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地の柱までもうすぐ





[質問よろしいですか?]


 ノルンの案内で、私たちは地の柱までの道のりを歩く。地の柱は、迷宮区のほぼ真ん中の位置にあるらしい。先頭を歩くのは、当然ながら案内をつとめてくれているノルン。そのすぐ後ろにはトウマくんとプクプ、トールさんが続いていた。


 地の柱へ行く理由をアイシクルを介してトールさんに聞いてみたところ、どうやらその場所にはノルンの双子の弟であるノエルという男の子が居るらしい。地の精霊は二人で一人。"まだ終わっていない"とのトールさんのその言葉は、まだそのノエルという子が居るから終わっていないという意味だったようだ。


[それ、俺に聞いてる?]

[今現在でワタシの近くには貴方しかおりません。その状況で他にワタシは誰に質問を投げ掛けるのですか?]

[あー、うん。そうね…]


 そして私たちも、トールさんたちの後ろに続いてあとをついていく。シャスティアとシェル、アイシクルと私、ブレイズさんとリヴィスという順で歩いてしばらく経った頃、リヴィスがブレイズさんの方に顔を向けて口を開いた。


[何故、貴方はここに居るのですか?]

[何故って、…うーん、まぁ、成り行きかな]

[………]


 リヴィスの口調から、なんとなく彼女が不機嫌そうなのがわかる。アイシクルの肩に掴まり、私はリヴィスとブレイズさんの会話に耳を傾けていた。


 いや、盗み聞きとかそういうのではなくて、ただ単に聞こえてくるから聞いてるってだけです。


[なに。俺がここに居るのが不満?]

[…いえ。不満とかそういうわけではなく、…ここに来るのはシャスティアとシェルだけだと思っていたので、その、少し驚いたものですから]

[そうは言ってるけど、顔に思いっきり"不満だ"って出てますけど?]

[!]

[…はは。俺に対しては正直でいてくれていいぞ。君の表情は相変わらず面白いくらいにわかりやすいからな]

[……、]

[ま、君が俺を煙たがる理由もわかる。見た目も性格も、何もかも俺はあいつそのものだからな]

[…、シェルは何と言っていたのですか?]

[ん? …ああ、そういえば何も言われてないな。気付いたら普通に会話してた]

[彼らしいですね]

[あいつは君と違って昔の事はあまり気にしないタイプだからな。正直言って、羨ましい限りだ。見習いたいよ]

[……]


 口元を緩ませて笑うブレイズさんと、眉をひそめて表情を歪めるリヴィス。精霊同士の二人は、会話を聞いている感じだと凄く仲が良いように思えた。


「…うーん」

『?』


 それからもブレイズさんとリヴィスの会話は続き、これ以上聞いているのもよくないなと思った私はアイシクルの方に顔を向ける。


 アイシクルは顎に手を添えて何かを考えている様子だった。その様子に首を傾げて、声を掛ければ彼はハッとして私の方に顔を向ける。


『どうしたの?』

「…いや、少し考えてたんだ」

『ん?』

「どうして俺だけにアメリアの声が聞こえるのかなってさ」

『……、』

「これがどういうことなのか…。理由がわかれば、君の声がリヴィスたちにも聞こえるように何か考えられるんだけど」

『…そう、だね』


 眉をひそめて、アイシクルは考える。トウマくんとパンプキンさんから始まった、この"私の声が聞こえない問題"は、ブレイズさん、シャスティア、シェル、プクプ、リヴィス、そして最後にトールさんと、アイシクルを除くみんなに該当していた。


 かろうじてアイシクルには私の声が聞こえているから彼女たちへの通訳は彼がしてくれているから何とかなっているけれど、もしこれでアイシクルまでもに声が聞こえていなかったら今頃私はコミュニケーションも取れず大変な思いをしていたかもしれない。


「…けど、どんだけ悩んでもわかんないんだ。さっきからただただ頭が痛い」


 はぁ。と、溜め息を吐く。

 その疑問は、私もこの姿になってからずっと思っていた。どうして私の声はみんなには聞こえず、アイシクルだけにしか聞こえないのか。


 あと、何故この姿から戻っていないのかも知りたいし、色々悩みの数は多い。でも。


『そんなに悩む必要はないよ』

「?」

『今の時点で聞こえなくて困るなんて事はないし、それに…リヴィスたちと話したい時はアイシクルが居るから、大丈夫っていえば大丈夫なんだ。だからアイシクルが悩む必要なんてない』

「気にならないのか?」

『そりゃ気になるけど、…でも今はアイシクルにだけ私の声が聞こえていればそれでいい。大丈夫。問題なし!』

「……」


 片手をあげて、アイシクルに言う。悩み事を後回しにするのはあまりよくないけれど、今はそれよりも先に考える事もやる事もある。私のこの問題は、今の問題が片付いてからでも遅くはないはずだ。


 しかしそうは言ったけれど、アイシクルは私のその言葉を聞いても納得せず、眉をひそめて再び悩み出してしまった。そんな彼を見つめて、私は小さく息を吐く。悩まなくていいと言っているのに…。


[見えてきたわ。あれが地の柱よ]


 うーん。と深く悩むアイシクルを横目にノルンが指を差した方に顔を向ける。そこには天高く聳える地の柱が建っていた。



+


[メェ~]

「「『黒ゴマ!?』」」


 そして私たちは地の柱へと到着する。柱の近くまで歩いていくと、そこには何故か黒ゴマの姿があり、彼女は足元にある草をむしゃむしゃと食べながら、"メェ"と呑気に鳴き声をあげていた。


 黒ゴマの姿を見つけて目を見開く私とアイシクルとシャスティア。それに対して、黒ゴマがここに居てもたいして気にしていない様子のトウマくんとトールさん、そして精霊の方々。反応の差が凄い。


「どっ、な、何故黒ゴマがこんな所に居ますの!?」

[こいつがここに居てもおかしくはないぞ、主。なんせこいつは精霊の使いだからな]

「…精霊の使い? 何ですのそれは?」


 シェルの言葉を聞いて、シャスティアは首を傾げる。精霊の使いとは、精霊によって生み出された…謂わば使用人みたいなものだと昔誰かに説明されたような気がする。


 精霊の使いについて、シェルがシャスティアにあれこれ説明している間、トウマくんは草を食べ続けている黒ゴマのもとへ行き、柱を見上げた。


「ここが地の柱。…この柱は、もうずっとこの場所にあるってローデンさんから聞きましたけど、それって大丈夫なんですか?」

「さあな。それは俺にもわからん」

[黒ゴマ、腕輪を渡してくれる?]


 ノルンが黒ゴマに言う。けれど黒ゴマはその言葉を無視してノルンに背を向けて歩き出した。そんな黒ゴマの反応を見て、ノルンとトウマくんは顔を見合わせてきょとんとする。


[メェ]

「!」


 黒ゴマは私たちのところにやって来ると、メェと鳴き声をあげて、じっとアイシクルを見つめた。


『…?』


 いや、違う。黒ゴマは、私を見つめているんだ。よく見ると、彼女の目線は私の方に向いていた。私は首を傾げて、頭の上に"?"を浮かべる。


[ちょっと黒ゴマ。何してるのよ? 柱に入るんだから腕輪を早く渡して!]

[メェ~]

[ん? …この人が何だっていうの?]

「ノルン。黒ゴマはアイシクルに反応してあるんじゃない。アイシクルの肩に乗ってる奴に反応してるんだ」

[え?]


 トールさんは言う。

 肩に乗ってる奴って、私の事か。


「…え? アメリア?」


 メェメェと鳴き続ける黒ゴマに疑問を感じながらノルンに続いてトウマくんも近付いてくる。アイシクルの肩に乗る私を見つめて、彼は目を瞬かせた。まるで初めて見つけたみたいな彼のリアクションにちょっと驚く。え、もしかして私が居る事に今気付いた?


[メェ~]

[もう、何なのよ。この白い子が何だっていうの?]

[メェ~]

『……』


 見つめられながら鳴き続けられるのって凄く怖い。身体を震わせてアイシクルにしがみつく。生憎と山羊語には知識がないため、この場に居る全員が黒ゴマが何に対して鳴いているのかまったくわからなかった。


「…うーん」


 腕を組んで、トウマくんは考える。するとそこで、黒ゴマが動きを見せた。"メェ"と強めに鳴いたあと、黒ゴマはアイシクルの服に思いっきり噛み付いて力任せに引っ張る。


 その影響で、私はアイシクルの肩から地面に落っこちてしまった。痛さはまったくない。身体全体が柔らかいからだろうか。落ちた時にポヨンと小さく音がした。


[メェ~]

『うぅ、…』


 ゆっくりと起き上がり、その場に座り込む。痛さはないと言っても地面にぶつかった時の衝撃は伝わるから、少しの間だけ頭がボーッとしていた。


 黒ゴマは頭をおさえている私に顔を近付けて"メェ"と鳴く。その瞬間、黒ゴマの角に付いた腕輪が淡く光を放った。パチパチと静電気のようなものが身体全体を巡り、なんとも言えない感覚が私を襲う。


[…そうか! わかったわ黒ゴマ! 貴女の言っている事が! …そこの白い子!]

『?』

[残念だけど、あなたはこの柱に入る事は出来ないらしいわ]

『え?』

「どういう事だ?」

[理由はわかんないわ。だけど黒ゴマがそう言ってるんだもの。この子は柱に入れないの]

[メェ~]

[ほら。黒ゴマも頷いてる]


 ノルンの言葉に頷いてるのかはわからないけれど、黒ゴマは"メェ"と鳴いて私から離れる。


 柱の中に入れない。なら、私はここでお留守番って事…?


「では、アメリアさんはここで待機って事ですの?」

[そういう事になるわね]

[メェ]

「こんな所で待ってるって、…大丈夫なのか?」

[心配はいらないわ。この近辺は比較的安全だから、たとえ一人で待っていたとしても問題はない]

「問題はないって言われても…」


 不安そうに眉を下げて、トウマくんは私を見る。本当に黒ゴマがそう言ったのか。確かめる術がないため、真実は黒ゴマにしかわからない。でも"入れない"って言われたからにはおとなしく待ってるしかないよね。


 どれくらいの時間待ってなきゃいけないのかにもよるけれど、子供じゃないんだし留守番くらいは余裕で出来る。しかしそれは人間の姿での私だった場合の話であって、今の私の姿を考えての留守番となると、ちょっと難しくなっちゃうのかな。


「…なら、」

「なら、俺がここでこいつと共に待っていよう」

[?]

「えっ! トールさん、柱の中に入らないんですか!?」

「心配ない。柱の攻略はお前が居ればなんとかなるだろう」

「なんとかなるだろうって、…トールさんが居ないとなると一気に戦力が減って超不安になるんですけど」

「ご安心なさいませトウマさん。風の柱を見事に突破なさった私たちですのよ? この地の柱だって、きっとお茶の子さいさいですわ」

「…、」


 ほほほ、とシャスティアは声高らかに笑う。自信たっぷりだ。


[…で、アイシクルはどうするんだ?]

「え?」


 腕を組んで、ブレイズさんはアイシクルにも聞く。そういえばさっき彼も何かを言いかけていた。


 ブレイズさんに聞かれて、アイシクルは眉をひそめる。そしてアイシクルは私を手のひらの上に乗せた。


「…俺も、ここに残るよ」

「あら。アイシクルさまもですの?」

「ああ。話し相手が居ないとアメリアも寂しいだろうからさ」

『……』

[だそうだ、ノルン]

[……ええと、じゃあ、中に行くのは]


 ノルンが、今までの私たちの会話を整理する。


 その結果、地の柱へ行くのはトウマくんとシャスティアと精霊三人。柱の外でお留守番は、私を含めたその他の人たちという事になった。


[メェ~!]


 そうと決まれば、トウマくんたちは早速黒ゴマの力で地の柱の中へ。


 それを見送った私たちは、彼らが戻ってくるまでの間何をするのかというと、ただただ待っているだけしか出来ないので各々好きなように過ごす事にした。


『…、』


 私が一人柱の中に行けないってだけで、アイシクルとトールさんまでもがここで留守番となってしまった。なんだかとても心苦しい。


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