再会したけど ※アイシクル視点
目を凝らしてよく見てみると、それは小さな穴などではなかった。じゃあ一体あれは何なのか。首を傾げてじっとそれを見つめながら考えていると、突然視界が真っ黒になる。同時に目元がヒンヤリと冷たくなった。
[わんわん!]
ケルンが吠える。
たぶん何かが空から落ちてきたんだろう。少し吃驚して、確認のためにそれを手にしたいけど、生憎と今は手から炎が出ているため触るに触れない。どうしよう。
「あー、…えと、あの、ブレイズ? これ、どうしたらいいんだ?」
[落ち着け主。ちょっと待ってろ。…我と主を切り離せ。リヴェラール!]
ブレイズに助けを求めれば、彼は呪文を唱えて自分と俺の融合を解除する。元の姿に戻り、炎の感触が手から消えた事を確認した俺は視界を塞いでいるそれを手に取った。
手にしたそれを見つめて、頭の上に"?"を浮かべる。落ちてきたのはどうやらぬいぐるみのようだった。白い小さなぬいぐるみ。何でこれが空から降ってきたんだ。
『…うぐ、』
「!」
うーん。と、首を傾げて考える。その時、ピクリとぬいぐるみが動いた。吃驚して目を見開くと、そのぬいぐるみは顔をあげて俺の顔を見る。
目や鼻といったパーツがないため、表情はわからない。だけど確かにこのぬいぐるみは俺を見ていた。少しの間じっくりと見られていると、突然そのぬいぐるみはバタバタと手足を動かして俺から離れる。背中からそのまま地面に落ちて、それは素早い動きで立ち上がった。
『…っ、』
キョロキョロと辺りを見渡して、ぬいぐるみはその場で右へ行ったり左へ行ったりとウロウロする。自分の頬を両手で押し上げて、なんだか慌てているようだった。
そんなぬいぐるみを見て、"わん!"と吠えながらケルンが近付く。すると、ぬいぐるみは吃驚したのか尻餅を付いて声をあげた。その声を聞いて、俺は眉をひそめる。
『うぇえ!? 何なのこの犬!? 大きすぎ怖すぎ!! あまり近付かないで!!』
「ん?」
この声、アメリアか…?
[わん!]
『だから、近付かないでってば!! ハウス! ハウス!!』
「……」
ケルンがぬいぐるみにちょっかいをかけている。舌を出してご機嫌な様子だ。
ぬいぐるみは嫌そうにしていて、ケルンから少しずつ離れていく。聞き覚えのある少しだけ懐かしい声は未だに聞こえてきていた。え、もしかしてまさか…。
『うぅ、どうにかこっちに戻ってこられたみたいだからよかったけど、何で私元に戻ってないの? …というか、ここどこ?トウマくんはどこ行っちゃったの? まさか途中ではぐれちゃったのかな?』
「…、アメリア?」
『!?』
確信はまだ持てないけど、しゃがみこんで名前を呼んでみる。するとぬいぐるみは身体を硬直させて此方に顔を向けた。…うん。反応から見て、予想通りこのぬいぐるみはアメリアのようだ。でも、どうしてそんな姿になっているのか。
手を伸ばして触れようとすると、ぬいぐるみ(アメリア)はケルンの時と同じように俺から離れる。触れられたくないのか、顔をぶんぶんと振っていた。
[わん!]
『ひぃ!?』
ケルンが吠える。本物のぬいぐるみだと思っているのか、口を大きく開けて彼女を咥えようとしていた。アメリアはそれを見て悲鳴をあげ、慌てて俺の足元まで走ってくる。
"わんわん"と舌を出したまま諦めていない様子のケルンを落ち着かせて、俺はアメリアを見つめた。再び手を伸ばして、今度は手のひらの上に乗せようと試みる。すると彼女は少し考える素振りを見せて、ケルンの方に顔を向けたあと、恐る恐る手のひらの上に乗った。咥えられるよりはマシだと思ったのか。
[アイシクル。この子はもしかして…]
ブレイズも気が付いたのか、羽を動かしてアメリアに近付く。融合を解除したというのにどうしてまだ小さいままなのか。聞くと、小さいままの方が何かと動きやすいからだそうだ。
手のひらの上に乗ったアメリアは、俺とブレイズの顔を交互に見て首を傾げる。そして、聞きづらそうに彼女は俺に話し掛けてきた。
『…えと、…アイシクル、私がわかるの?』
「? …あぁ、まあ。声を聞いてなんとなく」
『声?』
「そう。声。ブレイズにも聞こえてるだろ?」
[…いや。俺には何も聞こえてない]
「え? 声を聞いたからブレイズも気付いたんじゃ…」
[違う。俺が彼女に気付いたのは、その身体に纏う魔力が彼女の持つ魔力とそっくりだったからだ]
「…じゃあ、この声は」
[どうやら彼女の声はアイシクルにしか聞こえないみたいだな]
『……』
腕を組んで、ブレイズは言う。
アメリアの声が俺にしか聞こえてない? てっきり彼女の声は、ブレイズにも聞こえているものだと思ってた。
[わんわん!]
「…?」
ケルンが空を見上げて吠える。その時、俺の頬にポタリと水滴が落ちてきた。見上げると、空にはいつの間にか黒雲が。雨が降ってきたようだ。
[…とりあえず、ここに居ても仕方がない。今日は帰ろう。君も疲れているだろうからね]
ブレイズが言う。
確かに、雨が降ってきたんじゃ、このまま話を続けるわけにはいかない。
俺は彼の言葉に頷き、雨粒がアメリアにかからないようにして自分の家がある方向に足を向けて走り出した。ブレイズとケルンもそれに付いてくる。
『……』
走りながら、手のひらの上に乗ったアメリアを見つめる。彼女はじっと座り込んでいて顔を両手で覆っていた。そうしていると本当にぬいぐるみみたいだ。
わからない事だらけだけど、家に戻ったら改めて彼女に何が起こったのか聞いてみよう。




