルは頭に"?"を浮かべた。


「…誰だ?」

「ほほ。どうやらまだこの鏡は順調に作動するようじゃの」


 良かった良かった。お爺さんは言って、髭を触る。


 あの白い髭、あとで触らせて貰えないだろうか。


『……、』


 鏡に映った女の人。私は、この女の人の顔と姿に見覚えがあった。見覚え、というか、…何て言えばいいのかわからないけれど、とにかく私は"彼女"の事をよく知っていた。


『「どうして…。…え!?」』


 ポツリと呟く。すると、その言葉は鏡の中からも聞こえてきた。鏡に映った彼女が私と同じ声で喋ったのだ。目を見開いて驚くと、彼女も同じく目を見開いて驚く。まるで私の真似をしているみたいだった。


『「これ、どうなってるの?」』

「ほほ。どうやらまだ魂と身体は離れていないようじゃの」

『「?」』


 魂? 身体?


「お爺さん、ここに映っている女性は?」

「ほほ。そこに映っているのはアメリア殿じゃよ。正真正銘。紛れもなくの」

「え?」

「アメリア殿はわかっておろう。自身の目の前に映るのが誰か」

『「……」』


 鏡に映る彼女をじっと見つめる。彼女は眉を下げて、私を見つめていた。


 紺色の制服を着た黒髪の女の人。

 鏡に触れると、彼女と手が重なる。


「アメリアは知ってるのか? 彼女が誰なのか」

『「…う、うーん。何て言ったらいいのか…」』


 鏡に映る"私"が困った表情を浮かべる。


 お爺さんの方に顔を向けると、お爺さんは事情を知ってか知らずか"世の中には摩訶不思議な事もあるものじゃよ"と言って、懐から透明なガラス玉を取り出した。ビー玉くらいの小さなガラス玉だ。


「さて、次はお主の番じゃ。ディー殿」

「俺…?」

「この玉をアメリア殿の身体に当てるのじゃ。そして、そのままお主はお主の中に居る"人としての姿じゃったアメリア殿"を思い浮かべるんじゃ」

「…それで、一体何が?」

「ほほ。それはやってみてのお楽しみじゃ」


 白い髭に触れてお爺さんは笑う。とても楽しそうだ。アイシクルはお爺さんからガラス玉を受け取り、眉をひそめる。彼は、恐る恐る私の身体にガラス玉を当てた。お腹にガラス玉が当たって、少し冷たい。


[わん!]


 ケルンが吠える。


 テーブルの上に乗ってアイシクルの元へ行こうとしていた彼をお爺さんが止めた。


「これこれ、わんころ。邪魔しては駄目じゃ。今は大切な儀式の最中じゃよ」

[くぅん]


 しばらくの間じっとしていると、私の身体が光り始める。それと同時に何かに引っ張られる感覚が私を襲った。鏡に映る私が苦しそうに表情を歪める。


 次の瞬間、光が小屋全体を眩く包み込んだ。どのくらい包まれていたのか、しばらくして光が無くなった頃、私は閉じていた目をゆっくりと開く。目の前にはアイシクルが居て、何故か彼は驚いた表情を浮かべていた。


「…アイシクル?」

「…、アメリア、なのか?」

「?」


 首を傾げる。同時に身体に違和感を覚えた。なんだか凄く寒い。顔を下に向けて自身の手を見つめる。そこには先ほどまで見ていた手はなくなっていた。


 あれ? と、思いながら確認のためにその手で顔に触れる。口があり、鼻があり、目があり、耳も、髪の毛もあった。人間としてあるものがすべてそこにはあったのだ。驚いて目を見開き、私は声をあげる。


「わんわん!」

「ほほ。どうやら上手くいったようじゃの。…じゃが、完全に元に戻ったわけではないようじゃ」

「え?」


 お爺さんの方に顔を向ける。お爺さんから鏡を受け取り、そこに自分の姿を映した。鏡に映ったのは当然ながら私。けれどそこに映った私の姿は少し違っていた。髪の色が変わっていたのだ。


 いつも見ていた朱い色は同じだけれど、そこに少しだけ黒い色が混ざっている。髪の長さも肘の辺りまでになっていて、私はその髪に触れて再びお爺さんの方に顔を向けた。


「お爺さん、これはどういう…?」

「ううむ。説明はするが、それよりもまずはアメリア殿の服を何とかせんといかんな。このままだとディー殿が可哀想じゃ」

「!」

「…ん?」


 お爺さんの言葉に首を傾げ、アイシクルの方に顔を向ける。パチリと目が合うと、彼は即座に視線を逸らした。どこに目を向けているのか、あっちこっちと視線が泳いで落ち着きがない。


 アイシクルの反応がわからなすぎて、頭に"?"を浮かべる。そこで私は先ほど感じた"寒さ"について疑問を持ち、改めて自分の姿を見てみた。


「…っ!?」


 あらまぁ、どういう事でしょう。白くて丸い姿をしていた時に着ていた服はいつの間にか綺麗さっぱり無くなっていて、今の私は思いっきり裸だった。周りに何枚か布切れが置いてあるけれど、たぶんそれが私が今まで着ていた服だろう。


 慌てて、私は身体を隠す。なるほど。私が裸だったからアイシクルは落ち着きがなかったのね。困らせてごめんなさい。


「お姉さん、これで身体隠して」

「服はあっちにあるから。どれでも好きなもん着ていいぜ」

「…ありがとうございます」


 身体を隠す布を子供たちが持ってきてくれる。テーブルから降りて、私は子供たちに服のある部屋へ案内された。


 服がある部屋の扉を閉めようとした時、お爺さんとアイシクルの会話が聞こえてきたけれど、少しだけ遠かったせいかあまりよく聞き取れなかった。



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