仲間を求めて 7
ブレイズさんとシェルの不意打ち魔法攻撃が見事に決まり、ゴーレムはそのまま前方に倒れる。一体何が起きたのかわからないといった表情を浮かべて、ゴーレムの近くに居た女の子…精霊ノームはキョロキョロと辺りを見渡した。
[もう! 何なの!? せっかくイイトコだったのに!!]
[うっわ、ほんとに当たった…]
[だから言ったろ。エイムには自信があるんだって]
「トウマさん! ご無事ですか!?」
「シャスティア!? それに、アイシクルまで! どうしてここに!?」
『え、トールさん!?』
「…!」
精霊ノームが、私たちの方に顔を向ける。それを見て、トウマくんも私たちを見つめて目を見開いた。まさかトールさんも一緒に居るなんて吃驚。その直後、アイシクルの足元に居たケルンがボンという音と共に姿を変えてゴーレムに襲い掛かる。
姿が変わったケルンを見たのは初めてだったため、私は身体を震わせてアイシクルの肩の後ろに顔を隠した。
[グルル……ッ!!]
倒れているゴーレムの上に前足を乗せて、ケルンはゴーレムの身動きを取れなくする。
少し力を加えるとゴーレムの身体からはパキパキと音が鳴った。
[ゴーレム! 何やってるの!? そんなヤツはねっかえして!!]
[ッ、…ググ、グ]
[ゴーレム!!]
目の前でもがいているゴーレムを見つめて、ノームは眉をひそめる。それを見てチャンスだと悟ったトールさんは、素早い動きで風の魔法を唱えて彼女の身体を縛り付けた。
周りを見ていなかったノームは、突然自信の身体に巻き付いたそれを見つめて目を見開く。彼女の身体には茨が巻き付いていた。茨から生えた無数の刺が彼女の身体に食い込み、少しずつ痛みを与えていく。
[っ、な、何なのよこれ!?]
「チェックメイトだ、ノーム」
[っ、痛、…いたいっ、…あんた! レディに向かって何してくれてんのよ!]
これさっさと解きなさいよ! と、ノームはそのあともしばらく叫び続け、それを横目にトウマくんはトールさんの傍へ近寄った。
「…トールさん、このあとはどうするんですか?」
「ここから先はお前の仕事だ、トウマ」
「俺?」
「契約の手順は教えただろ。そいつを使って、こいつと契約してみせろ」
「は、…?」
「精霊壺に収めさえすれば、こいつの中にある闇は完全に消え、こいつは元に戻る。そうなれば少しはマシな話も出来るだろう」
[契約ですって? 何言ってくれてんの? あたしはもう誰のものにもならない! 大昔の決め事とかしきたりとかもううんざりなのよ!]
叫びながら、なんとか茨を解こうとノームは身体を動かし続ける。しかし、動けば動くほど茨は彼女の身体に食い込んで更に痛みを増していくだけだった。
[ゴーレム! 何してるのよ! さっさと立ち上がりなさい!]
[グ、…ッ、クグ]
[っ、ほんと、使えない人形ね! ここにノエルが居ればあんたたちなんて一瞬でケチョンケチョンになってるのに!!]
「そうか。それは残念だったな」
[ガフッ!]
ケルンがゴーレムの身体を押し潰す。ゴーレムの身体は粉々に砕かれ、散乱した土の塊がその場に残された。
トールさんたちの元に到着し、私たちもノームを見つめる。アイシクルの声でケルンは元の小さな犬の姿に戻り、わん! と吠えた。
「兄貴、」
「…久しぶりだな、アイシクル。元気そうで何よりだ」
「それはこっちの台詞だ。今まで連絡も無しに何してたんだ?」
「……」
「…だんまりか。まぁ、兄貴が言ってくれるわけないよな」
「お前には関係のない事だからな」
「……」
トールさんの言葉に、アイシクルは眉をひそめる。この兄弟の関係は相変わらずだ。何度も言っているけれど、この二人にはもう少し仲良くしてもらいたい。…何か良い方法はないものか。
アイシクルの肩に掴まり、アイシクルとトールさんの顔を交互に見つめる。と、そこにリヴィスが近付いてきた。キョロキョロとアイシクルの周りを見渡して首を傾げる。
[アイシクル。アメリアは何処です?]
「…?」
[気配が貴方の近くからしています。ですが、姿が見受けられません。何故です?]
「ああ。それは…」
『!』
リヴィスに聞かれて、アイシクルは彼女の前に私を持っていく。
アイシクルの手のひらの上に乗って落ちないようにバランスを取りながら、私はリヴィスの方に顔を向けた。
「えと、…信じられないかもしれないけど、」
[…ぬいぐるみ?]
『リヴィス! リヴィス!』
声を出して、リヴィスに向けて両手を上げる。頑張って自分をアピールするけれど、リヴィスには私の声、聞こえているのかな。
[…これが、アメリアなのですか?]
「俺も、最初は気付かなかったけど、声を聞いたらアメリアだってわかった」
[声?]
「聞こえないか? 今、必死にリヴィスの事呼んでるんだけど…」
『リヴィス! リヴィス!』
[…。いえ。ワタシには声なんて聞こえません]
『!?』
私の声は聞こえないと、リヴィスは首を横に振る。
その言葉を聞いて、私はピタリと手を止めた。
[貴方には聞こえているのですか? 彼女の声が?]
「…ああ。普通に」
『うぅ、……っ』
リヴィスにも私の声は聞こえない。そう思いながら私はその場で四つん這いになり、絶望にうちひしがれる。
明らかにテンションの下がった私を見て、アイシクルは眉を下げて人差し指を私の頭に置いた。やっぱり私の声が聞こえるのはアイシクルだけなのか。
[…っ、もおおお! この茨ウザすぎ! 全然外れないじゃない!!]
私たちが話している間でも、ノームとトウマくんたちのやり取りは続いていて、茨と格闘しているノームをトウマくんは見つめていた。
「トールさんのその"茨姫"は強力だからな。俺もそれには苦労したから気持ちはわかる」
[これじゃあ、まともに魔法も撃てやしない! …っ、もう! 痛いしウザいし色々ムカつくし何もかも最悪!! これも全部ノエルのせいよ!! 何が"めんどくさいから行きたくない"よ! あんたそれでも柱を守る精霊なの!?]
「…そういえば、ノエルは今何処に居るんだ?」
[あいつなら今頃柱の中でぐうたらしてるわ! あの馬鹿、あそこから一歩たりとも動こうとしないのよ!? あり得ないわ!!]
ムキーッ! とノームは眉をひそめて叫ぶ。彼女の話を聞いて、トウマくんは眉を下げて口元を緩ませた。
そしてトウマくんは、ポケットにしまっていたノーム専用の精霊壺を首からさげて息を吐く。トールさんに契約についての確認を取ったあと、彼はノームと少し距離を開けて足元に魔法陣を描いた。
[っ、え、嘘、あんた、本当にあたしと契約するの?]
「俺も、まさか君と契約するなんて思ってなかったよ。…不本意かもしれないけど、これも仕方がない事だから、おとなしく従ってもらう」
[…"仕方がない"。そうよね。世界を守っていくためには、精霊と人間の契約は必要不可欠。それを破ろうとするのは世界に対しての反逆と同じだものね。…だけど、あたしはそれでも、人間との契約なんて金輪際御免だわ。人間に従うなんて真っ平よ。人間なんてあたしたち精霊の事をただの道具としか思ってないんだから。人間なんてみんな死ねばいいのよ!!]
「…。それが、君の中にある"闇"か。そんな想いはあっちゃいけないなんて言わない。それが君の本心なら、俺はそんな君を受け入れる。どうしても契約が嫌だってんなら、あくまで協力という形で俺を手伝ってくれればいい」
[協力?]
「そう。協力。契約という主従関係じゃなくて、協力という対等な関係だ。それならいいだろ?」
[……]
言葉を聞いて、ノームは考える。
口元を緩ませて笑っているトウマくんを見つめて、少し悩んだ末、彼女はゆっくりと頷いた。
[…わかったわ。それなら問題はない。ゴーレムも倒されちゃったし、捕まっちゃってるし、あたしにはもう何も出来ないわ。負けも認める。だからさっさと終わらせなさい。ただし、あんたが一度でもあたしを下僕扱いしたらあたしはあんたを殺すからね!]
「…わかった。ありがとう、ノルン」
[…、ふん]
頬を赤くさせて、ノームはトウマくんから顔を逸らす。契約(協力)の許しが出て、トウマくんは早速呪文を唱えた。
私とシャスティアがリヴィスとシェルと契約したように、トウマくんも同じく契約の呪文を唱えてノームと契約する。契約が完了すると、ノームの身体からはスゥッと闇が消えていき、明るい色の衣服を着た彼女が姿を現した。
[……]
「ノルン、気分はどうだ?」
[…なんだか頭がぐちゃぐちゃしてるけど、なんとかへーき]
聞くと、ノームは口元を緩ませてトウマくんに笑う。その反応を見て安全だとわかり、トールさんは彼女に巻き付けている茨を解いた。
そしてトールさんは、トウマくんたちのもとに近付く。
「よくやったトウマ。だがまだ終わってはいない」
「…ノエル、ですね」
「そうだ。ノーム、弟のもとへ案内してもらう」
[…]
トールさんの言葉を聞き、ノーム…ノルンはトウマくんの方に顔を向ける。
先ほどとはうってかわってしおらしくなった彼女は不安そうに眉を下げて、ゆっくりと頷いた。




