表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/423

睡蓮の洞窟 2





 私たちの前に現れた不思議な生き物。


 犬のようにも見えるその生き物たちは、足をじりじりと動かして私たちに近付いてきていた。


「あれは魔獣か? どないしてここに?」

[わかりません。…この洞窟には結界が張られていて、悪しき者は問答無用で侵入を阻まれるはず]


 ローデンさんたちの会話に耳を傾ける。


 魔獣…?


「アイシクル、知ってる?」

「なんとなく聞いたことがあるっていう程度だけど……」


 この世界には人間族、妖精族、精霊族の三つの種族が居る。しかし、アイシクル曰く、他にも一般的には知らされてはいないけれど、"魔獣族"と呼ばれている種族が存在しているのだという。


 他の種族よりも圧倒的に数が少ないと言われている魔獣族は、その力の強大さから世界の意向によって住む場所を厳しく制限されており、ほとんどが森の中で暮らしているんだそうだ。


「チッ、こんな事なら剣返さんとよかったな」

[どうするのですか? ワタシに任せてくれれば、あの程度の魔獣は一掃出来ますが?]

「いや、あんさんは起きたばっかでまだ本調子じゃあらへんやろ? 無理せんとき」

[…考えがあるのですか?]

「…んー。まぁ、ここは、しゃーないから"あれ"を使う」


 言って、ローデンさんはズボンのポケットに手を伸ばす。


 取り出したのは、薄い紫色の小さな宝石。歪な形をした綺麗な宝石だった。宝石の真ん中には文字が刻まれている。


「ローデンさん、それは?」

「よう見てな」


 ニッと笑って、ローデンさんは腕を伸ばす。


 手のひらに乗せた宝石が淡く光を放ち、刻まれている文字がゆっくりと浮かび上がった。


「わいに力を貸せ、ヨイチ!」


 光が強さを増す。


 すると、宝石は一瞬にしてその姿を別のものに変化させた。現れたのは、宝石と同じ、薄い紫色の弓。


「どうや? これがわいの愛弓! クリスタル・ウェポン"ヨイチ"や! カッコええやろ?な?」


 ビシッと、手に持った弓を私たちに見せるローデンさん。


 いや。な? って言われましても…。


[クソださいデザインですね]

「なっ…!?」


 弓を見て、はっきりと精霊…ウンディーネは言った。


 ローデンさんの方に顔は向けず感情もなく言い放った彼女のその言葉を聞いて、ローデンさんは肩をビクッと震わせる。


「クソださデザインってなんやねん! わいの考えた最強デザインやぞ!! バケモンセンス醸し出してるやろがい!!ここ見てみぃ! ここの(とんが)ったとこなんて爆発しとるやろが!!」

[怒鳴らないでください。ほら、来ますよ]

「っ、…うぐぐ」


 眉をひそめて、ウンディーネを睨み付けるローデンさん。


 その間でも、不思議な生き物……魔獣たちは私たちに近付いてきていて、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だった。


「あとで覚えときウンディーネ。わいのセンスを馬鹿にした罪はキエストオオダイゾウよりも重いで」

[……なんですか、それ?]


 キエストオオダイゾウ。とは、アンジェラの故郷であるキエストにのみ生息している真っ白い色が特徴の象の事だ。


 鼻が長くて力持ち。人間の何倍もの大きさの体を持ったこの象は、長期旅行をする際に大活躍する動物らしく、最高貴族の間では、何頭かペットにする人が居るとか居ないとか。


『グアアアッ!』


 魔獣たちが声を荒げて、一斉に駆けてくる。


 ローデンさんはそれを見て、弓を魔獣の方へ向けた。息を吐き出し、ゆっくりと弦を引く。直後、光の矢が現れた。


「一発で(はらわた)抉ったるわ」


 バシュン、と音を立てて光の矢が弓から飛び出す。


 光の矢は駆けてくる魔獣たちの中の一匹を貫き、貫かれた魔獣は一瞬にして黒くなって弾けて消えた。


「まだまだ行くで!」


 弦を引いて、再び光の矢を放つ。


 無限なのか。矢を途切れさせる事なく、ローデンさんはそれを魔獣に向けて放ち続けた。


[…それでは、ワタシも力を貸しましょうか]


 ウンディーネが、ゆっくりと台座から降りる。


[アメリア、と言いましたか]

「え、どうして私の名前……」

[その腕輪から貴女の情報が伝わってきました。アメリア・ラインハーツ。…貴女に力を授けましょう]

「力…?」


 ウンディーネは、手を伸ばして私の顔に触れた。ひんやりと冷たい彼女の手。


 氷水を当てられているみたい。


[本来なら、ここで試練の一つでも受けさせるところですが。貴女はもう資格を持っているみたいなので省略します]

「?」

[これを貴女に]

「…これは?」


 手のひらに、ポンと置かれる。


 これは、藍色のイヤリング?


[それを耳に付けて、こう言うのです。"精霊ウンディーネ。我の声に応え、今こそ契約を果たせ。我の名はアメリア"]

「あ、え、えと、…。せ、精霊ウンディーネ。我の声に応え、今こそ契約を果たせ。我の名は、アメリア…?」


 言われるがまま、耳にイヤリングを付けてウンディーネの言葉を復唱した私。


 ……って、今契約って言った?


「…っ、わ!」


 その時、イヤリングが光を放つ。


 ウンディーネの体もそれに反応するかのように青白く光を放ち、彼女とイヤリングが同じ色の線で繋がれた。


[契約は果たされました。これよりワタシは貴女にのみ尽くします。未来永劫、如何なる時も、貴女をお守りいたしましょう]

「……」


 言って、ウンディーネは光に包まれてその場から消える。なんとなくだけれど、イヤリングから漏れだす彼女の力を感じた。


 ウンディーネは、イヤリングの中に入ったんだ。


「アメリア、」

「……」


 アイシクルが私を呼ぶ。


 なんか、…凄い事になっちゃった。


「あのー! 契約終わったんならこっち気にしてくれへん!?」


 そこで、魔獣と戦っていたローデンさんの声が耳に入る。


 倒しても倒しても魔獣は次々と現れてきていたようで、見ると、ローデンさんの顔は疲れきっていた。


「いくら一発で仕留められるいうても限度あるから! 手伝ってくれるとありがたいんやけど!?」

「ご、ごめんなさい!」


 怒りながらも、矢を射って魔獣を倒す。戦闘に慣れているのか無駄のない動きだ。


 手伝ってって言われましても、私魔法はちょっと不得意なのでお役に立てるかどうか。


[大丈夫です。アメリア]

「!」


 その時、イヤリングからウンディーネの声が。


[貴女はワタシと契約を交わしました。その時点で、貴女の持つ魔法力(まほうりょく)は増大されています]

「ぞ、増大って、…。つまり、私、魔法使えるの?」

[ええ。試しに"アクア・ウェーブ"という術を放ってみてください]

「アクア・ウェーブ…。…、や、やってみる」


 ウンディーネの言葉に頷いて、眉をひそめる。


 頭の中に、水が流れるイメージを思い浮かべて精神を集中させる。足元に魔法陣を描いて、魔獣の方へ手を伸ばした。


「水の流れよ。悪しき者の魂を葬りされ!」


 ふと浮かんできた呪文を唱え終わる。魔法陣が青く光り、目の前に水の球が現れた。


 頭の中が今まで以上にすっきりしている。そして私は、その水の球を魔獣目掛けて勢いよく飛ばした。


「アクア・ウェーブ!」


 叫ぶと同時に、飛んでいった水の球が途中で弾けて勢いをそのままに魔獣たちに襲い掛かる。


 魔獣たちは弾けた球の水に押し流されて、次第に黒くなり消えていった。


「……、出来た?」


 吃驚して、ぽかんとする。


 まさか本当に魔法が撃てるなんて思わなかった。


「やるなぁ、アメリアちゃん。…せやけど、まだ気抜いたらあかんで」

「え?」


 先ほどの魔法で、魔獣はすべて消えた。喜ぶべきところなんだけれど、何故かローデンさんは辺りを見渡して弓の構えを解かないでいる。


 眉をひそめて警戒心剥き出しのローデンさんの姿を見つめて、私とアイシクルは顔を見合わせて首を傾げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ