地の迷宮 ガーベラ・スカビオサ 4 ※トウマ視点
[行くよ、僕の魔獣たち! 姉さんもろともお兄さんたちを噛み殺しちゃえ!]
地の精霊ノーム・ノエルとの戦闘が始まった。相手からの先制攻撃で既にそれは始まっていた気がしないでもないけど、さっきのはほんの挨拶代わりみたいなもので、…ここからが本当の戦いなのかもしれない。
「私とシェルは後衛に回りますわ。前衛はよろしくお願いいたします」
[ならば、私も後方で支援に徹しよう。この後の事も考慮して、魔力はあまり消費出来ないからね]
主さんの治癒魔法で身体中の傷をほぼ完治させた俺たちは、迫り来るノエルの攻撃に備えて準備を始める。
戦闘態勢バッチリなノエルは、おそらくこの後すぐに魔法陣で召喚した魔獣たちを走らせて襲い掛かってくるだろう。それまでのほんの数秒の間でこれからどうするかを考え、こっちも戦闘態勢に入らなければ。
[トウマ、ワタシの力を少しだけですが貴方に譲渡いたします。お役に立ててください]
「ありがとう、リヴィス」
[わわわわっ! ぼ、僕はどうすれば…!]
[君はしばらくイヤリングの中に避難ね。…ノルンはどうする?]
[あたしも一緒に戦うわ! あんなのあたしの知ってる弟じゃない! 根性叩き直してやらないと!]
ブレイズに聞かれて、ノルンは力強く答える。
話し合った結果、前衛は俺とブレイズ。後衛はシャスティアとシェル、主さん。前衛組のサポートはリヴィスとノルン。プクプは待機という形で陣が組まれた。
[グアアアッ!]
走り出した魔獣たちが勢いよく俺たちのもとへ迫ってくる。それを見てシャスティアは前衛の俺とブレイズの身体に防壁膜を張り、シェルとの協力技で俺たちと魔獣たちの間に竜巻を生み出した。
竜巻は少しずつ大きくなっていき、魔獣たちはそのままその竜巻に巻き込まれて空高く浮かび上がっていく。その隙に俺たちは竜巻に巻き込まれないようにバラバラに走り出し、視界外から一気にその場に残っていた魔獣を蹴散らした。
[グアアアッ!!]
[ああっ! 僕の魔獣たちが!]
次々と倒されていく魔獣たちを見つめて、ノエルは眉を下げて叫ぶ。竜巻が勢いを失くして消える頃には俺とブレイズの周りには魔獣が一匹も居なくなっていた。
ふぅ。と、息を吐いてブレイズの方に顔を向ける。ブレイズは二本の剣を手にしていて、それに付着した魔獣の血を振り払っていた。
[この…っ、よくも僕の魔獣たちを!!]
眉をひそめて、ノエルは言う。
ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうなくらいに歯を噛み締めて、ノエルは再び魔法陣から魔獣を召喚した。
[お前ら絶対に殺す! 肉片も残らないくらいにめちゃめちゃにしてあげるよ!!]
魔法陣から出てきたのは、土人形。ゴーレムは"グオオオオッ"と咆哮をあげて、俺たちに向かって走ってきた。大きさがあるから一歩が大きい。
ドシンドシンと地響きを鳴らしながら近付いてくるゴーレムに俺とブレイズはそれぞれ剣を構えて攻撃しようとする。が、それよりも早くゴーレムは拳を振りかぶって俺たちを攻撃してきた。その巨体に似合わない素早い動きに驚き、俺たちは慌てて後方へ避ける。俺たちが居た場所には大きな穴が空いた。
[グオオオオッ!!]
「な、…っ、めっちゃ早!?」
[気を付けろトウマ。あのゴーレムはさっきの魔獣と違って一筋縄じゃいかないぞ]
そう言って、ブレイズは自身の目の前に魔法陣を描き、炎の魔法をゴーレムに向けて放つ。
しかしその魔法はゴーレムの拳によって防がれてしまい、俺もシヴァリウスを振り上げてゴーレムに攻撃するが、その攻撃も同じく拳によって防がれてしまった。
[あはっ! いいぞゴーレム! そのままやっつけちゃえ!]
ノエルの声にゴーレムは再び咆哮をあげる。
俺たちは眉をひそめて、次に、また次にとゴーレムに向けて攻撃を仕掛けた。だけどそれも時間の無駄に終わる。
「駄目だ。全然攻撃が通らない」
[はは! 何度やっても結果はおんなじだよお兄さんたち! 僕のゴーレムは絶対無敵なんだから負けるわけがないんだ!]
楽しそうに、ケラケラとノエルは笑う。どうにかしてゴーレムを倒す方法を考えないと。そう思いながら俺はブレイズと顔を見合わせた。
するとその時、背後からドシンドシンと音が聞こえてくる。振り向くと、そこにはノエルが呼び出したゴーレムと同じ大きさのゴーレムが居た。物凄い速さで俺とブレイズの間を駆けていったそれは、ノエルのゴーレムと激しくぶつかり、地面に倒れる。
[グオオオオッ!!]
[いっちゃえゴーレム! ノエルのゴーレムよりあたしのゴーレムの方が強いんだから!]
どうやらあれは、ノルンが召喚したゴーレムのようだ。
ノルンは俺たちのもとまで走ってきて、片手をあげながらゴーレムに叫ぶ。
[肉片になるのはそっちよノエル! お姉ちゃんに逆らったらどうなるか教えてあげるわ!!]
[姉さん…っ!]
眉をひそめて、ノエルはノルンを睨み付ける。そしてノエルはゴーレムに指示してノルンのゴーレムを投げ飛ばした。
ノルンも負けじとゴーレムに攻撃を指示して、二体のゴーレムは激しい攻防を繰り返す。しかしどちらのゴーレムもなかなか相手を倒せず苦戦を強いられた。力が互角なのか。
[んもう! 何やってるのよゴーレム! さっさとそんな奴やっつけちゃって!!]
[ゴーレム! そんな弱そうなゴーレムなんてすぐに捻り潰せ!]
ドシン、ドカン、ドゴン。二体のゴーレムは拳を振るい、攻撃を続ける。
サポートとしての役割はどうしたのかと疑問に思うが、まぁ、これもサポートの一種だと思って何も言わないでおこう。
「風よ吹き飛ばせ! リル・トルネード!」
シャスティアの声が聞こえる。それと同時に小さな竜巻がノエルの頭上に現れた。先ほどの狼魔獣たちを飲み込んだものよりもかなり小さなそれは周囲の空気を巻き込み、ぐるぐると回転しながら降下していく。
[っ、ゴーレム!]
竜巻に気付いたノエルは戦闘中だったゴーレムを呼び寄せて、自分に向かって降ってくる竜巻をゴーレムに守らせた。竜巻がゴーレムの身体に当たると、ゴリゴリという音が周囲に響く。
竜巻が消えて、ノエルの足元には少しだけ崩れたゴーレムの土が落ちた。
[トウマ、ゴーレムを倒すなら今だ!]
ノエルを守って、少しだけ崩れたゴーレムは動きが鈍くなっていた。
ゴーレムを倒すなら今だと言うブレイズの声に頷いて、俺はシヴァリウスを構える。それを見ていた主さんが魔法を使い、シヴァリウスの攻撃力を上げた。主さんが放った魔法により、シヴァリウスの刀身はほんのり青くなる。
[ゴーレム、大丈夫?]
[グオォ…]
[無理させてごめん。でももう少ししたらあの人がここに来るから、だからもう少しだけ頑張って]
[グゥ…]
ノエルは言う。
あの人。さっきもそう言っていたけど、あの人って一体誰なんだろう。
「…っ、」
だけど今はそんな事気にしている場合ではない。シヴァリウスを構えて、俺は地面を蹴り走り出した。それに気付いたノエルはゴーレムに俺を攻撃するように指示する。
ゆっくりと拳を振り上げ、動きを鈍くしているがゴーレムは俺めがけてその拳を勢いよく地面にぶつけた。拳を避けて、その拳を利用し、俺はゴーレムの頭上へ高く飛び上がる。
「シヴァリウス!」
俺の声に合わせて、シヴァリウスは刀身を光らせる。剣先をゴーレムの方に向けて、俺はそれをそのままゴーレムの頭に突き刺した。頭上から降ってくる俺を攻撃しようと再び拳を振り上げるも、それよりも前にシヴァリウスが頭に突き刺さったので、その攻撃は俺には当たらなかった。
[ゴーレム!]
ゴーレムは、ゆっくりと地面に倒れる。
ガッチガチに固められたゴーレムの頭に強引にシヴァリウスを突き刺したため、少しだけ手が痛かった。刀身が折れなくて良かった。
[よくも、…よくもゴーレムを!]
ノエルは叫ぶ。
魔法陣を描いて地の魔法を放とうとするも、それはいつの間にか近付いてきていたブレイズによって阻まれてしまった。
[これで終わりだ、ノエル]
[っ、…]
何も出来なくなったノエルは、ブレイズの言葉を聞いて眉をひそめる。これでようやく戦闘は終わりか。そう思いながら俺は息を吐いて、シヴァリウスを戻そうとした。
しかしそこで、主さんの声が聞こえる。まだ終わっていない。主さんはそう言って、慌てて俺たちの頭上に結界を張った。広間の端から端まで真っ直ぐに結界を張った直後、その向こうから物凄い勢いで炎の渦が降ってくる。それを見て、俺は目を見開いた。結界を張っていなかったら確実に丸焼けになっていた。
[…ほお。今の攻撃を防いだか。気配は極力消したつもりだったんだがな]
炎の渦のあとで声が聞こえてくる。声は、巨大樹の上から聞こえてきた。
声の方に顔を向けると、そこには一人の男の人が居た。その姿を見たノエルは表情を明るくさせて嬉しそうに走っていく。地面に降りて、近付いてきたノエルの頭を軽く撫でると彼は口元を緩ませた。
[遅くなってすまない。少々時間が掛かってしまってな]
[いえ! 大丈夫です! ちょっとだけ手間取りましたけど、僕は無傷です!]
ノエルは笑う。
その姿はまるで、飼い主に寄り添う犬みたいになっていた。
「…、」
無意識に身体が震える。
頭上から現れた彼の姿は、ブレイズと瓜二つだった。
[あとは任せろノエル。これは絶好のチャンスだ。ここで、すべての種を完全に育ちきる前に潰しておこう]
そう言って、俺たちの顔を順に見つめた彼は表情を歪ませて不気味に笑う。それを見たブレイズは、剣を構えて眉をひそめた。




